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一一話 用意された逃げ道

アルサヒネ歴 八六六年五月一三日

月村蒼一は異世界で再会を果たす⑪


 目を開けると、僕は眩い光の中にいた。


 僕は一ノ瀬さんの両手から放たれた特大の光線を正面から受け、果てしない衝撃を感じたが、それから、僕の記憶は途切れている。


 とにかく視界が白い。


 ここはどこだ?


 観客の声で騒ついていた会場の音も、今は聞こえない。


 僕はやはり、彼女の攻撃で絶命してしまったのか?


--やっぱり⋯⋯そういうことなのかな。


 僕は心の中で呟き、俯いた。


 やむなく、この状況を飲み込む決意をする他なかった。


 ⋯⋯⋯⋯


 ⋯⋯


 その時であった。


 視界が少しずつ変わってきた。


 目の前に立つ一人の少女が、徐々に姿を現してくるのが見えた。


「うそ⋯⋯? どうして⋯⋯!?」


 僅かに映る目の前の少女が、唖然と声を漏らすのが聞こえた。


 そして、観客の声が湧く声もまた、少しずつ僕の耳に入ってきた。


『すげーっ! すげーぞ!』


『よく耐えた! よっしゃあ、これから反撃したれっ!』


 背後から、キャリダット側の観客の声がする。


 ようやく状況が見えてきた。


 結論、僕は生きていたようだ。


 さっきの白い空間は、天国でも何でも無かった。


 結果、僕は一ノ瀬さんの恐るべき攻撃に、耐えることができていたようだ。


 目の前が真っ白になっていたのは、彼女の攻撃による光源が強すぎて、一時的に目が眩んでいたからだと思われる。


 また、観客の声が入ってこなかったのは、その光を受け止めた瞬間に起きた爆音で、耳の聞こえが悪くなっていたからであろう。


 ただ、防御に使っていた剣と盾が、ボロボロに崩れ去っていた。


 クエスターデビューの時にグラシューに買ってもらった大事な品だったが、ここで半年間の役目を終えてしまった。きっと、後で彼女にどやされることだろう。


「さて⋯⋯もう終わりかい?」


 僕は気を取り直し、不敵な笑みを浮かべ、一ノ瀬さんに問いかけた。


「はぁっ、はあっ⋯⋯くそっ、しぶといヤツね⋯⋯!」


 前屈みになり、激しく息を切らしている彼女を尻目に、僕は歩み寄っていった。


「いいから死ねよっ!」


 一ノ瀬さんは女らしからぬ台詞を吐くと、僕に人差し指を向けた。


 その指からは、例によって光熱線が放たれた。


 しかし、先ほどの勢いは完全になくなっていた。


「弱いっ!」


 僕は叫びつつ、右手でそれを弾き飛ばした。


「えっ⋯⋯!?」


 一ノ瀬さんは目を丸くしていた。


 今の攻撃で確信した。


 彼女にはもう、残されたマナは殆ど残ってない。


 魔術師タイプにとって、マナが切れることは致命的である。それ故、魔術師タイプはマナを調節しながら戦うことが求められる。しかし、一ノ瀬さんは感情的になりやすく、必要以上の力を出してしまう。つまり魔術師タイプなのに力のコントロールに難があるという、極めて重大な弱点があった。

 

 ハプスさんとの闘いを見ていてそれを感じてはいたが、ハプスさんもそれを僕に伝えたかったのであろう。僕はその弱点を突く為、彼女に対して奇襲を仕掛けたり、怒らせることを言ったりしたわけである。


