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duplices  作者: rakia
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罰と罰

 見返してみると今まで以上に読み難いですね……。

 ああ、悲しきかな表現力不足……。

 例えると、乾季のサバンナ並です……。


 それと余談ですが、いつも作者が使っている|アイデンティティという言葉……。これ、作中では『存在意義』とよく訳していますが、本来は『自我同一性』と言います。あくまで作中での『存在意義』というのは作者の解釈なので、学校とか職場でうっかり使っちゃうと恥ずかしい思いをしちゃう……げふんげふん……。


 そんな事はさておき、どうぞ!


「凄かったですね……」

「凄かったね……」


 一見漢方薬でも扱っていそうな古風な店舗から出てきた葎と寧は、白い紙袋を抱えながら、憂鬱な溜息を吐いた。彼等が何を店の中で見たのか、それは彼等のみぞ知る事象ではあるが、常軌を逸した光景であったという事だけは彼等二人の疲れた表情を見れば一目瞭然である。


「ともあれ、目当てのものは買ったし……帰ろうか……」


 寧の持っている紙袋をひょい、と摘み上げた葎は、疲労感の詰まった声で言った。


「ありがとうございます……。……ところで――――今日のおやつって何でしょうね?」


 寧は自由になった手で葎の上着の裾を抓みながら尋ねた。


「確か、芋羊羹だったかな」

「あ~美味しいですよね~。緑茶との相性が抜群ですからね! ……緑茶……。緑茶かなぁ……」


 先程の光景(、、、、、)を思い出した寧の顔が蒼くなる。


「……もう緑茶って事でいいんじゃないかな……」

 

 葎も自分が持つ二つの紙袋を見て、諦めた様な笑い顔になった。


「そうですね……。口に入ってしまえば一緒ですしね……」


 と、寧は自虐的な笑みを浮かべた。


「芋羊羹で思い出したんですけど……、不儀さんっておやつに対するこだわりが凄いですよね……? 何ででしょうか……?」


 寧が突然思い出した様に言った。


「学生時代からの習慣だって前に聞いたなあ。師匠が真さんを誘って始めたのが最初らしいよ」

「師匠と言いますと……あの二つ結びの人ですか」


 寧の脳裏に、低めに結ばれた二房の髪の毛が、ひょこひょこと犬の尻尾の様に揺れるイメージが浮かぶ。


「あの人の突っ込みは……とにかくパーフェクトゥゥゥゥ!」


 葎はとんでもなく真面目な顔で叫んだ。見れば拳を自分の前に突き出し、硬く握っている。それだけ彼の思いが真剣であるという事の表れなのだろう。


「へ、へぇ……」


 気圧され気味に寧は頷いた。そんな彼女の後方から気配を殺した人影が近寄り――――、


「どうも~警察でぇーす」


 と声を掛けた。


「けっ……っけっけろけろけろけろけろっ!?」


 寧は不意打ちを喰らったかの様な顔で奇声を発した。


 ――ガラ様、昨日は鶏でしたが、今日は蛙が鳴いておりますわ――


 ――昨日のチキンと同種だね――


 ――ですが、チキンは『こけっこけけけ』という感じで鳴くのでは?――


 ――ふぅ……MKⅢよ……。君はチキン(、、、)という種族を狭義的に考え過ぎてやいないかい? 反応を見れば分かると思うが、あれもこれも見た目や性別は違えど、同質のものだ――


 ――いけませんね、もっと見聞を広めなければ……――


 ――精進したまえ――


 自分だけに聞こえる二つの声を無視して、葎は寧の背後に立つ村家霧人に食って掛かった。


「村家さん! 脅かさないでくださいよ!」

「あれ? 君はそんなに驚いてないな?」


 霧人は葎の反応に意外そうな顔で応えた。


「脅かすためにやったんですか!?」

「昨日のリアクションが良かっただけに、少しは期待してたんだけどなぁ」


 とても残念そうな声色であった。


「そんな期待しないでくださいよっ!」


 腕組みする霧人に、葎は大きな声で言った。


「それで――――その子は……」


 霧人の視線がチラリと寧の方を向く。葎もそれに釣られて寧に視線を動かした。


「も、もしかして……ゲームセンターでのあの一件……!? ど……どうか弁解の余地を! そ――――そりゃ目の前に敵がいたら叩きのめしますよ! 子供でも容赦はしないのが礼儀ですよね!? そ、それで泣かせたとしても、つ、罪にはと、問われませんよね!? ね!? ね!?」


 寧はあと数秒で人生が終わるかの如き取り乱しっぷりを、周囲の人間に見せつけた。


「そんな事やってたのか……この人……」


 そう言いながらも、葎の顔には『やっぱりか……』という文字が浮かんで見える。


「……彼女……危ない薬とかやってないよな?」


 寧を見ていた霧人は、視線はそのままに葎に尋ねた。


「そうですね、脳内麻薬の方だと思うんでギリギリ大丈夫だと思います……」


 葎も、寧の見事な動揺から視線を離さずに答えた。


 ――昨日の今日で葎が言えた事ではないと、私は思うんだがね――


 ――ガラ様、葎様だからこそ言えるのですよ。同属として――


 ――ふむ、同じ池の魚の気持ちは、その池の魚しか知らないという事かね。変人の気持ちは変人にしか分からないからね――


「変人とかお前が言うなよ!? それとな! 一緒にすんなよな! 俺のメロンパンに対する純粋な気持ちと、寧さんの淀んだゲーマー根性をさ!!」


 葎の言葉に寧の耳がピクリと動く


「……何ですって!? あたしのゲームに対しての姿勢をそんな風に言わないで下さい! 心外です! 訴えますよ!? 葎さんだって食べ物に欲情している様な変態じゃないですか! 人の事言えんのか、このヤロー!」


 それだけは聞き捨てなら無いと言わんばかりに、寧は落ち着きを取り戻し、その代わりに憤慨し始めた。


「何言ってんだ! 男なら誰しもメロンパンをいとおしく思うんだよ! 健全な男なら当たり前なんだ! 誰もが通る道なんだ! 何故それが分からない!?」


 葎は猛然と言い返した。


「葎さんが特殊なだけですよ! 普通の人は違う筈です!」

「嘘じゃない! 俺がスタンダードなんだ! そうですよね!? 村家さん!」


 急に話を振られた霧人は、戸惑った様な顔で片方の眉を上げた。そして自分の周りをさっと見回してから、慎重な口調で口を開いた。


「いやぁ~……それはどうだろうね……。……えっとな……君達、さっきからすっげえ見られてるよ」


『はっ!?』と同時に我に返った葎と寧は顔を赤くした。


「……寧さん、少し離れてくれないかな……」


 葎は寧からそそくさと離れようと動く。


「嫌ですよ……私一人だともっと恥ずかしいじゃないですか」


 しかし、寧はその後にぴったりとくっ付いて彼を逃すまいと、葎の後ろ袖を掴んだ。


「くそう……泣きたい……」


 諦めた葎は、大人しくそれを受け入れる。


「あたしだってぇ……」 


 そして二人してがっくりとうな垂れた。


「……それで村家さんはどうしたんですか? 観光っていうなら、俺達が来た方角に素敵(、、)なお茶の専門店がありますけど?」


 葎はやけくそ気味な表情で後ろの方角を指差した。


「せっかくだけど、観光じゃないんだ。妙な噂を聞いてね……この辺りに連続婦女暴行犯が出没してるらしくてね……。少し気になったから、それらしい人物が居ないかってね……」


