第一夜 家
夢を見た。
ちょっと古い家屋で、家の中には何もない。二階建ての家で、一階の部屋は畳敷きになっていて、二階に続く階段が見えた。
どうやら収納場所が少ない。
「本が多いんですよね」
私が言うと案内してくれた家主が、大丈夫ですよと笑う。
男か、女かはっきりしないが、家主であることは確かだ。
本当に我が家は本が多い。引越し屋さんがあきれるくらいだ。
大学生になったばかりの私の蔵書が一万冊を超え、両親とも本が多い。妹は私よりも少なかったが、それでも、それなりに本が多かった。
それでも、大丈夫ですよ…と家主は言う。
「うちも本が多かったです」
その言葉に私は首をかしげた。
「どこに収納していたんですか?」
「こっちですよ」
そう言われて階段を登る。
二階に上がりきってしまえば、板の間の部屋があった。やはりここも収納スペースが少ない。
「えっと…」
せかすように声を出せば、ここです…と指差された。
階段の上。階段を登りざまに振り返ったところに、ずらりと本棚が作られている。
「これ、どうやって本をとるんですか?」
そうたずねれば、
「こうするんです」
と階段と壁の間のヘリに足をかける。
「結構な数を収納できますよ」
そこで目が覚めた。
変な夢だ。本棚のことばかり出てくる。
翌朝、母親と妹に話をした。
「変な夢でしょ?」
そう伝えれば、二人が頷いて笑う。
「お姉ちゃん、本が多いから、夢の中で本棚を探しちゃったのかもね」
妹がそんなことを言った。
それから半年後、今いるマンションを出なければならないことになった。家探しは平行して行っているが、どうやらあまりいい家が見つからないらしい。
そして引越しの話が出てから、二週間ぐらいして、食事中に父が言った。
「いい家が見つかったかもしれない。猫を飼っても大丈夫だそうだ」
そのとき、我が家には猫がいたから、借りる家の一番の心配ごとはペット可であるかどうか…だった。
それから私たち娘の部屋が確保できるかどうか。
私たちがそれぞれの学校に通える距離にあるか。父の職場から近いか。
いろんな条件があって、家探しは難航していた。
「いいと思うから、今度の休みに皆で見に行こう」
そう言われて、休みの日に父の運転でその家を見にいった。
小さな庭がある横長の一軒屋。二階建てだ。
そして家主が玄関を開けたとたんに、なぜか既視感がおこる。
ここを…知ってる?
親と妹に続いて、一番後ろで部屋を見て回る。
見たことがある。
そして二階の階段に差し掛かったときだった。母親と妹の足が止まった。
「あっ」
妹が声を漏らす。
二人の視線が私を見た。
階段の上にある、横に渡された板。その板にクラクラするような見覚えを感じて、私はそれを指差した。
「あれは、なんですか?」
家主さんが笑う。
「うちは本が多くて…本棚ですよ」
そうして軽い足取りで階段を登ると、階段と壁の間のヘリに足をかけた。
「こうやって本をとるんですよ」
その瞬間の妹と母の顔をなんと表現したらいいんだろうか。
何も知らない父が言った。
「いい家ですね」
私たち家族は、その家に住むことになった。




