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外伝七話 既に決していた勝負

アルサヒネ歴 八六六年五月一三日

一ノ瀬紅彩は異世界で再会を果たす④


 もうどれくらい、彼を殴り続けたのだろうか。


 時間の感覚すらなくなるくらい、月村君を襲い続けた。


 それでも、彼は倒れなかった。


 固めたガードを決して崩さず、そこに立っていた。


 彼の腕の痣は、我ながら見ているのも痛々しかった。


 また、私の彼を叩き過ぎて出来た手の甲の傷もまた、だんだんと酷くなっていった。


「はあっ⋯⋯はぁっ⋯⋯ほ、ホントに⋯⋯しつこい」


 完全に、私の息は切れていた。


「⋯⋯もう、終わり?」


「!?」


 大人しく私の攻撃を受け続けていた月村君は、その沈黙を突然破った。


「一ノ瀬さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「な、何よっ!?」


「君さ⋯⋯前に俺のことをずっと見てたって、言ってたよね?」


「!?」


 彼のその台詞に、私の背中は急に熱くなり、顔も火照ってきた。


「何よ突然⋯⋯そ、そんなの⋯⋯昔の話だからっ!」


 慌てて私は返答した。


「俺が陸上部だってことも、知ってる?」


 私はそれを聞かれ、改めて焦った。


--ウソ⋯⋯。練習、覗き見しているの⋯⋯バレてた?


