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一六話 祝いの席の乱入者

アルサヒネ歴 八六六年二月一七日

月村蒼一は異世界で頂点に挑む⑯


 ハプス派クエスターが、ラクティ壊滅とフェーム奪還を果たした、五日後。


 僕はヌヴォレのバーにいた。


 目の前には、グラシューとバリーがいる。


 僕ら三人は、飲み物が注がれたグラスを持っていた。


「そ、それでは、フェーム奪還を祝して⋯⋯」


「かーんぱーい!」


 僕の辿々(たどたど)しい掛け声の後に、グラシューが大きな声で言うと、僕らは飲み物の入ったグラスを()ち合わせた。


 その後、三人同時に飲み物を口にした。


「うげぇ⋯⋯アタシ、やっぱり酒はムリかも⋯⋯」


 グラシューは気持ち悪そうに言うと下を向き、グラスを置いた。


「だから無理するなってのに⋯⋯」


「だってさー、こういう時くらいお酒飲めないと、何となく寂しいじゃん? せっかくの祝勝会なんだからさぁ〜!」


 慣れない行動をする彼女の威勢は収まるどころか、むしろ増していた。


 一方のバリーは、何か申し訳なさそうな顔で、こちらを見ている。


「ん? バリー、どうしたの? 何かさっきから大人しいけど」


「え⋯⋯ああ⋯⋯」


 僕は、柄になく縮こまっているバリーに声を掛けた。


「何かさ⋯⋯ホントにこれって現実なのかなって」


「えっ? 現実?」


 僕は目を大きく見開きながら彼の顔を見て、グラスを口にしていた。


「いや、お前達が同い年の友達なのは間違いないと思うんだけど⋯⋯この国のトップクエスターでもあるんだよな? オレなんかがお前達の友達で、本当にいいのかなって⋯⋯。夢でも見てるんじゃないかって」


 力無く喋るバリーの側にあるグラスの中の飲み物は、なかなか減る気配がなかった。


「なーにシケタこと言ってんの! カンケーないでしょ、そんなこと!」


 グラシューが、溌剌とした声を発した。


「アタシ達は同い年の繋がりで、それ以上でもそれ以下でもないっ! 出身とか身分とか、そんなものはカンケーないしっ! 単純に気が合うから、こうしていつもの通りバカ騒ぎしようってワケでしょ?」


 僕はグラシューの方を一瞥した後、バリーの方に目をやった。


「そうだよ、あまり深く考えないで欲しいな。君の故郷に平和が戻ったことを、素直に喜んでもらいたい。じゃないと、俺たちもやった甲斐がないからさ」


「⋯⋯だよな! 悪りぃ!」


 バリーはグラスを口に持っていき、勢いよく中の飲み物を減らした。


「おおっ、いい飲みっぷりじゃん! そうだ〜、もっと飲んじゃってよ! 今日はウチらのおごりだ! 気にせずいっちゃって! ねえねえ〜、ジャスタさん、お肉まだ〜!?」


 グラシューは、カウンターの方を向いて叫んでいた。その奥の方からジャスタさんが出てきて、料理の盛り付けられた皿を持ち、こちらに向かってきた。


「まったくオメエら、昼間っから飲んだくれやがって」


 彼は呆れ顔で笑いながら、香ばしい匂いのする肉料理を、僕らの席に持ってきてくれた。


「いいじゃないっすか〜、こんな日くらい。わぁ〜、チョーいい匂い!」


「まあ、ほどほどにしとけよ」


 ジャスタさんは、呆れ顔で笑いながら僕らを軽く注意し、カウンターへと戻っていった。


 その時であった。


 バーの入り口に、重装備を身に付けた武骨な集団が入ってきた。


「え、何、あの人達?」


「さあ⋯⋯」


 グラシューから溢れ出したような疑問符に、僕は弱々しく呟いて答えるしかなく、せわしなく入ってくる集団を見ていた。


 彼らはジャスタさんを見つけるやいなや、彼の下に歩み寄って行った。


「おう? 王宮の兵士様たちが、ここに何の用でえ?」


「ソーイチという少年はいないか?」


「ソーイチ? アイツならあそこにいるが」


 ジャスタさんは武骨な集団の先頭に立つ男に問われると、僕の方を向いて指差した。


「ご協力感謝する」


 先頭の男がジャスタさんに謝辞を述べると、集団は僕らの三人の席の方に歩いてきた。


「な、なんだアンタ達はっ!?」


 集団を見たグラシューは、慌てた様子で叫んでいた。


「ソーイチとは御主のことか?」


「は、はい。そうですけど⋯⋯」


 集団の先頭に立つ男に、僕は歯切れの悪い返事で答えた。


「我が国の王が、御主とお会いになりたいとのことである。今すぐ御同行願いたい」


 真剣な眼差しで頼まれた僕は、目を丸くして彼の顔を見た。


「え⋯⋯? 王が俺に?」


 僕は意図せず呟くと、グラシューとバリーの表情を確認し、再び男の顔を見た。


「それは⋯⋯断れない感じですか?」


「王の招集は、絶対的な法的効力を持つ。それに応じないことは、重罪である」


 厳しい口調で言われた僕は、再び、二人の顔を見た。


「⋯⋯ごめん、何かそういうことみたい。俺抜きでも大丈夫?」


 僕が申し訳なく言うと、二人は、互いに顔を見つめ合った。


「行ってこいよ。王様に呼ばれるなんて、滅多なことじゃないぜ?」


 バリーは僕の方を振り向き、笑顔を見せながら明るく言ってくれた。


 ただ、グラシューは何か浮かない顔をしていた。


「帰ってきたら、また土産話聞かせてくれよ! なあ、グラシュー、別にいいよな?」


 バリーは、グラシューの方を見て問いかけた。


「えっ⋯⋯ああ、まあ⋯⋯仕方ねっか」


 グラシューは、言葉に詰まりながら答えていた。


「ごめん⋯⋯! すぐ戻るからさ!」


 僕は、二人に向かって手を合わせながら立ち上がり、集団の方を向いた。


「じゃあ、行きますんで。よろしくお願いします」


「承知した。では、我々について参れ」


 物騒な金属音をたてながら歩き始めた集団の後に、僕はついて行った。

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