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duplices  作者: rakia
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空白の壱

 本当は全部一つの話で纏めていたんですが、構成が気に入らなかったのでこんな形になりました。面倒臭い投稿の仕方で申し訳ない!



「……ただいま……」


 静けさが満ちる空気の中で、私は壁に掛かっている狐の面に触れた。

 つやつやとした表面を愛でる様にゆっくりと撫でる。

 この仮面に触れる度に心を抉られる様な気持ちになるのは何故だろう。昔よく、この狐のお面を持って外に遊びに行っていたからだろうか? 

 毎日の様に、来る日も来る日も私はこのお面と共に出かけていた気がする。それこそ本当の友達みたいに毎日だ。だから何かある度に、いつでも眼に留まってしまう。


 ――――寧、星を見に行こうよ――――。


 それは誰の言葉だったか。記憶を探っても、その言葉を言った人の顔が出てこない。

 忘れてしまったんだ。それは大事な人からの言葉だった筈なのに、その人の存在ですら私は忘れてしまった。

 胸の中心に深々と刺さった棘の様なものが抜けない。私がその人の存在を思い出さない限り、この罪悪感という名の棘は一生抜けないままなのだろう。


「誰なんだろうね……。狐さんは知っている……?」

 

 当然ながら生き物じゃないお面に話しかけても返事は無い。

 でも――――このお面はこの場所から色々なものを見てきたから、知っているかも知れない。

 私が忘れた記憶を。大切な人の顔も。

 

「知らないよね……。ううん……知ってる筈が無い」


 本当にそんな人が居たのかも定かではないのに――――。

 私は、その場から逃げる様に玄関へと向かった。

 シーズンではない旅館の廊下はうら寂しい雰囲気が漂っている。

 凄くモヤモヤする。まるで自分の中に知らない記憶が澱の様に固まっているかの様だ。

 私の中で分離した記憶。今の私は綺麗な色の上澄みしか知らないが――――。 

 この沈殿した感情をすくい上げれば、何かとても大切な事を思い出せるのではないか。

 

「ありえないよ……そんな事は……」


 沈んでいるものを混ぜ繰り返しても、余計に混乱するだけだ。そして、いつしか記憶の残骸は、私と混ざって消えてしまう。最初からそんなものは無かったかの様に。

 窓に視線を向けると、晴れ晴れとした青空が広がっていた。勿忘草色の空――――小さい頃は届きそうだったのに、今はとても遠く見える。私が自分に向けた言葉は、そんな空へと消えていった。

 ――――…………少し寂しいかな……。

 玄関付近にある受付には誰も居なかった。丁度お昼の時間帯だからだろう。

 ――――そういえば、お昼、食べてない……。それに着替えもまだだし……。

 どうにも引き返したくない。このまま外で頭を冷やしたい気分だ。お昼なんて後でもいい。

 今はとりあえず、外に――――。

 

「     」

「……あれ? お客さんですか……?」


 珍しい事もあるものだ。    


「       」

「そうですよ。……珍しいですね、こんな時期に来るなんて。あ……そんな所じゃなくて中へどうぞ」

「     」

「お一人ですか?」

「              」


 変な人……。こんな所に一人で来るなんて……。


「用事?」

「                  」

「あんな所……何も無いですよ? おばけ屋敷にはもってこいだとは思いますけど……」

「                         」

「今からですか……。分かりました。じゃあ荷物だけお預かりしますね……」  

「         」

「はい、ではお気をつけて……」


 昼間なら、あの場所(、、、、)もそんなに怖くないか。

 ところであの人……廃墟マニアってやつかな……?    

 人影の消えた玄関を見ながら、私は首を傾げた。

 ――――面白そうだから付いて行ってみようか。

 ふいにそんな感情が首を擡げてきた。下駄箱から革靴を取り出し、石畳の上に置いた。

 気が付けば玄関口から覗ける空の端には真っ黒な雲がかかっている。いつの間にやら天気が悪くなり始めていた様だ。陰った玄関は現実離れした雰囲気を私の眼に映す。

 靴を履きつつ、私は奇妙な空模様に気を取られていた。

 ――――誰か居る……?

 人の気配を感じた私は、後ろに振り返った。

 誰も居ない。後方には大きな姿見があるだけである。

 

「何だ気のせ――――……」


 鏡に映る私の背後に、何かが立っている。

 狐だ。狐のお面を被った、私と同じぐらいの背丈の子が鏡の映りこんでいる。

 私の学校の制服を着ているという事は、同級生か友達か――――何にしてもどうせ悪戯だろう。

 だけど、何故かあの子の姿は懐かしみを覚える。ただの気のせいだとは思うが――――。

 狐のお面を被ったその子は、何かを伝えたいかの様に大きく首を横に振った。

 ――――どういう意味だろう……?

 私は再び振り返った。でも――――。


「あれ……?」


 誰も居なかった。

  

「…………やっぱりやめよ……」


 ――――さっきの……誰だったんだろう……明日学校で聞いてみよう……。

 気勢を削がれた私は革靴を持ち上げ、下駄箱にしまった。


 



 

 言わずもがな、出番のないね……何とかさんのお話でした。


 ちなみにこのduplices という作品のタイトルには意味があるものと……

 ってこれ、前にも書いたような……。

 

 何で今回に限ってそんな事をわざわざ書いたかって……?

 ええ! そういう事です! 


 それではまた明日!


 

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