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三話 下される使命

年代不明

月村蒼一は異世界で洗礼を受ける③


 僕は時間が経つ意識を忘れるくらい、テキストと睨めっこしていた。ここまで集中できた記憶がないと言える程、勉強が捗っていた。


 この『似非(えせ)イタリア語』とも言うべき言語の文法の大筋な部分は押さえた。次は日常会話で使えそうな表現を、ひたすら暗記することにしていた。


--さすがに少し疲れたかな⋯⋯。


 僕は少し休憩を入れることにした。


 時計らしきものがないので、何時間経ったのかは分からない。そもそも、時間という概念はあるのだろうか?


 それにしても、前の世界にいた時より俄然やる気が違う。ファンタジーの世界に身を投じ、気分が高揚しているからだろうか。夢の中だからこそ、自分自身に秘められた力が引き出されているのだろうか。


 結論は出ないが、この忽然として得た鼓する気持ちに、今は酔いしれる他ない。


「!?」


--なんだ⋯⋯?


 窓際の辺り、とりわけサフィーさんの像の辺りで、青白く光ったような気がする。


--まあ、いいや。続きをやるか!


 僕はその事象に気に留めず、小休止を終え、日常会話表現の暗記を再開することにした。



--そろそろ練習相手が欲しくなるな。


 もう勉強を始めてから何時間たったか分からないが、暗記もさすがに煮詰まってきた気がする。気晴らしに、せっかく覚えた表現を使って、この世界の人と軽く話をしたいと思った。


