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六話 A級の威光

アルサヒネ歴 八六五年一〇月一三日

月村蒼一は異世界で仕事をする⑥


 僕とグラシューは、宿近くにある酒場に訪れていた。店内の奥の方にあるテーブル席に腰掛け、食事を取っているところであった。


 田舎町とはいえ、なかなか綺麗でお洒落な造りの酒場であった。店内も客で溢れかえっており、賑わいを見せている。特に、店の中心あるカウンター席から聞こえる喋り声のボリュームは、相当なものであった。


 そういえば、泊まる予定の宿も、田舎町の風景に不似合いな豪華さを誇っていたし、この村の経済事情の良さを窺い知れるものがあった。


「何か、もっとボロっちくてしんみりとしたのを想像してたんだけど、すごくキレイだし、賑わってるね〜」


「そうだね。意外とこの村って、潤ってるのかな?」


「どうなんだろね〜。ところでソーイチってお酒飲むの?」


「えっと⋯⋯クエスター洗礼の後のお祝いの時、初めて飲んだって感じ。俺が前にいた世界って、二十歳になるまで酒を飲んじゃいけない法律があってさ」


「ふーん、そうなんだ。まあ、アタシは飲めないんだけどさ。でも、大人にならないと味がわからないっていうし、健康にもよくないっていうし、キャリダットにもそんな法律あっていいかもね〜」


 グラシューが軽快に語りながら、肉をフォークで口に運んだ瞬間であった。


「この野郎! 馬鹿にしてんのかっ!?」


 店の中心にあるカウンター席の方から、一際大きな罵声が聞こえてきた。


 声のした方に目をやると、大柄な男が、カウンター越しにいる店員の胸ぐらを掴んでいた。


「酒持ってくんのに、何分かかってんだ!?」


 男は店員にクレームを付けているようである。


 店員は怯えるような顔をして謝っているようだが、その声はこちらには届いていなかった。


「やれやれ、どこにでもあんな迷惑な奴はいるもんだねぇ〜」


 グラシューはカウンター席を見つめ、食べ物を咀嚼しながら喋っていた。


「仕方ない。他の客も気になって、食事のジャマになってる感じだし、止めてやっか!」


 グラシューは立ち上がり、拳を握り締めた。


「えっ⋯⋯マジか? ウチらが⋯⋯?」


「こらこら。アタシ達は、世界の平穏を保つ為のクエスターだぞ? こういう時に動かないとウチらの存在意義がないってもんさ。ほれ、黙ってついてこんかいっ!」


「そ、そういうことですか。わかった⋯⋯!」


 僕も立ち上がり、彼女の後についていった。



「誰のおかげでこの村が潤ってんだと思ってんだ!?」


「も、申し訳ございませんっ⋯⋯!」


 いざこざの輪に到着すると、大柄な男にイチャモンを付けられている店員の詫びの声も聞こえてきた。


「おいおい、オッサン。ちょっと興奮しすぎでないかい?」


 グラシューはその細く小さな手で、大柄な男の鍛え上げられた肩を、数回軽く叩いた。


「あぁん⋯⋯!?」


 男の視線はグラシューに向けられた。


 見るからに機嫌が悪そうで、血走るような目付きで彼女を睨んでいた。


「そんなうっさい声で叫ばれると、食事に集中できないんですけど」


「何だテメエは⋯⋯!」


 男は掴んでいた店員の胸ぐらを強引に放し、グラシューの方に体を向けた。


「名乗る程のモンじゃないから。でさ、こんなにお店も忙しいんだし、注文遅くなったって仕方ないじゃん」


「このメスガキ⋯⋯俺が誰だか分かってそんなこと言ってんのか!?」


「ん? 知らないけど」


 興奮する男を他所に、グラシューは飄々(ひょうひょう)と受け答えていた。


「俺はクエスターだぞ? しかも、この村の発展に大きく貢献する案件の頭を張ってる」


「あ、そう。それで?」


 変わらず淡々とした態度を取る彼女に対し、男はあからさまにイラつきを示していた。


「これだからガキはヤなんだよなぁ! 世の中の常識ってのがわかってねえからよぉ! クエスターがなんなのかもわかんねえとは!」


 男はグラシューの目の前に顔を寄せ、ガンを飛ばしていた。


「あ、アニキっ! ちょっと!」


 品の無さげな男が一人、カウンター席の方からそそくさとやってきた。


「あぁん!?」


 大柄な男は、やってきた男の方を振り向いた。


「その女⋯⋯ヤバイっすよ! ホラ、胸元のバッジ⋯⋯!」


「あぁ!? バッジだぁ!?」


 男は改めてグラシューの方を見た。


 すると、彼は暫く言葉を失い、固まるように立ち尽くした。


「そ、そいつぁ⋯⋯A級クエスターのバッジ⋯⋯! ってことはお前⋯⋯」


 大柄な男は、ゆっくりとグラシューから後退った。


 グラシューは腕を組み、憮然とした表情で大柄な男を見ていた。


「な、なんでこんな村にA級クエスターが来るんだ⋯⋯?」


「あ、アニキ⋯⋯!」


「くそっ! 今日はもう帰るぞ!」


 大柄な男は、店の出口に向かって早足で歩き出した。それに付随するように、品の無さげな男と、カウンターに座っていた数人の男たちも店を後にした。


「行っちゃった⋯⋯。グラシュー、そのバッジって⋯⋯?」


 僕は恐る恐る、グラシューに聞いた。


「ああ、これ? C級クエスター以上は基本的に、これを身に付ける義務があるんだけどね。A級のアタシは一応、ゴールドであります」


 彼女は胸元のバッジを指でつまみ、見せつけるような感じで僕に示した。


「へぇ⋯⋯ただの飾りじゃなかったんだ」


「まあね〜。後でランクについても教えてやっからさ。ところで⋯⋯」


 グラシューは、店員の方に目を向けた。


「店員さん、大丈夫すか?」


 カウンター越しの店員は、呆気にとられた表情でグラシューを見ていた。


「は、はい⋯⋯。申し訳ございません。ご迷惑おかけして」


「いいっすよ〜! ああいうの黙らせるのが、ウチらの役目だしっ!」


「何と⋯⋯。A級クエスター様にそんなことを言って頂けるとは、まったく畏れ多い⋯⋯。ありがとうございます」


「ところでさ〜、あのオッサンたちって何者? この村に貢献したクエスターとか言ってるけど」


「あ、あの方々ですか? そうですね⋯⋯」


 店員が次に言葉を言いかけた、その時だった。


「ウルフだーっ! ウルフが来たぞーっ!」


 店の外から、叫び声が聞こえた。


「グラシュー! ウルフって⋯⋯!」


「さっそくお出ましかっ! おーしっ、いくよーっ!」


 僕とグラシューは店の外へと駆け出していった。

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