群青夜空
遅くなりましたーってこれ毎度言ってますね……。
えーとですね、時系列を忘れていて、とんでもない事になりかけていました…。
書き終わったのは、ついさっき……出来たてですので、誤字がヤバイかもしれないです……。
では始まり!
「そっちのカラメルプディングはどうですかー」
「甘過ぎず、苦過ぎず、とてもエクセレント」
「藍子ちゃん。「とても」と「エクセレント」が被ってます!」
「カラメルの香ばしい風味がとてもエクスタシー」
「藍子ちゃん。凄く美味しかったんですね!」
過ぎ行く風は、秋の冷たさを感じる風だった。
雲の切れ間から暗い夕日が顔を出して、それが雲に映る。
すると雲に映った夕日は、夕暮れの黒さを巻き込み紫色になった。
自分の手に持った、アイスのコーンカップがやけに冷たく思えた。
まだまだ暑いからと、調子に乗って食べたのがいけなかったのだろうか。体が芯から冷えてくる。
反対に涼しい風は何だかとても心地良かった。
何だか食べてばっかりだ。
もしかしたら、青春とは買い食いの道中録である――――というのはあり得ないか。
隣の少女に目を向ける。彼女はあまり寒そうには見えない。愛嬌のある横顔が横目で私の視線に気付き、目だけで笑って、口の方はまだアイスとくっ付いている。
たまに、私はこの子が何を考えているか、分からない時がある。
見かけというか、雰囲気に因らず、この南屋灯という子は思慮深い面がある。
無邪気をそのまま絵に描いた様な子だが、それだけじゃ無い部分もある気がするのだ。
共通の友達である、栖小埜さんという変わった人が言うには、「南屋さんは、無鉄砲だからなぁ……」だそうだが……実際の所はどうなのだろう……?
――――ま、いっか。
この子はこの子だ。細かい事を省いても私の友達であるのには変わりが無い。
そういえば、こういう風に「友達」という言葉をハッキリと言えなくなったのは、何時からだろうか。
まだ心が未発達だった時。例えば幼稚園や小学校に通っていた頃。そういう時までは「友達」という言葉は普通に口にしていたと思うのだが、段々とそれは、口に出し辛い言葉に変わっていった。
わざわざそれを口にしない方が格好が付く。
言えば安っぽい言葉に成り代わる。
本当にそうなのか? 言うのが怖い。その言葉を投げた相手に拒否されるのが怖いだけじゃ?
言わない方がその言葉が遠くなっていく。私はそう感じた。
言葉にしないと忘れてしまいそうで。無くなってしまいそうで。
別に全員がそういう訳じゃないんだろうけど、私はそう感じたのだ。
臆病なのだと思う。でも確かめない方が私にとってはずっと怖い。
少しでも距離を詰めようと苦心する。見苦しい奴。
だから口に出す。確かめる様に。相手を窺う様に。
「あのさ――――灯」
「うん? 何ですか、藍子ちゃん」
どさくさ紛れに呼んでみたが、彼女に変化は無かった。
じゃあ、こう言ってみたらどうなんだ――――。
「たまには『藍子』って呼んでみて」
「……? 藍子? ありゃ、そっちの呼び方の方が良かったんですか? 何となくこっちの方が良いかなと思ってたんですけど――――」
「……ううん……何でもないの、灯ちゃん」
「そうですか……?」
自分の馬鹿さ加減に溜息が出そうになった。
この子はそんな事は特にどうとも思っていない。「ちゃん」だろうが、「さん」だろうが、特に関係無いんだ。それが気になるのは自分のせいなんだ。多分、私はかなり嫌な奴だ。
友情を確かめなきゃ、安心出来ないなんて。
「あ――――藍子。風早君はどぉ~こに行ったんでしょうね? 『天儀屋』飛び出して行きましたけど」
「ハハ……無理に呼ばなくても……」
「無理じゃないですよぉ~。友達じゃないでっすか!」
彼女は屈託の無い笑顔を輝かせた。
ああ、この子はその言葉を臆せずに使えるのだ。あいつと一緒だ。
自分がそれを手放しで出来ないのを悲しく思うのと同時に、羨ましいとも思った。
「…………うん、友達だもんね……。……えっと、燐太だっけ?」
あいつはまた走りに行ってるのだろう。
よくも、毎日走って飽きないものだ。自分も走るは好きだが、毎日は嫌だ。
部活に入っていた時なんか、練習の度に挫けそうになった事さえある。
昔と違って、あいつは、燐太は良くこういう事を言う様になった。
――――やっぱ友達と走んのは最高だな!
その感覚というのはどんなものなのだろう? 二人三脚みたいなものなのだろうか?
私には一人で走ったという事しか無いから今一そういう感覚が分からない。
今までもこれからも、そういった経験はしないだろう。
燐太は「アシ」と走る様になってからというものの、以前よりも愉しそうに私には見える。
あんまりにも愉しそうだから、「アシ」に嫉妬しそうになる。
だけど、あいつが笑顔で走っているのは見ていて嬉しい。
だとしたら、私は「アシ」に感謝しなきゃいけない。
「――――藍子? 藍子ちゃん?」
「え?」
「スイマセン! 先に帰りますね! 妹が鍵を持っていなかったみたいで!」
「…………っ!?」
この子に姉妹が居たとは……! 最近の出来事で一番驚いたかも……!
