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一四話 戦いの果てに得たもの

アルサヒネ歴 八六六年五月一三日

月村蒼一は異世界で再会を果たす⑭


 僕は、キャリダット側の選手控室に戻った。


 ハプスさんが静かに眠っているだけの、寂しい空間が広がっている⋯⋯はずだったのだが。


「お疲れさん!」


「ナイスファイト!」


 大勢の人々が、僕をスタンディングオベーションで迎え入れてくれた。


 そこに立つ人々は、みんな見覚えのある顔だった。


 ハプス派のクエスター達、またはヌヴォレのスタッフ達など、僕と親しい人達が、温かい拍手と労いの言葉を、勿体ない程にかけてくれた。


「え、えっと⋯⋯、みなさん、どうしてここに?」


「どうしてもこうもねえだろ!? オレたちの仲間が大仕事をやってのけたんだ。みんな、お前さんの帰りを待ってたんだよ」


 集団の中でも、一際大きい身体を持つジャスタさんが、陽気な口調で答えてくれた。


「俺の⋯⋯帰りを?」


「お前さんが精霊の使いだろうがなんだろうが、オレたちの家族であることには変わりねえ! ホレ、とっとと帰ってこい!」


「え、ええっ!?」


 ジャスタさんは強引に僕の腕を引っ張り、集団の中心に押しやった。


「このやろう! 心配かけやがって!」


「お前はどこまで凄くなれば気がすむんだよっ!」


 ひたすら頭を叩かれた。


 大量の水をかけられた。


 僕の痛め付けられた身体が集団に抱えられ、何度も宙を舞った。


 所謂、胴上げ。


 そんなサヨナラヒットを打ったヒーローの如く、僕はひたすら手荒い祝福を受けた。



 ようやく、仲間達の溜飲は下がったようで、僕に対する手荒い祝福は止んだ。


「で、体は大丈夫なんかよ、ソーイチ?」


 心配そうに声をかけてきたのは、バリーだった。


「こんな暴力紛いの祝福をしといて、今さらそんなこと言う⋯⋯?」


「あっ、それもそうだよなっ!」


 彼がそう言うと、周囲から笑いが起こった。


「そういえば⋯⋯」


 僕はある人のことが気になり、周囲を見渡した。


「どうした?」


 バリーが僕の振る舞いに反応した。


「ハプスさんは⋯⋯大丈夫なのかな?」


 僕がそういうと、みんなは一斉にひとつの方向に目をやった。


「あっ⋯⋯!」


 その方向の先には、ベンチに静かに座るハプスさんの姿があった。


 僕は彼女に向かって、歩き出した。


「ハプスさん、大丈夫なんですか!? 横になってなくても⋯⋯」


「こんなにうるさく騒がれて、寝ていられると思う?」


「そ、それもそうですね」


 僕は軽く頭を掻いた。


「私は別に平気だから。君の方が重傷なんだから、少しは自分の心配をしたら?」


「いや⋯⋯俺は別に⋯⋯」


「それに、私の心配なんかしてる場合?」


「え⋯⋯?」


 僕は彼女のふとした問いに、目を丸くした。


「もっと心配かけた人がいるんじゃない? きっと怒ってるわよ、君の大事な師匠は」


 ハプスさんは僕の顔とは別のところに視線を向け、微笑を浮かべていた。


 彼女の視線の先⋯⋯、


 そこには、腕を組んで僕を睨みつける少女がいた。


「な、何かご機嫌がよろしくないようで⋯⋯」


「謝ってきたら?」


「⋯⋯怒らせるようなことをした覚えはないんですが⋯⋯そうします」


 僕はなぜか不機嫌な、いや、いつも僕に対して不機嫌な師匠の下へ歩き出した。



 僕はグラシューの目の前まで来ると、彼女の膨れ上がった顔をじっと見つめた。


 しばらく、僕らは見つめ合った。


「⋯⋯あのさ、心配かけんなって、アタシいつも言ってるよね?」


 彼女の方から、沈黙を切り裂いた。


「⋯⋯ゴメン。心配かけたつもりは、なかったんだけど⋯⋯」


「そういうこと言っちゃう? あのクレアってコに抵抗もせずにボコボコに殴られて、足もフラフラになって、最後は首を絞められて」


「あ⋯⋯いや⋯⋯そうだけどさ⋯⋯」


「しかも、アタシの買ってやった剣と盾、ボロボロにしやがったな。けっこう高かったんだぞ」


「それは⋯⋯ホントにゴメン。今日の賞金で新しいの買います⋯⋯」


「ダメだね。プラス、心配かけた慰謝料込みで、最近、シンセーロの近くに出来たオシャレな高級レストランのディナーに連れてくこと」


「うぅ⋯⋯マジか。他に欲しいものあったのに⋯⋯」


 僕は項垂れる素振りを見せるも、内心はホッとしていた。


 こうしてグラシューにどやされる日々が、ようやく戻ってきたのかと。


「全く、愛情の照れ隠しなんて言うが、お前はホントに素直じゃないな、グラシュー」


 僕とグラシューの間を割るように、リチャードさんが声をかけてきた。


「ソーイチがタコ殴りにされてる間、コイツ、今にも泣きそうな顔をしてな」


「ち、ちょっと! リチャードさん、何言って⋯⋯」


「首絞められた時なんか、コイツ試合場に飛び出しそうになって、止めるの大変だったんだぜ?」


「やめてよーっ!」


 グラシューは顔を赤らめて、リチャードさんの服を引っ張っていた。


 リチャードさんは小馬鹿にするような笑顔を見せ、それにつられて周囲からも大きな笑い声が起こっていた。


 ここ一ヶ月間、僕は精霊の使いという立場を全うしようと、孤独な戦いを続けていた。


 今後、僕はそんな日々が続くものかと思っていた。


 しかし、彼らの笑い声がそれを忘れさせてくれた。


 僕には帰る場所がある。


 落ち着ける居場所がある。


 しかもそれは、不変的なものである。


 己を信じ、世の平穏の為に戦い続けた結果得たものは、かけがえのない人達との繋がりだった。


 彼らさえいれば、きっと僕は戦い続けられる。


 そう確信した僕は、彼らに合わせて笑い声を上げた。

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