 本当はこんな事はしちゃいけないんだけどね――――と霧人は苦笑いした。


「まぁ……そっちの彼女の場合……」


 それから霧人は葎と寧をニヤニヤしながら見比べた。


「彼氏が守ってくれるから問題ないか」


 その時の霧人の顔はかつてない程に活き活きとしていた。


「そ、そんなんじゃないでふッ!!」


 寧は隣の葎を横目で見た。しかし彼は首を傾げているだけであった。


「寧さん彼氏いたの?」

「う――――うるさぁぁぁぁぁい!!」


 葎の首に寧の腕が食い込む。ラリアットである。


「何で!?」

「黙りなさい! 黙って静かにしていなさい! いいですか!?」


 寧は一撃では倒れなかった葎の背中をポカポカと叩いた。 


「いや~見せつけてくれるねぇ……」


 霧人がボソリと呟いたのを聞いた寧は、薬缶が沸騰する様な音を発して倒れた。


「寧さん!? しっかりしろーッ!」


 彼女の肩を抱き止めた葎はあたふたと寧に呼びかけた。


「舞……もうすぐそっちに行けるからね……」

「寧さぁぁぁぁぁんッ!!? どこ行くつもり!? 多分それ行ったら駄目だよ!?」


 ――平和ですね――


 ――ああ、実に平和だ――


 ガラとひきこMKⅢは口を揃えてそう言った。

 寧がチラチラと薄目を開け始めたその時、葎の肘を何かが掠めた。


「ご、ごめんなさい……!」


 乱れ舞う枯茶(からちゃいろ)の髪。すれ違う必死の形相。

 それは紛れも無い南屋灯の姿であった。


「あれ……南屋さん!?」


 灯は葎の言葉など聞こえていない様に振り返らず、走り去った。

 その只ならぬ様子に、葎の体は既に追いかける体勢を取っていた。


「灯ちゃん……どうしたんだろ……」


 寧も死んだフリを止め、心配そうな表情で灯の去って行った方向を見詰めた。

 

「寧さん、俺ちょっと行ってくる!」


 葎はそう言うと、寧をしっかりと立たせてから灯の後を追いかけた。


「あっ! 葎さん!」


 寧が止める間も無く、葎は人ごみに消えていく。


「またあの人は……」

「彼は……よくああいう事をするのかい?」


 霧人は、葎と灯が消えた先を見ている寧に問うた。


「そうですねぇ……、勝手に突っ走って行っちゃうんですよね……どうしてでしょうか……」

「でも、君……、やけに嬉しそうだね」


 寧の表情を見た霧人は、ふう、と息を吐きながらそう言った。


「……そうですか?」


 寧はにこやかに葎の走って行った方角を見た。


「……よーし……。それじゃ俺も行くわ」

「…………はい?」


 霧人はそれだけ言って、駆け出した。


「あれ!? 一人!?」


 一人になった寧は道中で愕然と叫んだ。

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「俺の顔をこういう風にした時……随分と愉しそうだったよなぁ?」


 作り変えた顔をべたべたと触りながら、男はアリカに言った。

 アリカを挑発する男の口調は至って平然としたものであるが、その瞳の奥には狂気が燃え盛っているのをアリカは感じ取った。軽率な言動ですら、その恨みを隠しきれていない。

 

「なあ、答えろよ。どうだった? 愉しかったって言えよ。人の面こんなにしてくれてよォ……。痛かったぜ……。ああ……マジで痛かった……。全部てめえらのせいだ……。てめえらが全部悪いんだよ!」


 男は灯とは似ても似つかない怒りの表情で、椅子に縛られている香奈をジロリと見た。


「む――――ッ! む――――ッ!」


 ――――殺される……!

 香奈は自分の方を横目で見る男の眼を見て確信した。

 男は香奈へと近づき、香奈を縛っている縄を乱暴に引き千切った。


「……!?」

「ほうら、自由だ」


 アリカはその隙を見逃さず、男へと殴り掛かる。


「余所見してんじゃねえぞッ!!」


 怒り心頭であるアリカは冷静さを欠いている。普段は用心深い彼女がいきなり男へと襲い掛かったのもそれが原因である。身勝手な理由で灯を手に掛けようとした男は、再び灯を――――そして彼女のみならず、彼女の妹までその毒牙に掛けようとしている。一刻も早く目の前の人間を殴り倒したい。灯や香奈に手を出した事を後悔させたい。その考えのみが、彼女の体中を支配する。

 だが、アリカの一撃が男の顔に到達する寸前に、男は彼女の動きに反応し、振り向いた。

 

「焦んなよォ……こういうのはじぃ~くり愉しまないとさぁ!」


 ――――この野郎……。愉しむだと?

 アリカを脳裏を嫌な予感が掠める。

 男は縄の束縛から自由になった香奈の髪を掴み上げ、自らの眼前へと振り回した。


「んむ――――ッ!!」


 強引に引っ張り上げられた香奈の痛々しい声が、狭い空間に響き渡る。


「なッ……!」


「あ~あ、ぶつかっちゃうなあ……」


 男は低い笑い声を発した。


「ちいッ!」


 ――――このままだと、香奈に……!

 アリカは踏み出しかけていた足を踏み留めようと、力を入れた。

 無理な力の入れ方にアリカの足が軋む。


「どうしたあ? 止まるなよお!」


 動きを止めたアリカに、男の蹴りが飛んだ。


「ぐ……っ!!」


 男の繰り出した蹴りは、アリカの無防備な腹部へと突き刺さる。


「香奈……! この……!」

 

 強烈な一撃を見舞われ、アリカは片膝を着いた。

 男は左手で香奈の髪を鷲掴みにしつつ、身動きの取れないアリカに歩み寄り、彼女の顔を右手で自分の方に向かせた。


「見ろよ、イイ顔だろ!? お前がしたんだよ! 眼を背けんなよ!? もっと見ろ! ハハハハ……愉しいなぁ。……お前が全て悪い。俺は悪くねえ、ぜぇーんぶお前の罪だ。お前が抵抗しなけりゃ、よかったんだ……あの時、お前がその入れ物(、、、)の方を助けなけりゃ、全部丸く収まってたんだ!」

  

 灯を模した顔がアリカの顔を覗き込む。

 その時である。


「――――姉御に何してんだ! 変態がッ!」


 何者かの叫び声が袋小路に轟く。

 男は自分の後頭部に微々たる衝撃を感じ、振り返った。


「なっ……兄貴の顔!? でも兄貴はそっち……姉御……あれ? 兄貴か? あーっと……どっちでもいいから離れろッ!」


 男の背後には灯を追って来た折島東児が、どこから拾ってきたのかも分からない鉄パイプを握り締め、男の方に威嚇する様にして構えていた。


「折島……!?」


 アリカは肩を怒らせている東児を見た。


「……! 逃げろ、馬鹿ッ!」


 男は気を損ねたかの様な表情で頭を擦っているだけ――――損傷(ダメージ)など受けていない。

 

