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SEASONS~花火~ 6

 マリンパークに行く日、朝から服装に悩んでいた。今までは出かける前日に服装、靴、カバンから小物まで一式揃えて準備をしていたと言うのに、なんという体たらく。

 個人的には水族館がメインなんだけど、併設された遊園地があることを考えると、動きやすい格好がいい。海水浴場で泳ぐ気はないので水着はないが、遊園地に行くなら個人的にはスカートはなし。フリーフォールとかウェーブスインガーとか、浮くタイプのアトラクションが好きだから。

 考えること5分弱。黒のシャツとパンツスタイルでリュックと帽子で十分と判断し、さっさと着替える。財布と携帯とハンカチとポケットティッシュがあればいい。汗をかいても見苦しくないように化粧を整えれば、いつも通りの自分が居た。もっと言えば、大学やバイトに行くときよりも数倍は身軽だ。


 昨日も仕事だった修也をギリギリのタイミングで起こし、朝食としておにぎりを出す。

 お昼ご飯はどうするのだろうと考えたけれど、お弁当を作ると申し出るのも違うかなと思い、何も触れないでいた。元交際相手が弁当を持ってきても微妙でしょう。弟だって行楽地でまで姉のご飯を食べたいかと訊かれたら、笑って誤魔化すしかないはず。私としても荷物になるし夏場の弁当とかリスキーなものを持ち歩きたくはない。私自身が行楽地のレストランや売店の食べ物が好きなのでそれでいい。頼まれてもないことをやるのは得策ではない。

 待ち合わせの時間まであと一時間。30分後に家を出れば余裕の5分前行動が取れる。隣の松戸は同じタイミングで家を出るだろうか。声をかけるにしても私からは微妙だよな。それとなく、修也にお願いしてみようか。しかし先手を打ったのは修也。


「松戸さん、昨日は郁人さんところに泊まったから、待ち合わせ場所には二人で来るって連絡が来た」


「……へえ」


 出かけてもいないのに、帰りたくなった。




 待ち合わせ場所である乗り換え駅構内。コーヒーショップを目印に立っている二人は、何故か人目を惹いていた。遠巻きに見てコソコソと話し合う女子高生たち。携帯を見ているフリをして二人、というか浅見に視線を送るサラリーマン。男子大学生二人が立ち話をして人を待ってるだけの光景がそんなに珍しいか?

 最近では浅見郁人がいるからね、と雑な理由でも納得しかけている自分もいる。どういう仕組みかわからないけど、浅見には人生と言う舞台のスポットライトが当たっているようだ。何をしていても主役級に輝き、一定数の男を魅了する。それを目撃する女の視線も奪ってしまう。僅かばかり同情してしまうけれど、私からの情けは無用でしょうからゴミ箱に入れておきますね。

 行きたくないなと身構えるけど、踵を返すのも人として問題なので修也と二人で突撃する。


「沙世ちゃん、修也君、おはよう!」


 こちらが挨拶をする前に、元気に挨拶をされる。凄いな、気付いてたのか。


「おはようございます!」

「おはよう」


 二人の輪の中にスルッと入る修也の背を見て、仲が良いのだと実感する。

 男三人に交じって女が一人。紅一点と言えば聞こえは悪くないけれど、第三者からイレギュラーとか分不相応とか思われてたら嫌だな。憂鬱だ。

 しかしながら、今更駄々をこねても仕方がない。


「おはよう。今日は宜しく」


 そう言っただけで、浅見の表情がデロデロになって壊れた。こんなのがモテるとか解せぬ。




 マリンパークは乗り換えなしで約一時間。電車には小さな子供を連れた家族や、私たちのような大学生集団、社会人のカップルなど多くの乗客が居た。車内にいる半分以上は目的地が同じと見た。

 空いていた座席を私と修也に譲ってくれ、二人は目の前に立って吊り革に掴まっている。

「マリンパークでどこ行きたい?」

 松戸に訊ねられ、素直に答えるかちょっと悩む。チケットを当てたのは浅見であり、私たちはおこぼれにあずかる人間だ。

「水族館も遊園地も、どっちも好きだよ」

 修也の言葉に私も頷く。今回、権限を持つのは浅見だ。浅見がサメが見たいと言えば水族館に行くし、お化け屋敷に入りたいと言えば遊園地に行く。残念ながら私はお化け屋敷が大嫌いなので、その際は近くの売店でアイスクリームを購入して待機させて頂く。


