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憤怒の代行者  作者: KKSY
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003 魔王様、落胆する

短目です。次回はっする(予定)します。

「して、赤毛よ」


「ロサンティーヌです! キャン、魔王様は人の名前を呼ばない主義でもあるの?」


 赤毛の女――ロサンティーヌは復活したキャンに尋ねる。

 キャンはただ疲れた様に深い深い息を吐き、


「羨ましいんだそうです」


「はい?」


「自分に名前がなくて、私達に名前がある事が羨ましいんだそうです」


「しょうもな!?」


 魔王様の片眉がピクリと反応する。今すぐ詰め寄り星にしたい衝動をなんとか抑え込む。

 栗色の示した方向に赤毛が居た。ならば彼女が己の名を知っている可能性があり、今亡き者にする訳にはいかなかった。


(あやつ、後でシメル)


 が、それとこれとは別問題であり、後で物理的に振り回そうと密かに決める。

 悪寒がしたのか、赤毛は落ち着きなくキョロキョロする。


「??? まぁいいわ。というかキャン、魔王様の名前は代々決まってるじゃない。教えなかったの?」


 仕方がない娘ね、と言わんばかりに腰に手を当てるロサンティーヌ。キャンはふるふると首を振った。


「魔王様が言う名と、私達の認識は多分違うんだろうな~って気がしたので」


 ロサンティーヌが首を傾げる。


「どういう事?」


「代々受け継がれて来た魔王様の名と、私達個人の名、という様な違いというか、なんというか」


 あぁ、と納得する。そして納得すると同時に困った。


 魔王様に個人の名など無い。その事をどう穏便に伝えれば良いのか、ロサンティーヌに先程の恐怖が蘇った。ぶるりと背筋が震える。


 頭を掻き、覚悟を固めて魔王様と向き合う。


「魔王様」


「うむ。言わずとも良い。顔を見れば察しがつく」


 魔王様、考えが浅くても勘は物凄く良い。頭に残る図書館の知識から導きだした答えは恐らく正しい。


「魔王サタン、数えで言えば18世か」


 どこか落胆した様子で、つまらないと言うように浮遊してきた本をぽいっと投げる。


「まあ良い。これからも魔王と呼べ、サタンは許さん」


「えっと、何故ですか?」


 困惑した様なキャンに、魔王サタンはうむと腕を組み、力強い声で、


「タンという響きが気に入らん!」


「しょうもな!」


 ロサンティーヌは現代アートと化した。


***


 壁から這い出て、ロサンティーヌは服に付いた砂埃を払う。肩程で切り揃えられている髪を結うと、何処からともなく白衣を取り出し袖を通した。


「取り敢えず、どんな理由があれ魔王様に意思が戻ったのなら、やる事はひとつです」


「やる事とはなんだ」


「――人間を、島から駆逐します」


 世界には人類と魔族、そして申し訳程度に魔物が存在する。

 300年前、世界征服を果たした先代魔王は死ぬまで平和に統治していたが、それから100年後、200年前に人類が魔族に牙を向けた。


 勇者と呼ばれる存在を召喚し、魔族に反旗を翻した。

 勇者は恐ろしく強く、そして不思議な能力を兼ね備えていた。


 更に人類は魔族を弱体化させる魔導兵器を生み出し、異形の多い魔族は人間の様な非力な存在にまで落とされた。


 キャンやロサンティーヌは魔族だが、どの様な異形が元なのかは分からないでいる。生まれ落ちた時から姿形が人間なのだ。


「何故、人類はその様な愚を冒したのだろうな」


「神託が下った、と伝承に残っています」


 人類に神託が下り、実際に天使が力を貸していたと伝えられている。


 先代魔王は世界を手に入れたが、人類を殲滅しなかった。

 何故なのかは分からない。寿命の長い魔族でも知っていたであろう者達は人類に反撃し真っ先に死んでいる。


 そのお陰で魔族は島に落ち延び、生きていられるのである。


「そこまでが200年の歴史。万を超える同胞も、今や千にも満たず精々が五百。この島も、人類に席巻されつつあります」


「ふむ。……その間、魔王は不在であったのか。勇者は討ち取れなかったのか?」


「はい。勇者は幾度も討ち取ったらしいのですが、すぐに新たな勇者が召喚され対応が追い付かなくなり、先代の偉大なる腹心方も」


 勇者は『者』であるが、魔王は『王』である。そうぽんぽん換えが在る訳ではない。


 魔王様は瞑目する。正直な所、頭が追い付かないでいた。疑問も多く、半分も理解できないままに話を進められて聞き流していたとも言える。


 だが、


「……気に入らんな」


 魔王は憤りを感じていた。ぐつぐつとした溶岩を溜め込んだ火山が、今にも噴火する様な思いが胸を満たし、その顔は怒っているのか泣いているのか分からない般若である。


「実に気に入らん!」


 怒りと比例するように沸き上がる力をそのままに、視線だけで人を殺せそうな凶悪な人相で声を張る。


 キャンとロサンティーヌが漂う力に怯えた様に表情が強張り、知らず知らずの間に一歩魔王から引いている。動けたのはその一歩分だけ、まるで心臓を鷲掴みにされた様な息苦しさの中、しかし二人は魔王から目を放せないでいた。


「神託だの天使だのなんだのとっ! 先代の魔王が天寿を全うするまでただ支配されていた下等生物風情が、下らぬ信仰にすがり命令されてようやく動き出すとはっ! 恥知らずにも程がある上弱体化だとっ!? 恥の上塗りである事にすら気付かず我が物顔で魔族を追いやり挙げ句の果てには滅ぼそうなどと思い上がりも甚だしいッ!!」


 赤黒い力の奔流が空間を埋め尽くし、キャンとロサンティーヌに纏まり付き、ガチンと何かの錠が強引に外され体が力で満たされる。


 キャンは子供の様に瞳を輝かせ笑みを浮かべていた。二つに結ったツインテールが更に幼い印象を深めているが、そこにあるのは狂喜。爛々と輝く双眸は魔王から溢れでる力と同じく赤黒く、それは魔王の力を受け入れたと同時に忠誠の証しでもある。場の息苦しさも重圧も、今のキャンには心地好い。


 また、ロサンティーヌの相貌も赤黒く変化している。その様子は魅了された様に魔王に釘付けで、冷たい光も宿していた。キャンの様な笑みは無いが、狂喜しているのは一緒。先程の様に無意味な観察ではなく、知的好奇心に満ちた学者の目である。

 抵抗を諦めただ漫然と滅びへ向かう同胞に失望し、誰にも理解される事なく反撃の研究をしていた彼女の眼に、ほの暗い希望が宿る。


「良いだろう! まずは、この島に巣くう人類を殲滅するっ!」


 魔王は力強く、始めの誓いを立てる。


 それは、災厄の魔王の産声であった。

 赤黒い色に朱殷ていう言葉がありますが、素直に変換されてくれないので赤黒い色で通します。

 次回、『団長、悪夢を見る(予定)』です。

 あれこれ説明を書くので時間が掛かるかと、主にモチベーション的な意味で。

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