 私に、異様な羞恥心が襲ってきた。


「そ、それが何だってのよっ!?」


 次に彼が何を言ってくるか恐ろしくなり、私は再び彼に襲いかかった。


「今度は、その減らず口を叩かせなくするくらい、痛めつけてやるからっ!」


 私は気力を振り絞って、彼に手を出した。


 それでも彼は全く動じることは無く、私は逆に少しずつ焦りを覚えていった。


「もう一つ聞きたい。君は空手をやめてから、ずっと運動はしてない?」


「はあっ⋯⋯!?」


 月村君の冷静な質問に、私は咄嗟に攻撃をやめた。


「な、何よ⋯⋯。そうよっ! それからずっと帰宅部ですけど、何か!? 悪かったわねっ! どうせ私はアンタと違って、何の取り柄もない、ただの地味な女子ですよっ!」


 何か彼に馬鹿にされているような気がしたので、私は思わず怒鳴りつけるように言い返した。


「⋯⋯そうか」


 月村君は下を向いて囁くと、また沈黙し始めた。


「何なのよ⋯⋯そうやって私をバカにして⋯⋯くそっ⋯⋯アンタなんか⋯⋯アンタなんか⋯⋯!」


 私はまた、彼に向かって走り出した。


「好きになるんじゃなかった!」


 私は叫んで、右手の拳を繰り出した。


「!!」


 月村君は急に防御を解いたかと思うと、私の攻撃を見切り、私は右腕を掴まれた。


「今、君が何に怒ってるのか、よくわからないけどさ」


 そう言いながら、彼は私の腕を強く握りしめ、私の目をじっと見ていた。


「やっぱり、君がマナを切らした時点で、この勝負は決まってたんだよ」


「はあっ⋯⋯!? くそっ、離しなさいよっ!」


「君にど突かれ続けてたけど、一〇分もすると、段々とそれが弱まっていくのがわかった。やっぱり、マナが無ければただの女子なんだなって」


 彼に見つめられて、私の力は段々と抜けていった。


「体力は、普通の女子高生並だってことがさ。もう、君は息も切れ切れで、歩くのもやっとでしょ? 俺の身体は傷だらけだけど⋯⋯!」


「きゃっ!」


 月村君は、私の腕を強引に振りほどいた。


「走り回れるくらい元気ってわけ」


 彼は、急にどこかへ向かって走り出した。


 月村君は止まったその先でしゃがみ、何かを拾っているように見えた。何かを拾い上げた彼は、こちらへ一歩一歩ゆっくりと歩み寄ってきた。


「俺、君みたいに国際大会とまではいかないけど、陸上では強豪と言われる県内でベスト8に入るくらい、足の速さと体力には自信があるんだ」


「うっ⋯⋯」


 私は遠目から感じる彼の圧力に、意図せず身を引いた。


「つまり、何が言いたいかって、小学校の頃から今までずっと陸上を続けてきた男の俺と、中学から運動をしてない女の君とでは、素の体力が天と地ほどの差があるってこと」


 だんだんと、彼の姿が大きくなってきた。


「素の体力が高いと、マナの回復もその分早い。今だったら俺、自分の得意技を放つだけのマナは充分溜まっている」


 彼は、刃が折れて柄だけになっていた短剣を、握りしめていた。


 私は、自然と後退りしていた。


「出来ることなら、君のことを傷付けたくない。最初の不意打ちの一撃だけで済ませたい。だから、俺のお願いを聞いてほしい」


 相変わらず彼は、少しずつ私に近付いてくる。


「謝ってほしい。俺がお世話になってるサフィーさんを、邪神だなんてディスったことに」


 彼は今までの消極的な様子が嘘のように、喋り続ける。


「君にとって、アルディンさんがどれだけ大きい存在かは、わかったよ。君に生き甲斐をもたらしてくれた、素晴らしい精霊。すごく、真っ直ぐな人なんだと思う。ただ、その真っ直ぐ過ぎる性格が故に、今は周りが見えなくなってしまっているんだと思う」


「アルディン様は⋯⋯周りが見えてない⋯⋯?」


「サフィーさんに勝ちたいが為に、彼女を悪役に仕立て、君の正義感を煽っている」


「私の⋯⋯正義感⋯⋯」


「今まで言ってきたことを真っさらに取り消して、ゴメンって言ってほしい。それで、もうこの闘いを終わりにしよう。これ以上やっても、何も生まれない。ウチらに何の得もないよ」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


「真実と向き合って、一緒に正しい道を歩んでいこう。この世界を平穏な姿に戻していこう。俺、一ノ瀬さんがいてくれたら、このことに関しては、もっと簡単に事が進むと思うんだ」


 私はしばらく黙り込んだ。


 乱雑に散らかされた頭の中を整理した。


 そして、言葉を選んだ。


「⋯⋯だれが⋯⋯⋯⋯」


 そう言って、また息を飲んだ。


「誰が謝るかっ! ホンットに人を馬鹿にしやがって! この期に及んでまだそんなことを言う気!? アルディン様は絶対なのよっ! 騙されてるのはアンタの方でしょ!? サフィローネとかいう邪道極まりない悪魔に!」


 今更そんなこと、信じられない。


 認めたくない。


 この半年間、信じてやってきたことを否定されたくない。


 私は月村君を怒鳴りつけ終えると、しばらく、彼は固まったままになった。


「⋯⋯そうかい。なら仕方ないな!」


「!?」


 月村君から、マナらしき光が発せられた。


 一旦、使い切ったとは思えない、眩いばかりの激しい光が溢れている。


「言葉で伝えても無駄なようだね。君の心に植え付けられてる捻じ曲がった野心、コイツで叩ッ斬るしかないっ!」


「ぐっ⋯⋯! な、何をする気っ!?」


「俺の得意技、リスヴァーグ。この短剣を買ってくれた俺の師匠に、教わった技さ」


「ふんっ⋯⋯! そんなボロボロになった剣で、何が出来るっていうの!?」


「心配ご無用。この技は、剣圧とマナを組み合わせて波動を飛ばすだけの単純な技さ。刃が無くてもあまり関係ない」


「何ですって⋯⋯!?」


 月村君は剣を持つ手を引き、その圧力はますます高まっていった。


「道理に背くその野心、今ここに滅せ!」


 彼が叫び、折れた剣を振るった。


 空気を切り裂くような、青白い光が発せられた。


 そしてそれは、物凄いスピードで私に向かってきた。


 満身創痍の私には、どうすることも出来なかった。


 月村君の放った光は私に直撃し、私の目の前は真っ白に光り輝き始めた。

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