「マ、マジかよ……!」


 全力で殴っていないとはいえ、東児のとって、掌の中の獲物はかなり使い慣れている。

 だから少なくとも昏倒する筈なのだ――――それが常人ならば。


「痛てえ……。調子に乗んなよ、クソガキ……!!」


 異様な男の雰囲気に臆する事無く、東児は大きく鉄パイプを振り上げた。

 だが遅い。相変わらず、香奈の髪を乱雑に掴んでいる男は、がら空きになった東児の腹を足の裏で蹴り飛ばした。


「折島ッ!」


 アリカは男に殴りかかったが、男は身を翻し、それを避けた。

 吹き飛ばされた東児は鳩尾の辺りを押さえながら、地に伏した。


「ぐそ……!」


 水っぽい濁音を発しながら東児は立ち上がろうとした。口からは赤い鮮血が零れ落ちている。


「ちくしょう……!」


 肺の中の空気が抜けていく様な虚脱感が、東児に立ち上がる事を許さない。 

 男の顔が揺らめいた。


「邪魔しやがって……。そこで大人しくしてろよ、ダボが」


 男の――――灯の顔が歪む――――先程の男の顔へと変わる。


「俺は、自分に素直に生きただけだ……。それのどこが悪い? お前だって、俺を殴ってた時は笑ってたじゃねえか。それはお前の欲望が満たされたからだろ? 暴れたかったからだろ?」


 男は下卑た表情でアリカに問いかけた。

 

「………………!」


 ――――それは――――。

 燃える様な、激情と、その後の虚無感。体の隅々までにこびり付いた原初の記憶。

 自分の観念(イデオロギー)が揺さぶられる。

 何の為に――――。

 誰の為に――――。

 壊したかったのか――――。

 それとも――――。

 そんな事は自分がよく知っている。答えを先延ばしにしていただけで、本当は知っていた。

 答えを出すのが、怖かったのだ。自分を知るのが怖かったのである。

 振り上げた拳が何の為に使われたのか、それを知る事が、自らの本質を知るのと同時に、自らの存在理由まで崩壊させてしまうのではないかという予感。それが今の今まで決断を迷わせていた。

 答えを出す時間(とき)が来たという事だろう。

 例えそれが、男の言う欲望だとしても、自分はそれを受け入れなければいけない。

 ――――自分自身の理由を。

 

「答えろよ、どうだったんだ? ああ?」


 情欲そのものが口を開いている様である。

 男はアリカの顎をぐい、と指で突き上げ、恫喝する様な声を彼女に浴びせた。


「…………何も分かっていない」


 下を向いていたアリカは静かに言った。


「……はぁ? 何だって?」

「お前は何も分かっていないって言ったんだよ、屑が」

「……誰が屑だって? ざけんじゃねえ!」


 男は激昂しながら、アリカの頬を殴りつけた。

 アリカは体勢を崩し、汚泥の積もる地面へと倒れる。


「屑はてめえも一緒だろうがッ! 人の顔、こんなにしてくれてよォ……。何が分かってねえって!? 言ってみろよ!」


 倒れたアリカの胸倉を掴みながら、男はアリカを憎しみの篭った眼で見詰めた。


「お前も! その入れ物の女も! あのガキも! 全員俺と同じ顔にしてやるよ……!! 勿論、存分に弄繰り回した後でなぁ!」 


 アリカはケタケタと笑い声を挙げる男を見て――――口の端を吊り上げた。

 途端に男の笑い声が止んだ。

 

「何笑ってんだよ……。そんなに面白いか? ええ? おい?」


 髪を掴まれていた香奈が湿った地面へと尻餅を着く。男が香奈を捕らえていた左手を離し、代わりにアリカの着ている制服の襟を掴んだのだ。

 ――――何故こいつは笑っている?

 男はこの圧倒的に自分に有利な状況で、アリカが何故笑っているのか理解が出来ない。

 上辺だけの優越感の様な感情は、アリカのその行動一つで容易く打ち砕かれた。

  

「やっぱりな……。お前……自分の顔が見えていないな?」


 アリカは男を鋭い瞳で見据え、人差し指を男に向ける。

 その行為に、男は罪を咎められた罪人の様に怯んだ。 


「てめえ……訳分かんねえ事、言ってんじゃねえッ!」


 得体の知れない焦りを感じた男は、アリカの顔を殴った。

 

「………………」

「俺とお前のどこに違いがある!? 同じ穴の狢だろうが!」

「……違う……」


 隠し切れぬ不安を誤魔化す様に、男はアリカを殴打する。何度も、何度も何度も――――。

 アリカは一見、為されるがままにそれを受け入れている様にも見えるが、それは違った。

 彼女は一切の苦悶の声を発していない。抵抗もせず、愚か者を、彼女は憐憫の表情で見詰め返すだけである。 アリカのその冷静な態度が、更に男の感情を煽り、燃え上がらせていく。拳の雨は激しさを増し、アリカへと降り注ぐ。


「違わねえだろうが! 違わない――――! 一緒なんだよ!」


 男は息を切らしながら、アリカに横殴りの拳撃を喰らわせようと腕を撓らせた。

 しかし、男の腕はアリカの右手に掴まれた。


「てめえッ……! まだそんな余力を……!」


 歯を食い縛る音が聞こえる。アリカが強く強く歯を噛み締めているのだ。 


「……俺はお前には無いものを手に入れた。あるとしたらその違いだけだ……。だがな……その違いが一番でけえんだよ……ッ!」


 アリカは東児と香奈を交互に見た。


「い……意味解らねえんだよ……! それがどうしたっつうんだ……ッ!」


 自分の怒りよりも冷たく、頑なもの――――。男はアリカの瞳の奥からそれを読み取った。

 己の力ではアリカの奥にあるそれを壊す事が出来ない。アリカが灯を守り通している限り、幾度殴ろうとも、灯には届かない。


「気は済んだか」


 後退る男に向けて、アリカは一歩踏み出した。


「う――――動くんじゃねえっ! 俺にはまだ、このガキが――――」


 男はアリカの手を叩き落し、苦し紛れに、香奈の居る方向へと振り返った。

 アリカは何度殴っても倒れない。ならば、せめて香奈だけでも殺し、アリカと灯に癒えぬ傷を付けようと、男はそう考えたのだ。


「――――居ない?」


 先程まで香奈が居た場所には、香奈の代わりに、涼しい眼をした青年が立っていた。


「だっ誰だてめえ!」


 青年は動揺する男を見て、意地の悪い笑みを浮かべた。


「ふむ、誰かをお探しかな? そんなに怖い顔だと、子供が泣いてしまうよ」


 栖小埜葎の体を借りたガラは、男を嘲る様に自分の後ろに隠れている香奈を顎で示した。

 香奈はガラの背後から怯えた表情を覗かせ、再びその後ろに引っ込んだ。


 ――ガラ、後で俺に代わってくれ。一発殴りたい――


「待て待て、私が先だ」


 ガラは自分にしか聞こえない声に応えると、男の方を流し目で見た。


「まぁ、私達の順番はかなり先だね」


 男の方を見ているのではない。ガラは男の背後、男を待ち構えているアリカを見ていた。

 

「彼――――いいや……彼女はかなり御立腹の様だぞ?」


 芯まで凍える様な寒気を男はその身に感じ取った。


「あ――――あ――――」 


 男はゆっくりと振り返る。ゆっくりと、ゆっくりと、先延ばしにする様に。

 

