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未来の痕跡  作者: 沙羅咲
2/7

第一夜  家

 夢を見た。


 ちょっと古い家屋で、家の中には何もない。二階建ての家で、一階の部屋は畳敷きになっていて、二階に続く階段が見えた。

 どうやら収納場所が少ない。


「本が多いんですよね」


 私が言うと案内してくれた家主が、大丈夫ですよと笑う。

 男か、女かはっきりしないが、家主であることは確かだ。

 本当に我が家は本が多い。引越し屋さんがあきれるくらいだ。

 大学生になったばかりの私の蔵書が一万冊を超え、両親とも本が多い。妹は私よりも少なかったが、それでも、それなりに本が多かった。

 それでも、大丈夫ですよ…と家主は言う。


「うちも本が多かったです」


 その言葉に私は首をかしげた。


「どこに収納していたんですか?」


「こっちですよ」


 そう言われて階段を登る。


 二階に上がりきってしまえば、板の間の部屋があった。やはりここも収納スペースが少ない。


「えっと…」


 せかすように声を出せば、ここです…と指差された。

 階段の上。階段を登りざまに振り返ったところに、ずらりと本棚が作られている。


「これ、どうやって本をとるんですか?」


 そうたずねれば、


「こうするんです」


 と階段と壁の間のヘリに足をかける。


「結構な数を収納できますよ」




 そこで目が覚めた。

 変な夢だ。本棚のことばかり出てくる。

 翌朝、母親と妹に話をした。


「変な夢でしょ?」


 そう伝えれば、二人が頷いて笑う。


「お姉ちゃん、本が多いから、夢の中で本棚を探しちゃったのかもね」


 妹がそんなことを言った。



 それから半年後、今いるマンションを出なければならないことになった。家探しは平行して行っているが、どうやらあまりいい家が見つからないらしい。

 そして引越しの話が出てから、二週間ぐらいして、食事中に父が言った。


「いい家が見つかったかもしれない。猫を飼っても大丈夫だそうだ」


 そのとき、我が家には猫がいたから、借りる家の一番の心配ごとはペット可であるかどうか…だった。

 それから私たち娘の部屋が確保できるかどうか。

 私たちがそれぞれの学校に通える距離にあるか。父の職場から近いか。

 いろんな条件があって、家探しは難航していた。


「いいと思うから、今度の休みに皆で見に行こう」


 そう言われて、休みの日に父の運転でその家を見にいった。

 小さな庭がある横長の一軒屋。二階建てだ。

 そして家主が玄関を開けたとたんに、なぜか既視感がおこる。

 ここを…知ってる?

 親と妹に続いて、一番後ろで部屋を見て回る。

 見たことがある。

 そして二階の階段に差し掛かったときだった。母親と妹の足が止まった。


「あっ」


 妹が声を漏らす。

 二人の視線が私を見た。

 階段の上にある、横に渡された板。その板にクラクラするような見覚えを感じて、私はそれを指差した。


「あれは、なんですか?」


 家主さんが笑う。


「うちは本が多くて…本棚ですよ」


 そうして軽い足取りで階段を登ると、階段と壁の間のヘリに足をかけた。


「こうやって本をとるんですよ」


 その瞬間の妹と母の顔をなんと表現したらいいんだろうか。

 何も知らない父が言った。


「いい家ですね」


 私たち家族は、その家に住むことになった。



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