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二話 判断材料として

アルサヒネ歴 八六六年二月六日

月村蒼一は異世界で頂点に挑む②


 ハプス派のアジトに到着すると、そこにはハプスさんの姿があった。


「あら、ソーイチ。どうしたの? 今日は休みじゃなかった?」


「はい、そうなんですけど、居ても立っても居られなくなって、相談に来ました」


「居ても立っても? 何があったの?」


 僕は色褪せた案件票をハプスさんに見せた。


「俺、この案件受けたいんです」


 僕がそう言うと、ハプスさんはしばらく黙ってしまった。


「これって⋯⋯」


「俺の友達の故郷なんです。どうしても救ってやりたくて!」


 僕が語気を強めて言うと、ハプスさんは顎に手を当て、再び考え込むように沈黙した。


「ゴルシ派がこの仕事を受けないのは分かるけど、何でウチらまで、一つの町が武装集団に制圧されたなんて重大なことを放っておくんですか!?」


「別に放っておいたわけじゃない。やらなきゃいけないとは、いつも思ってた」


「なら、どうして!」


 僕が叫ぶと、ハプスさんは僕を鋭い目付きで見てきた。


「⋯⋯ラクティは半端な強さじゃないわよ。ウチらの戦力を全部注ぎ込んでも、壊滅できるかどうか」


「そ、そんなにすごいんですか?」


「ラクティのリーダーは、国外の元S級クエスター。その国では、英雄的な強さを誇っていたけど、いつしか欲に目が眩んで、富を独占するようになった。その目に余る行為に、国は彼を追放。その後、彼は独自で武装集団であるラクティを作り上げ、キャリダットに侵入。ラクティはまず、当時キャリダット最大の商業都市であったフェームに目を付けた。そして、彼らはフェームを武力で制圧し、支配下に置いた」


 ハプスさんの口から淡々と語られる言葉から、僕はラクティの恐ろしさを感じ取った。しかし、やるせない気持ちは止められなかった。


「くそ⋯⋯何でそんな奴らが⋯⋯! 何とか⋯⋯何とか出来ないのかっ!」


「ソーイチの気持ちは、痛いほどわかるわ。私だって出来ることなら何とかしてやりたい。ただ、無謀な戦いを挑んで命を落とすわけにもいかない」


「だからって⋯⋯このまま放っておくなんて! 俺だってここまで強くなったのに⋯⋯!」


 僕は俯き、そのまま言葉を噛み殺した。


 ハプスさんも何も言えないようで、アジトの中はしばらく静寂に包まれた。


「いいんじゃないか、やらせてやっても」


 アジトの奥の方の扉が開き、一人の男性が姿を現した。


「何よリチャード、聞いてたの?」


「そんなにうるさい声で喋られたら、嫌でも耳に入ってくるわ」


 その男性は笑いを浮かべながら、僕の方を見てきた。


 彼はリチャードさんというS級クエスターで、ハプス派でナンバーツーとされている存在。人種は魔人族で、銀色に染め上げられた短髪と、鋭く伸びた長い耳が印象的である。年齢は四〇歳で、身長は一八〇センチ前後あり、僕よりも少し高い。


 何よりそのスマートな体型と、理知的な雰囲気は、ナイスミドルと呼ぶに相応しい。


 さっき見ていた掲示板のランキングで、僕が三位になっていたことからすると、実質、今は僕がハプス派のナンバーツーなのかもしれないが、その実績と経験からしたら、僕はリチャードさんに遠く及ばない。


「ソーイチの実力は日に日に増していっているし、その水準は最早計り知れない。それに、他の若手だってしっかり育ってきているだろう? 先日、S級に上がったグラシューなんていい例だ。オレ達ハプス派クエスターの数自体は減ってきているが、質は確実に上昇してる」


 リチャードさんは明白な口調で、持論を展開していた。


「アンタは、ウチらが既にラクティを倒せるだけの戦力があるとでも?」


「ああ。質の高い人員を揃えられれば、間違いなく勝てるだろうな。オレも、ラクティはいい加減に何とかしなければと思っていたところだ」


 リチャードさんが明るい口調で言うも、ハプスさんは腕を組み、首を傾げながら考え込んでいた。


「全く、お前は慎重派だからなあ、ハプス」


「うるさいわね。仮にも組織の頭なんだから、当然でしょ?」


 リチャードさんから揶揄されるように言われたハプスさんは、少し不機嫌そうな表情を見せた。


「じゃあ、こうしましょう」


 ハプスさんはそう言って手を叩くと、僕の方を見た。


「ソーイチ、お休みのところ悪いけど、ちょっと付き合ってくれる?」


「え? 何でしょう?」


「私と一対一で勝負するわよ」


「はいっ!?」


 僕は、思わず叫んだ。


「キミが私に勝ったら、その案件を受けましょう。ラクティを倒すには、ソーイチがどれだけの実力を身に付けているか、見極める必要がある」


「う⋯⋯」


 ハプスさんは睨み付けるような鋭い眼差しで、僕を凝視していた。


 彼女の強い圧力を感じた僕は、小声を漏らした。


「どうするの? やるの? やらないの?」


 ハプスさんは相変わらず、脅すような目付きで問い質してきた。


 とはいえ、僕もバリーに強気な台詞を吐いた手前、引いてばかりではいられない。僕は気持ちを入れ直し、ハプスさんを凝視した。


「やりますよ! ハプスさんだって越えなきゃいけない壁ですからね! 俺、友達と約束したんです。絶対に故郷を救ってやるって。だから、ここで躓いてるわけにはいかないんです!」


 僕は強く言い放つも、ハプスさんから動じる様子は全く感じられなかった。


「わかったわ。どうやら気持ちだけは本物みたいね。じゃあ早速やりましょう。リチャードも来てくれる?」


 ハプスさんはリチャードさんの方に目をやると、彼は軽く溜息をつくような仕草を見せた。


「⋯⋯やれやれ。全くお前という奴は。ただ、ちょっと面白いことになったな。暇潰しには丁度いい」


「じゃあソーイチ、いつもの訓練場でいいわね?」


「はい!」


 何気無い束の間の休日が、今後の僕らの運命を左右しかねない、重要な一日となりそうで、僕は胸の高まりを抑えられずにいた。

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