--部屋、出ても平気かな? まあ、ちょっとくらいならいいよな。


 僕が座りっぱなしで重くなっていた腰をあげた瞬間だった。


「ソーォ ちゃん!」


「!?」


 誰かが僕のことをアダ名で呼んだかと思うと、急に後ろから抱きしめられ、僕は咄嗟に後ろを振り向いた。


「あ!」


「こんにちは。元気にしてる?」


「サフィー⋯⋯さん?」


「すっごい勉強してたね。エライわ、感心感心」


 僕をこの世界に連れてきた張本人が、僕の背後を抱きしめていた。僕は背中に当たる感触がいちいち気になっていた。


「あ、あの、サフィーさん、胸が⋯⋯当たってます」


「え? ああ、ゴメンね。わざと」


「はいっ!?」


 僕は必死で彼女を振りほどいた。


「はははっ! 相変わらずねぇ。かわいいっ」


「もう⋯⋯、そういうのやめて下さいよ⋯⋯」


 正面から見たサフィーさんは相変わらずの美しさだった。彼女の今の格好は正に、精霊と呼ぶに相応しい純白のローブを身に纏っていた。


「あの、サフィーさん⋯⋯いや! サフィローネ様はなぜここに?」


「ははっ! いいって、そんな気を使わなくても」


「で、でもっ! この国の精霊なんですよね? みんなから崇拝されてるって⋯⋯」


「まあ、そうね。便宜上は」


「え? 便宜⋯⋯?」


「ああ、気にしないで。こっちの話」


 この人と話していると、この手の答えが返ってくることが多い。何か言えない理由があるのだろうか。


「もうっ! 気にするなって言ってるでしょ? 怒るわよ」


「え!? あっ⋯⋯」


 そういえば、この人は僕の心が読めるのであった。彼女といる時は、気の抜けない状況であることを再認識した。


「ウソだって。ゴメンね。まあ、前にも言ったけど、物事には順序ってものがあるから」


「今、それを僕が知ったら、何か悪いことが起こるんですか?」


「まあ、早い話そういうこと。っていうか、便宜上とかそういう表現をする私が悪いのかもね。そりゃ、気になるわよね。気をつけるわ、これからは」


 サフィーさんは僕の方を見て、クスクスと笑いながらそう言った。


「ところで、ソーちゃん。あなた、やっぱりすごい集中力あるのね。私がいることすら、全然気付かないんだもの」


「え? 気付かない? サフィーさん、いつからここにいたんですか?」


「そうねえ、かれこれ一時間とか?」


「え⋯⋯? そんなに?」


「あそこにある私の銅像、アレが光った時くらいから」


 そういえば、そんなことがあった気がした。あれからそれなりに時間が経っていた気がするけど、一時間も経っていたとは。


「すみません⋯⋯全然気付かなくて」


「いいのいいの。集中してたから、ジャマするのも悪いかと思って。それに言葉を覚えないと、何も始まらないしね」


「そういえば、言葉の壁があるんですね。ご都合主義が命の異世界転移にしては、妙にリアルだなあと」


「ああ⋯⋯そうね。それはまあ⋯⋯その、何ていうか⋯⋯」


 珍しくサフィーさんが言葉に詰まっていた。複数の言語が存在することに、何か重大なことが隠されているのだろうか。


 ただ、また心を読まれて彼女の気を悪くするも憚られるので、僕は話題を切ることにした。


「それも、便宜上ってヤツですよね?」


「えっ?」


 サフィーさんは目を大きく見開いて、こちらの方を見た。


「そ、そうね! そうそう! さすが、ソーちゃん。物分かりが良い!」


 いつもはノリが明るくとも理路整然と喋るサフィーさんだが、言葉に詰まる彼女を見るのは新鮮で、可愛げがあった。


 と、そんなことを思っていると⋯⋯、


「あ、こら。そんなことで私のことを惚れないでちょうだい」


 ⋯⋯こうなるわけである。


 ヘタなことは考えられない辛さが、彼女と一緒にいる空間には存在する。慣れるのはなかなか大変そうである。


「ご、ゴメンなさい」


「ふふ、何てね。さて、そろそろ本題に入ろうかしら。何で私がここに来たかっていうとね⋯⋯」


 そう言う彼女は顎に手を当て、妖艶な笑顔を見せ、僕の目を凝視してきた。その引き込まれそうな眼差しに、僕は身体を固まらせていた。


「あなたの秘められた力を、引き出しちゃおうと思って」


「秘められた⋯⋯力?」


 間を置いて発せられた彼女の言葉に対し、僕は淡々しい声で反応した。


「そうそう。おおっ!? 何かファンタジーって感じで、ドキドキしない?」


 確かにファンタジーにおける王道感漂う流れだが、彼女の会話の雰囲気がフランクすぎて実感が湧いてこない。


「俺の⋯⋯秘められた力⋯⋯」


 僕は格好つけて物語の主人公っぽい雰囲気で言い、然るべき環境を整えてみた。


「おっ! いいわよ、ソーちゃん! いいノリね! せっかくの異世界ファンタジーなんだもの、楽しまなくちゃね!」


「いや、あの⋯⋯そうやってフランクに喋られると、雰囲気がぶち壊しなんですが⋯⋯」


 せっかく作り上げた空気を濁された僕は、消沈したトーンで、口を開いた。


「あ、そっか。ゴメンゴメン。お前もやれよって感じよね。でも、何か私そういうの苦手なのよね」


 変わらずサフィーさんの雰囲気は明るい。


「いや、その⋯⋯、ファンタジーっぽい雰囲気はいいですから、早く僕の秘められた力を⋯⋯」


 矢も楯も(たま)らない僕は、巧まずして本音を漏らしてしまった。


「ああ、ゴメンね。まあ、でもね、そんな大したことはしないのよ」


「はい?」


「私があなたの体を触った瞬間、光がワッと出て、力が湧いてくるとか、全然そんなんじゃないから」


 ⋯⋯そういうのを期待していた。


 僕の背中から、力が抜けていく感覚を得た。


「そう気を落とさないでよ。そういうのは後でいくらでもやってあげるから。でね、今から私があなたにやってあげるのは『これからこの世界に起こること』を告げること」


「この世界に起こることを⋯⋯告げる?」


 それが僕の力を引き出す事と、いったい何の関わりがあるのだろうか。


 話が遠ざかっていく気がする。


「まあ、ぶっちゃけて言っちゃうと、この世界、あと一年半か二年後くらいには、滅んで無くなっちゃうのよ」


「え⋯⋯?」


 急に飛躍した話を耳にし、僕は唖然と口を開けた。


「滅んで無くなっちゃうって⋯⋯、そんな危険な状況にあるんですか?」


「そうなの。大変でしょ? 見た感じは平和そのものなんだけどね〜」


「大変でしょって⋯⋯、最初に言って欲しかったな⋯⋯。ホイホイついてくる僕も僕ですけど」


「あなたにそれを言う権利はないと思うんだけどなぁ〜? 死のうとしてたあなたを助けたのは、どこのどなただったかしら?」


「う⋯⋯、それを言われると⋯⋯」


 僕は自分の部屋でカッターを手にしようとした瞬間を思い出した。たしかに、僕はサフィーさんがいなければ、死んでいたかもしれない。僕がこの世界でどんな仕打ちを受けようと、文句の言える立場でないことは重々承知しているが、それを持ち出す彼女も彼女で質が悪い。


