覗く眼
この話三話ぐらいだったはずなのに長くなりそう…orz
「へぇ?そんな子がいたのか。
…なるほどね。いいよ?行って来ても。今日も大して大口の査定とかは無いし」
真が店のポストに入っていた、郵便物を確認しながら言う。
「いいんですか!?」
「ああ。仮に二重存在だとしても、害が無ければ問題無い。
俺達も片っ端から狩るわけじゃないからね」
葎は昨日の出来事を真に話した。つまり、車椅子を使う程に足が悪かったはずの少年、風早燐太が何事も無かったように走っていた事に、二重存在が関係あるかもしれない件についてだ。真は燐太の事を聞くと、興味深げに顎を撫でた。そしてこういう事もあるのかと呟いた。
「面白いね…うん、面白い」
「へ…?面白い…ですか?」
「面白いよ。だってこんな例は聞いた事が無いからね………実を言うと、二重存在はJRPCも存在は把握しているが、まだ謎が多くて分かっていない事が多いんだよ」
「そうなんですか?俺は幽霊と一緒って思ってますけど…」
ポストに入っていた封筒の一つを開けながら葎に返事をした。
「幽霊とは違う、おそらくね?幽霊に取り付かれていても本人の意識は表に出ているんだよ、多くの場合。でも二重存在はどちらか一方---つまり、本人か二重存在のどちらかしか意識の表面には出てこれない…みたいじゃないか?この辺りは君とガラ君の方が良く知っているだろう?」
ガラが真の言葉に応えるかのように葎と代わる。
「その通り、常に肉体の座は一つなのだよ。
……これは失礼、お初にお目にかかる。ガラという者だ。以後お見知りおきを」
「初めまして。君の事は葎君から聞いているよ。ガラ君」
急に現れたガラに、真は物怖じもせず応じる。
「それはどうも。そちらの方々にも宜しくと伝えてくれ」
--そちら?--
「ほら、その天井の辺りだ」
--あれはーーー何だ?--
ガラのいう天井には五つの光の玉が漂っていた。
それぞれ、緑、赤、黒、白、黄土色の輝きを放っている。
フワフワと漂い、意思があるかのようだ。
その五つの光は、葎には神々しくさえ見える。
「あれがこの前彼に見せて貰った火の玉の正体---だろう?」
「そう、その通りだ。あれらの力を借りて火を点けたのさ」
五色の光は天井を旋回していたが、その内、光達は彼の方へ次第に近づいていった。
それを見て真は少し口元を緩める。
「この五つの光は---そうだな…俺の家族みたいなものだな」
--家族…--
そういえば、真さんはどんな人生を歩んできたのだろう?
彼について知っている事は、自分と大して年齢が変わらないのに凄く落ち着いている事と、見た目がかなり若いって事だけだ。我ながらこの人を全然知らないんだと感じる。付き合いが浅いとはいえ、なんだか少し寂しい気もする。
「……………………………」
「どうしました?」
真が急に黙ったのが気になり、葎はガラと代わった。
彼は先程開けた封筒に入っていた手紙を見ていた。
「ちょっとね……野暮用さ。君にも手伝って貰うかもしれないが…今はいい…
それよりもうすぐ、彼女との約束の時間になるぞ?」
「あっ…!じゃあ俺もう行きます!」
「危ない展開になったらすぐ呼んでくれよ?」
「はい!じゃ!」
慌ただしく、葎は席を立ち、灯の学校へと向かっていった。
バタン!
