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二一話 強者を示す方法

アルサヒネ歴 八六六年三月一五日

月村蒼一は異世界で頂点に挑む㉑


 どうやら、予想以上に強くなり過ぎてしまったようだ。


 目の前の怒り狂う巨大な悪魔の攻撃も、僕は軽々と避けることが出来た。恐らく、ゴルシさんは本気だろう。でなければ、こんな狂ったような叫び声は出せないはず。


 いや、避けられるだけではない。


「ぐぅがあああああっ!」


 僕の放つ攻撃は全て、ゴルシさんの堅牢な身体を傷付けていた。その度に、品性のない叫び声が会場に響き渡っていた。


 そんな僕もエンジン全開であるかというと、そうではない。本気の一歩手前、六〇~七〇パーセントといったところであろうか。


 ゴルシさんは酷い怪我を負っていたが、彼の動きは鈍ることがなかった。鉄壁の防御力だけでなく、無尽蔵の体力もまた、彼の強みであることが改めて分かった。


「くそがあぁぁぁっ!」


 彼の攻撃の力強さは、更に増す。


 しかし、単調さもそれに比例する。


 その大振りな攻撃は、僕にカウンターを当てて下さいと、宣言しているようなもの。僕は致命傷を与えんとする攻撃を次々に与え、ゴルシさんの身体にダメージが蓄積していくのは、目に見えて分かった。


 それでも尚、彼は狂ったように僕に向かってくる。


--さすがにしつこいな。こいつで黙らせてやるか。


 ゴルシさんのとりわけ大振りな一撃を躱し、僕は距離を取った。そして、短剣を持つ右手に力を込めた。


「愚劣なる魂、ここに浄化せん!」


 僕はそれらしいことを叫び、本気モードのリスヴァーグを放った。


 青白い輝きを放つ一筋が、ゴルシさんの身体に突き刺さった。


 その巨体は、宙を舞った。


 そして、激しい音共にその身体は地面に墜落し、会場が軽く揺れた。


「あ⋯⋯やべ⋯⋯やり過ぎたかな?」


 僕は急いで、ゴルシさんの下に駆け寄った。


「ぐぅぅぅ⋯⋯」


 大の字になって倒れる彼は、唸り声をあげ、顔を歪ませていた。


「ああ、よかった。さすがに鋼の身体の持ち主⋯⋯って」


 僕がそう言いかけると、ゴルシさんは再び立ち上がった。


「おおおおおおおおっ!」


 彼の目は血走っており、身体のそこら中から激しく流血していた。


「ま、まだやる気ですか?」


 ゴルシさんは僕の問い掛けに応じることなく、再び巨大なハンマーを手にした。


「死ねやああああぁあぁっ!」


 僕に向かって、懲りずにハンマーが振り下ろされた。


 相変わらずの力強さだが、動きは明らかに鈍っていた。それよりも、彼はこのまま動き続けたら、死んでしまうのではないだろうか。


 僕は審判席の方を見た。


 彼らもいつ飛び出して試合を止めようか、見計らっているようだった。


--いや、早く止めようって⋯⋯! この人、死んじゃうって!


 ゴルシさんはフラフラになりながらも、強烈な攻撃を放ち続けてきた。僕は相変わらず躱し続けるが、とにかく、彼の安否が気になる。


「ゴルシさん、もうやめましょう! 死んじゃいますって!」


「うるせえっ⋯⋯! オレが⋯⋯オレが負けるかあっ!」


 僕の提案に、ゴルシさんは全く聞く耳を持たなかった。叫びながらハンマーを振り回すゴルシさんの脚は、ガクガクに震えていた。


 彼を支えているものは、一体何なのか。


--審判団も、ゴルシさんが手を出し続けているから、止めようにも止められないってことか⋯⋯。だからって、これ以上攻撃したら、いくらゴルシさんとはいえ、死ぬかもしれないし⋯⋯。くそ、厄介なことになったな。


 僕が頭を悩ませていると、観客席から歓声が響き渡り始めた。


「ゴルシ! あきらめるな!」


「まだやれるぞ!」


「負けないで! ゴルシ様!」


--これって⋯⋯?


