鬼ごっこ
やっと一区切りです
疲れた~
「寒っ!!」
もう春半ばだというのに、気温は一向に高くなる気配が無い、冷たい空気が葎の肌を刺す。曇っている事もあり、余計に肌寒く感じる。
--私はいたって快適だが?--
「そりゃ暖かそうな格好してるからだろうが」
--服装はこの庭園では関係無いんだがね--
「くっそっ!俺と代わって、少しは寒さを味わえッ!」
--断る--
葎は現在、石動市内にある市営の総合病院を目指していた。彼が病院に行く理由は灯のお見舞いである。
目的としては今回、灯が入院した件の事情の説明をする為だ。勿論全て本当の事を話す訳ではない、事実に上手く嘘を織り込むのだ。その辺は行く前に真に気を付けるようにと言われた。
「南屋さん、上手く俺の話信じてくれるといいんだけど…」
--君がボロを出さなければ、問題無い、君がボロを出さなければ…だが?--
「……不安を煽るような事言うんじゃねーよ…」
昨日、真に返事をし、その後でJRPCの簡単な説明を受けた。
JRPCは宗教者、霊能力者、超能力者などの同盟団体であり、RPCと言われる海外の団体の日本支部らしい。このRPC、何と全世界で活動しているそうだ。超常現象などの事態の収拾が主な活動で、その後の証拠の隠滅、アフターケアなどもする。民間のスポンサーの協力や、同盟団体の信者などによる寄付で活動しているらしい。
同盟団体とは言っても、大雑把に同盟という形でまとめているだけで、各地の問題はよほど重大では無い限り、その地方の団体などに任せている。そもそも、このご時世、あまりその重大な問題というのは殆ど起きないらしい。名前だけ貸して、活動自体してない所もあるそうだ。
真に葎は、真もどこかの団体に属しているのかと聞いたが、もう、俺以外は殆どいないからと言っていた。真のような人達は本業の傍らにやるのだとか。半分趣味とも言っていたが、冗談なのか、本当なのか分からない。
そして今日葎が灯に事情の説明に赴いたのも、その、JRPCの活動の一環だ。最初は真が行くはずだったのだが、葎が行きたいと言ったので、代わる事になった。あの後、灯が大丈夫だったか心配でも会ったし、灯の中の‘彼‘。つまりはアリカの伝言を伝えたいと思ったからだ。
真も見知らぬ自分よりも、少しは面識のある葎の方が良いと判断したのだろう、任せるよ。と認めてくれた。こうして、今現在、彼は石動総合病院の前へと来ていた。
「え…と…。新館だっけか」
石動総合病院は二つの大きな病棟に別れている。向かって正面にある病棟が旧館、左手にある方が近年増築したという、新館である。
旧館に比べ、幾分新館は小さいものの、白い壁が美しい綺麗な建物だ。灯はこちら、新館の方にいる。
受付を済ませ、葎はエレベーターのボタンを押した。新しく出来た建物だけあって、エレベーターまでも最新型だ。
「…………………来ない」
葎は確かにエレベーターのボタンを押したはずだが、幾ら待てども、エレベーターが来る気配は無い。
良く見ればボタンの下に白い紙が一枚落ちている。故障中、そう紙には書いてあった。
「…………………………………………」
--いや、まぁ、うん…ボタンを押す時の姿決まってたよ?--
「フォローのしようが無いからって、無理に励ますな!」
だからここを通る人達みんな、俺を気の毒そうな目で見ていたのか…。葎はいたたまれない気持ちになる。周りの視線が気になったので、緊急用の非常階段を通る事にした。階段は広く扉が右と左の二つある。病院独特の薬臭さが鼻につく。
「ああ…もうやだ…穴に入りたい…」
--穴は私が掘ってやろう--
「うるさ……ん?」
ある程度登った所で葎は階段の下から気配を感じた。周りを見渡すが、誰もいない。
「気のせい…だよな?」
--気のせいじゃないぞ。私の目を通してみてみるといい--
葎とガラが入れ替わる。
--!?--
葎の眼に映ったのは無数のうごめく灰色の影、二重存在の影と違い赤く無い。決定的に違うのは、二重存在の影と違い独立して動いている事だった。
--ガラッ!あれは!?--
「あれはいわゆる浮遊霊というやつだ、病院内で死んだ人々の魂だな。君の中に私がいる事に気が付いて、近づいてきたのだろうな。特に何も出来る訳では無いし、害は無い。付いてくるだけで問題ない」
--ああ~そうなのか~脅かすなよ。ちょっとびっくりし--
「死ね」
それは灰色の影の中でも、一番黒に近い影から聞こえた。
--……………………………………は?--
「死ね」
--……………………………………えっ?--
「死ね」
--……………………………………何て?--
あっれ~?おかしいな?今死ねって聞こえた気がしたような気がするんだけど?いや、多分「きな」とか
「しな」とか「いね」とかだよな?そうさ!俺の幻聴!幻聴!
