表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/104

プロローグ 世の中、旨い話なんて無い

アルサヒネ歴 八六六年四月八日

月村蒼一の手記


 唐突なことで申し訳ない。


 僕、月村(つきむら) 蒼一(そういち)は、絶賛、異世界転移中である。


 いや『転移中』などという表現は、おかしいか。なぜなら、元の世界に戻れるかどうかなど、まったく知る由は無いのだから。


 兎にも角にも、異世界とやらにやって来た僕だが、今はもう、早く元の世界に戻りたい。


 ただし、条件がひとつある。


 同じくして、元の世界からやって来た僕のクラスメートである一ノ瀬(いちのせ) 紅彩(くれあ)は、この異世界に置いて行って欲しい。


 何でもいいから、彼女から僕を遠ざけて欲しい。


 別に元の世界じゃなくてもいい。彼女から離れられるのであれば、地獄の底でもいいから、連れて行って欲しい。何せ、彼女に目を付けられた今の状況が、すでに地獄。閻魔様に舌を抜かれるよりも、彼女の不気味な笑顔で睨まれたことは、はるかにキツい。


 どうしてこうなった⋯⋯?


 この手の話で頻出する台詞を、端無くも吐いてしまったが、ご容赦願いたい。


 本当に、出だしは良かったのだ。


 異世界転移には付き物のチート能力も付けられていた僕は、可愛い女の子と旅ができるわ、巨悪を無双できるわ、ウハウハのハッピー状態だった。表現が稚拙で申し訳ないが、それくらい、僕の異世界生活は充実していた。


 ただやはり、こういうことなのであろう。


『世の中、旨い話なんて無い』


 世のオタク気質の若人に、忠告しておく。異世界に転移するだとか転生するだとか、近い将来、万一そんな甘い誘惑に駆られることがあっても、それに決して身を委ねてはならない。


 必ず、裏があるはずだから。


 目の前の現実がいかに辛くても、必ずそれは乗り越えられるはずだから。決して甘い戯言に惑わされてはならない。


 さもないと、僕のような目に遭う。


 下らぬ唆しに溺れた男の末路は、実に惨めなものだ。


 そうは言っても、僕はこうして異世界へと足を踏み入れることに、運命を任せてしまったわけで、弱音を吐いていても始まらない。


 限りなく可能性は低いが、解決に向かわねば。


 ただ、今の状況はあまりに手詰まりだ。


 ちょっと、今までのことを、振り返ってみようと思う。


 こうして紙に書き留めて、頭を整理すれば、何か活路が見出せるかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