絶望の攻城戦 後編
祝Pt100 評価ありがとうございます。終わりが近づいていますがあと少しお付き合いください。
夜闇の中、ゴブリンたちはたき火に温まりながら食事をとっている。
二度焼きされガチガチに固くなった黒パンを乾燥野菜で作ったスープに付けて柔らかくしながら食べる。
そして缶詰。これの開発により戦場においてもバリエーションと味を良くすることが可能となった。
少々味が濃いのが気にはなるが肉、果実、野菜、穀物バランスよく整った温かい食事だ。
わたしは自分では作らない癖に味にはうるさい。だが食事は士気にストレートに直結する。
ここら辺を重視しない軍隊というのは最終的には弱い軍隊なのだ。
冷たい食事より1日3回与えるより、温かい食事1日1回の方が士気は高まるという。
だがオムレツのようなナニカだの、歯が溶けるようなクソ甘いフレーバーだの、ケミカル香りのスープで元気が出るだろうか?
否、1日3回! うまい飯を食った方が元気が出るにきまっているだろう!!
という訳でわたしは戦場においてもホワイトな職場を目指します。3Kと無縁な戦場。
キケン、キタナイ、キツイ? そんなモノは敵にでもくれてやれ。
しかし敵は思ったよりも柔軟に対応してくる。
どこかで鹵獲したのかコピーしたのか知らないけど。ある程度まとまった数の銃兵を用意している。
望遠鏡越しではあるが騎兵の中にもチラホラと銃を装備した者がいる。
”銃”という道具は歩兵だけの専売特許ではない、騎兵にとっても重要な装備なのだ。
確かに精鋭弓騎兵には色々な面で劣るかもしれない。
しかし、馬上で弓を引いてそのまま狙いを定める難しさを考えれば、引き金を引くだけの銃がどれだけ楽な武装か分かるだろう。
いや、驚いた、驚いた。
だが彼らがどれだけ工夫しようと既に無駄。時すでに時間切れである。
これから行う戦争は”柔軟”だとか”工夫”なんかでどうにかならないのだから。
初日の戦闘では数十体のスケルトンが損傷したが、この程度の損傷ならすぐに回復する。
それに対して敵の軍勢は百名ほどは死傷したように見える。だがこんなものはまだ序の口だ。
明日は本格的な戦闘になるだろう。どれ程の人間が死ぬか分からない。
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
翌朝、早朝からスレイジ軍は攻撃を開始した。
前日抵抗の激しかった地点へ各種投石器を使用しての大攻勢を行ったのだ。
太陽が完全に登りきる前にファウンダーズは警戒線を放棄、トーチカを含む第一防衛線まで後退した。
そして⋯⋯⋯
そこで待ち受けていたのは何重に構築された鉄条網群、そしてトーチカのガトリング砲の掃射だった。
それは正に鉄の生垣で区切られた死の領域だった。
足を踏み入れると鉄条網に絡めとられ、断続的に響く破裂音と共に弾かれて息絶える。
目の前の鉄の棘の向うに更にいくつも棘が広がっている。
布を被せる? 鉄線を切除して道を切り開く?
そんな事は不可能だ。敵の射撃が当たらないように土を噛むように地に伏せているのがやっとだった。
顔を上げた瞬間に間違いなく自分は死ぬだろう。
恐ろしいのは返し椀の中から銃を連続で撃ってくるカラクリだけでない。
鉄の棘を除去しようとしている者を狙いすまして撃ってきている者がいる。
とても、前に出れる状態ではない。引きべきか?
「何だこのクソみてえな戦いは! ふざけるな!!」
「お前たち落ち着け! 敵がどれだけいようと所詮、籠って矢玉を浴びせるしか能のない臆病ものだ!!」
兵達は敵の戦い方に憤っているようでその士気は高い。対した奴らだ⋯⋯⋯
もうすぐ隠し玉の準備整う。敵が防衛拠点を分散して防御に徹するなら一つずつ潰してゆくだけだ。
もう何度聞いたか分からない、鉄の猛牛の吼える音。
だがこれは違う。見方の陣地から響いている。
この日のために準備した大砲30門これが我々にとって強力な手札だ。
最初の射撃でトーチカに何発か命中する。しばらくは応射が止むがすぐに再開する。
それで十分だ!