兄弟姉妹が居たとしても、末っ子だと思っていたのだが、お姉さんなのか。
私の失礼な顔に気付いたのか、灯ちゃんは、珍しくムスッとした顔になった。
「そんなに驚く事無いじゃないですかぁ……」
「い、いやあ……何か意外でっ! ……あの……何人姉妹なの?」
「小学生の妹が一人ですね! そうだ! 今度会ってみます?」
「へえ……。そうだね、会ってみたいな。あっ……引き止めて――――」
「いやぁ、それじゃまた明日!」
「うん、バイバイ」
手を振る彼女を見送り、姿が見えなくなってから、漸く私は歩き出した。
もう殆どの建物には灯が点いている。日が沈むのが早いから、それに合わせて建物も早めに灯を点けるのだろう。さっきまで見えていた藤色の雲は、太陽の光を失って色の失せた灰色へと戻っていた。
雑踏の中は息苦しい。いっぱい人は居るのに、見えない壁がそこらじゅうにある気がする。
人ごみに溺れそうとは上手く言ったものだ。本当に溺れてしまいそうではないか。
これだけ人が居ても、誰も他の人間には無関心な顔をしている。
たまにそれが剥がれる時もあるが、それは滅多に無い稀な事だ。
自分が突然膝を抱えたら、何人が立ち止まるのか。それすら考えたくない。
人と人の距離が離れている。虚ろな孤独感が漂っている。
そう感じるという事は、自分も人との間に隔たりを作っている訳で。他人事じゃないんだと思う。
だとすると、この無数の人達は景色みたいなもの。そして私もその一部。
秋という季節柄か、意味も無く感傷的な気分になってしまった。
…………あれ……? 何……?
人の海の中に、挙動不審な灰色の影が一つだけ紛れている。それだけ妙におどおどしているので浮いているのが分かる。とても小さい影で頭にパーカーのフードを被っている。もしかすると、私よりも小さいかも知れない影である。
――――落ち着き無いなぁ……。
灰色のパーカーを着ている人物は、まるで見えないものに怯えるかの如く、キョロキョロと周囲を見回している。たまにああいう感じの人は見掛ける時があるが――――。
何か探しているのか?
全く……。あれじゃあ、パーカーを着ているというか、着られているという方が的確だ。
体の線が消えているから、「パーカーのおばけ」が動いている様である。
くるりと灰色の頭が回り、フードで見えなかった顔が少し見える。
大きな瞳。睫の長い、濁りの無い澄んだ瞳だ。ここからでも大きいというのがハッキリと分かる。
しかし、その大きな瞳を黒い前髪が檻の様に取り囲んでいる。
「あれっ」
「っ……!」
彼女もこちらに気が付いたらしい。大きい眼が更に大きく見開かれる。
私は人の流れを断ち切る様にして、彼女の居る方へと向かった。
「伊織さん」
「あ――――……え……あ……や、柳葉さん……」
私が歩み寄ると、彼女――――伊織理沙は、はにかみながら小さい声を挙げた。
彼女とは七月の終わりに、腹ペコの彼女を私が助けたという変わった状況で出逢い、それからはメールにより親交を深めたという奇妙な友人関係を形成した間柄だ。
言わば、行きずりの関係みたいなものである。
……? どうして、顔を逸らすのだろう? ……嫌われてしまったか?
「もしかして、忙しかった感じ?」
「そ……そんな事っ……! 無い……!」
彼女は首の自由が著しく制限されている首を大きく振った。
ここまで大げさに否定する事も無いのに。何となくおかしくなった。
「……結構ラフな格好だね」
「そう……かな……」
微笑みながら、私は彼女の服装を見た。
まだ新しい丈の合っていないジーンズに履かれている。
そして上のパーカーに至っては、どっちが本体か不明である程だ。
何というか、灰色の皮に食べられた人間Aという感じがする。
私に見られたのが原因なのか、伊織さんは血色の悪い顔を恥ずかしそうに俯かせた。
「今日はどうしたの? 学校帰りという訳でも無さそうだけど」
「……な、なんでもない……の……っ」
「そう……なの? 顔色も何だか悪いみたいだけど、だ――――」
あまり目立たないが、震えている彼女の肩に私は手を差し伸べた。
「ほ――――ほっといてッっ!! …………あっ……」
言葉と共に手が弾かれた。
彼女は言ってから、しまったという様な表情になり、遂には泣きそうな表情になってしまった。
私は何も言えない。謝罪の言葉も、気休めの言葉すら出ない。
最初の時から彼女を大人しい子だと決め付けていた私は、彼女の思わぬ反応に声が出なかったのだ。
自分の浅はかな無神経さが、憎たらしく頭の周りを旋回している様に思えた。
「ごめん……嫌だったよね」
「違うの……! 違うっ……! ごめんなさい……ごめんなさい……」
分からない。
ごめんなさい、と呪文の様に呟き続け、彼女は弾いた私の手を握り取った。
分からない、何で彼女は謝るのだ。悪いのは私の方じゃないか。
「大丈夫だから……。あなたが悪いんじゃないんだから……何もそんなに……」
「ごめんね……。ごめんね……」
どうしよう。彼女は眼を赤くして泣き出してしまった。
小さい水の粒が、乾いたアスファルトに染みていく。
辺り一辺に散らばる好奇の眼が、私達に集まる。
「……一体、どうしたの……」
「ごめん……ごめんなさい……」
只ならぬ様子だ。辛い事でもあったのか。