「じゃあさ、午前中にアトラクションに乗って、午後に水族館はどう?」


 あまり暑くない時間帯に屋外で遊び、日が高くなった頃に屋内で涼む。なるほど、賛成。朝一番に遊園地に行った方が並ぶ時間が短そうだし。


「良いと思う」


 修也も松戸も異論はなさそうだ。

 窓の外を流れる景色が徐々に移り変わっていく。高い建物が減り、人家を眺め、徐々に開かれて行く視界。遠くにキラキラ光るものが見えた。


「海だ」





 最寄り駅ではほとんどの乗客が下車する。開園時間まで時間はあるけれど、待機列はもう出来ているのだろう。急ぐ気持ちもあるけれど、三人にお手洗いに行ってくると声をかける。この調子だとパーク内も混むだろうし、ここならまだ人が少ないのではないかと踏んで構内のトイレに向かった。

 幸い、列は短くてすぐに進んだ。マリンパークの最寄り駅だからか、内装は青が基調で壁のタイルには魚が描かれていてなんとも可愛らしい。洗面台の鏡の上にはアクアリウムが設置されている。これって本物なのかな?


「山岸さん?」


 手を洗いながら覗き込んでいると、隣から名前を呼ばれて振り返る。


「三石さん!」


 あら偶然。こんなところで友達に遭遇するなんて。三石さんも驚いた表情だったが、すぐに笑顔になってくれた。


「びっくりしちゃった。山岸さんもマリンパークに行くの?」

「うん。三石さんも?」


 あの飲み会で知り合ってから学食で一緒になったり図書館でバッタリ会うことはあったけれど、外で会うのは初めてだ。夏休み中も何度かメールをしていたものの、マリンパークのことは言っていなかった。


「父が会社で貰ったから、いとこと二人で行っておいでって招待券をくれたの」


 え~、羨ましい。招待券がじゃなくて、そんな娘想いのお父上が。


「とっても素敵なお父さんだね」

「ありがとう。山岸さんはお友達と来たの?」


 洗面台の前から離れ、三石さんと改札に向かう。先程の待ち合わせ同様にわかりやすく目立つ二人に今回は修也が追加され……と思いきや。


 一人多い。


 三人の前に女の子がいる。まさかの逆ナンかと戸惑いが隠せないまま、三石さんに返事をする。

「弟と友達と知り合いと来てるんだけど……」

 あちら、と手のひらを向けると三石さんの目が真ん丸に。


「りっちゃん!」


 物静かな三石さんにしてはそこそこの声量が出ていた。どうやら修也たちと居た女の子が三石さんの連れのようだ。


「しおちゃん!この人!」


 手をブンブンと振ってしおちゃんことフルネーム三石汐里さんにアピールしている。さして離れていなかったこともあり、パタパタと駆け寄れば即合流となった。


「三石さんだよね。この子と知り合い?」


 浅見が首を傾げて質問をする。同じ学部だし前の飲み会の時に一時的とはいえ、一緒だったから顔と名前が一致しているのか。


「すみません、私のいとこです。何かご迷惑をおかけしましたか?」


 胸の前で手を組み、祈るような姿勢で怯えている。一見、普通の可愛らしいお嬢さんに見えるけれど問題行動に出ちゃうような大変な子なの?それとも浅見が怖いだけ?

 さりげなく三石さんを庇うように二人の間に入り込むが、眼前の男に威圧的な雰囲気はない。


「いや、大丈夫。ただ俺に覚えがないことでお礼を言われたから、困ったな~って。普通に話ししてただけだよ」

 ね、と修也と松戸に同意を求めると、二人は頷いた。

「郁人さんが何をしたかは知らないけど、そういう話なんだなって思った」

「何も迷惑はかけられてないですよ」


 三人の言葉を聞いてホッとしたのか、肩の力が抜けたように見えた。


「しおちゃんひどいよ~私、何もしてないよ!」

「ごめんね、りっちゃん。よそ様と一緒にいたから、何かあったのかと思って」

 頬を膨らませ抗議をする少女を改めてみる。小柄な三石さんよりも背が高いが、少し幼い雰囲気を見るに高校生だろうか。ショートボブに花柄ワンピース。黒髪ストレートの三石さんと並ぶと美人姉妹に見える。

 この美少女と浅見との関係は?


「お礼って何?」


 部外者なのは承知の上で訊いてみる。当人もはっきりとしたことがわかっていないようだし。

 喋りたいと言わんばかりに、いとこさんが挙手をする。


「私!去年の4月に浅見郁人さんに助けて頂いたんです!」


 昔話の鶴か亀ですか?


