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六話 異様な光景の下で

アルサヒネ歴 八六六年五月一三日

月村蒼一は異世界で再会を果たす⑥


 キャリダットとフィレスによる友好闘技会当日。


 僕は、両国の境の辺りにある会場の選手控え室にいた。キャリダット側の控え室には、僕の他に、ゴルシさんとハプスさんも顔を揃えていた。


「さて、順番を決めようか。小物たちよ」


 ゴルシさんはニヤリと笑いながら、こちらを見て言った。僕は彼の顔を見上げたが、ハプスさんは黙って下を向いていた。


「代表闘技会ではオレが優勝した。決める権利はオレにあると、思っていいな? じゃあオレが先鋒だ。後は、お前らで勝手に決めな」


「⋯⋯異論はないです」


 僕は涼し気な顔で答えた。


 ハプスさんは相変わらず、あさっての方向を見ている。


「おい、ハプス。お前はどうなんだ?」


「⋯⋯お好きにどうぞ」


 ハプスさんは頑なに下を向き、間を置いて言った。


「ちっ、なんだテメエら。張り合いのねえ。まあ、いいか」


 ゴルシさんは吐き捨てるように言うと、懐から一枚の紙を取り出した。


「相手のメンバー表を見る限り、お前らの出番は無いだろうからな。ヴァルグラとイデオは例年通り。この『クレア』ってヤツは知らねえが、今年デビューしたてのガキだ。大したことねえだろう。お前らはオレが勝ち抜く様を、悠々と見てるといいぜ」


 ゴルシさんはしたり顔で言い放ち、控え室から出て行った。


「⋯⋯何も知らないっていうのは、幸せなことね」


 ハプスさんは両手を組んで頭の上に掲げ、背筋を伸ばした。


「ゴルシさん、何とか彼女の弱点を引き出してくれればいいんですけど」


「期待するだけ無駄。ところで、どうなのソーイチ? クレアに勝てる勝算は?」


 僕はハプスさんの言葉に少し息を飲み、間を作った。


「やれるだけのことはやったつもりです。この一ヶ月、彼女と闘う為だけに注力して、対策を練ってきました。正攻法で勝てないのは目に見えてるので、かなり捻って闘うつもりです」


「そう。何にしても、命だけは失わないようにね。私もできる限り、クレアの引き出しを君に見せられるように、がんばるから」


「ハプスさんこそ、無理しないでくださいね」


「ええ。わかってる」


 僕らの会話のトーンは重く、その場には常に緊張感が漂っていた。



 僕は、控え室から会場が見えるところに座っていた。大勢の観客が会場内を占め、騒ついた喋り声が聞こえてくる。


 試合場ではセレモニーらしきことが行われていて、時たま、会場から拍手の音がこだましている。


 しばらくセレモニーが続くと、いつぞや会ったキャリダットの王が、開会の挨拶を述べていた。


「この両国の運命を決める一戦、我らが住む地を司る精霊も、これを見届けたいとの御意向である」


 キャリダット王が、挨拶の一端にて述べた言葉に、会場の騒めきが大きくなった。


「サフィローネ様っ!?」


「アルディン様!?」


 会場から、精霊の名を呼ぶ声が次々と漏れ出した。


 僕は会場の中心の上の方にある、超VIPルームとも言うべき豪華絢爛なスペースに目をやると、神々しい雰囲気を醸し出した二人の人物の姿があった。


「これは驚いたわね。まさか、二人揃って大衆の前に出てくるなんて」


 ハプスさんが、僕の隣に並びかけてきた。


「まあ、君にとっては、当たり前の光景なのかもしれないけど」


 ハプスさんは僕の方を見ながら、薄っすらと笑いを浮かべて言った。


「いや⋯⋯俺でも異様な光景だってことくらい、わかりますよ。精霊が、人間の目の前に現れる時と言えば⋯⋯」


「クエスターの洗礼の時と、年に一度の大礼拝の時くらいね。闘技会で姿を現わすなんて、全くの異例だわ。しかも二人同時なんて」


 僕とハプスさんは、大衆を前にし、堂々と腰掛けるサフィーさんとアルディンさんを暫く見つめていた。


「やっぱり、何か大きなことが起きようとしている予感しかしない。この大会が終わった後、この世界は全く違った方向に舵を取るような⋯⋯そんな感じが」


「全く違った方向とは?」


「わからない。でもとにかく、何かが起こる気がする。想像を超えた何かが」


 それを聞いて、サフィーさんが口にしていた『来たるべく戦い』という言葉を思い出した。それを知らないのにも関わらず、ハプスさんはこれから起こる何かを、感じ取っている。僕は彼女の勘の鋭さに、改めて感銘を覚えた。


「とにかく、今は闘うに挑むことに集中しましょ。この異様な空気に飲まれないようにね」


「ですね」


 僕は両手で頰を叩き、戦場となるであろうコロシアムの中央を凝視した。

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