表情からそれを読み取ろうにも、泣き顔からは悲しみしか伝わってこない。
顔を真っ赤にして泣いている彼女の顔を見ていたら、急にその言葉を言いたくなった。
だけど、臆病な心は喉元まで出掛かった言葉を腹の底に繋ぎとめてしまう。
言わなきゃいけない、じゃないと彼女がどうにかなってしまう。そんな予感が不意に胸を過ぎった。
何で私はあいつやあの子の様にそれが言えないんだ。
頭では分かっているのに。言わなきゃ駄目だって。
「何だか分からないけど……。私はあなたの味方だよ。詳しい事は言わなくてもいいから、苦しいなら、その苦しさを吐き出しちゃいなよ。全部受け止めてあげる。だって私、あなたの――――」
最後まで言えなかった。直前まで出掛かったのに飲み込んでしまった。
その先を言ったら、彼女がどんな反応を見せるか、それが怖かったのだ。
彼女は雨粒の様な涙を弱めると、また首を大きく振った。
「ありがとう……でも……言えない……。あなたには……あなた達には絶対に……わたしは大丈夫だから……」
そう言い、立ち上がった彼女は私に背を向け、人の群れに飛び込んで行った。
私は追いかけようとしたが、押し寄せた人波は砂を攫う様に彼女を攫い、その体を流していく。
終ぞ、私は彼女の姿を見つける事は出来なかった。
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反対側から吹く秋風にわざと抗う様にして走る。ゴミが眼に入って、眼を擦った。
風浸かるのは気持ちが良いが、よくこうしてゴミが流されるから、気を付けて走らないといけない。
気を付けると言っても、小さいゴミなんて避け様も無いのだが。
まぁ、気持ちだけでも……という安全に駆け回る時の心得である。
虫なんかが飛んでくる事もあるから、用心するにこしたことはない。
口に虫がすっぽり入った時なんて最悪の気分になる。それを避ける為でもある。
「いてぇ……」
――燐太さん、前、前――
「前? え――――うわっとぉぉぉ」
ビルの端がかなりの速度で迫る。
徐々に拡大していくガラス窓を避ける様に、俺は両足を前面に突き出し、芋虫の如く身を捩った。
ビルの角を削りながら、身をかわす。
巨大なコンクリートの塊が体の横をギリギリの線で通り過ぎて行く。
――――死ぬかと思った……。
アシが言ってくれたおかげで、ぶつかる寸前に気付いたから良かったものの、うっかり気付かなかったら、危うくハンバーグの元になる所であった。
ビル内の人間と多少視線がかち合った気もしなくはないが、その辺はご愛嬌である。
どうせ、「ビルとビルの間を少年が飛び回っている」と言っても誰も信じないから、見られても問題は無い。ケータイ構えて写真を撮るにしろ、その瞬間には消えているし、撮りようが無いだろう。
それに、ビルの間を飛んでる訳じゃない。ビルの壁や段差を利用して跳躍を繰り返しているだけである。たまに足場がまともに無いビルなどもあるが、その時はそのまま下に落ちれば良い。
自分の「アシ」はそれに十分に耐え切れる。問題はいかに着地を目立たなくするかだけだ。
跳んでる時だって人目は気にしなきゃいけないが、意外と人という生き物は、左右や地面は気にする割に頭の上に注意は向いていない。
自分が人間離れした動きをしようとも、殆ど誰も気付かない。
たとえ見られたとしても、それを信じる人間なんてほぼ居ないに等しいから、心配する程の事じゃない。
こんな危険を冒してまで、何で夜の街を疾走しているのか? 答えは一つである。
ただ走りたいから。
空は黒く、反面、地上は眼が眩む程に明るい街中を走り抜ける。
何だかそれだけでワクワクする。
走っているだけで愉しい。馬鹿とも言われるが、俺にとっては最高に愉しいんだからしょうがない。
それに昔とは大きな違いもある。
――どこまでいきやすか?――
「うう~ん、何処まで行くか? 変な所に行っちまうと帰ってこれなくなるからなぁ。そろそろ戻るか」
――この前みたいに山に迷い込むかも知れませんしね――
「あぁ……あれな……白くて大きいの……」
――得体の知れない変な白い大きな人間との追いかけっこは、かなり愉しかったですねぇ。また行ってみるのも一興では?――
「あんなのに追いかけられて喜ぶのはお前ぐらいだよ……」
――そうですか? 中々にえきさいてぃんぐ、な体験だったと思うんですが――
「エキサイティングとゆーか、デンジャラスだろ、アレ……。まぁ、愉しかったって言えば、愉しかったかもしんないけどさぁ……。でもなあ、もう山ん中を駆けずり回るのは勘弁だかんな!」
――あれ? 確か、自分であの山道に入って行ったんじゃ無かったですかい? 責任転嫁は良くないですぜ――
「そうだっけ……? ………………そうだった!」
今更になって思い出した。全て自分で撒いた種じゃないか。
藍子が、今の季節はキノコ生えているのかなー、と言っていたのを聞いた俺は、事実を確かめるべく山まで走っていった。この辺でも暫く走り続ければ山には入れる。
だが、キノコを確保した俺を、白く大きな人間がふらふらと追いかけてきたのである。そいつは尋常じゃない速さだったが、どうにかこうにか振り切った。
悪霊みたいに倒すというのもアリだったが、あんな軽く二メートルはありそうな変なのを倒す自信は無かったので、逃げて帰ってきたという訳である。
