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外伝六話 瞳の生気は消え失せず

アルサヒネ歴 八六六年五月一三日

一ノ瀬紅彩は異世界で再会を果たす③


 私は月村君の挑発に乗り、怒りに任せてマナを開放していた。


 初めから、全力で飛ばしていた。


 私の悪い癖である。


 防戦一方の月村君にさらに苛立ちを覚え、私の奥の手『スカーレット・クロージング』を放ち、彼を一気に葬ろうとした。


 しかし、彼はそれに耐えきった。


 彼の持っていた盾と剣は崩れ去り、彼の服装も無残なものになっていたが、彼はそれでも地にしっかりと足を付け、立っていた。


 私のマナはほぼ尽きた。


 きっと、月村君はそれを狙っていたのだろう。


 しかし、私はこうなった時の為の対策もしっかりと立てている。アルディン様からも指摘を受けていたところでもあった。


 小さい頃からやっていた空手。


 全国優勝経験があり、国際試合にも出たことがある。


 フルコンタクト形式で激しく闘ってきた経験があり、ど突き合いにはめっぽう慣れている。


 この世界に来て色々と特訓を重ねてきたが、空手に関しても密かにしっかり練習を重ねていた。今までは『スカスト』を始めとする遠隔射撃で事が済んでいたが、月村君クラスになると、それだけで済むほど簡単な相手ではなかった。ただ漸く、密かに練習していた成果が試される時が来たわけである。


 お互いマナは切れているわけだから、素の人間としての力が試される。


 手を合わせた感じ、恐らく月村君には格闘技の経験はない。


 案の定、私は彼を圧倒した。彼の構えや防御は素人そのもので、私の攻撃はそれを楽々と掻い潜り、次々と彼に命中していた。


「くそっ⋯⋯まさかこんな奥の手があったなんて⋯⋯!」


「後悔しても遅いっ! やあっ!」


 私の正拳突きは、彼の腹部にモロに突き刺さっていた。


「ぐううううっ⋯⋯」


 月村君は再び蹲り、動きが止まった。


 ここが勝負所と見た私は、絞り粕のようなマナを込め、上段蹴りを彼のガードが甘くなった瞬間を見て、狙い放った。


「あああああああっ!」


 気合いを込めて叫んだ私の一撃は、彼の側頭部付近にヒットした。


 彼は数メートルほど吹き飛んだ。


 さっきも一度試してみたが、こんな僅かなマナでも、私の精錬された空手技と合わせると、これ程の威力になるのか。徒手空拳をメインに闘った方が、効率が良いのではないだろうかと感じさせる一撃だった。


 そういえば、何で魔術師なんてスタイルを選んだのだろう。


 魔女っ娘に憧れがあったのは否めない。


 それとも、過去の自分に何となく抵抗があったから、空手は奥の手として封印したかったのだろうか。 


 今になって、そんなことを思ってしまった。


「うっ⋯⋯」


 余計な思いに駆られていた私は、軽い立ち眩みを覚えた。


 そろそろ、マナを絞り出すのは本当に止した方がよさそうだ。


 全ての物質の根源であるマナは、どんな生物でも少なからず持っていて、体内の生命維持の活動に使われている側面もある。体の強化や、超常現象を起こす為にマナを全て使ってしまうと、一時的に気を失うのは間違いなく、運が悪いと命の危険まであるという。私も特訓中にマナを限界まで開放し、意識を失ったことがある。その時はアルディン様に助けてもらったが、気をつけろと厳しく注意を受けた。


 私の渾身の一撃を喰らった月村君は、まだ立ち上がることが出来ないでいる。


 私は彼に近付き、その身体を上から眺めた。


「どうやら、終わったみたいね。まったく手間取らせるんだから⋯⋯」


「うぅ⋯⋯⋯⋯」


「!?」


 月村君の身体が、震えるように動き出した。


 彼は起き上がろうと、必死でもがいている。


「ちっ⋯⋯! しつこいなぁっ!」


 もがいている彼を蹴り飛ばしたり、馬乗りになって殴り付けたいところだが、寝転んでいる相手に攻撃しては、さすがに試合を止められ、下手したら私が反則で負けてしまう。


 彼をこの場で葬り去るには、やはり改めてマナを込めた渾身の一撃を喰らわすしかない。そう言った意味だと、むしろ立ち上がってくれた方が都合が良い。


 月村君の脚はガクガクに震えながらも、彼はその場に立ち上がった。


「まだ立てる元気があるの? そっか、そんなに私に殺されたいんだね⋯⋯!」


 彼は何も言わず、真剣な目で私を見ている。


「違うの? そのまま寝てれば試合は終わって君は助かるのに、わざわざ立ち上がってきたってことは、そういうことなんでしょ?」


「さあね⋯⋯君がそう思うなら、そうすればいいさ」


 彼の身体はフラフラなのに、私を見てくる眼光の鋭さ、そして喋りかけてくる声には、まだ力強さがある。


 その対称的な姿に、私はまた苛々してきた。


「何、その態度⋯⋯ホントうざいんだけど!」


 私は再び、彼に襲いかかった。


 月村君は身を屈め、顔と身体を完全に隠すよう、ガードを固めはじめた。


「強がってんじゃないわよっ! 今まで自分がやってきた悪行の限りを清算したいから、私から死の罰を受けようってことでしょう!?」


 私はお留守になっている彼の脚部に目がけ、下段蹴りをお見舞いした。


「ぐっ⋯⋯!」


 月村君は声をあげて一瞬よろけるも、倒れることは決してなかった。


「う⋯⋯!?」


 その時、ガードの隙間から見える彼の目が見えた。


 衰えを見せないその力強い眼差しに、私は思わず怯み、声を漏らしてしまった。


「な、何なのよその目はっ!」


 私は彼のガードする腕に目がけて、次々と拳をぶつけていった。服が破れて剥き出しになっていた彼の腕は、私の拳に突かれ続け、痣だらけになっていた。それでも、その腕は彼の上半身を守るべく、断固として動くことはなかった。


 そして、その隙間から見える月村君の眼差しは、変わらず私を脅しかけるように凝視していた。


「何とか言えよっ! キモいんだよおっ!」


 私は半狂乱のまま、彼をひたすらサンドバッグにし続けた。


 最早、私に女らしさなど、欠片も無くなっていた。

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