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二〇話 抜け落ちたネジ

アルサヒネ歴 八六六年三月一五日

月村蒼一は異世界で頂点に挑む⑳


 僕は準決勝に望むべく、再びコロシアムの中央に立っていた。


 聞こえてくる歓声のボリュームは、一回戦と比べ物にならないほど増していた。


「ボウズ! ゴルシを喰っちまえ!」


「新星誕生だ!」


「ソーイチくんかわいい! こっち見て〜!」


 僕に対する声援が聞こえるも⋯⋯、


「ゴルシ! そんなガキ、ちょろっとやっちまえ!」


「これ以上、調子に乗らせんじゃねえ!」


「ゴルシ様〜! 素敵〜!」


 ゴルシさんに対する声援も、同じように送られていた。


 完全に見せ物にされているが、クエスターのあるべき姿は、全てを平民の為に尽くすこと。これもその一助だと思って、僕は今の立場を受け入れた。


「さて、あれからどれだけ腕を上げてきたのかな?」


 ゴルシさんは、僕を見下ろしながら喋りかけてきた。


「それは勿論⋯⋯」


 僕は呟きながら下を向き、少し間を置いた。


「あなたを倒せるくらいまで」


 そして再び、ゴルシさんに視線を合わせて言い放った。


「ほう、言ってくれるじゃねえか。そいつぁ、楽しみだ」


 ゴルシさんは、笑っていた。


 特に苛ついた様子もなく、素直に嬉しいという感情が窺える笑顔だった。


「最近はひ弱なクエスターばっかりでよ。オレにそんな台詞を吐く奴も、いなくなっちまった」


「あなたのそれだけの強さを知っていたら、無理もないでしょう」


「そうかもしれねえな。ただ、強すぎるってのもつまらなくてよ。オレほどの者になりゃあ、欲しいものは何でも手に入る。金も、物も、女も、全て思いのまま。そんな日々が何年も続くと、退屈で刺激が欲しくなるわけだ」


「そりゃあ、そうでしょうね」


「だから、お前みたいな奴を待ってたんだよ。四ヶ月でS級に上り詰める、そんな異様な早さで出世するような、ふざけた力を持つ奴をな」


 喜びに満ちた表情で語る彼を、僕は冷ややかな目で見ていた。


「なるほどね、ご期待に添えられればいいんですけど。ただ、あなたにひとつ確認しておきたいことがあります」


「おう、何だ?」


「退屈なことの腹いせかどうか、わからないんですけど、あなたはご自身の師匠であるグランさんを殺し、僕らの同志を三人も殺した。それに関しては、何とも思わないんですか?」


 僕は睨み付けながらゴルシさんに問うと、彼は上方に目線を逸らし、考え込むような表情を見せた。


「ああ⋯⋯そんなこともあったっけか? そういやお師匠さん、オレが殺しちまったんだっけな」


「殺しちまったんだっけって⋯⋯覚えてないんですか!?」


 だんだんと、僕の声に怒気が孕んできた。


「弱ぇヤツには全く興味がなくてな。殺した奴のことなんか、いちいち覚えちゃいないさ」


 心無い口調で放たれた言葉を聞いた僕は、強く歯を食いしばった。


「⋯⋯なるほど、あなたの身体は、脳味噌の中まで筋肉で出来ているようだ。その変哲な頭の中、治してあげる必要がありますね⋯⋯!」


「はははははっ! 面白れえこと言ってくれるじゃねえか! オレのことをバカにするなんて、肝が座ってやがる」


 少しは苛つきを見せるのかと思いきや、彼はさらに嬉しそうに笑い出した。


 この人の頭の中のネジは、何本抜け落ちているのかわからない。殺した人の数など頭になく、ただ刺激を求めて笑い転げる異常な思考。残忍なのか無邪気なのか、最早、判断がつかなかった。


「あなたの奪った命の重み、ここでわからせてやりますっ!」


 僕は短剣を引き抜いた。


「いいから来な! オレを楽しませるのが、お前の役目だ!」


 ゴルシさんが嬉しそうに叫ぶと、試合開始の鐘が鳴り響いた。


 僕はそれと同時に、彼の巨体目掛けて向かって行った。



 試合開始から五分弱が経っただろうか。僕はひたすらゴルシさんに斬撃を加えていた。


 それでもやはり、彼の身体には傷ひとつ付けられないでいた。


 どこを斬りつけようとも、金属音がこだましていた。


「ヌルい! ヌルすぎるぞ! そんなんでオレを傷付けられるとでも思ってんのか!?」


 ゴルシさんは高らかに叫びながら、両手に持ったハンマーを、僕に向かって振り回してきた。


 動きが遅いと聞いていたが、なかなかのキレを感じる。


 少なくとも、先ほど闘ったステルヴィさんよりは速い。そして、その威力は比にならないほど凄まじい。


 ただ、短剣使いに致命傷を与えるとなると、それは困難を極める。キレがあるとはいえ、この程度のスピードでは、僕を捉えることはまず不可能。僕は悠々とそのハンマーの軌道を見切り、空を切らせていった。


「さすがに速いな。さっき闘ったメスガキ、お前に剣を教えたんだっけか? ヤツも相当速かったが、それ以上だな」


 ゴルシさんは、ニヤニヤと笑いながら語りかけてきた。


「だが、逃げ回ってばかりじゃ、どうにもならねえぞ!」


 再び、ゴルシさんは攻撃を仕掛けてきた。一発でも喰らえば骨が一瞬でバラバラにされそうな一撃が襲ってくるも、集中さえ切らさなければ、躱し続けるのは容易である。


 僕は隙を見ては、攻撃を加えていった。


「だからヌルいと言ってるだろうが!」


 声をあげるゴルシさんは、右拳で僕を殴りつけてきたが、それも僕は簡単に見切った。


 僕は一旦距離を置き、様子を窺うことにした。


「どうした? もう疲れちまったか?」


「まさか。準備運動で疲れるほど、怠けてないですよ」


 余裕の笑みを浮かべるゴルシさんを、僕は変わらず鋭い目付きで見ていた。


「ははははっ! 面白れえ、そうこなくちゃな!」


 高らかに笑う巨大な悪魔は、実に楽しげに見えた。


 何としてでも、この下卑た笑いを止めねば。


 僕はその策を、頭の中で巡らせていた。

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