 実に単純な作戦だが、どうやら功を奏したようである。


 マナが無ければ、一ノ瀬さんはただの小柄な女子。


 マナを使えない条件で闘うなら、体格に優れた男である僕が有利なのは、明白である。


 さらに僕は彼女に近づく。


「くそっ⋯⋯! 死ねっ! 死ねっ!」


 彼女は持っている鞭を振り回した。


「死になさいよおっ⋯⋯!」


 しかし、マナの込められていないその軌道は、全く生温いものである。僕は鞭の先端を手で捉え、強く握りしめた。


「!?」


「無駄だって」


 僕は彼女から鞭を強引に取り上げ、後方に投げ飛ばした。


「まだ、やるっていうのかい?」


 僕は小柄な一ノ瀬さんを見おろした。


「うっ⋯⋯」


 彼女は何も言えず、言葉に詰まっていた。


「ただ、俺にもほとんどマナは残ってない。条件は一緒だよ」


 それを聞いた彼女は下を向き、しばらく黙り込んだ。


 僕も静かにその様子を見つめていた。


「ふふっ⋯⋯ふふふふふっ⋯⋯」


 暫く待っていると、一ノ瀬さんの不気味な笑い声が聞こえてきた。


 その後、彼女は顔を見上げて僕の目を凝視した。


 その目は血走っているかのように赤く、大きく見開かれていた。


 相変わらず、彼女の狂乱さが窺えた。


「はははははははははっ!」


 彼女は狂ったような笑い声を上げた。


 しかし、僕が動じることは無かった。


「マナがお互い無くなった状況なら、女の私が男である君に勝てる道理がない、とでも言うつもり!?」


 図星であるが、僕はその言葉に狼狽えることはなかった。


「違うのかい? 俺は素の状態でも、それなりに身体能力には自信があるけど」


「それは⋯⋯」


 一ノ瀬さんは呟くと、少し間を置いた。


 すると、彼女が右手を握り拳に変えているのが、僕の視界に入ってきた。


 そして次の瞬間、その拳が僕の鳩尾辺りを直撃した。


「ゔっ⋯⋯!」


 僕はそれを受けて蹲った。


 その後、彼女の前蹴りが僕の腹部を襲った。


「うおっ!」


 僕はそれを受け、後方へよろけた。


 女性が放つ蹴りとは思えない、凄まじい威力を感じた。


「いってぇ⋯⋯」


 僕は腹を押さえながら、一ノ瀬さんの姿を見た。


 すると、彼女は様になった構えを見せていた。


「それは⋯⋯私のコレを見ても、同じことが言えるかしら!?」


 彼女は再び襲ってきた。


 突きやら蹴りを次々と繰り出してくるが、どれもキレが鋭い。


 容易に避けられる代物でないことは、明らかだ。


「やあああああっ!」


 気合いの入った掛け声と共に、彼女の拳が僕の顎直撃した。


 それを受けた僕は頭を揺さぶられ、尻餅をついて倒れた。


「⋯⋯顔面への攻撃って、本当は反則なんだけどさ」


 一ノ瀬さんは、倒れた僕を鋭い目付きで見おろしてきた。


「こ⋯⋯こんな技もアルディンさんに教わってたのか?」


 彼女は黙ったまま、しばらく僕を見つめていた。


「私⋯⋯小さい頃から空手やってたの。一応、国際大会とかも出たことある」


「⋯⋯マジか!?」


 意外な答えに、僕は図らずも声をあげた。


「中学生になった時くらいに、やめちゃったけどね⋯⋯!」


 一ノ瀬さんは、倒れた僕を蹴り飛ばしてきた。


「うあっ!」


 僕はその蹴りで、数メートルほど後方に飛ばされた。


 肋骨にヒビでも入ったか。


 激しい痛みに襲われる。


 この威力は、素の人間が出せるものではない。恐らく、彼女は僅かながらのマナを込めて放ったと思われる。


 そんな絞り粕のようなマナとはいえ、爆発に煽られるが如くの威力。


 彼女の素の蹴り技に、それだけキレがあるということだろう。


 これは一朝一夕で身に付けられる代物ではない。彼女が空手経験者だということは、紛れも無い事実だと確信した。


「私が感情的になり易くて、力のコントロールが下手なことくらい、わかってるわよ」


「何っ⋯⋯!?」


「ただ、その感情の激しさも私の良いところだって、アルディン様は言ってた。そこをムリヤリ直して利点を殺すよりも、マナが切れた時の逃げ道を作っておけって、そう言われてた」


 一ノ瀬さんは、僕を例の妖艶な笑顔で見つめていた。


 勝ち誇っている様子が、何となく窺えた。


「月村くんが私のマナ切れを狙ってるのは、何となくわかってたわ。でもやっぱり、私は感情を抑えられなかった。それで今はこの様」


 結局、僕は彼女の掌で踊らせていたのか。


 僕は一ノ瀬さんを単なる激情家だと高を括っていたが、冷静な策略家の一面も持っていたということか。


「すばしっこく動き回って遠隔射撃に徹する魔法使いは、仮の姿。私の真骨頂はここから。接近して素手で闘うのが⋯⋯」


 彼女は僕に接近し、嵐のような打撃を繰り出してきた。


「私の本当のスタイルだからっ! さあ、今度こそ覚悟しなさいよ月村くんっ! 私の『手』で、直接この世から連れ去ってあげる!」


「く、くそっ!」


 僕はガードを固める。


「甘いっ!」


「ぐあああああっ!」


 一ノ瀬さんの手練れた打撃は、僕のような素人の構えなど、すり抜けるのは容易だった。


 まさにサンドバッグ状態。


 僕はひたすら、彼女にタコ殴りにされるしか無かった。

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