回想録 其の壱
導入部のみです……。
何? こんなに時間をかけたのにこんだけかって?
大丈夫ですよ! だって明日も投稿するので!
月光は鮮血を浅黒く見せる。月明かりを反射するそれはとても美しく、清らかなものに見えた。
日の光の下でなら、きっと彼が浴びている血液の色は鮮やかな色として映っただろう。
だが、此処は暗闇なのだ。光など微塵も射しこまない。底の抜けた混沌のみが枚挙している。
こんな事を思ってはいけないのに――――どうしてこんなにも美しく映えるのだろう? 本来の色そのもので見られないのが残念だ。それだけが悔やまれる。
ドス黒い血液が綺麗だという訳ではない。鮮血を浴びている少年が綺麗なのだ。彼が赤い水を纏っているからこそ、ドブ水の様な血液に魅了されている。
彼だから意味がある。彼で無くては意味が無い。理不尽な災いを、彼は根こそぎ刈り取ってしまう。
圧倒的な力で。自分には持ち得ない力で。
それが酷く妬ましい。あんな力が自分にもあったら――――。
きっとそれは叶わない望みなのだろうが、欲しくて欲しくて堪らない。
幼い頃より平凡で。誰かに強要される訳でもなく、本来の自分ではない何者かを演じてきた。
人に合わせて自分も変化する。そんなカメレオンの様な生活も悪くは無かった。
そこそこの信頼と。そこそこの繋がり。そしてそこそこの愛情。
当たり障りの無い感情に取り囲まれ、笑っているような顔で相槌打つ。すると周囲の人間は簡単に勘違いをしてくれる。――――この人間は自分を理解してくれている――――と。
違う。単に自分がどういう人間なのか分からないから、とりあえず『良い人』の皮を借りていたに過ぎないのである。自分という人間が見付からない。どういう人間なのかが分からない。
感情が無いという訳ではない。怒りもするし。泣きも笑いもする。ただ――――中身がない。
飢えているのだ。自己というものに。個性というものに。故に強烈な飢餓感が常にある。
暗闇の中で炎が揺らめく。屍を燃やしているのだろう。
ほら――――肉の爆ぜる音が聞こえる。
彼が殺したあれにも実体はあるのだろうか? 燃える音が聞こえるという事は、多分あるのだろう。燻り、燃えて、散っていくのだ。世の理から外れているから、跡形も無く消えるのが道理なのである。
だったら、それを殺す彼は理を守る側の人間なのか。
――――素晴らしい。確固たる個性。あの憂いを帯びた瞳。何と素晴らしい事か。
欲しい。彼が。‘自分‘が。欲しい。
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。
ああ、彼が行ってしまう。追いかけなくては。
駄目だ。足がふらつく。まともに歩けない。ああ、行ってしまう。彼が――――‘自分‘が逃げていく。
行かないで。欲しい。声が出ない。欲しい。届かない。欲しい。欲しい。欲しい――――。
――――何という事だ。目の前に‘自分‘はあったのに。‘自分‘は姿を消してしまった。
もう少しで手が届いたのに。
だが、手が届いた所でどうしようもないのだ。所詮は他人の個性。自分のものにする事は出来ないのである。
――――腹が減った。欲しい。何でもいいからこの心の洞を埋めるものが欲しい。自分のどこかに空白を感じるのである。どれだけ求めても埋まらない空白を。飢えを。
喰いたい。喰いたい。喰いたい。
とにかく腹を満たしたい。それで空白が埋まるなら、何でもいい。
――……?――
道路に何かが落ちている。淡色の赤光が夜道を照らしているのが分かる。
――――……鎖……?
それは奇妙な赤い鎖であった。鎖はとても短いもので、人間の手の先から肘の辺りまでの長さしかないものである。これといった装飾も無い、古びた鎖だ。
――………………。
先程の血の色の様にてらてらと輝く鎖は、とても美味そうに見えた。
何故だか分からないが、それを喰らえば飢えが治まる気がしたのだ。
だから――――。
――――いただきます-―――。
無心で貪るのは、心地がよかった。
おまけですが、繰越で……。駄目……?