「まあ、あなたをそのまま死なせてあげるのも簡単なんだけどぉ⋯⋯」


「すみませんでした! 今のは撤回で!」


「ふふっ、ゴメンね、脅したみたいで。それで、この世界を危機から救う為に、あなたの力が必要ってわけ」


「はあ⋯⋯、なるほど。精霊様から力を貸して欲しい⋯⋯ですか。王道ですね」


「でしょ? オタク気質の童貞クンなら興奮するし、やる気でるキーワードよね?」


「またそれですか⋯⋯。いいかげん怒りますよ? 反論できないのは悔しいですけど」


「ははっ! ごめーん、ついうっかり」


 サフィーさんは頭をポンと平手で叩いた。


 しかしその後、彼女の雰囲気が変わった。微笑を浮かべているものの、彼女の全身から凛とした佇まいが滲み出ていた。


「でもね、それだけじゃないのよ。あなたに力を出させるには、危機感を煽ることが何よりの促進剤かなって」


「危機感⋯⋯ですか?」


「ただ生きてさえいればいい、と願うあなた。だったら、そう簡単には生きられないとすれば、どうなるかしら」


 サフィーさんの口からそんな台詞が聞こえると、僕の体に緊張が走った。


 精悍(せいかん)な情緒を醸成するサフィーさんは、話を続ける。


「時代が時代なら、あなたはきっと少なくとも武将やら将校、若しくは一国を治める主にすらなっていたかもしれない。でも、あなたの生きる時代、とりわけあなたの産まれた国では、そんな争いを必要としなくても生きられる。さらに才能と努力次第では、地位も名誉も財産も際限なく手に入ると言っても過言ではない。あなた自身もわかっている通り、あなたにはそれを成し遂げられるだけのものを持っていた」


 淡々と語るサフィーさんの言葉を聞くと、僕は目を逸らし、俯いた。


 どうしてそんな話を急にするのか。そんなことは痛いくらいにわかっている。


 僕の悩みの根源は正にそれであり、深く負った傷を抉られているようで、実に不快な思いに駆られた。


 サフィーさんはそんな僕に対し、済し崩しに話を浴びせるよう、さらに語り続ける。


「陸上競技にしても、その気になればきっとオリンピックに出られる、いや、メダルにすら手が届くだけの可能性を秘めている。学業に専念したとしても、行く末は一流企業の重役やら、国家を動かす官僚になっているでしょうね。」


「その気になれないんだから、仕方ないじゃないですか!」


 僕は声を荒げて言った。


 下を向いていたので、サフィーさんの表情はわからない。


 森閑とした空気が、僕らを包み込んでいた。


「⋯⋯ゴメンね、わかってる」


 力無く声を発するサフィーさんの声が耳に入ってきた。僕は相変わらず深く俯いたまま、昂る気持ちを何とか落ち着かせるようにするが、なかなか静まる気配が無かった。


「⋯⋯だから俺に、世界が滅ぶと伝えたわけですか。秘められた力を引き出すってことはつまり、俺に危機感をもたせて、やらざるを得ない気持ちにさせるってことですか?」


「そうね、まさにその通り」


 サフィーさんからその台詞が聞こえると、僕はさらに苛立った。


「ズルくないですか?」


 僕は抑え目に声を出したが、口調には怒気を孕ませた。


「落ち着いて。何もあなたを否定しているわけじゃない」


 サフィーさんの優しく包み込むような声を耳にした僕は、ゆっくりと顔を上げ、彼女の顔を見た。


「たとえ、あなたが戦乱の時代に生まれて、それなりの地位に立っていたとしても、無駄に命を奪うような残忍なことは決してしない。あくまでも、平穏な日々を取り戻す為を全てだと思って、懸命に戦い続けていたはず」


 僕は黙ってサフィーさんの話に耳を傾けた。


「それに、あなたは元いた世界で、どんな地位や名声を得られるチャンスがあるとしても、それを必要以上に求めなかった。それでいいのよ。あなたの感覚は決して間違っていない。むしろ理想とする生き方だと、わたしも思うわ」


