表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/104

一七話 癒えた傷、戻る日常

アルサヒネ歴 八六五年一〇月二三日

月村蒼一は異世界で仕事をする⑰


 モラレ村から帰還してきてから、二日目の朝を迎えていた。


 ゴルシ派クエスター達との戦いで負った傷は、ほぼ完治していた。元の世界なら、三日は安静にしていなければならない程の怪我であったが、マナを使った『回復術』なるものがこの世界にはある。僕の怪我は、それによって異常な早さで回復していた。


 僕が住まいとしているヌヴォレに、その回復術の使い手がいるのだが、僕は今、その人の診療所を訪れているところであった。


「うん、だいぶ良くなったわね」


 回復術の使い手であるアイン先生は、いかつい掌で僕の身体を触りながら言った。


 この人の腕が確かなのは分かるが、僕はこの人と接するのは、あまり得意ではないと感じていた。


「ここの調子はどうかしら?」


 アイン先生は僕の股間に手をやった。


「わっ⋯⋯! そこは怪我してないって、昨日も言ったじゃないですか!」


「や〜ん、もう〜、ソーちゃん反応がかわいい〜」


 先生は野太い声で言った。


 アイン先生の喋り方は女性風だが、彼はれっきとした男性である。


「も、もう診察はいいですか?」


「ええ、いいわよ。仕事を始めても何の問題もなし。ただ、無理しちゃダメよ」


「はい⋯⋯ありがとうございます」


 僕は気疲れした自分自身の重い腰を上げ、診療所を後にした。



 僕はヌヴォレのバーに来ていた。


 このバーは単なる飲食店ではなく、クエスターの仕事を受注を管理する事務局としても機能を成していた。


 僕はバーにある掲示板の側に行き、掲示物の内容を見ていた。そこには、クエスターへの仕事の依頼が所狭しと貼り出されていた。


--巨大害獣・クリンチャーの討伐、ランクC以上⋯⋯、秘宝・ダノンライラックの納品、ランクS以上⋯⋯、へえ、色んな仕事があるんだな。


 僕は貼り出された依頼を、舐め回すように見ていた。


「おいっす〜っ!」


 甲高い声と共に、僕の肩が強く叩かれる感触を覚えた。


 後ろを振り向くと、グラシューがいた。


「あ、おはよう」


「ソーイチ、ハプスさんが呼んでる! ウチらのアジトに行くよ!」


「ア、アジトなんてあるの?」


「そうそう! 仕事の無い時は、みんなだいたいそこに集まってる! つーわけだから、早く行くよーっ!」


「いてっ! わかったから⋯⋯もう」


 グラシューは強引に僕の手を取り、僕を引っ張るようにして駆け出した。



 ハプス派のアジトは、城下町から少し離れた裏山にひっそりと佇んでいた。巨大な崖をくり抜いて出来たような洞穴に、グラシューは僕を案内していった。


 洞穴の中は幾つもの蝋燭の炎で照らされ、視界を確保するに十分な明るさがあった。しばらく進むと、木造りで両開きのドアがあり、グラシューはそのドアに付けられた小さな穴に、鍵を差し込んだ。


 ドアが開かれると、開放的な広間に大きめのテーブルが備え付けられており、ハプスさんが椅子に腰掛けていた。


「ソーイチをつれてきました〜っ!」


 グラシューは威勢良く言うと、ハプスさんはこちらを見た。


「ご苦労さま。どう、ソーイチ? 怪我の具合は?」


「ああ、お陰様で。ヌヴォレには名医がいますから⋯⋯変な人だけど」


「アイン先生ね。彼は世界的も有名な回復術の使い手。そして何より、若くて綺麗な顔をした男を好むという」


「⋯⋯みたいですね」


 僕は力無く呟いた。


「これから傷を負う場面は増えてくるだろうから、彼の機嫌を損ねないようにしておいた方がいいわよ」


 ハプスさんは微笑を浮かべながら僕に告げると、僕は軽く溜息をついた。


「ところで、モラレ村の件は大変なことになったわね。ソーイチはもう聞いたかしら?」


 ハプスさんのその問いに、僕は首を傾げた。


「モラレ村の件ですか? いや、あの後のことはまったく⋯⋯」


「そう。私も今朝聞いたんだけど、モラレ村は跡形も無くなったらしくて」


「跡形も無くなった!?」


 僕は、端無く叫んだ。


「本当にそこに村があったのかと思わせるくらい、何もないただの荒地になってたんだって。ウチらを襲った⋯⋯世間的にはウルフを討伐しに行ったゴルシ派クエスターってことになってるけど、ヤツらも全員行方不明になってるって」


 グラシューは真剣な表情を見せ、僕に告げた。


「いったい何があったっていうんだ? 俺たちがモラレでやってきたことは、全部幻だったとでも⋯⋯?」


 僕はひたすら、疑問符を投げ掛けるしか無かった。


「オーロウルフはモラレ地方では伝説とされる存在。私もその姿を見たことは無い」


「えーっ!? そうだったんすか!? じゃあウチらすごくない? ハプスさんですら見たことないものを見ちゃったんだ!」


 グラシューは驚きの声を上げていた。


「ただ、私の知ってる伝説は、オーロウルフは歪んだ心を持った者しか、その姿を見ることは出来ないというもの」


「え⋯⋯歪んだ⋯⋯?」


 ハプスさんの語りに反応したグラシューは声を漏らし、僕と目を合わせた。


「そして、歪んだ心を持った者は、オーロウルフによって消し去られてしまう⋯⋯といった話」


 それを聞いた僕は、思わず息を飲んだ。


「ってことは、あのウルフのリーダーは、ゴルシ派のクエスターとモラレ村の人々を消し去ってしまったってことか⋯⋯? しかも村ごと⋯⋯?」


「あくまでも伝説だけどね。ホントかどうかは誰にもわからない。アンタ達の言葉を信じるなら、オーロウルフは正しき心を持ったアンタ達だけはここへ逃がして、ハナっから欲に溺れたモラレ村の人々を消し去るつもりだったのかもね」


 それを聞いた僕とグラシューは、再び目を合わせ、しばらく黙り込んだ。


「まあ、過ぎたことだし、これについては考えても答えはでないわ。切り替えて今後の話をしましょうか。二人とも席に座って。今、コーヒー淹れてあげるから」


 ハプスさんに促され、僕とグラシューはゆっくりと椅子に腰を下ろした。僕は妙な気疲れを感じており、グラシューも心無しか元気が無さそうに見える。


 それを他所に、ハプスさんはアジトの奥へと進み、手際良く作業をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