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八話 裸の付き合い

アルサヒネ歴 八六六年五月二七日

月村蒼一は異世界で恋に落ちる⑧


 僕とバリーとグラシュー、そして一ノ瀬さんの同い年四人は、ワンスインナムーンを観賞後、それぞれの家路に散った。


 僕とバリーはヌヴォレに帰り、帰りの馬車がなく、宿を探すつもりだったという一ノ瀬さんは、グラシューの家に泊まらせてもらう流れになった。


 出来ることなら、一ノ瀬さんにはヌヴォレに来て欲しかったが、同性であり、しかも妙に気が合ってしまったグラシューと一緒にいた方が、彼女も安心するだろう。


 それに、僕は一ノ瀬さんに不快な思いをさせてしまったし、彼女も今は、僕と距離を置いておきたいはず。


 そんなヌヴォレに帰った僕とバリーは、すぐさま大浴場へと足を運び、湯船に浸かりながら、今日の出来事の追思に耽っていた。


 その内容は取り分け、突如として僕の目の前に現れた天使の話題に、集中していた。


「いやー、メチャクチャ可愛いかったなー、クレア」


「そ、そうかい⋯⋯?」


「あの笑顔はマジやばいわー。しかも胸デカイし。っていうか、あの巨乳を見せつけるかのようなファッションは何なんだ? ズルくねえ?」


「かもね⋯⋯」


「その割にはお淑やかで、何でも尽くしてくれそうな雰囲気だし、ギャップがたまんねーよな。あんなん、惚れるなっていう方が無理だわ」


「そうですか⋯⋯」


 興奮気味に話すバリーに、僕はひたすら一言だけ返すしか出来なかった。


「そーいやお前、クレアと友好闘技会で闘ってたよな?」


「うん⋯⋯」


「素人目に見ても、すげー試合してたってのは分かる。クレアも相当強いんだろ?」


「まあね⋯⋯」


 僕が相変わらず力無く一言を返すと、バリーは僕の方を鋭い目で見てきた。


「ソーイチとクレアって何者なんだ? オレと同じアトミカリアンなのは分かるけど、異様な強さだよな? そもそも、アトミカリアンでクエスターになるってだけでも珍しいのに」


 バリーに問われると、僕は彼から目を逸らし、下を向いた。


「オレらヌヴォレの家族同士、過去には触れてはいけない約束があるのは、分かってるんだけどさ⋯⋯」


 僕は黙って、彼の話に耳を傾けた。


 僕らヌヴォレに住む者たちは、身寄りの無い少年少女たちが中心で、管理人のジャスタさんに手を差し伸べられ、今に至っている。


 そして僕らには、互いの過去には触れず、将来だけに目を向けていこうという約束事がある。


「いや、悪りぃ。無理に話してくれなくていいんだ。あまりに気になってたんで、思わず口すべらしちまったよ」


 謝るバリーに対し、僕は再び顔を向けた。


「いや、俺はバリーの過去を知っちゃってるし、不公平だよね」


 僕は口角を上げて言い、さらに続ける。


「バリーには話すよ。俺が何者なのか。あと、俺とクレアさんとの関係も」


「マジか⋯⋯でも、いいのか?」


「うん。ただ、ここだけの話にしておいてよ。ちょうど今、風呂に入ってるの、俺たちだけだし」


「ああ、わかってる」


 僕はバリーの真剣な眼差しを確認し、話を始めた。



 僕はここに至るまでの経緯を、バリーに話した。


 この世界で、僕の正体を知っている人間は、かなり限られているはずだが、この国の王にまで知れ渡っていることを考えると、どこからともなく漏れ出してしまっていることが想像される。


 遅かれ早かれ、僕の正体は国中に知れ渡ってしまうだろうから、バリーに口止めをお願いしたところで、大した効果がないのは想像に難くない。


 兎にも角にも、バリーには僕の本当のことを知ってもらいたい。


 そしてその上で、僕の悩みの一角を崩して欲しいのだ。


「異世界からやって来た、精霊の使い⋯⋯? マジかよそれ⋯⋯。半端ねえな」


「信じてもらえるとは、思えないけどさ」


「いや、むしろお前の功績を考えると、その方がしっくりくるよ」


 話が長くなり、長風呂になってしまったせいか、バリーは上半身を浴槽から出し、身を涼めていた。


「⋯⋯っていうか、オレ、そんな奴とこうやって気軽に話していいのかよ。いつも思ってたけど、その話を聞くとさすがにな⋯⋯」


「気にしないでって。本当のことが知れたことで、君との関係が壊れるの、嫌だからさ。これからも、よろしく頼むよ」


「お、おう。お前がそう言うなら⋯⋯」


 バリーは少し戸惑いながらも、そう言ってくれた。


「でもさ、クレアもお前と同じ精霊の使いってことだろ? そんなん反則じゃねーか」


「え⋯⋯?」


「同類でないと、手の届かない存在じゃん。オレみたいな下々の民が、精霊の使い様に手を出そうなんか、畏れ多すぎるぜ」


「いや、それは別に関係ないと⋯⋯」


「ん? じゃあオレ、クレアに手を出してもいいの?」


「え!?」


 僕は思わず、大声を響き渡らせてしまった。


「ははははっ! 冗談だよ。お前らどっからどう見ても両思いだし、お似合いの美男美女。今さら手出しできねーって」


 威勢良く声を出すバリーの前に、僕はひたすら苦笑いした。


「っていうか、何でお前ら付き合わねーの? お互い気になってんだろ?」


「そ、それは⋯⋯そうなんだけどさ」


 僕は歯切れ悪く呟き、さらに続ける。


「いざ口説こうと思っても、なかなか勇気が出なくて⋯⋯。さっき、二人きりになったけど、まさかあんな場面が来るとは、思ってなくて⋯⋯」


 僕は情け無さに襲われ、下を向いた。


「はははははっ! 精霊の使い様も、恋にゃ奥手ってわけかい!?」


 バリーは高らかに笑いながら、僕の肩を叩いた。


「せっかくのチャンスをくれたのに、本当にゴメン⋯⋯」


「はははっ! オレも悪かったよ。まだ、お前には早かったみてーだな」


「うぅ⋯⋯」


 僕は相変わらず項垂れながら、声を漏らした。


「⋯⋯ねえ、あの場面、口説いてもよかったのかな?」


「ん? それはお前次第だと思うけど」


「そうだよね⋯⋯」


「まー、ただ、気になる相手と絶景が見えるところで二人きり。そんな場面で甘い言葉でも一つや二つかければ、女はイチコロじゃね?」


「そっかぁ⋯⋯」


 僕は、大きな溜息をついた。


「まー、焦ることはないんじゃね? クレアもけっこうお堅そうだし、これからはじっくり攻めた方がいいかもな」


「そ、そうなの⋯⋯?」


「まあ、そういうお悩みなら、いつでも聞いてやっからよ。オレの故郷を救ってくれた精霊の使い様に、そんなんで恩返しできんなら、安いもんだぜ」


 バリーは軽快に語ると、立ち上がった。


「おっしゃ、オレはそろそろ上がるかなっ! 思わず長風呂になっちまったし、のぼせそうだぜ」


「あっ、そうだね⋯⋯。俺もなんか、ボーッとしてきたよ」


 僕も立ち上がり、浴槽から身を出した。


「お前がボーッとしてんのは、長風呂のせいじゃねーだろ?」


 バリーは、にやけ顔で僕の方を見てきた。


「⋯⋯ちょっと、怒るよ」


「はははははっ!」


 笑い声を浴場に響かせたバリーの背中が、やけに大きく見えた。

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