終わりの話
次回からはまた、元の更新ペースに戻ります。
その前に色々と他のに手が付いていないので…そちらを頑張りますよー…。
あいつが来る。早く逃げなくては。
そう思っても、上手く足が動かない。縺れて絡まり、躓いてしまう。
自分の家の中なのに何をしているんだろう。
あいつはいつも夜になると来る。暗くなり、街灯や家の明かりが付く頃にやって来る。
毎夜、笑顔のまま鏡の中から自分を覗いてくるのだ。
最近は鏡を見る事がめっきり少なくなった。あいつがいつも其処に居る様な気がするからである。
一日に一度。どんなに鏡を見なくてはならなくても極力は見ない様にしている。
どんなに逃げても影の様に付き纏う。隠れても隠れても逃げ場など無い。
そろそろ時間だ。今日も来るだろう。
逃げても意味が無いと分かっている。しかし、逃げなくては――――。
自分には逃げなくてはいけない理由がある。
家族にこの話をしても、おそらく信じてくれない。
こんな事はありえない。非現実的だ。
何処に行けば逃げ切れる?。
押入れ――――。あぁそうだ。あそこなら何も見えない。あいつの顔も見なくて済むかもしれない。
だが…そんなのが通じるのか?。所詮は猿知恵。悪あがきでしか無いのでは?。
だけど…だけど…あんなのは嫌だ。
哂い声が聞こえる。
来る。
来てしまう。
押入れへと向かった。あんな声など聞きたくない。耳を塞いでも聞こえる。まるで内側から響いてくる様だ。耳にどこまでも張り付いて落とそうともがいてもその声が離れる事は無い。
暗く、四角いスペースに入る。むさ苦しい。木の匂いが鼻の奥まで届き、その匂いに妙な安堵感を覚えた。子供の頃もよく、こうして狭い場所に隠れていた。閉塞感が。暗闇が。全てを隠してくれる。
携帯電話のディスプレイを見る。まだ夜中というには早過ぎる。夕飯の時間も近い。母が呼びに来るかもしれない。あぁ、でも無駄だ。母が居ようが、誰が居ようがあいつは平然と家の中に入り込む。誰一人として気付きはしない。私だけが見えている。
妄想の世界に逃げ込めたらどんなに良いだろう。こんな思いをするぐらいなら――――。
駄目だ。それも駄目だ。あいつからそんな方法で逃げられるなら、とっくにそうしてる。
自我を虚妄に追いやったとしても、現実は直ぐに戻ってくる。現実的で無い現実が当然の様な顔をしてのさばるのだ。
あんな事するんじゃなかった。後悔しても遅い。
意識が急激に遠くなり、瞼が持ち上げられない。寝てしまいそうだ。
寝てしまった方が楽なのかもしれない。
瞼が重い。
重くて…。
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「よくさあ、怪談とかで、最後にその妖怪に捕まる話ってあるじゃん?」
「うん。最後に見つかって、それで話が終わるってやつだよね?」
「そうそう。そういうの。あれって何で最後で話が終わってるんだろうね」
「…? どういう事?」
「いや、だからさ、その手の話ってその後が無いって事だよ」
「その後って…、その後は無いでしょ。だってそこで話は終わりなんだから。見つかって…捕まって…それで終わり…じゃないの?」
「でもさぁ、その後がどうなったか気にならない?」
「そりゃあ…。でも、その辺は聞き手の解釈によると思うよ。見方次第で、死んだのかなぁ? とか、助かったのかなぁ? とか、結末は全部聞き手に投げっぱなしって言う感じになる…んだろうね」
「あれってさ、もしかしたら――――捕まった人がその怪談に出てくる妖怪になる――――って考えられないかな? だから、次の話からはその人が妖怪として出てくるの」
「意味が良く…。つまり、その妖怪はその話で追いかけられていたりする人の前に、妖怪に捕まって、妖怪になったって人って事?。…何だか、話がややこしいね…」
「そうなるね。だから、語られる怪談の中に出てくる妖怪はその前の被害者になる」
「語られない話――――前の話の主人公が妖怪になるの?」
「ん~良く分かんないや。ははッ、これ何かの受け売りだから」
「何、それ! 今までの会話は!?」
「気になったからつい」
「あぁ…そう…。…ん? でもさ、その語られる怪談の前の、語られない怪談のもっと前はどうなるの?」
「さぁ? その前にも居たんじゃない? 妖怪に捕まって妖怪になっちゃった人」
「最後まで遡るとどうなるんだろうね。最初の妖怪は一体何? って話になるし」
「…多分ね最初の妖怪って――――」
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寝てしまっていた様だ。
下着が濡れている。汗ばんで気持ちが悪い。ずっとこんな閉じきった場所に居たからか。
震えが止まらない。こんなに怖いのならずっと起きなければ良かった。
押入れの中がうねっている。自分はおかしくなってしまったのだろうか。視界が歪み、暗闇が生きているかの様に動く。
心臓がばくばくと激しい音を立て、息遣いが荒くなった。
冷たくなった汗が体の熱を奪っていく。必死で自分の肩を両手で押さえ、震えをどうにか止めようとした。当然止まる筈も無い。
呼吸が痞える。息が出来ない。黒さに溺れる。
来る。あいつが自分を探しに。
いや――――もう来てる。
押入れの中に眩しい光が差し込む。
隙間から――――。
隙間には何も――――。
あれ――――。
何も無いや。
「見つけた」
と近くで声がした。
これで、一応の話は出揃いました。
本編から遠かったり、近かったりとまちまちですねぇ…。
何はともあれ、また次回ノシ




