オラこんな村イヤだぁぁ!!
麻央はスケルトンどもに砦の掃除と雑草の始末をさせている間に、砦の中に使える物がないか家探しをすることにした。結論から言えば砦の中にある物はガラクタとボロボロの道具類だけだった。
だがガラクタの中で興味深いものがあった、鏡だ。砦や周囲の景色、働くスケルトンどもは鏡に映る、しかし麻央の姿だけが写らないのだ。
色々いじくったが全く分からないのでコンヒューマを呼んで聞くことにしたのである。
「ねえ、この鏡わたしだけ映らないんだけど何か曰くがある代物なの? ファンタジー的に何かの魔法が掛かっているとか?」
チラチラ対象を変えるがわたしだけが写らない。いや映らないものが増えた、目の前の胡散臭い男だ。
「ただの鏡ですね、よ~く鏡をご覧になって下さい。そうすればご自分の今の姿を見ることが出来ますよ」
言われるままにじ~と鏡を見ていると姿が映ってくる。
日本人らしい黒髪黒目の高校生ではなく、銀髪赤眼の中学1年生ぐらいの人間がそこにいる。
口元から見える鋭い八重歯、色白の肌。全体的な印象としてかなり美人である。
「これ誰?」
「それがいまの貴女のお姿ですよ」
「てかこれ人間じゃないよね? 人間やめるなんて聞いてないんですけど」
「まあ、まずは話を聞いてください。まずこの世界は貴女が生きて来た世界と別世界です。と、いう事はそこに暮らす細菌やウイルスは貴女にとって未知のモノになるわけです」
「まあ、そうなるわね」
「次に貴女の中にいる細菌などもこの世界にとって未知のモノになるわけですね。その二つの邂逅がどんな結果になるか? あまり面白い事にはなりそうにないですねぇ」
(ぬ~、確かに生きた細菌兵器になって彷徨うのも、未知の病にかかってお陀仏になるのも真っ平だが事後承諾がひど過ぎないかこやつ)
「これってもしかして吸血鬼?」
「ご明察の通りです、最古の魔族でございますよ」
「弱点も多くないか?」
「ご安心を貴女の考える弱点などは備えておりません。寒中水泳に日光浴も平気でできますし、十字架に礼拝してもニンニク料理をしこたま平らげられても平気です。それに飲食も睡眠も不要という特典まで付いております。これ以上にない優良物件だと認識しておりますよ」
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そんなこんなでスケルトンたち、500体の人海戦術により雑草の処理と砦の清掃、井戸の再生はそれなりのスピードで作業は進んでゆく。だが悲しい事にスケルトンの道具は大部分が木と石の道具である、砦の中にある道具は殆どがボロボロで使い物にならなかったのだ。
だがしかし、スケルトンは朝の昼も夜も休憩も睡眠も取らずに働き続けることが出来る。
腹が減ったとか眠いとか退屈とかそんな事を考える脳みそはないのだ。
しかし命令権者が常時監督しないと仕事の質が極端に低下して終いには作業が停止してしまう。
命令権者⋯⋯⋯つまり麻央もここ数日一睡も休憩も食事もしてない訳である。
しかし
(この体じゃないとこんなブラック業務は無理だわ、釈然としないがグッジョブコンヒューマ。しかし、それにしても術師が監督し続けないといけないなんて強いのか弱いのか分からんなスケルトン。切断し終わった木材の上で延々とのこぎりをひき続けるスケルトンを見た時は目を疑ったわ)
村中にボウボウ生えていた雑草どもを全て始末して、ボコボコ生えている雑木どもをスケルトンが片付けているのを横目で見ながら麻央は考える。
(やはり、必要ではないかもしれないけど何かを食べたいな~。スケルトンどもが出来ることはわたしが考えて出来ることだけみたいだから狩りなんてできないし⋯⋯⋯)
周囲の状況を探らせるために手空きのスケルトン達には周辺の探索をさせている。
もっともスケルトン達には何かを見つけたとしてそれが重要かどうか判断する能力はない、そのつど術師が判断して命令しなければスケルトンは行動できないのだ。
探索の結果、周辺のだいたいの地理がわかった。
今いる砦は、小高い台地の上に丘を築き、その上に砦を造る典型的なモット&ベイリー方式の城である。
それを中心にいくつかの建物と畑が広がっていたのだろう。村の規模はそれなりに大きかったようだ。
比較的近場には湖と幅の広い河が流れている。
湖には漁をしていたのかどこかと交易をしていたのか、桟橋の後があった。
殆ど獣道と化していた道は森の途中で完全に途切れていた、この向こうに人が住んでいるのかは分からないが全く利用されていなかったのは間違いないだろう。その他はひたすら山と森があるだけである。
(文明の基本は川を利用する農業と水運によって発展するから、河をくだれば何かしらの人口密集地に辿り着けるかもしれない。でもアンデッドや死霊術師ってこの世界でどのぐらい受け入れられる存在なの?)
麻央は大好きなファンタジーシリーズを思い出して動くべきか動かざるべきか迷う。
そのシリーズでは死霊術やアンデッドは作品ごとに扱いが異なっていたのだ。
ある地方では人前で使っただけで衛兵が「スタァァプ!」とすっ飛んできてタコ殴りにされてしまうが、別の地方では反死霊術を掲げる集団の前で使っても愚痴を言われるだけで済んでしまう。
アンデッドも同様で、ある時はばれて袋叩きにあうが別の時は「あんた肌白いねぇ」と言われるだけだ。
(わたしって今人間やめているわけよね。今の所ブラックに耐えられる体ってだけだけど、町に入った瞬間町人総出で襲い掛かられたら堪らないし、今の自分の戦闘能力とかも把握した方がいいかもしれない)
コンヒューマにその辺りを聞いても「特定の種族に対する感想なんて個人の主観に過ぎませんからねぇ」と流されるだけである。だがその口ぶりからは”何か”はあるのだと予測が付く。
であるなら不測の事態に備えて自分の戦闘能力を把握することは無駄にはならないだろうと考える。
軽く体を動かした感じでは身体能力はかなり高い。一抱えぐらいの木なら蹴り一発で倒せるし、それを持ち上げることも出来る。しかしそれがこの世界でどれだけ強いのかは全く検証不可能だ。
コンヒューマに聞くことも考えたが正直あの胡散臭い男に話は信用できないしすべきではないと感じている。それとなく聞いたときにはかなり強い方とは言っていたが、実際問題、麻央はただの女子高生であり戦闘の心得など全くないのだからよっぽどスペックに差がないとふとしたことで負けて殺されてしまうだろう。
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ふとスケルトンの視界に意識を戻すと目の前に異形の集団がいる。
緑色の肌をした小さい小鬼、いわゆるゴブリンである。その数は100匹ほどであろうか。
ゴブリンたちはそれぞれ雑多な武器を構えスケルトンの様子を窺っている様である。
その姿はボロボロだが服を纏い、女子供を連れ歩いている様子からはちゃんとした社会性がある生き物だと感じられる。
(ふむん、ゴブリンか⋯⋯どんな種族なのだろうか? 会話が出来るるなら情報が得られていいかもしれないが戦闘になったらどうする? 最悪スケルトン全てをぶつけたら逃げる時間は稼げるか?)
麻央はスケルトンに命じてゴブリンたちを村に案内することにする。
色々話を聞きたいし、見た感じ望まぬ放浪生活をしているようなので逃げ出されたとしても後に討伐隊が派遣される可能性も低いであろうと考えたのだ。