指輪
翌日、セレーナに魔法を学ぶ。セレーナの教え方は優しかった。基本はエルシェと同じだが、魔法が発動できなかった場合、魔法のイメージをより詳しく解説してくれる。
エルシェの場合は、できるまでひたすら発動させてみるというスパルタ方式だったからだ。
こうして10日が経った頃、朝食の席でセレーナが
「そろそろカズヤの指輪を街に買いに連れて行こうかと思うの。どう思うエルシェ?」と言い出した、
それをエルシェが肯定する。「それがよさそうだな。そろそろ魔物との戦い方も学ばないといけないだろうし。」
その言葉にやっとここから出られるのか、と思う。今まで外には魔物がいるから出ない方がいいとは言われていたからだ。しかし、いつまでもこの家の中というのもいい加減飽きてきたところだった。
「やった。それでいつ出かけるんだ?」
「そうね。これを食べたら行きましょうか。できるだけ明るいうちに帰ってきた方がいいものね。」
こうして、街へ出かけることとなった。
3人でリードの街へと向かう途中、魔物と遭遇することもなく無事街へと到着した。
「それじゃまずは指輪屋へ行きましょうか。」そうセレーナが声をかけた。
指輪屋へ向かう途中、街の様子を観察する。前回来たときは入り口がしまっていて中を見ることができなかった。その後も、ずっとセレーナの家だったので街へ来る機会はなかった。正直異世界の街ということでかなり楽しみにしていた。
街はぐるりと城壁に囲まれていて、かなり広い。街の中心には市庁舎のような建物があって。どこからでもその塔のような建物が見える。並ぶ家々は石を組んで建てられたものが多い。
道行く人々の中には、一回り背が低いが体はがっしりしている人が見かけれられる。
「もしかしてこの世界にはエルフとかドワーフがいるのか?」とセレーナに問いかけた。
「ええそうよ。この街でもドワーフはかなりの数が住んでいるわ。そう言えばカズヤの世界では人族しかいなかったんだっけ。」とセレーナは俺の世界の話を思い出しながらこたえる。やはりドワーフだったのか。
「ああ。エルフとかドワーフは想像の中の存在だったよ。でも、この街で見かけるのはドワーフと人しかいないけど、エルフはここにはいないのか?」と聞く。できるならばエルフにもぜひ会ってみたい。
「いるわよ。でもかなり少ないと思うわ。基本的にエルフはアルクというエルフの国に住んでいるわ。そして、その国を出るものは少数なの。だからそれ以外の国でエルフを見かけることは少ないわ。でも今から行く指輪屋はエルフのお店よ。だからエルフに会えるわよ。」
その言葉に期待してしまう。
指輪屋の中はテーブルが一卓と椅子が数脚あるだけだった。
セレーナはテーブルの上にある呼び鈴を鳴らす。
現れたのは若い男性だった。その男性は体つきは全体にしなやかさを感じさせるいでたちで、顔は美しく髪も銀髪で後ろでひとくくりでまとめていた。まさに男性のエルフという印象だ。ただ耳だけは想像と違ってとがってはいなかった。
「いらっしゃい。セレーナ久しぶりだね。今日はもしかして異邦人のことで用事かな?」そう若い男性は声をかける。それにセレーナは軽く驚きながらも「そうよ。いつもながらよくわかるわね。」と笑って答えた。
「異邦人のことは噂になっているからね。それにその異邦人をセレーナが面倒を見ているらしいという話も聞いているよ。」とさらに話を続ける。そんなことまで知っているなんてと俺も驚く。それはセレーナも同じだったようで、「そこまで知ってるなんて。街ではそんなに噂になってるの?」さらに驚いたような声を出した。
「いや、そこまでではないよ。私はこの街の兵士からそういう噂を聞いただけさ。それでもしかして彼がその異邦人なのかい?」
「ええ。彼がその噂の人ね。名前はクガハラ カズヤよ。」そう言って、セレーナは若い男性に俺を紹介する。
「初めまして。私はレブラスと言います。もしかして気付いてるかもしれないけど、エルフですよ。」そう笑いながら手を差し出す。
「初めまして。クガハラ カズヤです。」そう言って握手をした。
「それじゃ指輪を用意するから、ちょっと待ってて。」そう言って店の奥に戻っていった。
「エルフはやっぱり美形なんだな。」そうセレーナに声をかける。
「ええ。エルフは男性も女性も本当に美しいわ。羨ましいわね、私もああなりたいわ。」軽い溜息をつきながら答える。
「そんな風に言うなんて、セレーナも女の子なんだな。」思わず声に出す。
「ちょっとそれはどういうこと?もしかして女性として見てなかったの?これでも立派な女の子なのよ。」セレーナが拗ねたように言う。