 会場全体が、ゴルシさんを励ます声援に包まれていた。


 その声に後押しされるように、ゴルシさんの攻撃は、また鋭さを取り戻してきたように思えた。


「ゴールーシッ!」


「ゴールーシッ!」


「ゴールーシッ!」


 ゴルシ・コールが天高く響き渡る。


 試合前から僕に味方する声も、半分くらいあったはずだが、その発信源でさえ、ゴルシさんに傾倒してしまっていた。


--何だよ⋯⋯! これじゃ、俺が悪役みたいじゃないかっ!


 心の中で僕は愚痴りながらも、攻撃を躱し続けた。


--諦めずに攻め続けるゴルシさんの姿に、みんなが心打たれてるってわけか。人間ってそういうの好きだもんな⋯⋯。


 歓声を味方につけたゴルシさんの攻撃は、相変わらず続く。


 しかし、その軌道は酷く単調。


「だからって⋯⋯俺も負けてられない!」


 僕は、上空に飛び上がった。


 そして、ゴルシさん目前の地面で短剣を突き刺し、ノブレス・ダイヤモンドを放った。


 地表から発せられた爆発によって、彼の巨体は再び宙を舞った。


 そしてそれは、激しい音と共に落下した。


 その瞬間、響き渡る歓声が止んだ。


--頼む、生きててくれ⋯⋯!


 僕は倒れるゴルシさんに近付き、祈るような目で見つめた。


「ごふっ⋯⋯!」


 ゴルシさんは吐血しながらも、何とか呼吸をしているようだった。


「よかった⋯⋯!」


 僕は思わず声を上げると、審判団の方を見た。


「早く担架を呼んでくださいっ!」


 僕が手招きしながら叫ぶと、数名の人たちが、控え室から飛び出すように走ってきた。


「早くっ!」


 僕の叫び声に応えるように、審判や救護班が、颯爽と到着した。


 彼らがゴルシさんの様子を窺った、その時⋯⋯、


「うおおおおおおおおっ!」


 血塗れの巨体は再び地に足を付け、立ち上がった。


「ひいいいいいいっ!」


 それを見た救護班の人たちが、悲鳴をあげた。


「はあっ⋯⋯はあっ⋯⋯! な、なんだテメエら⋯⋯試合はまだ終わってねえぞ!」


 ゴルシさんは枯らした声で、必死に叫んでいた。


「や、やれるのか? ゴルシ?」


 審判の人は声を震わせながら、ゴルシさんを見上げていた。


「あ、あたりめえだ! こうしてオレは立ってんだろうがっ!」


 ゴルシは興奮した様子で言うと、僕の方を見てきた。


--マジかよ⋯⋯! 何なんだよ、この人!


 僕は再び構えた。


「で、では試合再開っ! 救護班撤収! でも、次倒れたら、今度こそ止めるからな!」


 審判と救護班は、再び控え室に戻っていった。


「いいぞゴルシ! やれーっ!」


「そんなガキに、お前が負けるわけねえんだっ!」


「ゴールーシッ!」


「ゴールーシッ!」


「ゴールーシッ!」


 静まり返った観客が、再び湧き上がった。


 それと共に、ゴルシさんの鈍くも力強い攻撃が、再開された。


--まったく、人ひとり死ぬかもしれないってのに⋯⋯。何て無責任な応援だよ!


 ゴルシさんの攻撃の切れが落ちているのは、明らかである。僕の攻撃は、確実に彼の身体へとダメージを与えている。そして、彼の体が限界に近いことは、間違いない。


「ゴールーシッ!」


「ゴールーシッ!」


 観客の心無い応援は、鳴り止むことがなかった。


--いや、待てよ。そもそも試合に勝つことが、ゴルシさんを超えたことの証明になるのか?


 ゴルシさんは、狂気に満ちた目で僕を睨み、襲ってくる。


 そんな攻撃を躱しながら、僕は考えた。


--倒せる。俺は絶対にゴルシさんを倒せる。もう俺の実力がゴルシさんを上回っているのは、明らかだ。『一番強いことを示す』ためにやるべきことは『一番強い人』を一方的に打ちのめしたり、命を奪うことなのか? 


 僕は、動きを止めた。


「いや、そんなはずはない!」


 僕は叫んで歯を食いしばり、ありったけのマナを集中させた。


 鈍くも恐るべき勢いで振り上げられたハンマーが、僕の側頭部に直撃した。


 その衝撃で、僕の体は吹き飛ばされた。


 僕は浮遊しながら、だんだんと自分の意識が遠のいた。


 そして、目の前が真っ暗になった。

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