敵の攻撃が緩んだスキに全軍に突撃を指示、厚手の布や兵の上を踏みしめて通過し棘の園を越える。
何人もの兵たちが無念にも息絶えてゆくが、損害にかまわずに突撃を指示する。
「全員ひるむな! 奴らに目に物見せてやれ!!」
そうして、太陽が天頂に登る頃にあの白茶碗の城の目前までたどり着いたのだ。
敵はロクな抵抗もせずに拠点を放棄した。中には見たことのない機械が備え付けられ、さっきまで自分たちが居たところにその筒先を向けている。
「こんな怪しげな代物で俺たちの命を狙いやがって!!」
スレイジ兵達は怒りに任せてトーチカ内にあったガトリング砲を持っている斧で叩き壊す。
きっと他の場所でも激高した者が同じように叩き壊している事だろう。
こうしてスレイジ軍4万は第一防衛線の突破に成功、ペラに向けてさらに前進を続けようとしていた。
スレイジ兵たちは怨嗟と復讐にちょっぴりご褒美への希望に燃えた声をあげる。
「ペラの奴ら全員殺してやるぞ!!」
第一ラインの突破の報告を聞いても正直驚いている。
機関銃と鉄条網で大軍を止められるか? という問いにはYesだがNoとしか答えられない。
第一、機関銃の時代と違って手回しガトリングなのだ、そもそも連射力が違う。
損害を出しても許される軍隊のシステム、それだけの動員が可能な国力がこの世界にあるとは思えない。
個々の軍の武勇だけでこれだけの士気を維持できるとはとんでもない話だ。
だが同じような事をできる様なものが多々いるとは思えない。
つまり彼らが死ねば、もう我々に対抗できる存在はいないという事。
「こちらの損害は、どのぐらいなの?」
「負傷したものはいるようですが、いずれも命に別状はないようです。他はすべて負傷が軽傷です」
「そう、速めに後退指示を出したのが役立ったようね」
マオの前には一枚の紙がある。ペラの防衛線の見取り図の様なものだ。
ペラに着くまでに全部で5重の防御網が存在する。
最後の第1ラインはトーチカの擬装は間に合わなかったが、その他はすべて巧妙に擬装されている。
そう、はじめからいくつかのラインが突破される事は織り込み済みなのである。
「マオ様、砲兵隊準備完了しました」
「撃て!」
号令と共にこれまで応射を控えていた砲列が一斉に火を噴く。その数400門。
普通の鉄弾、榴弾、散弾。ありとあらゆる種類の砲弾が第一防衛線に撃ちこまれる。
急激な砲撃の前にスレイジ軍は地に伏せ砲撃をやり過ごすしかない。
榴弾は炸裂によって周囲に破片を撒き散らす砲弾だ。
炸裂の瞬間に立っていれば助からないが、伏せるだけで助かる見込みは大きくなる。
そして塹壕内に居れば大体は助かる。運悪く砲弾が塹壕内に入り込んだりしなければだが。
スレイジ軍の面々も地に伏せ砲撃をやり過ごしている。帝国の名誉ある騎士連中なら絶対にこんな事はしないが、生き残るための手法なら何でも取り入れるのが遊牧民族流である。
さっきまでゴブリンたちを守っていた塹壕が今度はスレイジ軍を守っている。
そして山なりに撃ちこまれた砲弾が空中で炸裂して塹壕内に白いモワモワとした煙を撒き散らす。
その細かい白い粉はスレイジ軍をモヤのように包み、混乱させる。
「なんだこれ? 煙幕か何かか?」
「飲み込んじまった。喉がジャラジャラする」
頭に疑問符を浮かべるスレイジ将兵はすぐにその砲弾の意味を身を持って知る。
程よく濡れた者、大量に粉を被った者ほど異変はすぐに表れた。
「アツッ! イタイ? 痛い⋯⋯⋯イタイ」
「目がァ⋯⋯目が⋯⋯」
マオが撃ちこんだ弾には大量の生石灰が詰まっていた。
生石灰それは水と反応することで高熱を発生する性質をもった物質。
日常では乾燥材や使い捨て温め装置に入っている物質である。
それは彼らの眼球の、鼻腔の、咽頭の水分と汗と雨の水分と反応して高熱を発生させる。
彼等は目を、鼻の奥を、喉を焼かれその苦しみにのたうち回る。
もがく彼等を情け容赦なく榴弾の雨が耕し、たちまちに人だったものに変えた。
「引け、引けェ」
副官はここに来て後退を決意する。後退は全体の士気にかなりのダメージ受ける。
負け癖が付いたカブトムシが勝てぬように、戦争において順位付けがなされるのは避けなくてはならない。
だが限界だった。とてもあのまま前進を続けられるとは思えない。
何とか動ける兵が全て砲撃から逃れて陣地に帰還した時、攻撃に参加した将兵の半分は死傷していた。
そして太陽が沈む中、副官は見たのだ。
苦労して破壊した鉄条網が目の前で貼り直されるのを。
潰したガトリング砲が新しい砲と入れ替えられるのを。
日が昇るまでに苦労して、大量の犠牲を出して成した”結果”が日が沈む前には元に戻っていた。
あまりに簡便、あまりに拙速。
兵達はあの数刻のために犠牲になったのだろうか?
副官の中の何かがボッキリと折れた。
これ以降、ファウンダーズ攻撃軍は一切積極的な攻勢をかけず数日後には撤退した。
(゜∀。)y─┛ 『大統領、お喜び下さい。偉大な戦果です。私の予想より、2台も犠牲が少ない』
と言えたならスレイジ軍は勝った”かも”しれない




