市場
3人で市場を見て回る。
市場は主に野菜や果物、肉や魚などの食料品などのが並んでいた。こうしてみると野菜や果物に関しては俺の知っているものと比べても似ているものが多い。
ただし、肉は魔物の肉なのだろうか?切り分けられたものしかならんでいない。魚に関してはこの街は海が遠いのだろうか。生で並ぶものよりも塩漬けや、原色のよくわからないもので漬け込んであるものが多く並んでいる。
普段の食事はセレーナが作っている。その腕前はかなりのもので、異世界での食事に特に困ることはなかった。エルシェもそれなりに料理はできるようだが、セレーナの方が腕が上のために自然とセレーナ任せになっていったらしい。エルシェは「セレーナの方がおいしく作れるのだから、わざわざ私が作る理由がない。」と言い切っていた。それを聞いてセレーナは「私は料理が好きだからかまわないわ。」と笑っていた。
食材が並ぶ場所を抜けるとそこは行商人らしい人たちが露店を開いていた。
行商人といっても商人というよりは、旅人というような服装をしている。
その中の露店の一つに黒ずんだ指輪が並んでいるのを見つけた。そこにはナイフや銀の指輪などの小物が並んでいたのだが、なぜだかその指輪にひかれる。
売主を見ると、全身を黒いマントで覆い顔も黒い布で覆って目元だけを出している。目元を見ると肌は浅黒く瞳は紫だった。
売主に声をかける。
「この指輪を見ていいか?」
「ああ。好きに見てくれ。」そう売主は頷く。声からすると若い女性のようだ。
「どうした?」エルシェがそれに気づき声をかけてくる。
「この指輪がちょっと気になって。」そう言って指輪を手に取る。
その指輪はかなり黒ずんでいる。指で軽くこすってみるが黒ずみはとれない。元々の指輪の色だろうか。リングの中央にはリングに沿って線が入っている。よく見ると透明の石が嵌めてあるようだ。それがリングに沿ってぐるりと囲んでいる。ただその石も黒ずんでいる。それをエルシェに見せる。
「この指輪をどう思う?」
指輪を手に取りよく眺めている。
「こんな指輪は初めて見る。もしかすると力のあった指輪かもしれないが、今は特に魔力は感じられない。どう思う?」
そう言って今度はセレーナに指輪を渡す。
「エルシェの言うとおり力のある指輪だったみたいね。でもこんな装飾をしたものは見たことがないわ。それに今はもう力を失っているみたいね。」
指輪を見てそう言う。そのうえで売主に向けて
「ちょっと試させてもらっていい?」と聞く。
「ああ。私も試したが魔法は発動しないと思うぞ。」そう言って頷く。
それを受けてセレーナは右手の中指にはめている指輪を外して、黒ずんだ指輪をはめる。
「ウォーターボール」そう唱える。
しかし何も起こらない。本来なら掌の上にスイカ大の水の球ができるはずの魔法なんだが。
「やはり、力が失われているわね。」そう言って、指輪を外し俺に渡す。
「俺も試してみていいか?」そう聞いて売主が頷いたのを確認して先ほど買った指輪を外し、黒ずんだ指輪をはめる。指輪をはめた指輪屋で指輪と出会った時とは違う感覚を感じる。まるで俺を求めているようだ。
そう感じたのは一瞬のことで、すぐにまるで何もなかったかのうように何も感じなくなる。
「どうした?」その戸惑った様子をみてエルシェが声をかけられる。それに答えていいやなんでもないと首を振り、
「ウォーターボール」と唱える。やはり何も起こらない。気のせいだったのか。指輪を売主に返す。
「やはり反応しないだろう。」売主はそう言って指輪を受け取った。
しかし、指輪がどうしても気になる。セレーナに聞いてみる。
「なあ、指輪を2つはめるのは大丈夫なのか?」
セレーナは少し困惑したような顔をして「指輪を2つはめることは可能よ。ただし、2つはめることはあまり勧められないわ。」
なぜ?そう問い返す。
「指輪を2つはめて魔法を発動させようとすると指輪の魔力同士が干渉しあって、魔法がうまく発動しない場合があるの。それに発動としても魔法はかなり弱まってしまうわ。」とセレーナが説明する。
「そうか。でもこの魔力の失われた指輪でもか?」
「同じだ。魔力がないとしてもやめておいた方がいい。そんなにその指輪が気になるのか?」今度はエルシェが答える。
「ああ。この指輪が呼んでる気がしたんだ。気のせいかもしれないけど。」
それを見て、セレーナは呆れたように応える。
「しょうがないわね。それじゃ指輪をもらえる。」
その言葉を聞いて、自分がまるで駄々っ子のようだと自覚して恥ずかしくなる。
「すまない。そういうつもりではないんだが。」ちょっと申し訳なる。
その後必要なものを買い家路につく。
セレーナの家に着いたころには夕方になっていた。