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一三話 相見える因縁と高揚する道化師

アルサヒネ歴 八六五年一〇月二一日

月村蒼一は異世界で仕事をする⑬


「何だ? あの人達⋯⋯」


 屈強そうな集団を見た僕の口から、一人でに台詞が零れ出していた。


「あ! アイツは⋯⋯!」


「え?」


 グラシューは、軍勢の先頭に立つ細身の男性を見て叫んでいた。


「遅かったじゃないですか⋯⋯! 待ちわびましたよ!」


 村長はその男性に駆け寄って行くと、胡麻をするような態度で言った。


「すまない。途中の街で、馬の手配が遅れてしまって」


 その男性は、軽やかに馬から降りた。


「おや、君は⋯⋯」


 彼はグラシューの方を見ると、少し驚いた顔を見せた。


 彼の耳元まで伸びた柔らかそうな質感の金髪は、丁寧に整えられ、細身なその身体によく適合していた。また、青い瞳を覆う垂れた瞼は、彼の優男ぶりを際立たせる。


「何でアンタがここに⋯⋯!」


 彼女は、男性の顔を睨み付けた。


「グラシュー? あの人は⋯⋯?」


「ランク九位のS級クエスター、ノヴァ」


「え、S級⋯⋯!?」


 ノヴァと言われた男性の、見た目とは裏腹な存在感を知った僕は、図らずも動揺した。


「九位ってことはつまり⋯⋯アタシが入れ替え戦で、半年間勝ててない相手⋯⋯!」


「え⋯⋯!?」


 グラシューの顔は、一層険しくなっていた。


「ハプス派のクエスターが来ていると聞いていたが、君だったとは。何かと君とは縁があるね」


 ノヴァさんはニコリと笑いながら、グラシューに声を掛けていた。


 一方のグラシューは、彼の笑顔とは対照的に、ひたすら彼を鋭い眼付きで睨み続けていた。


 ノヴァさんはそんなグラシューの睨みには目もくれず、周囲の状況を確認していた。


「ふむ、アージェントウルフが一〇頭と、中心にいる大きいのはオーロウルフ。なるほど、これは手強い相手だ」


 彼はウインドウショッピングをするが如く、商品を見定めるような姿勢で、ウルフの集団を見ていた。


「それに、若くて活きの良いクエスターが一人」


 ノヴァさんは再びグラシューの方を見て、満面の笑みを見せた。


「はあっ⋯⋯!? なんだよそれ! どういうこと!?」


 グラシューは前屈みになってノヴァさんを睨み付け、声を荒げた。


「説明するとだね、ボクはこのモラレ村のコンド村長に、仕事の依頼を受けたわけで。内容は、アージェントウルフの駆逐」


「!?」


 僕はそれを聞いてピクリと反応し、ノヴァさんの方を見た。


「今、この村は羽振りが良いみたいだね。仕事の難度の割には、なかなか良い条件の案件で、思わず手を出したんだけど、まさか、これ程のアージェントウルフが現れるとは驚いた。何か裏があると思って念の為、多目にクエスターを連れてきておいて良かったよ」


 軽やかにその場を歩きながら、彼は話を続ける。


「しかも希少で手強いオーロウルフまでいるとは。村長、この条件なら出来高払いを要求せざるを得ないけど、問題ないかい?」


「ええ。勿論ですとも」


 村長は手を合わせながら、ノヴァさんに笑みを送っていた。


「そして、ついでと言っては何だが、鬱陶しいハプス派のクエスターも葬れるとあっては、一石二鳥」


 ノヴァさんは目を細め、グラシューの方を見た。


「だからそれ、どういうことだよっ!」


 グラシューの興奮度合いは、ますます膨れ上がっていた。


「念のため聞くけどグラシュー、君はボクらの手伝いをする気はないかい? 君さえいればこのウルフ達の一掃など、全く問題のない仕事になる。報酬だってもちろん君に分けるつもりだ」


