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一五話 奪われた仲間の為に

アルサヒネ歴 八六六年二月一二日

月村蒼一は異世界で頂点に挑む⑮


 僕らは、街の外の近くに張っていたキャンプに戻っていた。


 仲間からの話を聞くと、ラクティの構成員達は、ほぼ一掃できたとのことである。しかしその後、途中から現れたゴルシさんによって、仲間達は次々と倒されていってしまった。


 その驚異的な怪力に勇敢に立ち向かう者もいれば、恐れをなして逃げ出す者もいたという。しかし、僕に逃げ出す判断を下した仲間を責める気持ちは、毛頭なかった。僕の身勝手な思いによって集められたともいえる彼らであるから、むしろ敵わないとわかる相手に、無理に挑んでほしくはなかった。


 そして本当に遺憾なことであるが、ゴルシさんに挑んだ勇気ある仲間の中で、命を落とす者が三名いた。彼らはキャンプの中心で寝かされ、仲間達によって弔われていた。


 僕も彼らの前で膝をついて手を合わせ、祈りを捧げた。


「ごめんなさい⋯⋯本当にごめんなさい!」


 僕は目を瞑る彼らの冷え切った表情を見ると、ひたすら謝罪の言葉を口にする他なかった。


「そんなに気にするなよ、エース」


 仲間の一人が僕の肩に手を置き、声をかけてくれた。


「でも⋯⋯俺のせいで」


「ラクティを倒そうと思っていたのはお前だけじゃない。ラクティの非道を止めたいという気持ちは、こいつらも強く持っていたはずだ」


 失礼ながら名前を存じ上げないそのクエスターは、僕を力強くも優しい言葉で諭してくれていた。


「ラクティを何とかしたい、住民を苦しみから解放してやりたい、そんなこいつらの強い気持ちが、死という残酷な結果を招いてしまった。しかし、こいつらも自分の思いを貫きこの世を旅立ったのだから、本望であろう」


 僕は彼の顔を見上げた。その表情は、とても充実したものに感じられた。


「お前がこいつらにしてあげられることは、謝ることではなく、こいつらの分も、クエスター本来の姿である『民への奉仕』を全うすることではないかな」


 ブロンズバッジを身に付ける彼だが、心の質は僕なんかよりも断然に優れていることを窺わせた。


「あの⋯⋯すいません、失礼ながらお名前は?」


「へへっ、エースに名乗る程の身分じゃねえから気にすんなって。これからもお前の活躍、遠目で見させてもらうからよ。期待してるぜ」


 遠ざかる中年クエスターの背中を、僕はしばらく眺めていた。僕はその背中を見ながら、ハプス派に質の高いクエスターが集まる理由が何となくわかった気がした。平和を願う、安心安全な世の中を維持したいという強い気持ち、つまりは揺らぐことのない理念を持ったクエスターが集まっているからだと。


「おおっ! ハプス様っ!」


「ハプス様、おかえりなさい!」


「おいっ、みんな! ハプス様が帰ってきたぞ!」


 物思いに耽っていると、そんな声が周りから聞こえてきた。僕はキャンプの入り口の方へ足を運んだ。


「ハプスさん、どうでした?」


 僕は戻ってきたハプスさんに駆け寄ると、すぐに声をかけた。


 彼女はキャンプに戻る前に、依頼主であるフェーム町長のところへ訪れていた。ラクティのリーダーが死亡してしまったのは望むべく結果ではなかったが、実質的にその支配から解放された事実を伝え、責任者として案件の完了報告を引き受けてくれていた。


「ええ、とっても喜んでたわよ。あの様子なら、フェームの復興も早いんじゃないかしら?」


「そうですか、それは何よりです」


「キミの友達が故郷に帰れる日も近いんじゃない? ソーイチにとっては寂しいかもしれないけど」


 微笑を浮かべながら言うハプスさんを見て、僕はバリーの顔を思い出していた。


「いや、バリーの笑顔が見られる方が大事ですから。あの、ハプスさん⋯⋯本当にありがとうございます!」


「ん? 何が?」


 疑問符を投げかけるハプスさんは、その目を丸くして僕の方を見ていた。


「俺のワガママを聞いて、こんな難しい案件を受けてくれて。敵にも味方にも、犠牲者が出てしまったのは残念ですけど⋯⋯」


 僕は申し訳なさそうに言うと、彼女はニコリと笑いかけてきた。


「ふふ、何言ってるの? 感謝したいのはこっちの方。君がいなければ、何十年経ってもこの問題は解決しなかっただろうしね」


「いや⋯⋯そんなことは⋯⋯」


「とは言っても、君のやることはまだ終わりじゃないわよ。これからソーイチには、とてつもなく大きな壁を越えてもらわないといけないから」


「大きな壁⋯⋯ですか」


「それが何だか、わかってるわよね? 君が無謀にもケンカを売ったあの木偶の坊のこと」


 僕はそう言われ、自分の右腕と腹回りを眺めた。


 僕の全力の斬撃を受け止めた、鋼のようなでは済まされない程の肉体、そして、軽々と放たれた拳で五〇メートルは吹き飛ばす腕力。その壁がいかに高いことを、身をもって実感していた。


「冷静な君にしては珍しいわね。あんなにいきり立って攻撃をするなんて。気持ちはわかるけど、正直、褒められた行動ではなかったわ」


「す、すいません⋯⋯」


「たまたまアイツの機嫌が良かったのか、アイツが君を気に入ったのか分からないけど、普段だったら殺されても同然。ソーイチが今こうして生きて立っているのは、すごく運が良かったと思って頂戴」


 ハプスさんはいつもの無表情に切り替え、僕を注意していた。


「はい⋯⋯反省してます⋯⋯」


 僕は俯きながら呟いた。


「はい、よろしい。まあ、ゴルシの強さを見に染みてわかったことは収穫だろうし、ソーイチは一ヶ月後の大会に向けて、とにかく腕を磨くこと。いいわね?」


「もちろん、そのつもりです」


 僕は再び顔を上げ、真剣な表情を作って彼女に言った。


 その後、ハプスさんはみんなを集合させ、労いの言葉をかけていた。僕もそれを聞いて、ようやくやり切った充実感が込み上げてきた。

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