 懸命に語るサフィーさんの透き通るような青い瞳が、印象深く残った。それを見ていると、僕は何を言われずとも彼女に説得されたような気持ちに陥った。彼女は僕の左肩に手を添え、再び優しく語り出す。


「あなたの気持ちを弄ぶようで、本当に悪いと思ってるわ。でも、私も必死なの。今までどんなに探しても、あなたのような人は見つけられなかった。大袈裟だけど、この世界を救えるのはあなたしかいないと、私は思ってる」


 サフィーさんの優しくも鋭い目線に耐えられず、僕は思わず目を逸らした。


「それに、この世界の滅亡は、あなたの住む世界にも関わってくる話。今はまだ詳しく話せないけど、あなたの大切な人を守ることだと思って⋯⋯」


 僕の世界にも関わる話⋯⋯。


 よくある謳い文句に疑いの余地があることは否めないが、僕に悩む理由は無かった。


「いや、いいんです。もう無理に説得しなくても」


「それは⋯⋯どう受け止めたらいいかしら?」


 サフィーさんの問いに、僕は一呼吸おいて答える。


「死ぬことがわかっていて何もしない程、俺は人生をつまらないものと思ってないですから」


 僕は再びサフィーさんの方を見た。


「俺も、考えたことあるんです。もし自分が戦国時代に生まれていたら、どうなっていたんだろうって。自分に命の危険があると感じているとわかっていたとしても、やっぱり多くを求めず、力を隠したまま足軽の傭兵で命を捨て去っていくのか。それとも、そういう状況だからこそ、隠された力を発揮して、数々の武功を残すことに快感を得るのか、どっちなんだろうって」


「ソーちゃん⋯⋯」


 サフィーさんは心なしか、目を若干潤ませているように見えた。


「俺がこの世界の為に何ができるか、さっぱりわからないけど⋯⋯。ただ、自分の力をフルに発揮することへ生き甲斐を感じることに、憧れもありました。それを実現できるのがこの世界なのだとしたら、俺はその夢をこの世界に賭けてみたいと思います」


 僕は強い口調で言い切った。それを聞いたサフィーさんはニッコリと笑った。


「そっか、ありがとう」


 サフィーさんは僕の左肩から手を離し、その手で軽く彼女自身の目の辺りを拭っていた。


「ふふっ⋯⋯、そうやってキリッとしたソーちゃんも、なかなか素敵よ」


 サフィーさんはそう言って僕を茶化した。


「あの⋯⋯、俺、真面目に喋ってるつもりだったんですが」


「ははっ、ゴメンゴメン」


 彼女に明るく、柔和な表情が戻ってきた。僕もそれに応じるように、顔を緩ませた。


「何か、難しい話してたら疲れちゃったね。ちょっと気の抜けた話でもしようか?」


「まあ、サフィーさんがそれでいいなら」


 僕とサフィーさんは椅子に腰かけた。


「あ、じゃあ、言葉の勉強の練習相手になってほしいです。この国の精霊様なら、当然喋れるんですよね?」


 僕はふと思い出したように、サフィーさんへお願いした。


「うん、いいわよ。お安い御用」


 サフィーさんは無垢な笑顔を見せながら、そう答えてくれた。



『そういえバ、今日のサフィーさんノ服は、女神ミタいですネ』


『ふふっ、ありがとう。今日はさっきまで精霊としての仕事をしてたの。着替えてくるの面倒くさかったから、正装のまま来ちゃったんだ』


『へぇ~』


 そんな感じでかれこれ数一〇分、この周辺の言語である『アルサヒネ語』でサフィーさんと会話をしていた。覚束ない発音やイントネーションは、その都度サフィーさんに指摘してもらった。