「――――確かに、これは俺の罪……。俺が原因だ。それは認めよう」


 アリカの声が静かに空気に広がっていく。


「だが……お前は手を出してはいけないものにまで手を出した」


 アリカの眼光が男を捕らえる。

 

「今度はお前が罪を贖う番だぞ」


 逃げようとする男の頭が、小さな手に掴まれた。

 アリカの手だ。

 抗えぬ力により、男の頭部はそちらの方向(、、、、、、)へと動かされていく。

 凶暴な光が灯ったアリカの両眼が、そこにはあった。


「や、止めろ……! 俺が……俺が悪かったって……!」


 足が絡まり、男はその場に倒れた。


「……頼むから……。二度と関わらないって誓うから……!」


 忘れていたのだ。あの瞬間(、、、、)、灯が男に恐怖した様に、男もまた、アリカに恐怖していた事を。

 自分のものとは比較にならない程の怒り。それが男の目の前で大口を開けた。

 アリカの腕が男の頭を抱え込んだ。


「……ヒヒ……ハハ……ハハハハハハ!! ……もう遅せえ!!」


 おぞましい笑声が、男の心臓の鼓動を早める。

 アリカの手が男の顎の下に掛かった。


「どうやら、お前の面の皮は分厚いみてえだからな……綺麗にもっぺん剥いでやるよ!!」


 アリカの爪が男の皮に突き刺さり、めりめりという、低く嫌な音が狭苦しい空間に満ちる。


「や――――痛い! 頼む! 止め……あ……ぁあああああああああッ!!」


 灯の陶器の表面の様な艶やかな爪が、男の見えない表皮を捲り上げていく。じわりじわりと苦痛を与える様に、男の面の皮(、、、)が剥がされる。

   

「葎、あれは止めなくても良いのかね?」


 ガラが香奈の眼を手で覆いながら呟いた。


 ――何にも見ていないし、知らない―― 


「ふっ……たまには良い事を言うじゃないか」


 ガラは眼を閉じ、ふと微笑んだ。


「あぁああぁああああぁっ、顔が!!」


 コンクリートの壁が男の悲鳴に揺れる。


「俺の顔がぁああ!! 顔顔! か――――」


 唐突に悲鳴が止んだ。男が気を失ったのである。

 何かが砕け散った音がした。


「フン……、これぐらいでくたばるんじゃねえよ」


 アリカは気を失っている男を足で転がした。白目を剥いた眉の細い男の顔が明らかになる。

 面の皮を捲り上げられた男の顔には傷一つ付いていなかった。

 そう、最初から男は顔に傷など負っていなかったのである。全ては男の被害妄想。醜悪な心が生み出した幻影であったのだ。


「そら、もう怖いものは見えないよ」


 ガラは香奈の眼を覆い隠していた自分の手を外しながら、だらしない表情でのびている男に視線を遣った。


 ――さっきの……二重存在だよな……もう何でもありだな……――


「だからいつも言っているだろう。イメージなのだと。……願いとも言うがね。自分の顔を周囲に誤認させるなど雑作もない」


 ――お前は何か特殊能力的なものは持ってないの?――


「この身に秘められたる溢れんばかりの紳士力! とでも言っておこうか」


 ――外道力の間違いじゃないのか?――


「外道とは酷いじゃあないか。私は道に外れた様な言動をした覚えは無いぞ」


 ――今分かった。その口からべらべらと軽口を生産するのがお前の能力だな?―― 


「軽口ではないぞ、私は少々能弁なだけだ――――」


 ガラは不安げに自分を見る香奈の頭を軽く撫でた。


「………………」


 アリカはふらふらとした不確かな足取りで、ガラの方へと歩んでいく。


「そもそも、普段から噛みまくっている君から、私という口が達者な二重存在が――――」

「……おい……」


 アリカの声を気にも留めずにガラは言葉を吐き続ける。


「それを踏まえてみると、二重存在というのは宿主の性格の反対をいっている可能性があるな――――」

「聞けよ」


 ひたすら喋っているガラの前に移動したアリカは、不貞面でガラを見上げた。


「何? 私は勝手に橋の下からやって来た? 違うぞ相棒。私は君の中から生まれたのさ。まあ正確には――――ん?」

「お前はホンッと……よぉーく喋るな……」


 アリカはうんざりとした口調で言った。


「君はもっと喋った方がいいぞ。宿主との交流は必要不可欠だ」

「……うるさい。お前には関係ない……」


 ガラは視線を逸らすアリカを見て、笑いを堪える様な半笑いになった。そして、その軽い表情を納めてから穏やかにアリカに問いかけた。


「大切なものが出来た様だね?」


 その言葉を聞いたアリカは、キッと一瞬ガラを睨んだが、直ぐに再び視線を横にずらした。


「………………ああ……」


 それを聞き届けたガラは、いつもの通りに涼しげに微笑んだ。


「それは――――よかったじゃないか」


 アリカは更に拗ねた様な顔になると、


「……毎回見透かした様な顔をしやがって……むかつくんだよ、お前の面は……」


 と苦々しく言い放った。


「褒め言葉として受け取っておこう」


 ――いや、どう考えても悪く言われているだろ……――


 葎は、どうしたらそんなに前向きに考えられるのか理解不能であった。


「そういう事を言う葎にはお仕置きだな――――うげ、ガラ、てめ――――いいから行きたまえ――――イヤぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 のた打ち回るガラ――――ではなく既に葎を、アリカは剣呑な眼で凝視した。


「…………栖小埜葎か」

「ア、ア……アリアリアリアリアリアリアリッ!!」

「何言ってんだ、お前」


 名前を呼ばれた葎は、首をぶるんぶるんと震わせながら挙動不審の塊となり、アリカはそんな葎に近づこうとしたが、顔面蒼白な葎に手で制された。


「来るな来るな来るなぁーッ!」

「……どうして」

「だ、だって! あんた、いきなり殴ってきそうで怖いんだよ!」

「殴らねえよ…………」

「約束だぞ!? 絶対だからな!?」

「あーはいはい……」


 アリカが葎に一歩近づくと、

  

「待てぇーい! 一歩ずつだ! ゆっくりとゆっくりと……」


 葎はそれに合わせて一歩下がった。


「面倒くせえな……」


 苛立ち始めたアリカは、葎との距離を一気に詰めた。


「うおおおおおおい!! ゆっくりって言ってんだろーッ!」

「死ねよ、ド阿呆……。……っち……」


 アリカは小さく舌打ちすると、葎の胸元に向かって頭から突っ込んで行った。


「やだー! 殺されるううううう!! せめてメロンパンの上で死にたかったーっ!」


 眼を瞑った葎の腕の中に、アリカがぐったりと倒れ込む。


「って……えっ……? あ、あんた……どうした……!?」


 彼女の小さい身体には、暑苦しい熱が滞留している。

 腕の中で荒い息を吐くアリカを、葎は愕然とした表情で見た。


「……つか……れた……暫く……ねむ……る」

「アリカさん!? こんなとこで寝ないで!? 聞いてます!?」

「うる……せ……」


 消え入る声で言うと、アリカはすうすうと寝息を立て始めた。


「ね、寝ちまいやがった……」

 