「死ね」
…幻聴じゃ無かった………
--なぁガラ?害は無いんだよな?--
ガラに問いかける。
「そのはずだが」
「死ね…死ね…死ね…死ね…死ね………殺す」
「……あるようだね…」
--あるじゃねえかあああああああああッっ!!--
階段を駆け上がる。後ろからはノロノロとだが、行列に並ぶ人達のように霊達が葎に付いて来る。階段から出ようにも出たら、霊を普通の病棟に引き連れる事になってしまう。
三階まで来た。背後に霊はまだ見えない。
--…でも二重存在と同じ魂なら…ガラならどうにかできるんじゃ…--
「ん…?出来るが?」
--……………………一応聞くけど、言わなかったんだ?--
「そっちの方が面白いから」
--面白くねぇッ!!--
「おや、もう来たか」
「死ね…死ね…死ね…死ね…死ね…」
二人が話している間に、すでに階段の下まで霊達は来ている。
「やれやれ…仕方ないから、どうにかしてやるか」
ダンッ!
ガラは階段を飛び降り、霊の群れに飛び込む。葎の眼から見ると、無数の灰色の煙が視界を覆い尽くしているように見える。ガラはその中でも一番黒に近い影へと突き進む。
「死ね…死ね…死ね…死ね…死ね…」
--何かアレ他とは違うな?--
「あの黒いのは悪霊だ。あれが他の霊に影響を与えているようだな」
影は揺らめきながら、ガラへと手を伸ばしてくる。
「悪いが、葎を殺させる訳にはいかないのだよ。君が消えてくれ」
ガラは悪霊の首根っこを素早く掴む、そしてそのまま握り潰した。そのとたん悪霊は黒い霧となって、サアァァァと消えていった。
「所詮はこんなものだ」
--最初からこうしろよッ!--
「君が慌てふためく様が面白くてな?結果オーライだ」
--オーライな訳無いだろ!……それより他の灰色の奴らはいいのか?--
「彼らは悪霊にまだなってないから心配ない」
--黒い奴はどうなったんだ?--
「あれも二重存在と同じで消えた訳じゃない。魂は消えるものじゃないからね」
バシュッ
いきなりそんな音がしたかと思うと、瞬く間に灰色の影達は黒く染まっていった。
--ガラさん?心配無いって言ってなかった?--
「こういう時もあるっ!」
--開き直るな!!--
「数が多いな…しかしこのぐらいの数ならーーー」
一気に三つの影を腕でなぎ払う。
「造作も無い」
霊達は動きが遅く、ガラの相手では無かった、蹴られ、殴られ、潰され、すぐさま黒い影は消え去っていった。
「これで全部だな」
二人の意識が入れ替わる。
「お見舞いに来て何で幽霊と追いかけっこしなきゃいけねぇんだ…」
--ドンマイ!!--
「ホントにな!」
確か六階だったっけ?葎は階段を再び登る。
「南屋さん?」
彼が階段を登った先には灯がいた。何やら階段の出入り口の扉の隙間から、外を窺っている様であった。
「あれ?栖小埜さん?あっ!ちょっとこっち来て下さい!」
灯が葎に手招きをする。
「…あの、何やってるの?」
「よくぞ聞いてくれました!これはですね~同じ病室の子達とかくれんぼをしてるんでっす!」
扉を少し開け外をちらちらと様子見ながら、葎に向かって彼女は大声で言った。
「そうなんだ…でもさ、そんな大声出すと---」
「灯だ!み~つけた」
明るい声が階段内に響く。
「しまったあああーーーーーー!!」
「…元気そうで何よりだ…」
カツ、カツ、カツ、と神経質な足音がしたかと思うと、子供のわーにげろーという悲鳴がした。
「あなた達!病院内で騒がないッ!」
それは院内の看護婦であった。灯共々、葎も、捕まってしまった。
その後、灯や子供達と共に、葎も看護婦さんにきっちり搾られ。‘鬼の婦長さん‘を呼ばれかけたが、涙目の灯や子供達の嘆願によってかろうじて阻止された。そして、今は灯の病室にいる。風通しが良く、日当たりがいい病室だ。短期入院用の病室らしい。灯のベッドは窓際である。来る時に曇っていた空は既に晴れていて、気持ちの良い風がふわりとカーテンを揺らす。
「何で俺まで…」
「まぁまぁ。旅は道連れと言いますし!」
「そうだよ。おにいちゃん」
「そうそう」
葎がぼやくと灯と子供達がそれに反応する。入院してたった二日目だというのに、灯はもう子供達と打ち解けていて、思わず関心してしまう。裏表が無いのだろう、子供受けが良いようだ。
「意味が違うと思う…あっ…それよりちょっといいかな?」
「はい?」
「ちょっと二人で話したいんだ」
少し戸惑ったようだが、この前の事だと理解したらしく、子供達に少し病室の外で遊んでいるように灯は促した。
「…わかりました。はいはい!君達!ちょっと外に行ってってね~」
「え~」
「別にいいじゃんよー」
「大事な話があるみたいだから、ごめんね。後で遊んであげるから…ねっ?」
申し訳無さそうに灯は言う。
「わかったよー」
「やくそくだからね~」
何とか彼らも承知したようだ。カーテンでベッドの周りをしきる。灯はベッドに腰をかけ、葎は来客用の椅子に座っている。
「あのぅ…そういえば助けてくれたそうで、ありがとうございましたっ!お礼言いそびれていたんで…」
「助けたのは俺じゃないよ…それより南屋さんは体、大丈夫?」
「検査入院ですからね~。私は大丈夫ですよ~。ほ~ら元気!」
力こぶを作ろうとしてるのだろうか。腕を曲げる。
「何だそれ」
葎は思わず笑ってしまう。本当に元気な子だと思う。
「それで…ですね…さっき助けたのは自分じゃないって言ってたじゃないですか?
