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一話 盟友の隠し事

アルサヒネ歴 八六六年二月六日

月村蒼一は異世界で頂点に挑む①


 僕がクエスターとしてデビューし、初仕事を終えてから四ヶ月の時が経っていた。


 ハプスさんは、僕を半年でアルサヒネのナンバーワンクエスターへと仕立てること、そして、ゴルシ派リーダーを倒すことに躍起になっているようで、それに向けたきめ細やかなプランを立ててくれていた。


 クエスター制度を知り尽くした彼女だが、その豊富な知識から組まれたプランのおかげで、また、僕の元々備わっていたマナの総量も相まって、僕のクエスターランクはこの四ヶ月間で、あっという間に最上位の『S』まで上昇していた。


 僕は今、ヌヴォレのクエスター事務局にいた。


 僕がクエスターとして本格的に活動を始めて以降、ヌヴォレに帰ってくることは珍しくなっていた。ほぼ仕事漬けの毎日であり、寝泊まりは出先の宿で済ませなければならない状況であった。


 ただ、それが辛いということは全く無く、むしろ依頼主から感謝されるこの仕事を通じ、日々が楽しくて仕方なかった。僕の元々備わっていたとされる力も大きく、何をやっても上手くいくこの状況は、まさにリアルに味わえるチートであった。感覚としては確かに僕は『生きている』または『起きている』はずなのだが、それでも未だに夢見心地な思いに駆られることがあり、このまま目が覚めないで欲しいと思うこともあった。


 話を戻そう。


 僕がなぜヌヴォレに戻って来ているかと言うと、ちょうどこれまでの案件が終わり、次の案件を探していたからである。


 そんな折、僕は掲示板にある張り紙のひとつを注視した。


 そこには、今月のクエスターランクが記載されていた。


一位 ゴルシ・ノリウッチ

二位 ハプス・ヒストリック

三位 ソーイチ・ツキムラ

四位…………


--お、三位になってる⋯⋯!


 僕はランク別にクエスターの名が並べられているその張り紙に、自分の名前が『三位』と記載されていることを確認した。


--これで代表闘技会に出られるのは、ほぼ確実。順調だな⋯⋯ってか順調すぎて怖いけど。


 目の前の目標達成が近付いていることに、僕は安堵した。


 とはいえ『世界を救う』というフランクな語り口の我が主であり、この地の精霊であるサフィローネからの使命が頭から離れることは無い。


 ここはあくまで通過点として、気を緩ませることは無かった。


 僕が当面の目標としている、ランク一位の座を保持するゴルシさんだが、未だに僕は彼の姿を見たことが無い。やはりナンバーワンということで、多忙な毎日を送っているのだろうか。それとも、単に巡り合わせが悪いだけか。


 闘技会も数週間後に迫っていて、そこで彼を倒す目標を立てている以上、ある程度、彼がどういう力を持っているのかなど、情報が欲しいところであった。


「あっ! ソーイチじゃん!」


 そんな考え事をしながら掲示板を眺めていると、僕を呼ぶ声が背後から聞こえ、僕はそれに反応して振り向いた。


「あ、バリー。久しぶりだね」


 僕を呼んだのは、ヌヴォレで住み込みで働いている友達のバリーであった。


 彼は、僕がこの世界に来て初めて出来た友達であり、仕事がひと段落してヌヴォレに帰って来た時は、合間を縫って彼と遊びに行くこともある。


「っていうかソーイチ、すげぇみたいじゃん。あり得ない早さでS級になったって聞いてるけど」


「ああ、お陰でさまで」


「お、クエスターランク出てるじゃん。ソーイチは⋯⋯って、え、三位!? マジか!? もうそんなところまできてんの!?」


 ランクが記載された張り紙を見たバリーは、驚きの声を上げた。


「そっかぁ⋯⋯何か雲の上みてぇな存在になっちまったな。俺なんかが友達でいいのかなって感じ」


「い、いや、そんな⋯⋯。普通の人間であることに変わりはないから、今まで通り接してほしいな」


 申し訳なさそうに頭を下げるバリーに対し、僕はフォローするように声をかけた。


「ソーイチだったら⋯⋯もしかして出来るのかもしれねえな⋯⋯」


 俯きながら細々と声を発するバリーを、僕は目を丸くして見た。


「俺だったら出来る? 何のこと?」


 僕はバリーに問いかけたが、彼はしばらく黙ったままでいた。


「これ⋯⋯知ってるか?」


 バリーは案件が張り出されている『クエスト・ボード』を指差した。とりわけ、彼の人差し指は、左端にある色褪せた張り紙に向けられていた。


「ああ、これ⋯⋯ずっとあるよね。何となく目には入ってたけど。えっと⋯⋯内容は『過激派集団・ラクティに制圧された町、フェームの奪還』か。依頼主はフェーム町長。受注条件は特に問わず、報酬は一五万リィラ・キャリダット⋯⋯ちょっと安めだけど、そんなに難しくない案件ってことかな?」


