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八話 らしからぬ振る舞い

アルサヒネ歴 八六六年五月一三日

月村蒼一は異世界で再会を果たす⑧


 僕はハプスさんの肩を持ち、控え室まで彼女を連れて行った。ハプスさんをベンチに座らせると、彼女はふうっと息を吐いた。


「ありがとう。もう大丈夫よ」


「まったく無理しすぎですよ⋯⋯」


 心配そうに顔を顰める僕に対し、ハプスさんは穏やかに笑っていた。


「あのコを怒らせて、本気を出させたとは思うけど、君の知らない引き出しを見せられたかしら?」


「ええ、十分に! だいぶ闘い易くなりましたよ」


「そう⋯⋯良かった⋯⋯」


 ハプスさんは今までにない笑顔を見せたかと思うと、 彼女は目を瞑り、隣に座っていた僕にもたれかかるように倒れてきた。


「ハプスさんっ!?」


 倒れかかってきたハプスさんは、急に激しく息を切らしていた。


 そして彼女の額から、大量の汗が吹き出し始めていた。


「はあっ⋯⋯はあっ⋯⋯⋯⋯。ごめん、ちょっと⋯⋯疲れちゃったかな⋯⋯」


「大丈夫ですか!?」


「あ、あのコと闘ってる間は、ずっとフルスロットルで⋯⋯しかもテレパシーで話し続けてたから⋯⋯」


「えっ!?」


 ハプスさんが一ノ瀬さんと闘っていたのは、およそ一五分くらいだろうか? その間、ずっと一〇〇パーセントのマナを放出していたなんて、あり得ないことだ。


 クエスターの闘いで本気を出すということは、マナを八割ほど放出することがそれに当たる。マナを一〇〇パーセント解放するのは、勝負どころの一瞬に限られる。ハプスさんがしていたことは、全力のダッシュを一五分間続けていたということに等しい。


 しかもその間、テレパシーで話し続けていたなんて、彼女はどれだけ身体を酷使していたのだろう。


「俺の為に⋯⋯そんなバカなこと⋯⋯」


 若干、僕の涙腺が緩みはじめた。


「コラ⋯⋯⋯⋯まだ⋯⋯泣くとこじゃないでしょ?」


 ハプスさんは僕の胸元に寄りかかりながら顔を上げ、笑いながら見つめていた。


「わかってると思うけど⋯⋯ソーイチ⋯⋯あのコを⋯⋯クレアを助けてあげて⋯⋯」


 真剣な表情に一変したハプスさんを、僕もそれに応えるような目で見つめた。


「あのコ、すごく苦しんでる⋯⋯君への憎悪と⋯⋯愛情との⋯⋯葛藤で⋯⋯⋯⋯」


 ハプスさんは一ノ瀬さんとの心の会話の中で、彼女の複雑な思いを読み解いたのだろう。その言葉の内容は、僕が一ヶ月前にサフィーさんから教えてもらったことと、同義であった。


 精霊の意図することに言われずとも追いつくハプスさんに対し、僕は改めてその器の大きさを感じた。


「わかってます」


 僕は毅然とした口調で答えた。


 それを見たハプスさんは、再び目を瞑った。


「ハプスさんっ!?」


「心配しないで⋯⋯ちょっと疲れただけ」


 ハプスさんは安心した表情で、僕の胸元に寄りかかっていた。


「ソーイチの胸元って⋯⋯いつの間にやらこんなに⋯⋯頼りがいのあるものになってたのね」


 僕はその言葉に、一瞬体を震わせた。


「いいなあ⋯⋯クレアは。この胸元を、独り占めできるのかもしれないなんて⋯⋯」


「何⋯⋯言ってるんですか⋯⋯」


 ハプスさんは柄でもなく、女らしさを見せ始めた。


 本気なのか、冗談なのか。


 読めない彼女の言動に、僕は大いに戸惑った。


「ホラ⋯⋯早く行きなさい。私の心配なんかしてる場合じゃないでしょ?」


「わかりました。ハプスさん、本当にありがとうございます」


 僕が快くお礼を言うと、ハプスさんは柔らかに微笑んだ。


 僕は静かに彼女をベンチに寝かせると、彼女はすぐに息を立て、眠りについた。


「っしゃあ! 行くか!」


 僕は気合を入れ、闘技場から溢れ出す光に向かって歩き出した。

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