「はあっ⋯⋯!?」


「正常な頭の中だったら、この判断に迷うことは無いはずだけど、どうだい?」


 ノヴァさんは淡々と語り、グラシューに提案を持ち出した。


「ふざけんな! 誰がそんな卑劣な仕事の手伝いなんかするかっ! 飢えで苦しむこのコ達は何も悪くない! 悪いのはラングロアを乱獲した村長たちだっ!」


 グラシューは、ノヴァさんの顔に迫る勢いで前のめりになり、叫んだ。


「はいはい、そう言うと思ったよ。じゃあ、交渉決裂ということで」


「アンタ⋯⋯どういうつもり!?」


 声を荒げるグラシューを尻目に、ノヴァさんは呆れたような表情で目を瞑り、溜息をつきながら言った。


「やっぱりハプス派のクエスターってのは、異常な頭をしてるよね。平穏を保つ為だとか綺麗事をぬかして、高難度案件だろうが、平気で安い報酬で受ける。実力ある者はそれに見合った報酬を受けるっていうのが自然な流れってもんだろう?」


「綺麗事⋯⋯!? ふざけんな! ウチらはそんなつもりで仕事をしてるわけじゃないっ!」


「そうだね。君たちがどう活動しようが、ボクらには止めようがない。だけど、そんなボランティアみたいな事業をされると、価格競争に巻き込まれるゴルシ派にとっては、迷惑極まりないんだよ。お金の価値が上がらなくなるからね。頑張ったら頑張った分だけ得をするっていう、キャリダットが推し進める仕組みに、君たちの存在は障害以外の何物でもない」


「なんとでも言えっ! ウチらはクエスターとしてのあるべき姿を守っているだけだっ!」


 グラシューは負けじと、自身の思いを強い口調で述べた。


 一方、僕もノヴァさんの言葉にイラつきを覚え、彼を睨み始めていた。


「君の言うその姿はね、時代錯誤っていうんだよ。そうはいっても、君たちを排除するわけにはいかない。人道に反するってことで、キャリダットは世界の国々から非難されてしまうからね。ホントに世界は、考え方が遅れてるよね。しかし、実力ある者は見合った地位と報酬を得るという流れが、今後の世界基準になるのは明白。だって人間の精神構造は、そういう風に出来るているんだから」


 ノヴァさんは、見下すような目でグラシューを見つつ、淡々と持論を展開し続ける。


 堂々と語る彼の顔に対し、僕は更にキツい睨みを利かせた。


「長々と語って悪かったね。君のような子供に、こんな難しい話はわからないか。とにかく、君をウルフとの闘争に巻き込まれて死んだってことにすれば、世界から非難の目を浴びることなく、キャリダットから迷惑なハプス派クエスターを排除できるって、それだけの話さ」


「汚い⋯⋯アンタたちイかれてるよ!」


「その台詞、そのまま君に返すよ。ハプス派がキャリダットでは少数派だって、君も分かっているだろう? 御国の方針に反する行いをする君らこそ、国賊に等しいイかれた集団。それにね、国はゴルシ派クエスターに対し、ハプス派の有力クエスターを暗殺すれば、裏で報酬を渡すくらい、君たちの排除に本気なんだから」