「彼は、いや、彼らは---どうですか」
--いいぞ
--うん
--・・・
--悪くない
--いいんじゃないですか
「なら---良かった」
真は‘彼ら‘の返事に人知れず微笑んだ。
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天儀屋を出て、灯の学校へと向かう。時間が迫っているので、少し早足だ。
「家族かぁ…母さんにその内連絡ぐらい入れないとな…」
--親不孝者め--
「聞こえてるわ。つーか親もいないお前に言われたくない」
ぼそっとガラが呟いたのを葎は聞き逃さなかった。
--地獄耳め…--
「うるさい。エセ紳士」
そんな言い合いをしている内に駅に着いた。改札を抜け、ホームのベンチに葎は腰を掛けた。
電車はまだ来ていない。平日の昼ごろなので人気もまばらだった。
「なぁガラ?お前が俺を呼んだあの変な所ってどうなの?」
--どうなのとは、快適か、という事かな?--
「それもそうなんだけど、食べ物とかさー。食べられんのかなって」
--その辺は問題無い。この前もお茶やクッキーを出したじゃないか--
「そういえば、どっから持って来るんだ?ああいうの」
--私の手作り--
「マジでっ!?」
--嘘だ--
「………ちょっと信じちまったよ」
--あれは私のイメージさ。その気になれば殆ど何でもあの空間に出す事が出来る--
「それって…すごいよな…」
--試してみるか?--
「えっ?」
ガラがそう言うと突然まぶたが重くなったような気がした。意識が断片的に途切れ始め、それと同時に頭がカクンと前に揺れるのが自分でも分かった。意識が遠くなる。景色が歪む。最後に大きくガクンと揺れると葎は眠りの世界に引きずり込まれていった。
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気が付くと、あの白い庭にいた。相変わらず一面を白い花で埋め尽くしている。そういえばガラは何処だろう?彼の姿を探すが、見つからない。見渡せどあるのは、花ばかりだ。しばらく探すと、白色の中に黒い染みのようにガラがいるのが分かった。そんなに離れていない距離だ。
「あんな所に居やがった……何やってんだ?あいつ…?」
ガラは花々の中に佇んでいた。花に囲まれている彼の姿はかなり目立つ。今まで分からなかったのが不思議なぐらい、彼は浮いている。
雲を見ているのだろうか?彼は空を仰いでいる。葎に気付いている様子も無い。
「おーい。何やってんだよ」
葎が呼ぶと、ようやくこちらを向いた。
「ああ、葎か」
「葎か、じゃね~よっ!お前が呼んだんじゃないか、此処に」
「すまない、考え事をしていた」
「考え事?」
「私だって悩みはあるのさ」
「あんたに悩みねぇ?」
さっきとは違って、ケロリとした表情で言う。
「さて!先程言っていた通り、この空間で色々としてみるといい」
「してみるつったって、何をしろっつーんだよ?」
「んふっふっふ…ここなら、君のいかなる特殊な性癖も思いのままだ!」
「生憎、俺にそんな歪んだ願望は無いっっ!」
何を言っていやがるんだ…
シリアスになったかと思ったら、急にこれだからなぁ…冗談なのか本気なのか……まったく…
「冗談はさて置き、こういうのはどうだね?」
ガラはそう言いながら片手を握った。何をするのやらと見ていると、さっき握った手を再びゆっくりと
広げた、すると彼の手から青緑の蝶が一匹現れ、ひらひらと飛び去る。
「こんな事も出来る」
ガラがパチンと指を鳴らすと、宙にいた蝶が一匹増え、それが合図かのように緑色の羽が次々に分裂していき、まるでそこだけ青緑のモザイクのようになった。
「すごいな…これ、俺にも出来るのか?」
「ここで物を出すにはイメージがしっかりしている事が大切なのだよ………たとえば、あの灯という少女をイメージしてみたまえ」
頭の中で灯を想像してみる。
何も無い空間に徐々に、そう、煙のように灯の姿が現れ始めた。自分のした事ながら驚きを隠せない。
「ホントにできた…」
「だがしかし、これは空っぽの人形だ」
唐突に灯の肩を押す。
「お前…!何をっ…!」
すると、灯の体は力が入っていないかのように倒れた。
「わかったかい?これは彼女ではないのさ、体だけ---魂がイメージ出来てないからこうなる」
「……人は出現させる事が出来ないって事か?」
「御明察。肉体だけなら出来るがね…おおそうだ、君の大好物も大量に出せるぞ?」
「…!?そっそれは…本当か…!?………ってこんな事してる場合じゃなかった!電車!!」
「大丈夫、ここは心の世界。普通とは時間の流れが違う」
「ホントだろうなぁ?」
「嘘を言ってどうする私は正直者の鑑と呼ばれたほどだぞ?」
「嘘だろ」
「バレたか」
時間の流れ----…こいつが俺をここに招いたのも何か理由があるのだろうか?
