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外伝二話 重鎮は侏儒の前に屈す

アルサヒネ歴 八六六年五月一三日

とある両国の友好イベントの一幕①


 煌びやかな佇まいの一室に、キャリダット国の精霊・サフィローネと、フィレス国の精霊・アルディンがいた。彼らは豪華な椅子に腰をかけ、目下に広がる闘技場の様子を窺っていた。


「ククククッ⋯⋯!」


 アルディンが顎の辺りに手を添え、不意に笑い声を発した。


「何ひとりで笑ってんの? 気持ちわるっ⋯⋯」


 サフィローネはアルディンの方を見ずに、その不敵な笑い声に対する感想を述べた。


「今日、無能な貴様が失脚する姿を思うと、どうも吹き出したくなってな」


「ハイハイ⋯⋯そうですか」


 サフィローネは呆れ顔で返した。


「貴様の連れてきたソーイチとかいうガキは、俺の育てたクレアに、手も足も出なかったようでな。フフ、もうこの試合を見るまでもなく、結果が分かるというものだ」


「みたいですねぇ~。アンタが『手塩にかけて』育てたクレアちゃんは」


 サフィローネは嫌味な口調で言い放つも、アルディンは表情を崩さなかった。


「フン、負け惜しみを。来たるべく戦いに向け、強い戦士が必要だと言うのに、手段など選んでいる場合ではないだろう。だからこそプロマネも、我らが人間との直接的な触れ合いを禁ずるという掟を破ることに、目を瞑ったのだ。理不尽な掟に縛られ、従来通りの安直な方法に固執した貴様こそが、愚鈍の極みというものだ」


「ハイハイ⋯⋯。まあ、いいけど。バカなアンタが私に勝とうっていうなら、これくらいのハンデがあって然りだしね」


 彼女の言葉に、アルディンは軽く眉間にしわを寄せた。


「チッ⋯⋯相変わらず、人を腹立たせるのが上手い女だな。まあいい、そうやって強がっていられるのも、今の内だ」


 サフィローネは、アルディンの挑発めいた台詞に全く反応を示さず、闘技場の様子を見ていた。



 闘技場では、淡々と試合が進められていた。


 キャリダット側の先鋒選手・ゴルシは、例年通り圧倒的な強さを見せ、フィレス側の先鋒、次鋒の選手を打ち負かしていた。


 下馬評通りの進行が成され、会場の雰囲気は完全に二分していた。


 勝利を疑わないキャリダット側の観客は、今にも宴を催さんばかりの盛り上がりを見せ、『ゴルシ・コール』が頻繁に叫ばれていた。


 一方、敗北濃厚となったフィレス側の雰囲気は、大変しめやかなものであった。


「やっぱりダメか⋯⋯ゴルシは強すぎる」


「これで、フィレスの植民地化は決定的か⋯⋯」


「ウチの大将は⋯⋯? 誰だ、このクレアって?」


「一七歳で、クエスターデビュー半年!?」


「ダメだこの国は。完全に勝負を捨ててやがる⋯⋯」


 フィレス側の観客席からは、絶望に満ちた声が絶え間なく発せられていた。そして彼らには、突き付けられた厳しい現実の感傷に浸る暇を与えられず、無情にも時は刻々と過ぎていった。



 仁王立ちするゴルシの前に、フィレス側の大将選手が現れた。


 目の前に現れた小柄な少女の姿に、ゴルシは瞠目した。


「なんだ? 随分と可愛らしい大将が出てきたな」


 二メートルは悠々と超える体格を誇るゴルシは、フィレス側の大将選手であるクレアを見おろし、小馬鹿にするようなトーンで、彼女に対する印象を述べた。


「よろしくお願いします! やはり、あなたは噂に違わぬ勇猛ぶりですね。胸を借りるつもりで、一手を交わらせていただきます!」


 小柄な身体に似合わぬ威勢の良い声で、クレアはゴルシに向かって言った。


「ほお。若ぇわりには、なかなか礼儀がなってるじゃねえか」


 ゴルシは笑みを浮かべ、クレアの身体を舐め回すように眺めた。


「よく見たら、なかなか綺麗な顔をしてるな。それに、小さい身体の割には出てるところがしっかり出てる。気に入ったぜ。俺の身体に傷の一つでも付けられたら、俺の女の一人にしてやるよ」


「ふふっ、光栄です! がんばります!」


 クレアは満面の笑みを見せて答えると、試合開始を告げる鐘が鳴り響いた。


「試合開始だ。どうした、遠慮なくかかってきていいぞ」


 ゴルシはクレアに向かって手招きした。絶対の自信からか、全く防御の素振りを見せなかった。


「はい! では、行きます!」


 クレアは活気あふれる声を発すると、右手の人差し指をゴルシに向けた。


 そこから、紅く輝く光熱線が、目にも止まらぬ速さで放たれた。


 その一線は、ゴルシの頭部に突き刺さる。


 そして、彼の後頭部から静かに抜けていく。


 ゴルシは無言のまま、地に伏した。


⋯⋯⋯⋯⋯⋯


⋯⋯⋯⋯


⋯⋯


 会場は静寂に包まれた。


 観客達にとって、眼前の光景をどう受け入れるべきかは、暫時を要するものであった。


「だ、大丈夫ですかっ!?」


 クレアはゴルシに近づくと、両手で口の辺りを覆った。ゴルシはクレアの言葉に全く反応を見せず、大の字になったまま、仰向けで倒れていた。


「ゴルシさんっ!」


 キャリダット側の選手控え室から叫び声が聞こえると、そこから一人の少年が、ゴルシに向かって飛び出し、駆け寄ってきた。


『月村くん⋯⋯?』


 クレアは思わず、母国語のイントネーションで彼の名前を口にした。しかし、彼の耳にその声は全く届かなかった。


「しっかりして下さいっ! ゴルシさんってば!」


 少年が必死でゴルシを揺するも、倒れた大男は全く身動きを見せなかった。


 その少年が飛び出してきた際、クレアは一瞬驚きの表情を見せたが、それはすぐさま一変した。彼女は目を細め、その光景を嘲笑うかのような表情を見せていた。

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