独占への道
レガリア商会を完全に取り込んで順調に交易を続けている。
シオンパパはファウンダーズに商会傘下の造船所を移転させるなど本気で活動拠点を移転させるつもりの様だ、そんなに急いで本拠を変えなくても良いと思うのだが、レガリア商会関係の人間が続々ファウンダーズに移動している。
だが好事に魔多し、順調な時ほど危険がいっぱいなのだ。
例えば目の前にいる人物とか⋯⋯な。
目の前にはスレイジ公がいた。
案の定、大量の鉄材輸出には問題があったようだ。
「君の所の輸出材のせいで、鉄材の値段が低下し我々の製鉄所が大打撃を受けている。生産量を落とすか輸出量を落としていただきたい。恐縮だが、この条件で納得してもらいたい」
相変わらずムスッとした不機嫌そうな顔だ。どの位この問題を重要視しているのかまるで分からない。
だがこの有無を言わせない言い方。納得しなかったら即、宣戦する気ですね⋯⋯これは。
思えばシオンパパもあまりこの話には乗り気ではなかったか? こうなることを分かっていたのだろう。
関税程度なら密輸させて売却を続けるつもりだったが、相手も貿易で食っているからその程度の手はお見通しという訳で決定的な手を打って来たな~。いまマカイと全面戦争になるのはマズイ。
「そういえば、スレイジ公の所の製鉄所はどのぐらいの生産量なのですか?」
「む? 今現在の生産量は粗鉄月10tといった所か」
いまファウンダーズの製鉄生産量が月300tだから30分の一の生産量⋯⋯こちらは鋼鉄なのを考えればもっと上か⋯⋯⋯
しょっぱ⋯⋯⋯。
確かにマカイの戦力は怖いけど、そんなのに事業を止められるなんてうんざりな気分になる。
「どうするのかね? 我々はすでに譲歩している。次は君がそれにこたえる番だとおもうのだが?」
「スレイジ公、それよりも素晴らしい提案があります。あなたの製鉄所が製造している鉄を我々が現在の値段で購入しましょう」
つまりお前んとこの商品を全部買ってやるから黙ってろ! て事だ。
単純な数の問題でこれ以上に好条件の取引はあるまい。
「えっ? 何だって。いまうちの商品を全部買うって言ったような気がしたんだが、まさか違うよな?」
「いえ聞き間違いではありません。あなたの鉄工所が製造する商品を我々が全て購入します。これ以上の条件は無いと思いますが? どうです?」
「え、いやしかし⋯⋯⋯⋯分かった、その条件を飲もう。それでこの話は終わりだ」
スレイジ公はどこか釈然としないものを感じながらも、確実な利益が入るので了承したようだ。
しかし、思ったより鉄材の価格が早く落ちたな⋯⋯マカイでは鉄の需要はあんまりなかったのだろうか?
いや、鎧や剣などには使うが、農機具や工業用器具には価格が高すぎて手を出せないのかもしれない。
農業や工業の発展というのは歴史では強力なスポンサーが生まれるまで中々進歩がしなかったからな~。
そのまま鉄材で売るより商品として作り上げて売った方がいいかもしれん。
「あっそうだシオン。マカイ内の鉄工所の経営権を手に入れられる限り確保して欲しんだけど」
「成る程、鉄生産自体をすべて独占するつもりなのですね」
「できそう?」
「おそらく簡単にできるでしょう。すでにマカイ内の鉄工所は赤字の所がほとんどです。マオさんが買い支えるなんていっても。所詮、他国との約束事ですし不健全な仕組みなのは誰の目にも明らかですから」
OK、これで有望そうな技術者は全部こっちでスカウトして生産量と質を向上させていくとしよう。
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今日はシオンパパの所に重要な商談の準備に向かう。
現状はマカイと。スレイジ公と本気で戦争したくない。
それなりには戦えるかも知れないが、機動力に優れた集団がこっちの最大動員数を圧倒しているのはぞっとしない話だ。
これまではスレイジ公の子飼いと小競り合いだけだが、本気になればマカイ全軍と戦うはめになるかもしれない。それは嫌だ。
現状ではライフル銃を装備した散兵隊500とマスケット装備の戦列歩兵3000、後は砲兵がいくらかという状態で戦うのは無理がある。
敵対する可能性がある勢力は弱くしなければならない。
これはそのための準備だ。こんな事はシオンには言えない。
「やあ、マオ君。今日はどんな用事なのかな?」
「アンドリューさん。あなたはわたしと同じく金や守りたいもののために何だって出来るタイプの人間だ」
「ふむ、まあ否定はしないよ。売れというなら親兄弟も売れる。ま、娘は売る気はないがね」
「その娘をも守れる商談ですよ」
「⋯⋯聞こうじゃないか」
「我々はマカイ、帝国の超大国両方に”銃”を売ります。その銃が両国内に広がった時に両国は自家中毒に陥り自滅します」
「⋯⋯銃か、確かにあれは強力な武器だ。だが所詮机上の空論に過ぎないね。当たり前だが大量の武器の販売はすごく目立つ。一回二回の輸送なら問題ないかもしれないが、それを続ければすぐに規制されてしまう」
「つまり、税関で大量の武器が流入していると認識されなければ良い訳ですね」
「だが不可能だ。ちょうど君が持ってきている銃、これはマスケットタイプか。長さが2mもある。これでは隠せないし。密輸でも賄賂が通りやすい品ではないだろう」
マオは更に背中に背負っていたマスケットライフル三丁をアンドリューの前に出す。
それは全て同じものだ。大きさも形も同じものに見える。
工作機械の導入によりマスケット程度なら製造を機械化することが可能になったのだ。
三丁は部品一つ一つに雑にマークが刻まれている以外は見た目は同じものだ。
「アンドリューさん、今から魔法をご覧にいれましょう」
そう言うとマオは慣れた手つきでマスケットライフルを分解してゆく、銃身、銃床、引き金に撃鉄。
瞬く間に3丁の銃の部品がテーブルの上に転がった。今度はそれを組み立ててゆく、それも別々の銃のパーツをくみ上げてだ。再び三丁が組み上がった時、違うマークの部品をそれぞれが内包しているのに銃は全て正常に稼働した。
「何をしたんだい? これは?」
「共通規格という魔法ですよ。モノにするのには苦労しましたが」
これはこの世界、この時代の技術では常識に反することだ。
全ての機械はその規模に限らず職人の手作業によって製造されている。
つまり同じものは存在しないのである。
しかし三丁は正常に稼働した。これは銃を構成するパーツが同じだったっという事だ。
そしてそれは、銃が2m近い長尺物の姿でなくても運べることを意味する。
今見せたようにバラバラのパーツで複数の場所から運び込めば全く気付かれることなく運び込める。
「わかった。これなら何とかなりそうだ。実行するときはいつでも言ってくれ」