 僕は淡々と、色褪せた張り紙の内容を読み上げた。


 すると、バリーの顔色が少し悪くなるように見えた。


「バリー? どうかした?」


 僕はバリーを覗き込むように見つめ、彼に声をかけた。


「⋯⋯フェームは、俺の故郷なんだ」


「え!?」


 僕は思わず驚嘆した。


「三年前に『ラクティ』って集団が突然町にやってきて、あっという間にフェームはラクティに制圧された。それから今まで、フェームの住民はラクティのヤツらに奴隷みてぇに働かされてる⋯⋯!」


「何だって⋯⋯!?」


「俺の両親はラクティが襲撃した時に殺された。たまたま町に来ていたジャスタさんが、俺を見つけてくれてさ。それ以降、ジャスタさんはここで俺の世話をしてくれてるんだ」


「そうだったのか⋯⋯でも、何でそんな大事なこと、クエスターは放ってるんだ?」


「ラクティってのはとんでもなく強い集団で、並のクエスターじゃ歯が立たないらしい。それでこんなに安い報酬じゃ、割りに合わねえってことだろ?」


「そんな⋯⋯」


「フェームはラクティにいいようにされて、払える金なんてマトモにねえっていうのによ⋯⋯!」


 バリーはひたすら怒気を孕んだ口振りで言い放っていた。そんなバリーを見て、僕は彼の肩に手を軽く置いた。


「バリー、何でそんなことずっと黙ってたんだよ」


「え?」


 僕は微笑を浮かべつつ、バリーにそう言うと、彼はキョトンとした表情を見せた。


「俺が何とかする! ハプスさんに掛け合って、この仕事を受けるから。そして絶対に君の故郷を救ってみせる!」


 僕は明瞭とした口調で、自信満々に言い放った。


「いいのかよ⋯⋯お前みたいなスゴい奴が、こんな安い仕事⋯⋯」


「金なんか関係ない。元々クエスターの仕事ってのは報酬は一定。それぞれの力量に見合った仕事を受けて、その役割を全うするのがあるべき姿。仕事の難易度で報酬が変わるなんて制度がおかしい。そもそも、この国が異常ってだけの話だよ」


 強気に語る僕の台詞に圧倒されているのか、バリーは黙ったまま僕を見つめていた。


「それに、バリーがいなきゃ今の俺はない。この国に来て右も左もわからない時に、言葉の事とか色々教えてくれて、ホント助かった。だから、君には恩返ししないとって、いつも思ってたし」


「ソーイチ⋯⋯お前、いい奴すぎるだろ⋯⋯」


 バリーは、声を震わせながら口を開いていた。


「ははっ、そんな声出すなんて、君らしくないね。そういうことは案件が成功してから言ってよ。でも大丈夫、絶対にバリーの故郷、そのラクティとかいう集団から奪還してみせるから!」


 僕は改めてバリーの肩を叩き、快活な声を出した。


「じゃあ俺、さっそくハプスさんに掛け合ってみる!」


「え、おい、ちょっとソーイチ⋯⋯!」


 僕はクエスト・ボードの端にある色褪せた紙を取り、その場から駆け出した。


「本当にいいのかよ!」


「大丈夫だって! 心配無用!」


 僕は走りながら、バリーの叫び声に対して振り向きつつ言った。


「うわっ!」


 余所見しながら走っていた僕は、何か大きな鉄の壁にぶつかったような感覚を得た。


 弾き飛ばされた僕は、尻餅をついていた。


 顔を見上げると、そこには壁ではなく、二メートルは悠々と超える大男がそこに立っていた。彼の全身は鋼のような筋肉を隆々と蓄えていて、その顔は獣と人間の中間のような構成をしていた。彼が獣人族であることは、間違いない。


「す、すみません⋯⋯よそ見してて」


 僕は目の前の大きな男性に、平謝りした。


 その男性は黙ったまま、無表情で僕を見つめている。


「あ⋯⋯あの⋯⋯ホントにごめんなさい」


 何も言わないその人の雰囲気は、実に恐ろしい。


 気まずくなった僕は、深々と頭を下げて謝った。


「⋯⋯小僧、お前の持ってるその紙切れは何だ?」


「え?」


 僕は顔を上げ、男性の方を見ると、彼は色褪せた案件票を持つ僕の右手を掴み、強引に引き寄せた。


「ほお⋯⋯お前、これ受けるのか?」


「え、あ⋯⋯はい。そのつもりですけど」


 すると、彼はしばらく僕を見つめ、妙な笑い顔を作った。


「そうか、頑張れよ」


 彼は僕の手を放し、事務局の奥へと進んで行った。


「何だ⋯⋯? まあ⋯⋯いいか」


 ボソリと呟いた僕は再び駆け出し、店の外へ出た。


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