 ――ふふ……彼女、緊張の糸が切れたみたいだね。矢張りどんなに気勢が良くても、所詮は、か弱き乙女……――


「乙女ぇ? あいつ男だろ?」


 ――…………はぁ……やれやれ……――


「やれやれってどういう事だよ!?」


 ――やれやれやれやれやれやれやれやれやれやれやれ――


「長いよっ! というか前にもこんな事あったな! ……じゃなくてさっきの言葉はどういう事だ!?」


 ――それよりもだ、これ(、、)をどうすべきか君は考えるべきだぞ――


 葎は自分が受け止めたアリカ――――もとい灯や、気絶している男と、同じく気を失っている東児、そして不思議な顔で葎を見詰めている香奈を順番に見た。


「俺一人で三人も運べるかなぁ……」

「おにいさん、どうして一人で喋ってるの……?」


 香奈は灯に瓜二つの仕草で小首を傾げた。


「あれ、これは……その……」


 葎がびくびくしながら自分よりもかなり小さい少女に問い詰められていると、袋小路の入り口近くから、霧人の声が聞こえてきた。


「……! これは……一体……! 栖小埜君……これ……何があったんだ……!?」


 狭い空間で繰り広げられていた惨状の後を目の当たりにした霧人は、頭の後ろをぼりぼりと掻いた。

 霧人からすれば、いきなり昨日出会ったばかりの少女が走ってきたかと思うと、今度は少女を葎が追いかけて行き、その後を自分が追ってみればこんな事になっていたのだ。普段は極めて冷静な霧人であったが、流石にこの状況は理解が出来なかった。


「あ……えー……ははははー……何か……色々とあったみたいですね……」


 葎はとりあえず、笑って誤魔化した。 




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 私――――何してたんだっけ。

 意識を取り戻して、最初に浮かんだ事がそれだった。


 ――――くるっぽーくるっぽーくるっぽーくるっぽー。


 何処からともなく間の抜けた鳩時計の音が鳴り響く。

 耳を澄ますと、きりきりというゼンマイの音も少しだけ聞こえる。

 懐かしい音。聞いていると不思議と気分が落ち着く。

 美那子さんの家に住み始める前の、お母さんとお父さんが居た家にそれがあったからだろう。あの時計は家を売る時に処分してしまったから……とても懐かしい。懐かしくて、少し涙が滲んできた。嬉しいのに、変なの……。

 でも、どうして鳩時計の音なんて聞こえるの?

 意識が徐々に覚醒を始めると、暖かみのある光が瞼を通り越し、眼に染みてきた。

 明るい。薄っすらとだが、微かな明るさを感じる。

 私は気持ちが良さそうな光に誘われて、恐る恐る眼を開けた。


「……あれ?」


 横を向くと、遊び相手のいないがらくたの様なおもちゃの山が斜めに聳え、目の前には花葉色の空が広がり、上から私を包み込んでいる。そして地面は勿論ぬいぐるみ――――。


「夢の中……」


 以前に見た夢の中。私はその真っ只中に寝そべっていた。

 起き上がり、もう一度確認してみる。間違いない。以前夢に見た光景だ。

 だとしたら――――この中に居る筈だ。私が会いたかった人が――――。


「やっぱり――――そこに居たんですね……」


 その人はおもちゃの山の一角に腰を掛けていた。

 そこはあまりにも不安定で、今にも崩れてしまいそうな場所だった。

 私は不安定な山をにじり登り、彼女の許へと向かって行った。

 彼女は私に気付いていない様だ。変わらない黄昏の空をじっと見ている。

 何度も転びそうになり、何度も落ちそうになったけど、私は着実に彼女へと近づいていく。

 以前来た時の様な夢から切り離される様な感覚はまだ無い。今度は大丈夫。彼女まで辿り着ける筈。


「ふぅ……や、やっと着いた……!」


 彼女の居る所から見える景色は綺麗だった。淡い黄色の光におもちゃの山脈が照らされ、金色に光っている。それにここからだと、影が丁度良い具合に混じって見えるから、尚更だ。不思議な空の色も相まって、ここが現実ではなく夢の中なのだという実感が湧いてくる。

 あ――――。

 私はその色を見て、再び子供であった時の事を思い出した。

 この空の色――――何かに似ているかと思えば、子供の頃に見た夕焼けの空にそっくりなんだ――――。

 それだけじゃない。このおもちゃの山も、地面を形作っているぬいぐるみ達も、様々な場所に置いてある遊具も、全て私が子供の頃に遊んだものに似ている。

 それが何故なのか――――。彼女が知っている気がした私は、彼女の方を仰ぎ見た。

 風が吹く。彼女の髪が靡き、陽光とはまた違う煌きが混じって、きらきらと輝いて見える。絹糸の様に風に流され、神秘的な輝きを帯びる彼女の茶色の髪に私はしばし見入ってしまった。


「綺麗……」

 

 私がそう呟くと、彼女が振り向いた。

 私の視線と、彼女の視線が交わる。彼女の眼が見開かれ――――彼女は座っていた場所から転げ落ちた。


「うわわあああ!? だ、大丈夫でっすかーッ!!」


 私は慌てて彼女の後を――――追ったのだが、途中で妙な形の貯金箱に躓き、寸前で何とか体勢を保ったのも虚しく足元が地滑りを始め、彼女と同様におもちゃの山から転げ落ちた。


「ぬあぁぁあああああぁぁぁあ!!?」


 不揃いな山肌を滑り落ちていく。私は頑張って体重を後ろにかけ、静止しようと努力した。

 凹凸が多いからだろうか、速度は次第に落ちていき、私はおもちゃの小山の中腹で止まる事が出来た。


「と……止まりましたか……」


 と、思ったのも束の間。


「あれえ……どうしてでしょう……頭上から地響きが……」


 嫌な予感の後に、


「!?」


 私と彼女が落ちてきた山の頂上が崩落し始めた。

 地鳴りと轟音が頭の上から降り注ぎ、物理的にも色々降り注ぎ、私はおもちゃの濁流に巻き込まれていく。文字通り私はおもちゃに埋もれる事となった。

 視界は真っ暗。それと少し息苦しい。まぁ、無数の物体に囲まれているのだから、無理も無い。

 不思議な事に痛みは無い。尖った物も多いおもちゃの濁流ならば、怪我をしてもおかしくないのにも関わらずだ。これも夢の中ならではの現象なのだろうか。とにかく身動きは取れる。

 私は様々な物を掻き分け、地表へと這い出た。

 

「……ぷっはあッ! はぁはぁはぁ…………ふう……」


 私が登って来たおもちゃの山は見事に崩れ去っていた。これではまるで砂の城だ。

 脆くて、不安定で指で突付くと崩れてしまう、そんな城。

 疲れた私は、山から変化したおもちゃの海へと寝転んだ。

 空がやけに遠く見える。手を伸ばせば届きそうなのに、凄く遠くにいってしまっている気がする。

 そうだ――――彼女は無事なのか。

 私は首をきょろきょろと動き回した。

 

「……何で此処に居る……」


 顔の正面より少し後ろからそんな声がしたかと思うと、細くキリリとした眉を寄せた顔が真近に迫っていた。その顔は私がそのまま大人になった様な顔をしていて――――だけど、私には持ち合わせていない強さを伴っている顔だった。


「……鏡じゃないですよね?」


 私は彼女の顔を触り、確認した。


「鏡が喋るかよ……」

 

 彼女は私よりも一段低い声でそう言った。

 すごい似てる……。ホントに鏡じゃないよね……?