どういう意味ですか?」
「君を助けたのは通りすがりの人でね…俺も助けられたんだ」
「そうなんですか。誰ですか?是非お礼を言いたいんですけど」
「それがね…名前も言わないで、居なくなったんだ、その人」
「えっ?名前言わないで、ですか?」
「うん、どうもシャイな人でね」
灯は残念そうな顔をした。
「栖小埜さんは知っているんですよね?どんな人だったんですか?」
「…凄く強くて、シャッターに穴を開け、地面を砕く荒々しい人…かな?」
これは嘘じゃないな…事実だし?
「そっ…それは凄い人ですね…」
どんな人だ。と若干灯の顔が引きつる。
「南屋さんに伝言を預かってきたんだ。君、学校からの帰りに時間が無い時、駅の裏通り使うだろ?それ、危ないから今度からやめろってさ」
灯は視線を落とし、少し考え込むようにしてから顔を上げた。
「う~ん…わかりました。今回のもそれが原因ですし…近道できなくなるのは嫌ですけど、もうこんな目遭いたく無いですからね…気を付けまっす!」
「それじゃ俺もう行くけど、大人しくしてるんだよ?一応入院してるんだし」
「うっ…まっ…まぁ努力します…」
やれやれ、まったくこの娘は…
「じゃあ、また会うかもしれないけど」
「あの…栖小埜さん」
「ん?」
「その…助けてくれた人にお礼を代わりに言っといてもらえませんか?」
少し間が空き、葎が答えた。
「…………………………………………………うん、分かった」
病室を出て、今度は故障してないエレベーターのボタンを押す。
--いっそ彼女には本当の事言った方がいいのではないか?遅かれ早かれ彼女は気付くだろう?--
「そりゃアリカが自分でやる事だ、俺がやる事じゃ無い」
--そうか。しかし、彼は君が病室で言ったように以外にシャイだと思うぞ?
はたしてちゃんと言うかな?--
「まぁ、大丈夫だろ。あいつはちゃんと南屋さんと向き合って話し合うよ、きっと」
ーー随分と彼を信じているのだねーー
「根は悪い奴じゃないしな?」
エレベーターが来た。葎はエレベーターに乗り込む。中には彼の他には居ない。
「だけど最悪、無理矢理言わせるけどな」
ーーフフッ。冗談なんだろう?ーー
チーン
エレベーターは一階に着き、外に出てそのまま真に連絡を入れた。今日はもう帰っていいとの事だ。
相変わらず外は寒い、しかし今は来た時と違い晴天だ。
「……晴れたんだ」
ぼんやりと空を眺める。晴れているとはいえ、雲はまだ僅かに残っている。
そういえば、もう桜咲いてるな…もうこんな季節か…
ーーどうしたのかね?ーー
「いや…なんでも無い。それよりガラ桜見に行かないか?」
ーー桜か。丁度見ごろだね。是非、行こうじゃないかーー
葎は再び空を見上げ呟く。
「大丈夫、大丈夫…」
ーー何をぶつぶつ言っているんだ?気持ち悪いぞ。それより早く行こうーー
「うるさいな。わかってるよ」
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ここ数日間で色々あった。
不安な事も無い事はない。こうして関わった以上これからも巻き込まれていくのだろう。
でも、多分心配はいらない、一人じゃ無いから。
もう今度からは「大丈夫」なんて一人で確認するように呟く事は無いだろう。
俺には、この奇妙な同居人がいる。変な格好で、性格は若干悪く、何故か強い、変な奴。
でも、こうして俺の言葉に答えてくれる。
それだけでーーー今の俺には十分だ。
<了>
次は…どうしようかなぁ?
もちろんまだまだ続きますぜ?旦那




