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一二話 明かされし横暴

アルサヒネ歴 八六五年一〇月二一日

月村蒼一は異世界で仕事をする⑫


「村長! こちらです!」


 一人の男の声が後方から響き渡り、僕はその方向を見た。


「まったく⋯⋯何があったというのだ? この歳で動き回るのはしんどいというのに⋯⋯」


 息を切らした村長が、男に連れられて現れた。


「おお⋯⋯! まさか⋯⋯」


 村長は丘の上に立つウルフの群れを見て、驚愕の声を上げた。その視線は特に、中心に立つ黄金色に輝く一頭に向けられていた。


「来たか、モラレの村の長よ」


 金色のウルフは、低音の声を響かせた。


「言い伝えの聖獣『オーロウルフ』か!? 言葉を操る知恵ある狼と、古からの伝承で語られていたが、まさか実在するとは⋯⋯」


 村長は変わらず驚嘆していた。


「オーロウルフ⋯⋯?」


 僕は呟きつつ、グラシューの方を見たが、彼女は唖然と口を開けたまま、左右に首を振るだけであった。


「我の名は『ダルム』。この地のウルフを統べる者。また、精霊より命を受け、八〇〇年に渡りこの地の平定を司る。モラレの村の長よ、御主に話があり、ここに参った」


 村長が言う、聖獣とされるオーロウルフは、自らを『ダルム』と名乗った。彼は、村長に向かって落ち着いた口調を崩さずに声を発していた。


「わ、私に話ですと⋯⋯?」


 村長は、ひどく狼狽した様子を隠せないでいた。


「我らの主食とするラングロアが、最近異常にその数を減らしている」


 ダルムの言葉に、村長は大きく目を瞠っていた。


 僕はグラシューの方を見た。


「⋯⋯ラングロアって、あのクエスター達が狩ってたあの動物だよね?」


 僕の言葉に、彼女も何か確信めいたような表情を浮かべていた。


「⋯⋯うん、そだね」


 僕とグラシューは、コソコソと会話を交わしていた。


「それ故、我らは酷く飢えに苦しんでいる。その原因を突き止めねば、我らはその種を絶えることになる」


 ダルムのその言葉を聞き、僕とグラシューは村長を睨み付けるように見た。


 村長の表情は相変わらず、穏やかなものとは感じられなかった。


「ここ数年目立った異常気象もなく、ラングロアが激減している事実は、紛れもなくこの地の人間の手によるものと推し量っているが、真偽の程は如何なものか」


 村長は下を向き、しばらくの間立ち竦んでいた。


「我ら同志がこの村を矢庭に襲ったこと、大変遺憾なきことと存ずる。しかし、我ら同志はラングロアが減り、途方も無き飢えに苦しんでいることを鑑みれば、理無き行動ではなかろうとも存ずるが、如何か?」


「⋯⋯さて⋯⋯私には何のことやら」


 村長は苦笑いしながら答えた。


 またしばらく間を置き、ダルムは再び口を開く。


「そうか。何れにせよ、我らは生きる為、原因の芽を一つ一つ潰さねばならぬ。この事実に対し、主等が何の策も講じないようなら、この村、及びこの地域の人間を殲滅しようと考えている」


「な、何ですと⋯⋯!」


 淡々と語るダルムの言葉に、村長は叫び声を上げた。


 そんな村長を、相変わらず僕とグラシューは凝視していた。村長はチラリと僕らの方を見ると、実に気まずそうな表情を見せていた。


「村長、どーすんの? このままだと村の人、みんな喰われちゃうよ」


 グラシューは、彼女らしい軽やかな口調で、村長に警告した。


「僕らは見ました。僕らと同じくこの村に在中しているクエスター達が、狩られたラングロアを何頭も抱えているところを」


「な⋯⋯なんだと!?」


 村長は、僕の台詞に慌ただしく反応した。


「ラングロアが人間によって狩られているのは紛れも無い事実。ウルフのリーダーが言うように、ラングロアの狩猟を止めさせることが、この問題を解決する唯一の手段かと思います」


 僕は真剣な表情で村長に語った。


「その少年の言う通りだ!」


 僕の言葉に反応するように、周りにいた村人の一人が叫ぶように言った。


「そうだ! あんな大人しい動物を狩る必要はない!」


「ラングロアを狩るクエスター達が横暴で、ウチらは困ってるのよ!」


「こんなことで殺されたくねえぞ!」


 村人たちは、次々と声を上げ始めた。


 四面楚歌に陥った村長は下を向き、しばらく黙り込んだ。


「⋯⋯この村を思ってやったことだ」


 村長は呟くと、立て続けに口を開く。


「私はこの村の発展を願い続けてやったに過ぎない! この村は昔から貧しかった⋯⋯何の特産物もなく、侘しい村であった⋯⋯発展していかなければ朽ち果てていくこの時代の流れに乗るには、都会では稀少性があり、高く売れるラングロアを狩るしかこの村には無かったのだ!」


 村長は荒々しく語った。


 彼はさらに語気を強め、言葉を紡ぎ出す。


「豪華な宿と酒場が出来たのは何のお陰かと思う!? 荒れ果てた農道が綺麗に整備されたのも何のお陰かと思う!? 観光客も増え、ようやく村も賑わいを見せ始めた! 今更ラングロアの売買を止めるなど、出来るものか!」


 村長は、自身の思いをここぞとばかりに言い放ったように見えた。


「俺は昔のままでよかった! 貧しくてものんびりと暮らせればそれでよかった!」


「そうよ! あんな贅沢な宿も酒場も必要ない!」


 村長の強気の姿勢に負けじと、村人たちは反論していた。


「ぐ⋯⋯! くそ⋯⋯まだ来ないのか」


 そんな批判を浴びる村長だったが、僕は彼がしきりに周りを気にし、視線が村の外へ向けられ、何やら小声で呟いているのが気になっていた。


 村長と村人たちの揉み合う様子を、伝説とされるオーロウルフのダルムは、丘の上から凛然とした様子で眺めていた。


「我とて手荒な真似による解決は望まない。我らと共生の道を歩んで行くと契りを交わしてくれれば、我らはこの場を退くつもりである」


 ダルムは相変わらず理性的な口調を保ちつつ、語っていた。


「いかがでしょう、村長。ウルフのリーダーも、村人の方達もこう仰っていますし⋯⋯」


「ん!?」


 僕が村長に言いかけた時、グラシューが何かを感じ取ったのか、周囲をキョロキョロと落ち着かない様子で見渡した。


「どうしたの?」


「何か凄いマナを感じる⋯⋯」


「え⋯⋯?」


 次の瞬間、後方から何かが駆け付ける激しい音が聞こえ、僕は思わず振り返った。


 そこに、馬に乗った二〇名程の軍勢が、突如として現れていた。


 その軍勢を見た村人たちは驚愕し、ひどく狼狽えていた。


「おおっ! ようやく着きましたか!」


 それらを他所に、村長は弾ける笑顔を見せ、軍勢の下へ走って向かって行った。

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