 私は彼女の胸の辺りに手を当てた。


「ハッ……!? お、お、お、お、お……!?」


 ああ、別人だ……。


「何だよ……文句あるか」

 

「な、無いですよ……!? え~…………。私ですね! 南屋灯って――――」

「知ってる」


 ひゅるりと滑らかな風が通り過ぎる。


「……うえっ?」

「子供っぽいもの――――例えば駄菓子とかが大好物で、趣味は昆虫採集と街の探検――――」


 全て当たっている。何故知っているの?


「そ、そうですけど、何で……」

「自分の事より、家族や友達の事ばっかりを気に掛けていて……そのせいで自分が損な役回りになっていても、甘んじてそれを受け入れている……」


 彼女は私から自分の顔を離すと、その場に胡坐を掻いた。


「もっと自分を大切にしろ、バカ。俺の手間が増えるだろうが」


 私は足を曲げ、自分の方に腹に膝を引き寄せて、勢いをつけてから起き上がった。そして彼女の方に振り返りながら正座に座り直し、身を乗り出した。だってもっと彼女の事を知りたかったから。


「何で女の子なのに俺って言うんですか? すげー、私にそっくり~。あ、それと此処はどこですか? もしかしてあの世?」

「人の話を聞けーい」

 

 私は頭を引っ叩かれた。


「ご、ごめんなさい……一先ず落ち着きましょう! はい深呼吸! すーはー。……よっしゃ、落ち着きましたね!?」


 幾ら息を吸っても私の心臓の高鳴りは治まらない。


「お前が落ち着け」

「あいたっ!」


 もう一度叩かれた。地味に痛い。


「痛いじゃないですかぁ……」


 この人の打撃だけは、ちゃんと痛みを感じる様だ。


「……はぁ……、それよりも……お前は何故此処に居る……」

「いやだからですねー……此処は一体……というか私は何を……。…………何を……」


 思い出した。

 そうだ。私は――――。私はあの嫌な思い出の詰まった場所で――――。

 ボロボロの格好で蹲る折島君。電話口から聞こえた嫌な声。制止を振り切り、駆けていく。そしてその辿り着いた先には――――暗闇の中には――――椅子に縛られている香奈と、顔の変わる男――――。


「香奈は……香奈は……無事なんでしょうか!?」


 この人が香奈の安否など知っているはずも無い。なのに私は彼女に尋ねずにはいられなかった。


「……ああ、心配ない」


 よかった……!  

 

また(、、)……あなたが守ってくれたんですね……」


 私のその言葉に、彼女は驚いた様な表情で応えた。


「……気付いていたのか……俺に……」

「はい……。何となくですけど……」

「……いつからだ」

「ずっと前から……。あなたの存在を感じていました……」


 栖小埜さんが前から嘘を吐いているのは薄々分かっていた。だけどその嘘が私を何かから遠ざけている優しい嘘だという事も分かっていたから、それ以上追求する事が出来なかったのだ。


「………………そうか」

「………………はい……」


 私達はお互いに黙りこくってしまった。沈黙がちくちくと肌に刺さる様だ。

 

「ええと……そのぉ……何て言うか……いい加減にあなたのお名前、教えてくださいよ!」


 気まずい沈黙に耐えられなかった私は、彼女両手を掴み取った。彼女は驚いた様に暫く固まっていたが、やがて私の手を握り返して、口を尖らせながらも口を開いた。


「――――アリカだ……俺はアリカ……」   


 それはとても笑顔には見えない表情で、子供が拗ねているような顔。

 

「アリカ――――」


 でもちゃんと笑っている。照れ臭そうに、視線を合わせない様にしながら、ちゃんと笑っている。この人は笑うのが少し下手なだけなのだ。

 私は彼女の手をもう一度強く握り締めた。すると、彼女はそっぽを向いてぼそぼそとした声を発した。

 

「……もう行け。家族がお前を待っている」

 

 私を助けてくれた人が、自分の身の内に居る。それは到底理解し難いものだったけれど、紛れも無い現実だと私は最初から気付いていた。


「はい……あと……もう一つだけいいですか?」

「何だ……?」


 だから――――私は彼女に『初めまして』ではなく、こう言うべきなのだろう。


「やっと逢えましたね……アリカさん……! ずっと……逢いたかった……!」


 私がそう言うのを待っていたかの様に、鳩時計の音が再び鳴り響く。

 私は彼女の眼を見て、言葉にならない言葉を唇に乗せた。

 きっともう一度逢える事を祈りながら。一つずつ。風に流されてしまわぬ様にと。

 私の無言の問い掛けに、彼女は今度こそしっかりと微笑んでいた。

 安心した私は――――瞼をそっと閉じた。


 










「くあー……くあー……………………んあ?」


 眼が覚めると、自分の家の天井が見えた。

 手に温かい感触を感じる。誰かに握られている様だ。私が握られている手を少し動かすと、直ぐに枯れた声が聞こえた。


「……あ……灯……? ……灯!」

「おねえちゃん!」


 温かい雫が私の顔に落ちてきた。眼を開けると、香奈と美那子さんの泣き顔が――――。


「心配させないでよっ……! 飛んで帰ってきちゃったじゃない……」

「ごめん……! ごめんね……! おねえちゃん……!」

「おわっ! ちょっと二人共!」


 二人に抱きつかれ、押し潰され。痛いくらいに家族の温かみが身に染みた。

 私……夢から戻ってきたんだ……。


「うえええええん……。……おえっ」

「美那子さん!? ここで吐かないで!?」


 あーあ……鼻水と涙が……こんなに……。でもまぁいいか……。

 二人の家族に抱きしめられた私は、力を抜いた。

 目の前の家族と、新しく出来た家族の事を思いながら。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「どうぞ、あれ……真さんは居ないのか……。すいません、店長は今は不在の様で」


 葎は開きかけの扉から部屋の中を覗きつつ言った。

 部屋の中には人気は無い。中央付近に写真立ての置いてある四角い硝子テーブルと、黒いソファーがあるのみだ。


「いいや、気にしないでくれ。それにしても変わった店だね……」


 『天儀屋』の応接間に通された霧人は、一階の光景を思い出しながらしみじみと呟いた。

 葎はソファーの片方に腰を下ろし、霧人にも座るようにと手で促した。


「はは……よく言われます……それで――――」

「ああ、うん。あの男の事ね。大丈夫だよ、身柄はもうこっちの県警に引き渡したから」


 霧人は事件後の報告に来たのである。本来ならば彼が請け負う仕事ではないのだが、霧人自らその役目を買って出たのだ。


「そうですか……」

「身分証明書から身元は割れてね……名前は安斎啓(あんざいあきら)……。こいつが連続婦女暴行犯かどうかはまだ分からないけど、現場に残った体液でDNA鑑定もするし、直ぐに白黒つくだろうね」


