白い庭園
昨日は四国に行ってきました。さすがに一睡もしないで神奈川から往復だとキツイですね…運転したのは俺じゃないんですけどね(笑)
赤い。
火だ。熱い、肌が焼け付く。
一面の火が取り囲んでいる。
熱い、そして赤い。視界全てが火で埋まる。
メラメラと燃える。
何時までも、燃える。
そう、何時までも。
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「……っは…!!はぁ…!はぁっ…!はぁ…!……うわ…また嫌な夢かよ…!」
「うなされていたな?大丈夫かね?」
涼しい声が聞こえる。近くからだろう。
「…ん……ああ…大丈夫…」
「どれ、水でも持ってこよう」
あれ?そういえば。当然のように受け答えしているこの声は---
「あ、お構いなく------ってあんた誰っっ!?」
「誰とは失礼なっ」
「いや、つーか…ここ……どこぉおおーーーーーーーーーーーー!?」
葎は一面真っ白な庭園に横たわっていた。そして隣には、見知らない男がいる。
「あまり叫ばないでくれよ、頭に響く」
男はうるさそうに耳をふさぐ。
耳をふさいでいるその人物は赤いネクタイに黒のロングコート、いわゆるナポレオンコートと呼ばれる物を着ていて、町で見かけたら目を引くであろう、黒のシルクハットを被っている。
何より身長が高く、まるで英国紳士のような、妙な格好だった。
「ここへは、私が呼んだんだ。ここはそうだな…私の心の中…というのが正しいな。」
「いや…だから……誰だよ!」
もはや二人の会話は会話になっていなかった。
「昔の事はともかく、昨日も話したし、最近は毎晩会っているというのにッ…私は悲しいよ!!」
うっわー余裕で泣きまねだー……ってんな事より、毎晩…?
「…まさか、あの夢の中の黒い影?」
「影では無い。私にはガラというれっきとした名前がある」
「ああ…そうなの…じゃなくてさ!本当にあの影なのか!?」
「だから、そうだと言っているだろうが」
葎はガラと名乗る男の顔をまじまじと見る。良く見ると端正な顔立ちである、日本人とも外国人ともとれるような印象を受ける。道を聞かれたら、間違い無く判断を迷うだろう。
「…でガラ…さん?何で、こんなわけの分からない所に呼んだんだよ?」
「ガラでいい。ここに呼んだのは、君が混乱してると昨日言っていたからだ。それで、わざわざ相談に乗ってあげようと思ったんじゃないか」
昨日の事聞いてたんだ……。
男は手を差し出してきた、掴まれという事だろう。葎は手を借り起き上がる。
「さぁ、お茶にしよう。相談と言えばお茶、お茶と言えば、相談だ」
ガラは軽妙な口調で白いテーブルを指し示した。
いつも君は私が誘っても席に着かないからねぇ。と言いながら彼はテーブルへと向かう。すでにテーブルの上には茶器が揃っていて、ご丁寧に茶菓子まである。この前まで見ていた夢と違う所と言えば、幾分視界が鮮明になっている事だろう。
「お茶って………それより、あんたの説明をしてくれよ」
「いいから。まずは座りたまえ。相談は腰を落ち着けてしようじゃないか」
「………わかったよ…」
大人しくガラの言う通りにする。葎は座ると、改めてこの真っ白な庭を見渡した。良く見ると庭自体が白いのではなく、白い花が辺り一面を覆うように咲き乱れていて、そう見えていたのだと気が付いた。
この花は---胸の方に目をやる。そうだこの花は俺のペンダントと同じ---
「スノードロップだ。綺麗だろう?」
思考を読んだかのようにガラが言う。彼の言うように花々はどれも見事に咲いている。
「白い…」
「なんだ。感想はそれだけか」
「うるさいな。語彙が少ないんだよ……でも…俺はこの景色をどこかで見た事がある気がするような…」
「ククッ…!」
ガラが可笑しそうに笑う。
「何だよ?」
「いや?やっぱり君は君だなぁと思ってね」
「何だそれ?意味わからないぞ?」
そういえば…前から気になってはいたが、こいつは何で俺を知っている…?二重存在だからか?
