新都市と共通規格 後半
やはり、というか当たり前のように作業効率はかなり悪化した。
特に腕の良い職人ほど、これまで全ての工程をすべて一人でやっていたのでひとつの事柄だけする事に慣れることが出来ないようだ。職人たちをまとめている鍛冶長と二人で方針について話し合う事にする。
勿論、わたしが作った密造酒を出してだ。
実の所、口当たりの良いとか香りのよい酒を造るのにはとんでもない苦労が伴うがアルコールを抽出するだけなら簡単に行えるのだ。程度の低い酒やらクズ穀物を発酵させて蒸留器をつけて火にかけて、後は温度に気を付けながらアルコールを集めるだけ。最初の数分間は体に悪いアルコールが出てくるから捨ててから出てくる液体を集めるとアルコール度数70%のジンの完成。
適当な果汁を混ぜて頂くの通常。通はそのまま呷るように飲む。
1杯めは杭で刺されるような刺激が、2杯目は鷹が舞上がるごとし、3杯目は天国に登るような心持ちを味わうことが出来る。
まあ話し合いなので薄めに薄めたジュースみたいな代物を飲んでいるが。
「マオ様、あの共通規格という試みですがどうにもうまくいきません。そもそも、これまでやって来た事をいきなり変えろと言われて納得させるのはかなり難しいです。せめて目的だけも教えてもらえませんか?」
「そうさな⋯⋯ここに試作品のライフルマスケットがあるな。こいつが戦場で⋯⋯そうだな火打石を打ちつける部分が壊れたらどう修理する?」
「それは、職人が分解して壊れた部分と同じ部分を作ってはめ直すと思いますが⋯⋯」
「そうだな、今の武器は全て性能に関わらず一品物だそうするしかない。だが、兵士が自分でパーツを入れ替えることが出来たらどうだ? 修理のために行列に並んだりする必要はなくなるし、自費で武器を買う必要もなくなる。誰でも兵士になれる」
「確かに、それはそうですが⋯⋯⋯それはそこまで重要なことなのですか?」
「将来、この銃に限らず様々な兵器類を販売しようと思う。その時に分解出来て現地で組み立てできる必要があるのよ」
「ふむ、まあその線で皆を説得しましょう。しかしこの酒は随分と強いですな」
「酒精をかき集めた代物だから、これまでの酒と同じように飲んでいたらすぐに酔いつぶれるわよ」
鍛冶長は酒をちびりちびりやりながら今後のことを考えていた。
マオ様は善良な領主だと思う。金払いもいいし俺たちを人間扱いしてくれる。それだけで破格だ。
しかし、仕事の質に関してどんな領主よりも間違いなく厳しい。殆ど無茶ぶりなのだ。ハイハイしかしたことがない赤ん坊にいきなり走れという様な事を時々平気で言う。
今回の事もきっと完成系が見えているのだろう。
だが、外からきた職人には横暴な人間にしか見えないだろう。
密かにため息をついて我らが領主を見ると、バカバカ酒を飲んでそのまま酔いつぶれている。
「なによ~みんな勝手よ~責任は全部わたしに押し付ける癖に~わたしの~グ~」
そのまま寝台に乗せようと抱えると、見た目通り驚くほどに軽い。
とても、あの虐殺の現場でピュースの軍勢を大砲がバラバラの肉塊にしてゆくのをウットリと見ていたのと同じには見えない。ただの少女だ。
鍛冶長は部屋から出てこれから皆をどうやって説得する言葉を考える。彼のその手にはチャッカと酒瓶が握られていた。
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町の方は順調に建築が進んでいる。
特に大型艦船が泊まれるように作られた桟橋に積み荷の運搬を楽にする人力クレーン、大量の荷物を置くことが出来る荷物の仮置き場に倉庫群。
降ろされた荷物は線路を走る荷車に乗せて倉庫に運び込まれるようになっている。如何に早く船から荷物を卸し倉庫に運び込みことが出来るか、またその逆、倉庫からどれだけ船に運び込むことが出来るかで港湾の価値は決まると言ってよいだろう。
工業区に建てた製鉄所は新しい水力動力のふいごとより大型化した高炉を備えている。
炉の効率を決めるのが一度にどれだけ多くの鉄鉱石に一酸化炭素を触れ差すかである。
炉の高さが高ければ高いほど一度に作れる鉄の量は多くなるのだ。
鉄工所では蒸気機関で動く巨大なハンマーが溶けだされた巨大な鋼鉄を叩き形を整えている。
共通規格の概念はようやく浸透してきたようで以前より高い効率で物を作れるようになった。
熟練の職人達はやはりどこか釈然としないものを感じている様だが実際に効率的に物が作られているのを見た後では何も言えないといった感じの様だ。
だが彼らの腕をフルに活用してもらわなければいけない案件はいくらでもある。
蒸気機関は第2世代と言ってもよいスチーブンソンタイプの物を作っているのだがやはり部品の複雑さとが有るので完全に一品物だし、銃器に関しても銃身にライフリングを掘るのは完全に職人技の領域である。
蒸気機関など始めて見せた時はあまりのすばらしさに噴き出されたものだ。
「何じゃあ、この機械は!? 部品数多すぎだし⋯⋯おい圧力でェ変形しとるぞ!!」
「これは蒸気機関、まあその一つの形ね」
「蒸気機関? なんじゃあそりゃ」
「つまり蒸気の力で物を動かしたりする機械なのだけど。これをもっと安定した代物にして効率のよい物にしたいわけよ」
「いきなり言われても、こんなもんいきなり理解できんぞ」
「大丈夫、大丈夫。試作品を何基も作って修理とかしてたらすぐに構造とかわかるって」
「おい馬鹿! いきなりんなもんできるわけねえだろ」
「馬鹿とは何よ、馬鹿とは」
「嬢ちゃん。こいつは未来の道具だ。うまく動かすのに手間ひまが掛かり過ぎるだろう」
「失礼な! 蒸気機関は未来じゃねえ、今なのだ! さあ今すぐにこの素晴らしい機械を理解するのよ」
「やれやれ、わ~たよ。わかりました」
一年後には砂糖と各種鉄製品、木材を船で輸出できるような港が完成したのであった。