 霧人は前かがみになりながら、膝の上で手を組んだ。


「うえ……体液って……南屋さんが無事でよかったですよ……」


 葎は情けない声を発し、顔を顰める。


「ホントにね。正に女性の敵だ……。あの子はまだ風邪で寝込んでいるんだっけ?」

「さっき起きたってメールが来ましたよ」

「……そうか。俺からもお大事にって伝えといてくれ」


 霧人は深く考える様に顎に親指を当てた。


「……もしかしてだけど……君達何か隠していない……?」


 霧人は唐突にそう言った。


「か、隠してなんかないれふよッ!?」

「ハハッ軽いジョークさ。いつかもこんな事言ったなあ、俺……」


 ――――引っ掛かるといえば引っ掛かる。おかしな点が無いと言ったら嘘になる。

 第一に葎と安斎啓との間に争いの後は見られなかった。その代わりに灯には衣服の乱れがある。これは安斎が灯と襲った時のものとも取れるが、見ようによっては灯が安斎に抵抗した際のものとも取れるのだ。強姦紛いの事をされたのならば、もっと衣服が乱れていてもおかしくはない。しかし、そういった形跡も見られない。むしろ男同士の喧嘩の跡によく似ている。

 普通なら灯が安斎に襲われている所を発見した葎が助けに入ったというのが妥当なのだろうが、霧人はどうにもそう思えなかった。それは上記の通り、衣服の乱れが無い事と、霧人が駆けつけた時の葎の様子から判断したものである。同じく現場に居た少年、折島東児が安斎を昏倒させたというのも考えられなくは無いが、現場の実情を鑑みるにそれは有り得ない。あの時、霧人が駆けつけた時、東児は気を失っていたのだ。それでは最低でも安斎が東児を昏倒させた後に、自らも気を失ったか、安斎と東児が相打ちになり、お互いに気絶したという事になってしまう。

 腑に落ちないが、葎が事を収めたという事で納得するしか無いのであろう。


「フー……」


 ――――また狐に化かされたみたいだな……。

 霧人は宙を仰ぎ、それから葎に視線を遣った。


「ええっと……お茶かコーヒーどっちがいいですか? 紅茶もありますよ……」


 葎は霧人の視線をかわす様に、黒い革張りのソファーから腰を浮かせた。


「いやいや、お構いなく……」


 霧人はふいに卓上に視線を移動させた。

 彼の眼が止まった。


「……これ……」


 霧人の視線は一心に卓上にある写真立てに注がれていた。その瞳には明らかな驚きの色が見られる。どうしたのかと、霧人に続いて葎も写真立てを見た。 


「どうかしました? ……ああ、それ、この前店の前で記念写真を撮ったんですよ。この店も賑やかになったからって。結構店に関係ない人とかも写ってますけどね……はは……」


 葎は嬉しそうに写真立ての中を覗きながら言った。それを聞いた霧人は、開きかけた口を閉じた。


「この真ん中の人が店長です。このどうみても高校生とか中学生にしか見えない人」


 葎は写真の中心に指を指した。


「この人が……。…………へえ……そうだったのか……」


 ――――この前遇った時……。以前とは受けた印象が随分違うと思っていたが……。なるほどね……。

 霧人は写真の中央に立ち微笑む男を眺めた。

 ――――変わってない様で変わってたんだな……。


「村家さん? ……あっ、もしかして……真さんと知り合いなんですね!」


 葎は手をポンと打った。


「……そんなもんかな」


 ――――真……。真と言うのか……この男……。


「俺はそろそろ失礼させてもらうよ。お茶、悪いね。それと……店長に一言頼むよ」

「えっ……いいっすけど……何ですか?」

「四度目はお預けだって。……刑事って言えば分かると思うから」

「四度目……?」


 首を捻る葎を余所に、霧人は立ち上がった。 


「そう、四度目さ」


 霧人は上着のポケットに手を入れ、微笑んだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 深夜のハンバーガーショップ。ワックスが照り返す木製のテーブルに、茶髪を靡かせる一人の少女と、傷だらけであり、厳つい風貌の少年が向かい合って座っていた。傍から見ても何ともおかしな取り合わせの二人組みである。お互いの目の前にはテーブルの色よりは少し薄いキャラメル色のトレー。そしてその更に上に番号の書いてある札が置いてある。

 茶色の髪の少女は番号札を右指で弄りながら、不機嫌そうな顔で目の前の少年をジロリと見た。


「……怪我は大丈夫なのか?」

「こんなの怪我の内に――――痛てえ!」


 素っ頓狂な声が店内に響く。少年が声を挙げたのだ。少年――――折島東児が答え切る前に、少女――――南屋灯の体を借りている二重存在のアリカは、東児の傷だらけの顔を、テーブルに頬杖を着きながら軽く指で弾いたのである。


「痛いんじゃねーか」


 気だるそうにアリカは言った。


「はい、痛いっす……いてっ! ですからね、兄貴……いてっ! デコピンしないでください!」


 びしびしと額やら頬やらを弾けれ続けている東児は、やせ我慢からか、季節には似合わない汗を掻いている。アリカはしばしムスっとした顔で東児を見詰めると、手を引っ込めた。

 

「番号札、二十番の方ー。番号札、二十一番の方ー」


 カウンターから声が飛ぶ。それを聞いたアリカと東児は同時に立ち上がった。


「兄貴、おれが行きますから兄貴は座っていてください!」


 東児の言葉を聞いたアリカは、何故か機嫌を損ねた子供の様な表情で、殆ど何も喋らないまま東児にトレーを差し出した。


「…………ん……」


 東児はいそいそとアリカの分のトレーを持ち、カウンターへと歩いて行く。その後姿をアリカは何か言いたそうに見ていた。


「お待たせしました! こっちが兄貴のですね。えーっと、ギガギガフォースミートバーガー」


 大きく膨らんだ包み紙の乗ったトレーが再びアリカの前に置かれる。その包み紙は許容量の限界を迎えており、破裂しそうな程である。一方東児の方のトレーには、使い捨てのアルミ食器の中でジュワジュワと音を立てているアップルパイが置かれていた。


「………………りんご」


 アリカの鼻をバターが林檎の上でとろける濃厚な香りと、シナモンの甘い香りが(くすぐ)る。


「いただきまーす」

 

 東児は鉄のフォークでアップルパイの表面を軽く突付き、それから深く突き刺した。


「……甘党……なのか?」


 アリカは湯気の昇り立つ東児のフォークを見詰めた。


「んあ? まぁそうっすね――――」


 大口を開けた東児は、フォークで突き刺し、すくい上げたアップルパイを頬張った。


「――――美味いっすよ、此処のアップルパイ。あったかいカスタードクリームと、リンゴのコンボがマジ絶妙っす」

「一口……」


 鼻をくんくんとさせながらアリカは手を差し出した。


「一口食わせろ」

「兄貴……手掴みっすか……!」


 東児は深刻な表情でアリカに聞いた。すると、


「あー」


 と、アリカは小さな口を先程の東児の様に限界まで広げた。


「兄貴……本気っすか……熱いっすよ? マジヒートっすよ? 口の中マジヤバイっすよ?」


 東児は息を呑んだ。彼は知っているのだ。他人から熱い食べ物を食べさせてもらう恐怖を。彼はそれを『おでん』から学んだ。なのでその危険性は十分に熟知している。

 東児はアップルパイとアリカとフォークを順番に見たまま躊躇した。


「もんらふなひ」


 アリカは口をくえー、と開けたままそう答えた。


「いきますよ……恨みっこなしっすからね……」


 重苦しい沈黙が店内に満ちる。東児は未だに湯気の出ているアップルパイをフォークですくい、アリカの唇へと運んだ。アリカの口がパクンとパイ生地、林檎、そしてカスタードクリームが複雑に絡み合った欠片を飲み込む。そして暫く口を動かすと、彼女は頷いた。


「…………熱い」

「でしょうね」


 東児は真顔で受け答えた。 

 