「あのさ、前から俺の事知ってるみたいだけど、昔から俺の中に居たのか?」
いいや、と、目を葎から逸らす。
「私が君の中に出来たのは、ついこの前………ほら君が事故に遭った時さ」
「そうなのか、じゃあ、あの時にあんたが…」
なるほど、あの時に…それなら合点がいく。
「……………………大切なものほど…一度忘れると思い出せない…」
「………何て?」
ガラが何かボソッと呟いたが葎には聞こえなかった。聞き返したが、彼は複雑そうな顔をして黙っている。気まずい沈黙が広がる。
「…………私と君はね、昔会った事がある」
唐突にガラが口を開いた。
「えっ…?でも、あんたは俺の二重存在で…生まれたのは、あの事故の後なん---」
それは、とガラが葎の言葉を遮った。
「それは…君が思い出さなければならない事だ…私の口からは……言えない…」
真剣な表情でこちらを見つめる。しかし、葎に心当たりは無かった。
二人の間を風が流れる。ザァァァァという音と共に花を揺らし、白い花びらが雪のように舞い散る。
「ま…そんな事より、何はともあれ君の事が先だ。君は今悩んでいるんだろう?あの真という青年の言う事を、引き受けるかどうか」
「え…ああ…まぁ悩んでるけど…さ…」
「それで?何と答えるつもりだね?」
「それは…そのっ…あれだよ…」
「全く…君は……もう殆ど答えは出ているんだろう?」
くっ…こいつ心を読める妖怪か…っ!?ニヤ二ヤしながら、ガラは葎が答えるのを待っている。
「…そうだよ。もう答えは決まっている」
「それで?」
「引き受けるよ。もちろん。二重存在で困っている人がいるなら助けたいし、それに二重存在自体が困っているかも知れないしな」
真っ直ぐガラを見据え葎が言う。ガラは、ほらな?言うと思った、とでも言うかのように微笑を浮かべている。
「そう言うと思ったよ、全く…答えが決まっているなら、あの場で答えれば良かったんじゃないか?」
「…俺だってなーちょっとは心の準備が欲しかったんだよ」
見透かしたような物言いに少しムッとしてしまう。
「…本当に君らしいよ、即決できない所とか」
「それ、褒めているのか貶しているのかどっちだよ…?」
「貶している」
「速攻だな!おい!?」
どうどうと、ガラが葎の言う事を軽く受け流す。
「何にせよ、君が決断したなら私はそれに協力するさ、なぁ…相棒?」
微笑みながら言われ、何故か照れてしまう。
「…おう。でも、俺は相棒じゃねぇ!」
「細かいな、君は」
相棒……か。まともに会話するのは今日が初めてなのに、何でかわからないけど…こいつに言われるのは違和感が無い……かな…
おっと、もう時間だとガラが言った。
「それでは、あちらで会おう!今度はゆっくりお茶を飲める事を願うよ」
白い庭が遠ざかる、ガラもそれと同時に段々と小さくなっていく。遠ざかっていく彼の首元に葎はキラリと光る物を見つけた。
何だろあれは?…まぁ後で聞けばいいか…
目の前が暗くなる。
そして目を開けるとそこは葎のよく知る寝室だった。
「それにしても…寝たような寝てないような…」
--やぁ、お早う。と言ってもさっき会ったばかりだが--
ガラの声に思わずビクッと反応してしまう。
「おおぅ…!?いきなり話しかけるなよ!ビックリするだろ!」
--つれないな、全く………それで?--
「それでって?」
--今日は何をするんだね?--
「そうだな……とりあえず、表通りでも行くか…それから真さんに返事をしに行くよ」
--ふむ、そうか--
太陽がカーテンから顔を出す、起きたばかりの目に朝日が染みる。
「そんじゃあ…まぁ、行くか」
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パクッ、ムシャ…ムシャ…ムシャ…ゴクン…
--おい、葎。それ…全部食べるつもりか?--
「え?そうだけど?」
メロンパンを頬張りながら葎が、ガラに返事をする。
--…………そうか…これは重症だな…--
「…?何が?」
--気にしないでくれ……--
葎は今、石動駅表通りのパン屋プミエにいる。表通りに来たのはいいものの、昨日の夜から何も食べていない事に気付いた彼は、これまた昨日訪ねて気に入った、このパン屋に寄る事にした。そして、今はコンビニで買った紙パックの飲み物と共に、紙袋に大量に入ったメロンパンを食べている。
--それ…メロンパン以外に買っていないのか?--
「もちろん」
--……………………………………--
ガラがなにやら言いたげだが、葎は気にせず食べ進めた。
--あの青年の所へはまだ行かないのか?--
「まだ早いと思うからなぁ……そういえば関係ない話だけど、他の二重存在って近くにいると判ったりするのか?」
--近くに居ればだが。分かると言っても、精々この駅の周辺までだ。…そんな事聞いてどうするのだね?--
「いや…まぁ一応、俺達や南屋さんの他にこの辺に二重存在がいないか気になってさ」
--一応ねぇ…じゃあ、あそこに居る人物…見えるか?--