「……どうせあんたの事だ…ただ呼んだだけじゃないんだろ?」
「理解を深めてもらおうかと…ね?」
「理解ィ?」
「葎。私を殴ってみたまえ」
「何であんたを殴んなきゃならねぇんだよ?」
「いいから」
やっぱり何考えてんのかわかんない。
葎はとりあえず言葉に従い、拳を固める。
「後で文句言うなよッっと!」
さすがに全力とまでいかないが、そこそこの勢いをつけ、殴った。
「…!?」
狙ったのは頬だ。普通だったら、頭が持っていかれるはずだ、しかしガラの頭はピクリとも動かなかった。
「何で…!?痛くないのか?」
「そう、痛くない。…おい葎、口が開けっ放しだぞ?」
何を平然と喋ってやがる、こいつは…
そういえば、殴った時に手ごたえが無かった。そう…もう、あの時点で可笑しかったのだ。
「でも……あー!もうっ!わけわかんねぇっ!」
「これもイメージだ。物を出した時と同じで、私には君に負けるというイメージが無い---だから私はここでは君に負ける事は無い---という理屈でね。私が何を言いたいかと言うとね…これは現実でも応用できるのだな、私達の場合」
「現実って、どうやってさ?」
「イメージとは意思。意思は魂の力に比例する。つまり、君の意思が強い程、私も強くなる。
以前、真が自我が強い二重存在は魂が表に出ると言っていただろう?あれは正確ではない。
いい例がアリカだよ。彼は物を破壊するというイメージが頭の中に出来ていたからこそ、あれ程までの破壊力と凶暴性を獲得した。その点、その次の二重存在は案外呆気無かった。それはあの男の中の二重存在が強い意志---イメージが弱かったからなのさ。二重存在は魂のみであるがゆえに意志の力によってその力が左右されるのだよ」
なるほど、言っている事は何となくだがわからなくも無い。
「それで…俺は何をしたら良いんだよ?」
「簡単な事だ。強く念じろ。イメージするんだ。私達はそれで強くなる」
「でも、それが適用されんのってあんたら二重存在だけじゃねぇの?」
「君と私は違う。ほら、他の---とは言っても、遭遇したのはまだ二人だけだが、二重存在達は元の人格の意識が無かったじゃないか。あれは、二重存在が出てきた反動で眠っているんだ。椅子取りゲームのようなものでね、無理矢理意識の表面に出てくるのだから、元の人物には相当の負担がかかる。だから、彼らは眠っていた。アリカのように故意に眠らせる場合もあるみたいだがね」
話を聞いていて、葎に疑問が浮かんだ。おや?では、何故自分は---
「……ガラ。俺は何でお前が出てきても大丈夫なんだ?しかも頻繁に入れ替わっているのにさ?」
「うん、これが不思議な事でね。相当に意志がしっかりしていない限りは眠ってしまうはずなのだが、君はどうしてか大丈夫なんだよ。私には君は意思が強いというタイプには見えないのだが…。
アリカに初めて遭った時なんて脚が生まれたての小鹿みたいになっていたし…」
「なってねぇっっ!!それに、誰だってなぁ、あんなに殴られりゃフラフラにもなるわッ!」
「兎にも角にも君は意識がある。だから君と私が入れ替わっている時にはそれが反映される---そうだな……半分といった所か…。だから次に戦闘になったら、君が私の手助けをしてくれないか?意志の力でね」
「そりゃいいけどさ…イメージって何をすればいいんだよ?」
「簡単だ。私を、強い、最強、誰にも負けない、とか、おい!ガラさんの目の前に立つんじゃねぇ!とか、跪いて靴を舐めろ、とか、蜂の巣にしてやる!ひゃっはー!、とか思ってくれれば良い」
「………とりあえず最初の三つまでは分かった。後は却下」
「えーー?良いと思うんだけどなぁ?」
「黙れ、外道紳士」
戦闘か………できたら、あんまり戦いたくは無いな…消えるわけじゃ無いのは分かっていても、それでも
あんまり気分の良いものではない。甘っちょろいのは自分でも自覚はあるのだが、葎はそう思わずにはいられない。
「どうした?」
「ううん…何でも無い…つーか、俺引っ張り込んだのって、ようは、戦うの手伝えって言いたかったんだろ?」
「違う、違う。私が招いたのは、ちょっと息抜きでもしてもらおうかとね…?これはついでだ」
「息抜きになってねぇけどな」
「ふふっ…そう言うな。ふむ…そろそろ戻るかね?時間も時間だし---」
「そうさせてくれ…何か疲れたぜ…」
「残念だが紅茶は又の機会だな」
「……そうだなー…気が向いたら付き合ってやるよ」
「じゃあ、あちらでな」
「はい…はい…っと」
以前と同じ様に景色が段々遠ざかっていく。