「…………あー」


 アリカは暫し口を閉じていたが、再び口を開き、催促する様な声を発した。


「マジっすか……!?」


 想像を絶する熱さなのにも関わらず、取り乱す事も無いその豪胆さ。かつ、再び挑む勇気。

 東児は自分の眼に狂いは無かったと、アリカこそ真の‘漢‘だと、感激した。


「でもそれはいけないっす、兄貴……」


 東児はアップルパイをすくい上げたはいいが、そのままアリカの口に運ぶなどという短絡的な事はせず、少し冷ましてから彼女の口にアップルパイを入れた。


「…………美味い」

「でしょ? 冷ましてからじゃないと火傷しますよ」

「……そうだな」


 アリカは自分の前にある黄色の包みを開き、中から殆ど肉で構成されている様な巨大な肉塊を取り出し、東児の方を見ながらゆっくりと口を開いた。


「もう、俺に関わるな」

「兄貴……? 何を……」


 肉塊に喰らい付きながらアリカは言葉を続ける。


「……俺のあの愉快な面の変態と同種だって事だ……」


 肉の塊を半分程平らげたアリカは、持っている包み紙を一度トレーの上に置いてから東児を睨み見た。


「これ以上こんな化物と関わりたくねえだろ?」

 

 拒絶する様な響きを持つ声に、東児は無言で俯いた。


「………………」


 肉塊の残りを口に押し込んでからアリカは席を立った。


「じゃあな、色々世話になった」


 そう言ってアリカが歩き出そうとした瞬間――――。


「待ってくださいよ、兄貴」

「…………何だよ」


 東児の声にアリカは振り返った。


「小さい姉御の言った通りっすね。えっと……姉御と兄貴が一緒だけど一緒じゃねえってのは分かってんですけど……。やっぱ兄妹っつーか……。とにかく! 水臭せえ事言わないで下さいよ! 兄貴は兄貴でしょう!? 化物なんかじゃねーっす! 兄貴は俺が認める真の‘漢‘なんすから! 俺はそんな兄貴を慕ってるんです!!」


 アリカはポカンとした表情で東児を見返すと、再び彼に背を向けた。


「下らねえ……」


 そう言うと彼女は出口に向かって歩き出して行った。


「……兄貴」


 ざわめく店内に東児の声が虚しく響く。

 数歩歩いたアリカは、突然うな垂れる東児の方に振り向いた。


「さっさと来いよ……。……舎弟……なんだろ?」


 照れ臭そうな顔で、アリカは東児から視線を外しながらそう言った。


「…………あ――――兄貴ィぃぃぃぃぃ!!」

「うるせえ……。あ、会計ヨロシク」


 うっとおしそうに耳を塞ぐアリカの後を、東児は財布を出しながら追いかけた。

 会計をしている東児を余所に、先行して外に出たアリカは、つん、と上の方を向き、何かを呟いた後に静かに目を閉じた。

 冷たい風が吹く。アリカの言葉は灯が彼女に言った言葉と違い、直ぐに風にかき消えた。脆い言葉。誰にも聞こえない声。砕けて散ったそれはアリカの顔を優しく撫でる。

 目を閉じたアリカの表情は、ほんの少しだけ和らいでいた。


  

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……いい加減何か話してもらえませんかねえ?」


 淡い蛍光灯の光が揺れる。安斎啓は薄暗い密室の中で刑事と向かい合っていた。

 

「あ……あいつが来る……! 早く刑務所でも何でもいいから……! 早く安全な場所に移してくれ……っ!」


 蒼白の顔で安斎はがたがたと体を震わせた。彼の顔にはじっとりとした怯えが張り付いている。向かい合う刑事はその不可解な言動と安斎の様子に眉を顰めた。


「来るって何が来るって言うんですか……。此処は警察ですよ? 仮に誰かが侵入したとしても捕まるのが……ん?」


 チカチカと蛍光灯の灯が点滅する。灯は数回明滅を繰り返すと、フッと消えた。

 

「停電か……? 迷惑だな……」


 安斎の向かい側に座る刑事が暗闇の中でぼやく。見れば卓上の電気スタンドの光も消え失せている。

 刑事が手探りで立ち上がった時、安斎は深い深い暗黒の一点を見上げていた。


「来た……」

「今灯を――――」


 刑事が立ち上がった瞬間だった。



 ――――あはは……。くすくすくすくす――――……。



 小さな哂い声。それは複数の人間が同時に哂っている様な奇妙な声であった。


 「何だ? この声……」


 

「あいつだ……! あいつ(、、、)の哂い声が聞こえる……! い……嫌だ……!刑事さん! 刑事さん! 助けてく――――」 


 何かを齧る音が聞こえた。







 













 けらけらけらけらけらけらけらけらけらけらけらけらけらけらけらけら。




















 部屋の中に光が戻る。


「何だったんだ……今の……」


 刑事は部屋の中を見渡した。何の変哲も無い夜の光景――――。


「安斎……? おい、安斎? おい……。おいッ!」


 部屋から安斎啓の姿が忽然と消えている。


 刑事は薄ら寒い風を感じた。部屋の中に風が吹き込んでいるのだ。

 どこから風が――――。そう思った刑事は風の吹いている方向を見た。


「何だ……これ……」


 部屋の中、外側の壁にはたくさんの虫に食われた朽木の様な不自然な孔が開いていた。





<了>

 いよいよ次回から最終話が始まります。

 期待しないでね!? 絶対裏切られるから!


 では時間も無いですし……おまけをば……。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 葎「終わったね」


 寧「終わりましたねー」


 葎「今回も寧さんの活躍の場は無いと……」


 寧「あーもー! 気にしないようにしていたのに、あーもー!」


 葎「大丈夫! 最終話もそんなに無いから!」


 寧「どこが大丈夫なんですか!?」


 葎「それじゃ、本編の反省会でもしようか」


 寧「さらっと流さないでくれます!?」


 葎「まずね! アリカの女の子設定だけど完璧に後付けです!」


 寧「いきなりぶっちゃけますね……」


 葎「作者がねぇ、『あれ? そういえば女の子同士の二重存在って居なくね?』って思ったらしいよ!」


 寧「適当ですね……。まぁでも言われてみればそうですね…。葎さんとガラさんは性別不詳と、男。風早君とアシさんは男同士……。秋庭君達もそうですし……。古雫さんは女と男の組み合わせ。姥季淡慈さんはその逆……。それ以外は二重存在では無い……と?」


 葎「だから、最初の方の話でのアリカの表記は『彼』になっているんだよ」


 寧「そういう事でしたか。益々いい加減じゃないですか」


 葎「もっとぶっちゃけると、実は最初の頃からアリカの正体を女の子にするか、男にするか迷っていたんだけど、結局ここにきて女の子に決めたっていうのは秘密だ!」


 寧「はぁ……」


 葎「ところで、二重存在の正体だけど……」


 寧「えっ? ……えッ!?」


 葎「おっと時間が来たようだ……終了~」


 寧「待てえええい! 終了させてなるものか!」



         

              という訳で続行。




 葎「寧さん、口調口調。おかしくなってるよ」


 寧「やだーあたしったらー」


 葎「終了~」


 寧「あ、しまっ――――」




       と思っていたらやっぱり終了していた。

       続行なんて最初から存在していなかったのだ。

             


           

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