ついでに取ってきたキノコは毒キノコだった。泣いた。
――その内、昼飯を三回食べたりしそうですねー――
「まだ早ぇーよ!? そんなの年食ってからの話だろうが!」
――人生何があるか分かりませんよ? 箱を開けたら、あら吃驚。白髪のおじいさんに……――
「俺に亀を助けた覚えは無ぇぞ!? お……あれは」
――どうしましたか? 亀ですかい――
「亀引っ張るな! そうじゃなくて友達だよ、友達! とりあえず一旦降りるぞー……」
見知った顔を見掛けたので、降りてみる事にした。
一番近くのビル裏に体を滑り込ませ、一気に着地する。
衝撃は無いが、風圧が凄まじい。見えない壁を一枚一枚突き破っていく様な感覚だ。
そうして髪がぐしゃぐしゃになりながらも、俺は暗い裏路地へと降り立った。
湿った匂いが鼻をつく。心なしか生臭い匂いまでする。
俺は靴の裏をも見た。全く磨り減っていない――――とは言えないが、とんでもなく磨り減っているという事も無い。これは日常生活の範疇で磨り減っただけである。
こうして足に接している部位まで、二重存在というのはカバー出来るのだからむちゃくちゃ便利だと思う。
無機物にも二重存在が入る事を知ったのはつい最近の事で、考えてみれば、今までも無茶な走り方をしても全く靴を履き潰さなかったのは、アシが靴にも宿っていたからなのだ。
じゃなきゃ、毎週新しい靴を買う生活になってしまっていた。
二重存在は無機物ならすんなり入る事が可能らしいのだが、意思のある生物や、宿主以外の人間には入り難いらしい。
それだったら、何か包丁とかに宿して、「ソウルカリバー!」とかやってみたくなるのが人間だ。
アシに頼み込んでみたら、すぐさま断られた。
――――包丁ですかい。せめて日本刀とかにしてくださいよ。
「ソウルカリバー」……いけてると思うんだけどなァ……
かと言って、日本刀を持つには許可がいるし……審査あるし……。金無いし……。
「よし、この着地方法を『スペリオルウインドフェザーカゼハヤランディング』と名付けよう」
――いやいや、そこは『急速落下の後物理法則完全無視着地法』でしょう――
「えー、俺の方がぜってー良いって。んー、じゃあさ、間を取って、『スペリオル落下の後カゼハヤ物理法則完全無視ランディング』でどうだ」
――長いですねぇ――
「長いな。ところで、スペリオル落下とか、カゼハヤ物理法則って何だ」
――カゼハヤ物理法則だけなら分かります。カゼハヤ物理法則ってぇのは、おつむが残念な人間の頭を揺らすとカラカラと音が鳴る現象で、それが証明された初めての人間の名前を取って、カゼハヤ物理法則という名が付いたんですわ――
「なるほどなぁ、そうなのか。……ん? ……なぁそれって遠回しに俺の事馬鹿にしてねぇ?」
――気のせいですぜ――
「き、気のせいか?」
腑に落ちないが、今はあいつの方を優先するとしよう。
居なくなってなければ良いのだが。
夜になれど、石動駅前の表通りに人は多い。駅の前なのだから、混雑する時間帯はとことん混雑する。
うっかり見失ってしまっては、夜の散歩を中断した意味が無い。俺は急いで路地から抜け出した。
眼がチカチカする光の中に、無数の人が蠢いている。
一見幻想的な光景に見えたが、そんな錯覚は一瞬で消えた。
――――居た居た。
そいつの肩口を全力で叩いた。
「えっ! 何だ!?」
「よーっ! 正一!」
秋庭正一は俺と同じ制服姿で、過敏に振り返った。
「…………はぁ……もっとさ、普通に呼ぶ事は出来ないのかい? 君全力で叩いただろう……」
肩に触れながら、正一は眼を細めた。
「普通? これが普通ですが」
「どうやら、柳葉さんを呼ぶ必要がある様だ」
「うっわぁぁぁぁ! 人殺し!」
「人聞きの事を言わないでくれるかな!?」
「お前! 藍子を呼ぶなんて正気か!」
「あ、ああ……すまない……」
――――ん? やけに大きな荷物だな。
部活組が持っている様な大きなエナメルバッグを、正一は肩から提げていた。
こんな大きな荷物を持って何しに行くんだ? こいつ、部活には入って無かったと思うが。
「その荷物どうしたんだ。キャンプでも行くのか。BBQ」
「どうしたら、そういう突飛な発想が出てくるのか、僕に教えてくれるかい」
「BBQ! BBQ! BBQ! ほら、正一もBBQ!」
「え!? ……BBQ……」
「何言ってんだ、お前」
「君が言い出したんじゃないのか!?」
俺は正一に両肩を掴まれて揺すられた。
だが甘い。先程、壮絶な振動を味わった俺は振動に対する耐性が――――……。
「おおろっおろろうぇっ……」
「だ、大丈夫か! 揺すりすぎた!?」
そう簡単に耐性なんてもんは身に付く筈が無かった。
胃が三百六十度回転してる様に感じる。
「暫くは揺れるのや振動は控えよう……」
「何があったんだ……」
「色々うぇっ……。い、いやぁ、それにしても何処行くんだ? そんな荷物持って」
「……君には関係無い」
「ふうん……ま、深くは詮索しないけどさ」
「……………………」
「あ、そうだ。お前、たまには一緒に帰ろうぜ。いっつも先に帰ってるんだもんよ~。最近忙しいのか?」
「悪いな……。だけど大切な用事があるから仕方無いんだ。……君は、何で俺に構うんだ」
やけに睨んでくるな。男の子の日か?
