ベネク共和国1 後半
やっと登場シオンパパ。本来はスレイジ領に行ってからベネクに行くつもりだったのに先にシオンを出したせいで順番が逆になってしまった。
シオンと一緒に武装した集団に連れて行かれている。
町中に張り巡らされた水路を小舟で移動しているのだが、揺れる船でバランスを崩しそうになりわたしは座ったのだが
最初の丁寧な物腰で訪ねてきたようにこちらに積極的に害をなす気はないらしいが⋯⋯⋯
土地勘などない知らない町で
やたらとでかいお屋敷に連れられて行かれてしまった。
ちょっと見て回っただけだがこの国はみっちり家が詰まっているような状態なのでこんな風に大きな敷地を持つことが出来るものはかなり限られているのだと想像できる。
「どうやら、家の事情に巻き込んでしまったようですわ」
「えっシオンの家ってそこそこの商人の家じゃないの?」
「言ってませんでしたっけ? わたしはレガリエ家の4女です」
「レガリエ⋯⋯?」
「あれ、ご存知ないのですか? ベネク最大の商会レガリア商会のレガリアですわ」
よくわからん⋯⋯⋯しかし、口ぶりからすると知らん人間がいないレベルの大商会らしい。
あれ、という事はわたしの立場はどうなるのだろうか? もしかして誘拐犯? ヤバイヤバイ!!
焦っているマオを見てシオンはどこか諦めたようにこぼす。
「おそらくマオさんは何ともないですよ。何かするつもりならとっくにしてますから」
「それはよかった⋯⋯⋯でも家出して連れ戻されたんだったらシオンは花嫁修業でもさせられるのかしら?」
家の主人の準備が整ったのか部屋に案内される。
重厚な造りの長机が中央を占拠する、巨大な大広間だ。
部屋全体に金銀など豪奢な、或いはシックな額縁に縁どられた絵画が所狭しと並んでいる。
部屋を飾る装飾品全てが、かなりの金をかけて作られているとわたしでもわかる。
恐ろしいほどに豪奢だが、それと同時に恐ろしいほどに息苦しさも感じる部屋だ。
「マオさん、マオさん。飲まれておのぼりさんになっていますよ」
シオンに袖をつつかれて、気を入れなおす。
そうだった、シオンの言う通りわたしを此処に連れてきたのは何か目的があっての事だろう。
相手の雰囲気に呑まれてしまってはまともに交渉など出来ない。
正面にはシオンパパこのベネクを牛耳る実力者なのだ。
「ここの絵画を気に居られたのですね。きっとこの絵を描いた画家たちも喜ばれるでしょう」
「アンドリュー・A・レガリアと言います。娘がお世話になったようで是非とも感謝の意を示したい」
普通に感謝の意を示され毒気を抜かれてしまった。
う~む、何というか少々小金持ちの普通のおじさんのようだ。
どこかくたびれて見える、容貌に柔和な笑みが浮かんでいる。
「きっと、うちの娘がお邪魔になって大変迷惑をお掛けしたでしょう」
「いえいえ、そんな事ありませんでしたよ。うちの村の商品をお金に変えるのを手伝ってもらって、大いに助けられています」
「ほう、”商品”ですか? 我が商会で取り扱えるものなら良いのですが」
「それはですね⋯⋯⋯」
「マオさん!!」
シオンの場を切り裂くような大声で思い出す。
ヤッベー、取引は密貿易同然にやっているんだった。
まるで世間話でもするかのような流れに口を滑らしそうになった⋯⋯⋯手遅れか?
シオンとわたしををみてシオンパパはわたしが口を滑らしそうになったことより、今更話に介入してきたシオンがおかしい事のようにやれやれと首を振る。
「シオンシオンシオン、私は言ったはずだよ密貿易は商品提供者を守れないと成立しないと、商品を市場に溶かすのは引き際が肝心だともいった。
しかるに君は、提供者をそうだとわかるように連れ回した。さらに明らかに市場で浮いている商品を定期的に売りさばくのもまずい」
押し黙るシオンを尻目にシオンパパはこちらに向き直る。その手にはいつの間にやら小さな壺がある。
「しかし、料理人の執念とはすごいものだね。マオ君といったかねこれが君の村の”商品”かね」
壺の中には不純物が完全により分けられた白い砂糖があった。
「マオ君、君はこの砂糖の白さにどれだけの価値があるか知っているかね? この白い砂糖を使える者こそまさに富を支配するものの象徴。ゆえに貴族も商人もこぞって買い漁ろうとする。しかし、そこに大洋を渡ることなど出来ぬものがより純度の高い状態で売ることが出来る。目ざといものはすぐに気が付くだろう」
「なにが目的なのですか?」
「この砂糖を”わたしにだけ”売ってほしい。意味はわかるだろう? 取り分は2:8でどうだ? 君が2だ」
「あなたの言う通り、リスクも払わずに砂糖の権威と富を独占できるのですからもう少し出しても罰は当たらないでしょうわたしが6ってところですわね」
「本来、砂糖の取引は決められた商会以外は出来ないのだ君がしてきたことは明確な犯罪行為なのだよ。それを帳消しにして商売も続けさせてあげようというのだ少しは感謝してもいいと思うのだが? 3:7」
「シオンとは利益は折半5:5でしたのよ。それに存在が唯一の商品はどんな手段ででも取引したいという人間はいますわよ。ですがあなたも色々準備がいるのでしょう4:6で手を打ちましょう」
「むっ、しかしいささか欲張りすぎではないですか?」
「あなたがどれだけ御託を並べようと、精製砂糖を独占したければわたしと取引するしかない。優位にいるのはわたしのほうです」
※※※※※※ ※※※※※※ ※※※※※※
「やれやれ、シオンの友人は中々粘り強い交渉をしますね」
「あんな小娘にいい様にされてよろしいので? 我々の力ならばいかようにも出来るではありませんか?」
「君、商人にとって取引で重要なものは何かわかっていますか?」
「それは、出来るだけ利益を絞り出すことではないですか?」
「30点」
「はい?」
「利益も重要ですが一番需要のは互いの信用です。細く長く取引できれば結果としてより大量の利益を得られるのですから」
窓から町にに向かって帰ってゆく新たな取引相手と愛娘をみてアンドリュー・A・レガリアは呟く。
「とどのつまり価値を決めるのは我々なのです。あまりガツガツしていると足元をすくわれますよ、と」
娘には、口に蜜を手には膠を塗って育ててきた。シオンは口の蜜は舐めとってしまったようだが手の膠はしっかり残っていたようだ。
家柄しかないボンボンを操らせて家の力としようとも考えたが、あの娘には大海に出してやった方が良いのかもしれない。自由商人としては二流でも、専属商人としてなら大成できるかもしれない。
誤字などの報告、内容の指摘など感想を頂けると幸いです




