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慰謝料はいただきます!

「では、三年分の慰謝料をしっかりといただきますわ」


「シーラ!」

伯爵が声をあげるけれど、シーラは微笑みを消し去って「けっ」とでも言いそうな表情で立ち上がった。

彼女のスカートに縋り付くようにグラントリ伯爵が縋って叫ぶ。

「もう少し耐えてくれ!」

シーラの本性を知る伯爵が悲鳴のような声をあげて慌てるが、シーラは素知らぬ顔だ。

「ほぼ婚約者として扱われ、王妃になるための教育をしてきた私の時間に対する慰謝料と、これから受けるであろう恥に対する慰謝料です」

シーラは先ほど待っている間にメイドに準備をさせた紙に、数字を書き連ねていく。

王妃候補として必要だったドレスに宝飾品。家庭教師を雇った教育費に、参考書などの本。美貌を保つためのエステ。全て必要経費だ。

さらに慰謝料に、シーラの価値を下げたとして、損害賠償。


「…………え?」


王太子と王があげた、間の抜けた声が控えの間に響き渡る。それに被るように「申し訳ありませんっ」伯爵の裏返った声もあがった。

「この娘は何を言っているか分かっていないのです!」

伯爵の言葉に、シーラは父親にも冷たい視線を投げかける。

「分かっていないわけないでしょう。女が一人で生きていくのに、どれだけお金が必要だと思っているのです。しかも、私は不幸になる気はないのです」

今まで苦労して勉学に励んだ見返りが、婚約破棄と出家になるなんて冗談ではない。

婚約破棄はされても、出家はしない。

だったら、一人で生きていけるだけのものを、自分の親からではなく、原因を作った張本人からもらうのが筋というものだ。

「無礼は承知しております。私はもう、貴族ではないので、礼儀知らずの平民だとお見逃しくださいませ」

シーラは一度、王にお辞儀をして、再度王太子に向き直った。

シーラは挑むように王太子を見た。

その強い視線に、王太子はごくりと喉を鳴らした。

「結婚適齢期の女の三年間を何だと思っているのですか。はっきり言って、私の今後の人生灰色どころか真っ黒だわ」

腰に手を当てて怒りの表情を見せる彼女に、先ほどまでの面影は跡形もない。

腕を組んで、眉間にしわを寄せてシーラは王太子を睨み付ける

「この三年間、王太子妃になれると思って、他の有力な婿探しをしていません。いい相手ほど先に売れていくものなのに。今から探すとなると、私はすでに売れ残り」

わざとらしいほど大きなため息を吐いて、シーラは繰り返す。

「この私が、売れ残りですよ!?」

有り得ない!と頭を抱えて、腕を広げる娘の横で、父親が

「有り得ないのはお前だ!」

と一生懸命に娘を隠そうと腕を広げていた。

「しかも、王太子殿下の元婚約者候補という不名誉に不名誉を重ね塗りして、どんだけ分厚いんだよって状態になった令嬢の引き取り先なんてあると思います!?」

必死にフォローに励む父親を押し退けて、シーラは王太子を睨み付ける。

「――ありません。あっても好色親父ですわ。」

切なげにため息を吐く様は、言葉を聞かなければ同情を誘う。

シーラはどんな動きも美しい……だけあって、今までのシーラとのギャップに、王と王太子は未だに反応を返せずにいた。

そんな二人に、シーラは言いたい放題言って、請求書を叩きつける。

「というわけで、人ひとりの人生を台無しにしたのです。このくらいの賠償金、当然だと思うのです」

ふふっと最後だけ可愛らしく笑うシーラに、グラントリ伯爵は力ずくで黙らせようと決めた。

「――もうだめだ」

小さく呟いた彼は、娘の腕をグイッと引いた。

「今日は一旦、これを連れて帰りますっ。お詫びは後日伺いますっ……!」

無理矢理でもシーラを屋敷にいったん連れて帰ろうとしたのだ。

王がハッとして呼び止めようとした時には――

「おい、あんまりだ!」

シーラは、自分を引きずろうとした伯爵の手をひねりあげて、あっという間に後ろ手に拘束をしていた。

あっさりと娘にやられた伯爵は、すでに半泣きだ。

王は何かを言おうとした口を開いたままだ。

「伯爵が私の邪魔をしようとなさるからですわ」

実の父親を「伯爵」と呼びながら、シーラはグラントリ伯爵の手を解放した。

「私、きちんと護身術も学びましたの。筋肉をつけないように、ものすごい食事制限をしながら」

シーラは、見た目はか弱い女性だ。

それこそ、俯いて儚げに微笑んでいてくれさえすれば、腕を力任せに引っ張れば折れてしまいそうなほどか弱く見える。

グラントリ伯爵は、シーラを止めることは無理と悟り、王に向き直った。

今見たシーラの身のこなしにさらに見惚れていた二人は、はっとして伯爵へと視線を移す。

「申し訳ありません!」

ソファーから横にずれて、突然床に平伏してしまった。

「騙そうと思っていたわけではないのです!気が付いたらこの状態だったのでございます!」

伯爵はおでこを床にこすりつけながら必死で謝っていた。

伯爵の取り乱しようを見て、ようやく驚きから立ち直った王太子は、シーラを見据えて聞く。


「それが、本性か」


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