「私、高校二年生で、去年から電車通学になったんです。4月に満員電車に乗るようになって、初めて痴漢に遭ったんです。本当に痴漢なんているんだ!って驚いてたら、近くにいた方が犯人を捕まえて下さったんです!次の駅で駅員さんに突き出して、いろんな手続きとかしてたら、いつの間にか居なくなってて!」


 興奮気味に話しているためか、次第に早口になって語気も強くなっている。うん、だいぶ話が見えてきた。


「お礼を言いたいって警察に言ったんですけど、連絡先は教えて貰えなくて!駅で駅員さんに名乗っていたお名前だけ覚えてたら、しおちゃんの大学に同じ名前の人がいるって聞いたんです!」

「同姓同名かも知れないし、私はりっちゃんを助けてくれた方のお顔を知らないから確信が持てなくて……もしかして?って思いながらも、声がかけられなかったんです」


 浅見、悪目立ちしてるから話しかけ難かったろうね。三石さんは積極的に人と話に行くタイプでもないから、遠巻きに見て一年以上経っちゃったってとこかな。前に浅見を見て反応していたのはそんな理由があったのか。


「あの時は、本当にありがとうございました!」

「私からも。いとこがお世話になりました」

 深々とお辞儀をする二人。良い話だと言いたいけれど、人通りの多い駅では悪目立ちして仕方がない。お礼をしたいりっちゃんさんと、無理強いは駄目だと諫める三石さん、記憶にないと困惑する浅見。取り残される私たち。


「とりあえず、歩きながら話そうか?」


 松戸のナイスアドバイスにより、マリンパークへの道は少し近付いた。



 りっちゃんさんは三石律さんと言う。三石さんが二人になるので、律さんと呼ばせて頂くことにした。折角なのでこれを機に三石さんの呼び方も変えた。


「汐里さん」

「なんでしょう、沙世子さん」


 苗字から名前に。呼び名なんて関係ないと理解しつつも、なんとなく親しみが増した気がする。

 開園の待機列に並びながらどこに行くか、何を見たいのかなどの世間話に花を咲かす。修也と松戸は園内パンフレットを見てイルカショーの時間を確認し、浅見は困惑しながらも律さんから繰り出される質問に答える一問一答をしている。


「律さん、浅見君にすっかり懐いてるね」


 短時間の間にこれだけ話をしているにもかかわらず、浅見は律さんを助けた記憶がないと首を捻っている。痴漢から女の子を助けるなんて、非日常的で忘れにくい出来事なのに。

 まあ、常日頃から非日常の中に身を置いている浅見からすれば、大した事柄ではないのかな。


「ごめんなさい。仲良しの皆さんで遊びに来ているのにお邪魔をしてしまって……」

「いえ、全然。邪魔なんかじゃないから気にしないで」


 浅見がどう思っているかは知らないが、正直とっても助かる。


 元カレ、弟、関係性が謎の人物、私。


 この四人組って、遊園地で会話が持つかなって思ってたんだ。

 ご飯に行く程度の時間であれば問題ないけど、アトラクションの待ち時間が長くなった場合はどうだろう。疲れてきた頃に口数が減ってきて微妙な空気になったりしないか。些細なことだけれど、これで喧嘩になることもあるから油断ならない。

 こうやって新たな風を吹き込んでくれる律さんはありがたい。でも、園内は別行動になるのかな。汐里さんと一緒だと私は嬉しいけど、二人にも都合があるだろうしなぁ。


「汐里さんたちは今日は遊園地に来たの?それとも海水浴?」


 泳ぎに来てるなら一緒には行けない。


「私は水族館が見たくて、りっちゃんはジェットコースターに乗りたいんですって。別行動は寂しいから、半日ずつ回る予定なんだけど、私は絶叫系が苦手だから今から参ってるの」


 おっと、これは……好都合では?


「私たちも午前中は遊園地で、午後に水族館に行くの。私だけの意見では決められないけど、良かったら一緒に回らない?」


 男性三人がOKを出したらの話だけど、なんだかんだで優しい三人だ。否とは言わないと思ってる。

 それにこれは私から浅見へのエールでもある。

 男ばっかりに追いかけられて、疲れている浅見。たまには女子高生からパワーを貰って元気になってね。手を出せとは言っていないから、そこはお気をつけて。お付き合いは高校卒業後をオススメします。

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― 新着の感想 ―
[一言] わやわや賑やかになって来たー!なかなかテンション上がらなそうだけど、楽しめ沙世子ちゃーん! しかし……浅見くんの男難の強さを考えると、怪しすぎるなぁ、なにとは言わないけど、わぁい!
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