「そうじゃない。きれいで羨ましいなんて女の子らしいなと思っただけだ。セレーナはエルフに負けないくらい美人じゃないか。それにスタイルもいいし。十分女性として魅力的だよ。」言っていて自分で照れてしまう。
「そうありがとう。お世辞でもうれしいわ。」セレーナが答える。その言葉に
「お世辞じゃない。セレーナは今まで見てきた中でも飛びぬけてきれいだと思う。」とお世辞だということを否定する。
「ありがとう。」そう言ってセレーナは顔をそむけた。耳元が若干赤くなっているのは気のせいだろうか。
そうやってなんとなく気まずい空気になったころ
「悪いね。いい雰囲気のところ。」そう冗談めかしながらレブラスはいくつかの指輪を持ってきた。
「そんなことないです。それで指輪はどうですか?」そうセレーナは照れ隠しのように言った。
「とりあえず幾つか選んできたよ。どうかなカズヤ?」そう言って指輪を見せてくる。
用意された指輪はそれぞれ指輪入れに入れてあり、どれも無垢の銀の指輪で正直見た目には違いが判らない。
「どの指輪も同じに見えるんだけど?」そう言うと
「そうだね。見た目は同じに見えるかもしれない。でも中身は全然違うよ。つけてみればわかる。特に自分にあった指輪なら、おのずとわかるものだよ。」そういってレブラスは指輪をはめてみるように促す。
一つはめてみる。特に何も感じない。ほかの指輪も試してみる。
やはりなにも感じない。
「何も感じないですよ?」そうレブラスに伝える。
「そうですか。それならちょっと待ってて。」そう言って指輪を持ってもう一度奥へと入っていく。
「悪いことをしたかな?」セレーナにそう聞く。
「いいえ。指輪は自然とわかるものなの。だから何も感じないのであればそれでいいの。」
そうやって何度かレブラスの選んだ指輪をはめてはそれを返すということを繰り返す。自分にあった指輪はここにはないのではないかと考え始めた頃、その考えが顔に出ていたのだろうかレブラスが
「あなたの指輪はここにあるはずですよ。指輪がそう言っている。」といった。
「指輪がそう言っている?わかるんですか。」
「ええ。何となくですが分かります。だから心配しないでください。」
エルフというのはそんなこともわかるのか。などと内心驚く。
「それではこれはどうですか?もしかしてこれならばと思います。」
そう言って差し出された指輪は今までと少し違う色をしていた。今までは銀色の指輪だったがそれは銀色というよりも金に近い色の指輪だった。
その指輪をはめてみる。
これだ。直感する。
「これだ。なぜかは分からないけどこれだと思う。」その反応をみてレブラスは興味深そうな顔をして
「その指輪ですか。」
それを見てセレーナは「この指輪はかなり力のある指輪のようだけど。」
「ええ。その指輪はかなり古いものですね。かなり昔に手に入れたものでして、力のある指輪です。ですが、長い間持ち主と認められる人が現れなかったので、ずっとしまわれていたんです。持ち主が現れてよかった。」そう嬉しそうにレブラスは言った。
「そんな指輪をいいんですか?」
「ええ。指輪を選ぶのではなく指輪に選ばれるんです。だから是非ともその指輪を使ってください。」
いいのかとセレーナに顔を向ける。セレーナは頷き
「いい指輪みたいね。それに決まりね。」そう言って指輪の代金の相談をレブラスとし始めた。
セレーナがレブラスに指輪の代金を支払い店を出る。
「いいのか。結構高そうだけど?」そうセレーナに問いかける。
「ええ。かまわないわ。指輪はその人にあったものが一番だから。それにこう見えて私は結構お金もあるのよ。」そう言って笑う。
そこに、エルシェが現れこちらに声をかけた。
「やっぱりまだここにいたのか。その様子だと指輪は満足のいくものがあったようだな。」そう言って俺の右手の中指にはめた指輪を見た。
「ああ。この通り。時間はかかったけどな。」エルシェに指輪を見せながら言う。
「これはかなり力のある指輪みたいだな。その色は珍しい。」少し驚いたようにエルシェは言う。
「そうみたいね。長い間持ち主が現れなかった古い指輪らしいわよ。レブラスも喜んでいたわ。」セレーナが答える。
「それはいい指輪を見つけたみたいだな。よかった。それで私の方が用事が終わったが、よかったら市場に行ってみないか。今日は珍しい行商も来ているらしい。」そうエルシェが提案をする。
「それはいいわね。それにカズヤに買わないといけないものもあるし。カズヤもいいわね?」
「ああ。わかった。」
こうしてエルシェと合流し3人で市場へと向かった。