そういや…今思い出したけど、あいつの掛けてるアレまた聞けなかったな…
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----石動ー石動です。お降りの際は足元にご注意ください……
「ん…ああ、戻ったんだ」
グラリと景色が一回転したかと思うと、そこはいたって普通のホームになっていた。
--ほら行くぞ。葎--
「まったく…勝手だなぁ。わかったよ」
ガラに急かされ電車へと乗り込む。後ろでは扉が閉まり、少しづつ電車が動き始める。
「……ガラ」
--なんだ?--
「なんでも無い」
--?--
ゴトン…ゴトン…ゴトン…ゴトン…ゴトン…ゴトン…ゴトン
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「燐太の事?あぁ…そうね、あいつは---」
私のせいで走れなくなったんだ。目の前にいる人物、柳葉藍子はそう言い放った。
「それって…どういう……」
「どういうって、そのまんまよ。あいつは私が走れなくさせてしまった---それだけ」
「でも…風早君って事故で走れなくなったんですよね?」
「そうよ。信号無視して私を轢こうとした車から、私なんかを庇ってね…だから……ね、今はあいつの代わりに私が走っているの」
「えっ………」
まさかこんな話を聞かされるとは思わなかった…。
葎に頼まれ、風早燐太の事をクラスメイトに訪ねた所、陸上部の柳葉が知っていると、言っていたのを聞いた灯は、帰りのホームルームが終わると藍子のいるクラスに行った。教室の中を覗くと、丁度藍子は帰り支度をしていた。あまり知らない人物を同級生とはいえ呼び出すのは中々に気が引けたが、勇気を振り絞り何とか呼ぶと、彼女は最初は何事かという顔で来たが、風早燐太の名前と、歩けないはずの彼が走っていたという事を伝えると、少しなら話を聞かせてくれる事になった。そして聞いた結果がこれだ。
話を聞いて灯は少し後悔していた。こんな事を彼女の口から言わせた自分が嫌だったのだ。
そんな灯を気にも留めず、藍子はキビキビと歩いていく。
「あいつの事ならあいつに聞いた方が早いんじゃない?…って、あいつもういないか。帰るの早いし」
彼女の言う通りだった。藍子のクラスに向かう前に燐太のいる教室も見に行ったのだが、彼はすでに居なかった。
「…ど…どうしました?」
昇降口まで来て彼女は急に止まった。そして自嘲するかのような笑みを浮かべ口を開いた。
「いやね?なんか私だけが空回りしてる気がしたのよ。あいつが怪我をして、陸上部を辞めた時何て言ったと思う?『もう練習しなくて済むんだ!』だって。ふざけているわよ、ほんと。こっちは、あいつが走れなくなったのを今でも後悔してるのに、当の本人はああだもの。おまけに『お前の責任じゃないんだから、気にしなくていい』って………これじゃ、なじられた方がまだ楽なんだけどね…」
「柳葉さん…………」
「……ごめんね…こんな話しちゃって…そういえば、あいつが車椅子使わないで走り回ってるって言ってたわね?さすがに信じる訳にはいかないけど、あいつなら本当は怪我なんかしてなくて、実は走れましたって…ありそうね…」
そう言って藍子はくすっと笑う。
「じゃあ私はこの辺で。…そうだ、あの馬鹿に会ったら言っといて?そろそろ頭髪指導って先生達が噂してたから、その馬鹿みたいな金髪染め直せ、って」
灯が答える前に彼女の姿は出口へと消えて行った。
灯は暫くそこで立ちすくんでいた。
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「はぁ~なんだかな~」
なんだか後味が悪い。とぼとぼと校門までの道を歩く。すると校門に寄りかかっている、見知っている姿を見つけた。あちらも気が付いた様だ。
「栖小埜さ~ん!」
「おっ…南屋さん、今終わったの?」
「はいっ。それでですね…」
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ーー
---見つけた。見つけた。見つけた!
---見つけたぞ!
---今度はあの娘だ
---うふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!
思わず笑声が口から漏れる。それ程彼は嬉しかった。
---待ちきれない…
---楽しみだ
どこからか、二つの目が覗いていた事に誰も気付く事は無かった。
この前から間空いたから、今度は連続で投稿出来たらいいなぁ~