 ちなみにこの辺りは『アルサヒネ』という区域で、使われる言語もアルサヒネ語と呼ばれて定着していると、サフィーさんから教えてもらった。


「今、ちょっと早めに喋っちゃったけど、聞き取れた?」


 サフィーさんが日本語で聞いてきた。


「あ、はい。精霊の仕事してて、その服のままここに来たって感じですよね?」


「うん、そうそう。上出来。やっぱり相当頭切れるのね、ソーちゃん。あの短時間の勉強でそこまで喋れるとは思わなかったわ」


「光栄です」


「この分なら、あと一週間もあれば、生活には困らなくなりそうね」


「がんばりますよ。こんなところで(つまず)いてられないですから」


「ふふっ、頼もしいこと言ってくれるじゃない。でも、あせらないでね。今できることを確実にこなすよう、心がけて。この世界、それなりに危険なことで溢れてるから」


「わかりました。気を付けます。ところで、サフィーさん」


「ん? なあに?」


「俺は世界を救う為に、具体的には何をすればいいんですか? っていうか、そもそもどういう危機がこの世界に迫ってるんです?」


「おっと、それを聞いちゃいますか」


 サフィーさんはそう言うと、ちょっと考え込むように言葉を詰まらせた。


「え、でもそれ、大事なことじゃないですか? 俺は何をしたらいいかもわからない上、どんな危険に襲われるかもわからないなんて⋯⋯」


「そら、そうね。でも、どういう危機が迫っているかを知るのは、時期尚早かな」


「それも『便宜上』ですか?」


「まあ、そういうことにしといて。でも、何をすべきかくらいは、ざっくり教えておこうかしら」


「お願いします」


 サフィーさんは一呼吸置き、再び開口する。


「あなたに取り急ぎやって欲しいことは『アルサヒネで自分が一番強いこと』を証明すること」


「アルサヒネで、一番強い?」


 僕はそう言われて、ちょっと考え込んだ。


「どう? 男の子なら、燃えてくるミッションじゃない?」


 サフィーさんは目を細めて笑いながら、覗き込むように僕を見ている。


「まあ、それは間違いないですけど⋯⋯。ただ、具体的にはどうすれば? 少年マンガとかなら、こういうとき、武術大会的なものがあるけど⋯⋯」


「あ、それ、すごくいい線いってる! まあ、私の口から言わなくても、具体的に何をしたらいいか、近いうちに分かるわよ。答えはその時までお楽しみということで」


「そこ、勿体ぶる必要あります? 危機が迫っているというのに、ちょっと呑気じゃないですか?」


「ああ、それ! よく言われる! ははっ、ソーちゃんにも言われちゃった! さすが鋭いな~」


「はあ⋯⋯」


 あまりに奔放な口調なサフィーさんに、僕はただ呆れるしかなかった。


 この人は、本当に何を考えているのかわからない。


 とはいえ、崇拝される精霊という立場にいるわけだから、大事なことをはぐらかすことに、何らかの意味があると思いたい。


「大丈夫、心配しないで。あなたの力があれば、アルサヒネのナンバーワンなんてチョロいものよ。っていうか、それくらいは簡単にこなしてもらわないと困るんだけどね」


「え?」


「まあ、そういうこと。とりあえず最初は気張らずに、この世界を楽しむくらいの気持ちでやってみてよ」


 サフィーさんは、相変わらず無垢な笑顔を僕に投げかけた。


「あ、私、そろそろ行かなきゃ。今日はゴメンね、いきなり押しかけて」


 彼女は思い出したように言うと、静かに立ち上がった。


「い、いえ。また、会えるんですよね?」


「あれ、さみしいの? 参ったなあ~、意外とお子様なのね、ソーちゃんたら」


「そういうことじゃなくて! 今後、報告とか何とか、できないと困るじゃないですかっ!」


 僕は思わず声を荒げてしまった。


 彼女の奔放な言動に、早く慣れなければ。


「ははっ! うそうそ、ゴメン。まあ、近いうちに、嫌でも私と会うことになるだろうね」


「はい? 嫌でも?」


「まあ、深く考えないでさ。ひとまず、今はジャスタの言うことを聞いておいて」


「そうですか⋯⋯。ジャスタさん⋯⋯ですね」


「バカそうに見えるけど、あの男はかなりのやり手だから。ちゃんとあなたの面倒は見てくれるはずだから、大船に乗ったつもりで頼ってみて」


「わかりました」


「うん、じゃあまたね!」


 サフィーさんはそう言うと、全身から眩く青白い光を発した。


「うわっ!」


 すると、そこにサフィーさんの姿は無かった。いかにも、ファンタジーらしい去り方だった。


「何か疲れたけど⋯⋯ワクワクしてきたかも」


 僕は独り言を漏らし、心躍らせながら、テキストの置いてある席に再び座った。

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