何で構うかって言われても、困るんだけど。そんなの――――。
「友達だからだろ」
「……それは君が一方的に思っているだけじゃ無いのか。それが押し付けがましいと思いはしないのか」
しつこいなぁ、何でこんな事に拘ってんだ?
「それでも良いよ。俺が一方的に思っているだけでも」
「どうして君は――――……」
「俺はお前を友達だと勝手に思ってる。それのどこが悪い」
「僕がどう思っていても関係無いと?」
「まぁ、そうだな」
「そんなの勝手だ」
「勝手だな。でも俺はお前を友達と思っちまったんだ。しょうがないだろうが、ド阿呆」
「ド阿呆って何だ、この馬鹿」
「へへーっ! 馬鹿なんてな、殆ど毎日言われてるから悔しくねーもん!」
朝は親に言われ、その次は藍子に言われ、学校に着いて士に言われ、ホームルームで先生に言われ、ついでにクラスメートに言われ、移動教室の際にも知らない奴に言われ、メロンパン馬鹿に馬鹿って言われ……あれ、コレ苛めじゃね? い、いや……まだ辛うじて南屋には言われて無い気がするぞ……。でも……あいつ、とんでもなく成績良いんだよなぁ……。強者の哀れみってのか……。
悔しく無いって言ったけど、やっぱり悔しいかもしれない。
「胸を張っていう事か……。……本っ当~に馬鹿だ、君は……」
ほとほと呆れ返った表情で、正一は後ろを向いた。
「じゃあな、燐太。…………明日また学校で」
また、か。
「…………おうっ! じゃあな!」
正一は、するすると人の間を抜け、光る街並みに吸い込まれていった。
まただ。また、あいつのバッグが赤く光った。あれは一体なんだ?
最近のストラップは勝手に光るのか。そういうのがあっても変では無いか。
――――さて、俺も帰るかな……。……霧?
空気が心なしか白い様に見える。自分の吐いた息という訳でも無さそうだ。
この辺で霧なんて見た事が無い。珍しいな。
「なぁー? アシ。冬になって雪降ったらその上走ってみたいよな」
――雪ですかい。それも乙でしょうねぇ――
「滑らない様に頼んだぜ」
――勿論です。燐太さんは、あっしが支えますから――
今年は雪景色を見られるだろうか。
年内は無理でも、一月、二月辺りなら降るか。
自分の足に居座ってる「友達」と共に白い景観を走り抜けるのを想像したら、堪らなく愉しくなった。
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コンビニの自動ドアを通り抜けながら、俺はガラに自分の戦績を尋ねた。
「ガラ……これで何連敗だっけ?」
――二勝、十一敗、三引き分けだね。しかもその内の一勝は、私の勝利だ――
まぐれでも、あの「ゲームモンスター」から一勝を勝ち取ったのだから褒められても良い気がする。
彼女――――寧さんは闇のゲームでもやっているんじゃないだろうか。あの強さは異常だ。
「ゲ……ゲームじゃなくて、将棋だったら勝てるし……!」
――言って置くが、多分どれをやっても結果は同じだぞ。むしろ将棋の方が難しいんじゃないかね――
「もうやだ……。寧さん強過ぎなんだよ! ぶよぶよといい、マルオカートといい!」
まだ彼女の高笑いが耳に残っている。あそこまで人は残酷な笑い声を出す事が出来るのかと、俺は橋間寧という女性に恐怖を抱いた。
車に乗ると性格が変わる人が居る、というのは聞いた事があったが、ゲームをすると性格が世紀末になる人間が存在してるとは思いもしなかった。
正にゲーム脳。恐るべしゲーム脳。
CPUを相手にしているだけで、人はあそこまで強くなれるものなのか。
『一人で技を磨いてきたんです!』という彼女の背中には只ならぬ哀愁が漂っていたのは言うまでも無い。何だか聞いてるこっちが泣きそうになった。
――ゴールの直前での甲羅からカミナリのコンボは、見ていて愉しかったが――
「愉しくねぇよ! おかげで、また買出し俺が行かなきゃいけなくなっただろ! あまりにも残虐なので、寧さんには太りそうな物を買っていこうかと思います。ガラさん、何が良いと思いますか、ハイッ」
――サラダ油にバター――
「いやー……流石にサラダ油とバターはちょっと……太る前に死ぬんじゃ……」
――買わなくても、君の戸棚に仕舞ってあるメロンパンで良いじゃないか。あれも結構なカロリーだろう?――