「誰の事を言っているのかわかんない…」
--だろうな。私の目を通して見てみるといい--
「ん…?ああ」
二人の意識が入れ替わる。自分の目を通して見ているにも関わらず、映画のスクリーン覗いているような奇妙な感じだ。
「ほら、私が見ている先…あの人物の事だよ」
ガラの視界の先には会社員らしき男性がいた。
「あの人がどう---」
言われなければ気付かなかった…。
男性は他の人達と違っていた。体の輪郭が、というか線が二重にぶれている。線は赤く、丁度影のように男性が動きに合わせて動いていた。
「分かっただろう?」
--そういうふうに見えるんだ……あ、目が合った。あ、逃げた--
「フム、私に気付いたんだろうな」
--なるほどな~………って!んな事より追わねえとっ!!--
男性はすでに駆け出していて、それに遅れる形で葎達も走りだす。
「何で追うのだ?」
--だってあの人の中にいる奴が良い奴かわかんないだろっっ!!つーかお前は何でそんなにのんびりしてるんだよっっ!?--
「のんびりではない、これは余裕だ」
--じゃあ早く捕まえろよっっ!!--
「そんなに急かさなくても大丈夫だ。………そら、捕まえた。」
葎の腕はしっかりと男性の腕を掴んでいた。
「俺になんか用か?」
男性…いや、おそらく彼の二重存在であろう者が最初に口を開いた。
「いやな?私の相棒が君に用があると言うんだよ。用件はそのまま私が伝えるから、大人しく聞いていてくれ」
「…それで?」
「え~何?、ぶしつけで悪いが、あんたはこの人の体をどうするつもりだ?何もする気が無いなら穏便に済ませたい…だそうだよ」
「穏便?一体どうするって言うんだよ?いいぜ、答えてやるよ。俺はこいつを乗っ取るつもりさ。別に良いだろう?俺は元々こいつから生まれたものだ。つまり俺の体という訳でもある」
「…元の人物はどうなるんだ?」
「さてね?その内消えるんじゃねぇかな?」
どうでも良さそうに男性の二重存在が言う。
「…うん?ふむふむ?どうしても共存するつもりは無いのか?…だそうだ」
「無いね」
「そうか、じゃあ、あんたを倒さないといけない……だそうだがこれは私の意見でもある」
「やれるならやって見…ブゴッ!?」
言葉を遮り、ガラは突然男性の顔面に一撃を入れた。
「殴ったもん勝ち」
「くそっ…てめ…」
「やり返したかったら追いかけてくるんだな」
挑発するように男性の二重存在に言うと、スタコラと逃げていく。男性の二重存在も鼻の辺りを押さえながらではあるがガラを追う。
--お前さぁ…もうちょっとやり方ってもんが…--
「何か問題でも?」
--はぁ…--
男性の二重存在は必死で追いかけるが、全く追いつく気配が無い。
「ほら、こっちだぞ?」
道を曲がりながら、ガラが男性の二重存在に言う。
「ぜってーゆるさねぇっっ!!」
男が、ガラを追い、曲がった先は行き止まりだった。追い詰めたと確信した男性の二重存在はガラの方へにじり寄って行く。
「追い詰めたぞッ!てめぇ!!」
「あーこれは困ったなー」
--…棒読み……--
「死ねゴルァッっ!!」
男性の二重存在は壁際まで追い詰め、ガラに殴りかかった。
「わ~たーすーけーて~……とでも言うかと思ったかね?」
すでにガラは視界から消え男性の二重存在が殴りつけたのは、行き止まりの壁であった。
「はっ?」
「そーれ!!」
ドゴッ。
ガラは壁を蹴り、空中でくるりと回転し、そのままの勢いで男性の二重存在の後頭部に強烈な一撃をみまう。そして、男性の体はビクッ!ビクッ!と2、3回ほど痙攣して動かなくなった。
「今回は弱かったな」
--おい、アレ…大丈夫か?--
「うん?おお、彼の二重存在なら彼の魂に還元されたぞ。消えたわけじゃないから、安心したまえ」
--還元?それじゃアリカも南屋さんの魂に戻ったのか?--
「いや、彼はただ単に眠っているだけだから、その内ひょっこり出てくるかもしれない」
--そうなんだ。それより……ガラ、お前さ、結構エグイよな…--
「私ほど紳士的な二重存在はいないぞ?」
--…もういいや…--
「さて、そろそろ代わるぞ---」
二人が入れ替わる。ひとまず、葎は倒れている男性を安全なところに運ぶ事にした。
「ふぅ…よし!ここなら、大丈夫」
男性を運び終え、携帯で時間を確認する。もう、三時になっていた。
「よし…行くか」
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ガチャ
「いらっしゃい---葎君か。明日で良かったんだが…。
……どうするか決めたのか?」
---そうさ、あいつに言われるまでも無い。もうとっくに決まってる
「…はい。俺、やります…手伝わせて下さい」
「…………よく…考えた上か?」
改めて言われると、緊張するな……でも、返事は一言でいい
「はい!」
実はこの話、一昨日には出来てたんです。
あともう少しで結末まで行けそう…かな?行けたらいいな…
もちろん物語自体はまだまだ続きますよ?




