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苦手な方はご注意ください。

習作三題噺

三題噺「針」「カラス」「兵士」

作者: 白水タマモ

 ばさりと音を立てて、ヤツは僕達の前へと舞い降りた。

 風圧でお付きの兵士数人が吹き飛ばされ、転げ落ちる。

「王子! ご無事ですか!」

「ああ……大丈夫だ。すまない、じいや」

 僕も危うく飛ばされそうになったところを、歴戦の兵士であるじいやに支えてもらって助かった。

 下を見る。こんな高いところから落ちたら、ひとたまりもないだろう。

 笑いそうになる脚を震え立たせる。

 僕は負ける訳にはいかない。僕の肩には一族のみんなの命がかかっているのだから。


「クケー!」

 ヤツは僕達を見下ろすと、甲高い鳴き声をあげた。

 ばさばさとヤツが翼を動かすだけで突風が襲い掛かってくる。

 一枚一枚が僕達の身長を超える羽根が、空高く舞い上がる。

 けれど僕達も黙ってやられているわけじゃない。

 この時のための特訓は何度も行なってきたのだ。

「陣形準備!」

 丸い盾を構えた兵士達を前に出し、三叉の槍を構えた兵士が彼らの間から突き出す。

 陣形を崩さぬように少しずつ前進すれば、攻撃と防御を同時に行うことが出来るのだ。

 固まったことにより風の影響も受けづらい。

「突撃!」

 じりじりと距離を詰めていく僕達に脅威を認めたのか、ヤツは次の手段へと移った。


 漆黒のくちばしが、断頭台のごとく振り下ろされる。

「ぬ、ぬわー!」

 かろうじて盾で防いだものの、あまりの衝撃に兵士ごと突き飛ばされてしまう。

 慌てて後列の兵士達が槍を上方向に構え直すが、その時には既にヤツは後方へと下がってしまっている。

「クケーッケッケッケ!」

 僕達の槍が届かないのを見て、あざけるような笑い声をあげる。

 やはり一筋縄ではいかない相手だ。

 陣形により防御力は高まったものの、機動性はどうしても下がってしまう。

 ヤツの動きに付いて行くにはあまりにも致命的な程に。


「王子……いかが致しましょう?」

「仕方ない。アレを使おう。第三班前へ!」

 槍を構えた兵士達が後ろへ下がり、代わりに一本の縄を数人がかりで抱えた兵士達が前に出る。

 薬品の扱いに長けた学者が縄の先端に薬液を染み込ませる。

 この薬液は扱いが非常に難しい上に、とても希少なものだ。使わずに済めば良かったのだが……それほど簡単な相手ではない。

「第二撃来ます!」

 槍が引いたことに気がついたのだろう、ヤツはくちばしを振り上げて僕達に突進する。

 だが、それを待っていたんだ!

「第一班、なんとかして耐えてくれ! 投擲用意!」

 ガツンと、先程の一撃よりも強烈な衝撃を受けて盾が大きくひしゃげる。

 しかし構えていた兵士自身はうまく力を逃がすことが出来たのだろう、数歩後ずさったものの辛うじて踏みとどまった。

 そしてヤツはくちばしでの攻撃の必然として、頭を下げている。

「今だ!」

 号令とともに縄がヤツのくちばしに投げかけられる。

 多少巻き付いたものの、そんなものは簡単に振りほどかれてしまうだろう……ただの縄ならば!

 くちばしに巻き付くと同時に、縄に染み込んだ薬液が白く輝き、縄とくちばしを強固に接着させる。

 その強度は力自慢の兵士五十人が引きあっても剥がれなかったほどだ。


「よし、かかった! 縄を引け! 第二班は総員突撃!」

 後方に控えていた兵士達が、一斉に縄を引く。

 ヤツも必死に暴れようとするが、最大の武器であるくちばしを抑えられてはどうしようもない。

 更には、周囲を盾と槍で囲まれ、自ら槍をその身にひっかけて血しぶきをあげている。

「今が好機にございます、王子!」

「うむ、ここは任せたぞ! いざ勝負!」

 僕は背負った伝家の宝刀、まち針の剣を掲げる。

 兵士達が駆け寄り、奇妙な模様の描かれた木の板をヤツの頭部に叩きつける。僕は勢い良く走りだし、板を足場にヤツの頭上へと飛び上がった。

 ぎょろりとした瞳が憎々しげに僕を睨みつける。

「悪いがこの勝負、僕達の勝ちだ!」

 両手で構えた剣を腰に据え、勢い良くヤツの瞳に突き刺す。

「クケ……ェ……」

 その一撃で、漆黒の怪鳥――カラスは、息の根を止めた。


 フォークの槍を構えた兵士が慎重につついてカラスが死んでいることを確認すると、ひしゃげた瓶の蓋の盾を投げ捨てた兵士が万歳万歳と繰り返す。

 瞬間接着剤を抱えた学者も安堵の表情を浮かべている。

 ゴミ山の下に転げ落ちた兵士達も、どうやら無事だったようだ。やっとの思いで這い上がってきた彼らは喜びと悔しさが入り混じった表情をしている。

「よくぞやりましたな、王子! これでこの宝の山は、王子のものでございます!」

「ああ、これで皆が食料に困ることもなくなるだろう。さあ、まずはカラスを運ぶぞ!」

 おー! と兵士達が拳を突き上げると、どこからともなくばさばさと聞き慣れた音が聞こえてきた。

「……な、なんと。もしやつがいであったとは……!」

 じいやですら慌てふためいている。仕方ない。

「落ち着け、みんな! この僕、カラス殺しの英雄に続け!」

 僕は血に染まったまち針の剣を高々と掲げ、漆黒のカラスへと駈け出した。

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