「メロンパンは駄目だ。それは駄目だ。神が許しても俺が許さない! メロンパンへの冒涜は、極悪非道の大罪と心得ろ!」
――君が何故太らないかという方が、私にとっては不思議なんだが――
「メロンパンを食べて太る奴はなぁ……、メロンパンへの気合が足りないんだよッっ!」
――気合でどうこう出来る問題なのか――
「メロンパンを食べる時は、メロンパンに対する敬意と、深い愛情を持って挑まなきゃいけないんだ……最近の奴等はそれが分かっていない!!」
――分かりたくない、の間違いじゃないかね――
「……っと、それよりさっさと買って戻ろう。お前、何か食べたいのある?」
――私は、あのレジの上に飾ってある蟹が食べたい――
「カニカマかー、おっけー」
――それが駄目なら、隣の分厚いハムでも良いぞ――
「ガラ君、あれはな……『ギフト』と言ってだな……特別な贈り物であり、滅多に食べられない代物なんだ……。それともあれか、お前の頭の中じゃ毎日クリスマスパーティーでもやってんのか」
――葎と出逢ってから、私は毎日が記念日なのだよ――
「俺にとっては毎日が厄日だけどな。お前と記念日なんて砕いて海に撒いてやるわ」
――力が欲しいか少年。そう言ったのが馴れ初めだったね――
「そんなドラマティックな台詞、お前言ってねぇだろ。それに少年じゃ無いし」
――栖小埜葎は改造人間である!――
「勝手に改造するな! 俺は生身だ!」
「お客様、店内では叫ばないで下さい」
「あっ、すいませーん……」
自分と同じ年か、それよりも下だと思われる女の店員さんに叱られた。
かなり恥ずかしかった。
店員さんは、可哀想な人を見る様な視線を俺に送っている。
暫くはこのコンビニが使えなくなりそうだ……。
――栖小埜葎の体はメロンパンで出来ている――
「そ、それは………………ちょっと良いかも……」
――……えー……――
「何だよ! 人の趣味なんだから良いだろっ」
「お客様、日頃のストレスも分かりますが、趣味とか何とか叫ばないで下さい」
店員さんが、顔を赤くしながら俺に訴えてきた。
違う。その趣味じゃない。いや? 違わない……いやいや、やっぱ違うってそれは。
赤らめた顔の店員さんに、俺は悪い事をしたと思い、かなり反省した。
「すいません! すいません!」
どっかに穴が無いかと探してみたが、コンビニに俺が埋まる為の穴は無かった。
仕方なく、メロンパンと寧さんへのあて付けである激辛スナックを二種類と、ホタテの貝紐、そして紙パックの紅茶と妙な乳酸菌飲料、そしてガラの為に、ちょっと高めのカニカマをレジへと持っていった。
「メロンパンが一点。暴君カリグラが一点――――……」
――何でそこまでメロンパンに固執するんだね……――
「お会計、全部で千三十円になります」
「千……三十円っと」
店員さんにぴったり千三十円を渡しながら、俺は先程のガラの問いに答えた。
あのクッキー生地を見た時のときめき……それは如何様にも形容出来ない。
それ程にメロンパンとの出会いは衝撃的だった。
「俺、メロンパンを初めて見た時に胸が高鳴ったんだ……。そして理解した……これがはつこ――――」
――ランッランッランララッランランランッランランッランラララン――
「俺のメロンパンへの愛をノスタルジーなテーマで邪魔すんな!!」
――いや、何だか君が取り返しがつかない事を言いそうだったので、つい――
「お客様、こちらの店舗では『ノスタルジーなテーマ』なるものは流れておりません。申し訳ございませんが、おそらくお客様の幻聴かと思われます」
「ち、違うんです! 耳は大丈夫です! ごめんなさい!」
何でこの人、いちいち聞いてるんだ!? 暇なのか!?
店内を眺め回してみる。俺以外に客は居ない様だ。
ガランとした店内にずっと立っていたのでは確かに暇であろうが、あいつとの会話は想像以上に突っ込み所が多いので、お願いだから聞かないで欲しい。顔が火事になりそうだ。いいや、もうなっている。
……ちげーよ! ここレジの前じゃん! 嫌でも聞こえるよ!
店員さんに土下座したくなった。
「そ、それじゃあ――――……」
消え入る様な声で、俺は店員さんに声を掛けた。
「またのご来店お待ちしております。それと……他店では叫ばない方が宜しいかと……」
良い人だ……! コンビニ店員の鑑と言っても良い……!