「な⋯⋯何それっ⋯⋯!」


 グラシューは驚愕の声をあげた。


 それを聞いた僕も拳に力が入り、奥歯を噛み締めた。


「今日、君はどうせ今ここで死ぬから、冥土の土産で教えてやったけどね。きっとボクは御国から幾らか追加で報酬が貰えるって思ってるよ⋯⋯って⋯⋯」


 ノヴァさんはそう言いかけると、僕の方を見た。


「君⋯⋯何かさっきからボクのことをすごい目で見てるけど、何か用かい?」


 落ち着いた口調で語る彼を、僕は相変わらず鋭い目付きでしばらく睨み続けた。


「あなたのターゲットは、ウルフ達とグラシューってことですか?」


「ん? それがどうかしたかい?」


「そうですか⋯⋯それは残念ですね!」


 僕は語気を強めて言った後、グラシューの目の前まで移動した。


「ソーイチ⋯⋯?」


「グラシュー、やることはもうわかってるよね?」


「え?」


「俺、やっぱり前の世界で大人になるべきじゃなかったって、つくづく思ったよ」


「へ⋯⋯?」


 僕の言葉に対して呆気にとられるグラシューを他所に、僕はウルフ達の下へ向かった。


 僕はウルフのリーダーであるダルムと対峙した。


「お聞きの通りかと思いますが、あなた方の状況は⋯⋯」


「聞くまでもない。我らが窮地に追い込まれていることは、重々理解している。あれ程の軍勢、我らとてまともに抵抗すれば、ひとたまりも無かろう」


 ダルムは僕の言葉を遮るように、低音の声を響かせた。


「そうですよね。どこまで状況が良くなるか分かりませんが、僕ら二人があなた方を加勢します」


「え!? ちょっとソーイチ!?」


 丘の下の方からグラシューの声が聞こえ、僕はそちらを振り向いた。


「何だよグラシュー、どうせやらなきゃ君はこの人たちに殺されるんだよ?」


「いや⋯⋯そうじゃなくて! ソーイチは関係ないじゃん!」


 グラシューは心配そうな顔をして、叫んでいた。


「何だよ、水くさいなあ。俺だってハプス派のクエスターだよ? 一緒に戦うってもんが筋でしょ? それに俺だけ一人尻尾を巻いて逃げるなんて、気が苦しいから!」


「ソーイチ⋯⋯」


 僕らがそんな会話をしていると、グラシューの近くにノヴァさんが近寄ってきた。


「はははははっ。どうやら、自殺志願者がいるようだね」


 ノヴァさんは僕の方に目をやり、笑い声をかけた。


「君もクエスターなのかい? 見たところバッジもないようだから、低級クエスターかとお見受けするが」


「ええ、その通り、名も無き低級クエスターです。あなたの仰る通り、僕も頭の異常なハプス派クエスター。だから弱者を甚振(いたぶ)る様子を見ると放って置けない、バカなお人好しってわけです」


 僕は堂々と、彼に向かって語り出した。


「君一人加わったところで、状況が変わるとでも思っているのかい?」


 ノヴァさんは真顔で、僕の方を見て言った。


「だから言ってるでしょう? 俺はバカだって」


 僕が強気な口調で言うと、彼は警戒するような目で、しばらく僕を凝視した。


「⋯⋯ふっ、君は面白い事を言うね」


 呆れたような微笑を浮かべ、彼は僕に向かって言った。


 僕は再び、ダルムの方を見た。


「というわけです。一緒に戦いましょう!」


 軽快な口ぶりで僕は言うと、ダルムはじっと僕の方を見た。


「⋯⋯お主のその真っ直ぐな瞳、そして奥底に秘められたマナ⋯⋯只者では無いと心得た」


「え?」


 ダルムから思いがけぬ賞賛を受け、僕は軽く狼狽した。


「いや⋯⋯そんな大した人間じゃないですけど⋯⋯」


「恐らくは窮地に陥る世界を変えるだけの器の持ち主。ここでその命を失うのは実に口惜しいが、お主のその決意、しかと受け止めた」


「は、はい! 光栄です!」


 僕は明快なトーンで言うと、高台から駆け下り、グラシューとノヴァさんの下へ向かった。


「よし! やるか! こっちはいつでもいいですよ!」


 僕はノヴァさんに向かって言い放った。彼は不思議そうな目でこちらを見て、黙っている。


「何でそんなテンション高いわけ? 簡単な相手じゃないよ!?」


 グラシューの苛つき気味な口調が、僕の耳に入ってきた。


「わかってる!」


 しかし、僕は彼女の声に聞く耳を持たず、変わらずノヴァさんの目を凝視していた。


「⋯⋯そんなに死にたいみたいだね。わかった、君もターゲットの一人としてあげよう⋯⋯!」


 彼は冷たい表情で僕に向かって言うと、軍勢の下へ戻って行った。


 ノヴァさんの配下と思われるクエスター達は、次々と馬から降り、臨戦態勢を整えた。


 壮絶極まる戦いの狼煙が上げられんとする雰囲気に、僕はひたすら酔いしれていた。

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