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一〇話 受けるべくは彼女の思い

アルサヒネ歴 八六六年五月一三日

月村蒼一は異世界で再会を果たす⑩


 目の前に立つ、狂気に囚われるが如く叫ぶ少女は、僕に人差し指を向けた。


 そして、数えるに絶えない光熱線が放たれてきた。


 その光は、常軌を逸した速さで飛んでくる。


 時間を止めるでもしない限り、これを避けることは不可能に近い。


 僕はマナを集中し、構えた盾にそれを伝わらせ、完全なる防御態勢を取った。


「ぐうううっ!」


 彼女から放たれた光熱線が、僕の盾にヒットすると、激しい爆発が起こった。


 身体に凄まじい衝撃が走る。


--でも、全く耐えられないわけじゃない⋯⋯!


 僕は、ある程度の手応えを感じた。


 もし、これが一ノ瀬さんの全力なら、防御に徹すれば凌ぎ切れる算段が立つ。


「アンタに⋯⋯アンタに何がわかんのよおぉぉぉぉっ!」


 さらなる光熱線の嵐が、僕を襲ってきた。


 僕の目の前で、爆発音が絶え間なく鳴り響いている。


「いいわよねっ! 成績優秀で爽やかスポーツマンのイケメンのアンタには、悩みなんか全くないんだろうねっ!」


 一ノ瀬さんは何か叫び声を上げているようだが、爆発音でよく聞こえない。


 また、爆発によって発生した煙で視界が悪くなっていて、彼女の姿が霞んでいた。


「ぐあっ!」


 さらに強い衝撃が襲った。


 これは、光熱線の類ではない。


 わずかな視界から見えるその先には、球体の光を手に持つ一ノ瀬さんの姿があった。


「私には⋯⋯私には、ただ、大人しくしてることしかできなかった⋯⋯! また、嫌われるのが恐かった⋯⋯!」


 バスケットボール並みの光の球体が、彼女の手から次々と放たれ、僕の構える盾に激突した。超絶的な爆発が次々と起こり、僕の意識を奪っていった。


--これは⋯⋯ヤバイかも。


 一ノ瀬さんの光熱線攻撃は、マナを溜めることなく瞬時に放たれ、放たれた後の速度も尋常でない。


 きっと彼女にとって、その技は牽制にすぎないのであろう。


 今放たれた光の球体は、多少溜めが必要な上、向かってくる速度も、光熱線よりは劣っていたが、その分、威力は格段に上がっている。


 一ノ瀬さんは、再び両手に力を込めている。


「でも⋯⋯アルディン様は⋯⋯私の眠ってた正義感を蘇らせてくれた⋯⋯! この世界に来て、私は生き生きとした自分自身を、取り戻すことができた!」


 再び、夥しい数の光の球体が、僕に向かって放たれてきた。


--無理だ⋯⋯! こいつは耐えられない!


 僕は右方向に向かって飛び込み、何とか球体を避けた。


 無人の地面に叩きつけられた球体は、凄絶な爆発を起こした。


「うおおおおおおっ!」


 僕はその爆風に煽られ、身体が吹き飛ばされていた。


 爆発した方向に目をやると、甚だしく抉られている地面があった。


「げぇっ⋯⋯なんつー威力だよ⋯⋯」


 僕は思わず、感想を漏らしていた。


「だから⋯⋯私はアルディン様の言うことだったら、何でも聞く! アルディン様の言うことが、全ての真実だと信じてる!」


 一ノ瀬さんは、懲りずに両手に力を込めていた。


--くそッ⋯⋯また来る!


 同じように放たれた球体を、僕は這いずり回るように何とか避けた。


「それがたとえ⋯⋯あなたを殺せという命令だとしてもね⋯⋯!」


 よろける僕を他所に、彼女はまた両手にマナを込めると、離していたその手を合わせた。


 彼女の身体からは、溢れんばかりの紅い光が放たれていた。


 彼女の周りから爆風が発生し、僕はそれに煽られる。


「ぐうっ⋯⋯! 今度は何をしようってんだ⋯⋯!?」


 この技は、ハプスさんとの闘いでも見せていない。


 全身全霊を込めた、彼女の秘技だと思われる。


--今、めっちゃ隙だらけだけど⋯⋯これを正面から耐えないと、一ノ瀬さんの思いを受け止めたことにならない気がする⋯⋯!


 僕は気合を入れ直し、短剣と盾をクロスさせ、構えを取る。


 そして大きく息を吸い込み、ありったけのマナを放出する覚悟を決めた。


 一ノ瀬さんの両手がますます大きく輝き始め、今にも想像を絶する何が放たれようとしていた。


「ははっ! バカなの!? これをマトモに受ける気?」


「俺は、君の思いを全部受けると決めた! 君を助ける為に、あらゆる覚悟を決めてきた!」


「はあっ!? わけわかんないし!」


 一ノ瀬さんは首を傾げていたが、僕は関係なくマナを放出し始めた。


「いいから撃ってこいよ! 俺を殺したいんだろっ!? それとも実は、俺が死ぬのを怖がってんのか!?」


 僕は彼女を挑発するが如く、激しく叫んだ。


 それに対し、彼女は動揺しているように映る。


「バ、バカにしないでよっ! いいわよっ! 撃ってやるわよ! これで終わりにしてやるからっっ!」


 一ノ瀬さんは両手を合わせた。


 すると、膨れ上がった光が、徐々に縮小していく。


 それは、勢いが弱まっていることを示しているわけではない。


 今にも放たれんとする勢いが、明白に感じられた。


「あああああああああっ!」


「あああああああああっ!」


 一ノ瀬さんは雄叫びを上げた。


 僕もそれに同調した。


 傍から見れば、僕ら二人は明らかに狂っていることだろう。


 一ノ瀬さんの両手から光が放たれた瞬間、僕の目の前は白く激しい輝きに満ちた。

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