にこりと微笑む店員さんの顔が、似ても似つかない弥勒菩薩の顔に見えた。
雰囲気だけなら弥勒菩薩級だ。俺はその懐の深さに感動した。
今度から此処のコンビニは俺のマイフェイバリットコンビニとしよう。
青白い店内を出て、冷たくなり始めた空気を吸い込む。
街路樹の色はまだ青々としているが、茶色くなるのも時間の問題だろう。
遅い秋の訪れを、冷えた空気に感じる。
本当ならとっくに秋なのだろうが、今年は残暑が厳しかったせいで秋が遅れてやってきた。
意外と季節が過ぎるのを早く感じる。
これから、もっと年月を重ねて。そうしたら時間はもっと加速していくのだろうか。
「こんばんわ、お兄さん!」
「うおっとォォ!!」
急に呼び止められたので、変な声を出してしまった。
暗がりの中でよく眼を凝らすと、何時ぞやの手品師らしき男が立っていた。
相も変わらず、喪服の如き服装だ。顔には柔らかい微笑を浮かべている。
赤いネクタイに、夜に融ける黒のスーツ。この人、まさかとは思うが、夏の間、ずっとこの格好で過ごしたのか。だとしたら恐るべき忍耐力だ。そんなにこの格好にこだわりを持っているのだろうか?
「おお……おおどろいいいいいたなぁ」
「ああ! いいリアクションです! 手品の観客には貴方の様な方が相応しい」
「えっ……!? はぁ」
褒められたみたいで、ちょっと嬉しい。観客か。時間はあるし――――見ていこうかな。
男の方に視線を遣ると、彼は変わらぬ笑顔で俺をじっと見ていた。
不気味という感じはしないし、まあ大丈夫だろう。
男は暗くて見え難いが、掌に収まる程の本を持っていて、それを俺の前に突き出している。
「あっ……」
吹き荒ぶ風に本のページが攫われ、パラパラと捲れる。同時に本の中身が断片的に露になった。
――――何だあれ。化物の挿絵?
「良い夜ですね。霧の出そうな夜だ――――。こんな夜は夢の住人が出るんですよ。……ほうら」
全ての音が静まり、男の声だけが鼓膜に鳴り響く。
風が凪いだ。捲れ続けていたページが止まる。それは気色の悪い妖精の描かれたページである。
おとぎ話の様な綺麗な姿ではない。醜く笑い、羽は悪魔のそれである。体はげっそりと痩せ細り、骨張った体をくすんだ色の皮膚が覆っている。
その妖精の眼が動いた。グルリグルリと天球儀の様に動いている。
体も動き出し、妖精は平面上で自由に動き回りだした。
蝙蝠にそっくりな羽は蝿の如く振動しながら風を弾き、その音すら聞こえてきそうである。
狂っている。挿絵が動く筈が無い。
おぞましい妖精は徐々にこちらの方に近づいて来ている。
まさか、本から抜け出すというのか。
あの気持ちの悪い妖精が現実に現れたら――――。得体の知れない不気味さが闇に蕩けている。
あぁ、こちらに来てしまう。
妖精の手が大きくページに広がっていく。
もう少しで抜け出すという所で、本は持ち主の手に因って閉じられた。
「お話の中で作っても、それはその内本物になる可能性だってあるんですよ――――」
男はそう言うと、愉しそうに笑った。
息を吸うのを忘れていた。肺に留まった空気が一気に吐き出され、楽になる。
「最近は怪談が流行っているらしいですよ? 昔私も戯れで作ってみましたが、直ぐに語られなくなってしまいましたがね――――それではまたいずれ。これ、あげます」
「へ? おっ、ちょ、ちょっと!」
男は先程の本を放り投げると、音も無く歩いていってしまった。
突飛過ぎて、引き止める気も起きなかった。
何なんだあの人……。
――素晴らしく不気味なマジックだったね――
「褒めてんのか、何なのか良く分からないぞ、それ。……でも確かに不気味だったな」
咄嗟に掴んだ本の表紙を見た。
本の題には『一から始める! 怪談マニュアル! 激闘編」と書かれている。
激闘なのか、一から始めるのか、どっちかにして欲しい。方向性が定まっていないにも程がある。
中身は捲ってみたら、有名な都市伝説やら、マイナーな都市伝説の絵が、解説付きで描かれていた。
ざっと眼を通してみたが、あのおかしな、悪魔の様な妖精の姿はどのページにも載っていなかった。
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藍子は自分の帰り道である国道沿いを、のんびりとした速度で歩いていた。
彼女の頭には、泣いていたあの少女の言葉が纏わり付き、渦を巻く。
あの子はどうして泣いていたのだろうか。
自分は何かしてしまったのか。
泣き顔を思い出す度に、ずきずきとした胸の痛みが押し寄せる。
出来る限り、家へ帰る時間を引き延ばしたい。そういう気持ちで藍子は、とぼとぼと歩を進めていた。
その時、彼女の背中をぺシンと誰かが叩いた。
反射的に身構えた彼女の前に居たのは、走ったまま何処へかと行き、勝手に姿を消した幼馴染であった。
「何だよ藍子、まだ帰ってなかったのか」
「……うるさい。無神経。察しろ、バカ」
「な、なんだよ?」
「………………」
藍子は口を噤みながら、泣きそうな顔で下を向いた。
「………………」
「お、おいっ、お腹痛いのか?」
「違う……」
彼女は一体どうしたのだろう。何で泣きそうになっているのだ?
まさか、さっき背中を強く叩き過ぎたか?
燐太には藍子が眼を濡らしている理由が、全く分からない。
おたおたと焦る燐太に、藍子が消えそうな小さな声で呟いた。
「……私、言えなかった……。あの子に『友達』って……」
「…………?」
――――あの子……? 南屋? 葎は子じゃねーし、橋間さん……とか?
友達とは誰だ? 灯の事か? 燐太は藍子の言う「あの子」が誰の事を指しているか、検討が付かない。
「あの子……泣いてた……なのに……」
「えっええっ?」
このままだと藍子が泣く事だけは、幾ら燐太といえど、理解が出来た。
――――どーしよ……。この際俺も泣いてみるとか……? いやー……それは違うか……。
燐太は悩んだ。
とにかく「あの子」が誰か? という問題は後回しだ。
要は藍子は「あの子」とやらに「友達」と言えなかったのを悔やんでいる。
それにより泣きそうになっている――――という所まで燐太は把握した。
しかし状況を整理した燐太は、藍子が何故泣いているのか余計に分からなくなってしまった。
――――なに、こいつは「友達」って言えなかったから泣いてんの? …………えっ? それマジっすか。
「お前……馬鹿だろ……」
「あんたに言われたくない……」
燐太は言い返そうとも思ったが、彼なりの思いやりで何とか耐えた。
「つーか、何で言えなかったんだよ」
「分かんない……でも、言えなかったの……」
――――別に言っても言わなくても変わんないだろ、とか言ったらビンタされるな……。
「やっぱ馬鹿だわ。あのなぁ、またそいつに逢った時に言えば良いだろうが」
「だって……」
「だってじゃねぇよ。どうせお前、変な遠慮して言わなかったんだろーけどさ、友達だと自分が思ったら、言っちまえよ。じゃねぇとずっと言えないままだぞ」
燐太は自分の言ってる事が説教臭いと思いつつ、昔の事を思い出していた。
彼の記憶では、小さい頃の藍子と言ったら、引っ込み思案の権化であった。
自ら、人の輪に入ろうとせず、遠巻きにそれを寂しそうに見ている。
手を引っ張ってやらないと、動こうともしなかった。
今でこそ、こんなだが――――根元は変わっていなかったという事か。
「何で……あんたとかは……簡単に言えるの……?」
「何が」
「だから、友達って……」
「こっちから距離を縮めないと、相手は応えてくんねぇからだよ」
「それで、自分が嫌な思いをしても……?」
「関係ない。少しだけ踏みだしゃ、応えてくれるもんだぜ」
「…………でも、私……」
「あぁああ! めんどくせーな! お前だって出来るよ! そんな深く考えんな。友達が泣いてたら、慰めてやれよ。……俺だって今、こうしてるんだから」
「友達……?」
燐太は、昔の様に藍子に手を差し伸べた。
「友達!」
「…………馬鹿っ!!」
その直後、燐太はかなり強めのビンタを頬に見舞われた。
「何でッっ!?」
自分は何で横っ面を張られたのだろう? 燐太にはそれが理解不能であった。
藍子は眼をゴシゴシと手の甲で拭い、燐太に向かって笑いかけた。
「でも……ありがと……バカ……」
――――何、何なの!? 何で笑っていらっしゃるの!? バカ? 慰めたら暴言!? …………はぁ……まぁ良いか……こいつも少しは元気になったみたいだし……だけど、ビンタは許さない。
燐太は仕方なしに笑顔を返した。
「…………あいよ。じゃあ、帰ろうぜ、っていうか……加減しろ……痛てぇよっ!」
「あはっ……ごめん、ごめん!」
――――今度は言える……と思う……いや、言うんだ……。
次は言える。そんな、まだ不安定な気持ちが彼女の内に固まりつつある。
藍子は、片頬を赤くしている燐太の背中を押し、空を仰いだ。
少しだが、雲に切れ間が出来ている。
気持ちのせいなのか、藍子には空は黒ではなく、深い群青色に見えた
次では真の話を纏めるつもりでいますが……出来るかなぁ……。
いやっ! やるよ!?
関係ないですが、最近の少女漫画が原作のアニメは面白いですねぇ。
見ているのは「隣の怪物君」とか「神様始めました」だけですが……。
どうでもいいから、早く書け?
orz …………はい。
おまけ 舞台裏
葎「寧さん! 今回の話では、俺達殆ど出番無いってさ!」
寧「マジですか!?」
葎「特に寧さんは無いってさ!」
寧「どうしてですか!?」
葎「知らないけど、三話とか、五話とか、結構出番があったから、そのバランスでじゃないかな! ちなみに俺は少しだけ出番があるってさ!」
寧「贔屓です! 主人公補正です! 断固反対です! 高校生組ばっかりずるいです! あたしだって出たいですよお! どうにかしてくだ――――」
終了




