魂の力
今回はいわゆる説明回ですね、どうでもいいと思いますが、筆者は幽霊らしきものを見た事があります(笑)
視線の先は暗くて見えない。人影はこちらへと近づいてくる。周囲のビルの光に照らされその姿が露わになる。
「んん?あれ?」
その人物は、葎がついぞ昼間に会ったばかりの人物---真であった。右手には何故か四角い物を持っている。
「何で真さんがここに!?」
「それは後だ。先にその子を病院に運ばないといけない」
いつもの通りの静かな口調でそう言う。
「手伝ってくれ」
真が寝ている灯の体を優しく起こす。葎はとりあえず、この場は素直に真の言う通り、灯を廃ビルから運び出す事にした。
「南屋さん…意外と重いっ…!」
「…寝ているからいいが、女の子にそういう事言ったら、怒られるぞ?」
真は葎と違い、全然辛そうな感じが無かった。力の入れ方が上手いのだろう。
「ふぅ…やっぱおも---」
「そうでもなかったね」
葎の言葉を真がぶった切る。
結局、灯をビルの外に出すのに十分程かかった。男二人でもビルの五階から人一人を運び出すのは中々に骨が折れる。力が入っていない人間なら尚更だった。
外に出ると一台のワゴン車が止まっていた。真はワゴン車の運転席の窓ガラスをコンコンと軽く叩く、すると助手席の扉のロックが開いた。運転席には三十台前後の頭を丸刈りにした奇妙な人物が座っていた。
「おう、大丈夫だったかい?」
ええ、と真が答える。
「俺は何もしませんでしたけど。今回二重を倒したのは彼です」
真はチラリと視線をこちらにやる、それと同時に運転席の人物も葎の事をまじまじと見つめる。
「へぇ?でもこんな顔の奴知らないぜ?新入り?」
「いえ、彼はまったくの一般人ですよ……どうやら二重憑きみたいですけどね」
「そりゃまた…何というか…なぁ」
丸刈りの人物は物珍しげに葎を見る。
「すみませんが、彼女を病院にお願いします。彼への説明は俺がやりますから」
「おお、すまん。この子か最近この辺で暴れていた奴は」
そうです。と真は言い、その後でいたずらっぽく笑う。
「とびっきり、凶暴な奴ですから、気を付けてくださいね?住職」
それを聞いて、運転席の人物は顔を青くした。
「脅かすんじゃねぇ……」
「大丈夫ですよ。……多分」
「多分かよっっ!!」
心配そうに丸刈りの人物は声を上げる。
真はその反応を見て楽しんでいるようだ。
「ほらほら!早くしないと」
「お前なぁ…」
いつもより、真さん楽しそうだな…と葎は思った。職場では彼は真のこういう姿を見た事は無かったので、新鮮な感じがする。
それじゃあ宜しくお願いします。と真が言い、車のドアが閉まる。手前でUターンをして車は反対方向を向いた。運転席の窓が開き、先程の住職と呼ばれた男が葎を呼び止めた。
「お~い!そこの君!今回はお手柄だな。誰だか知らないけど感謝しとくぜ!」
「え……あっ…はぁどうも…」
いきなり呼び止められたので、若干萎縮してしまう。
男性はそんな葎を気にも留めず、ははははと豪快に笑った。
「真の事頼むぜ?こいつ偏屈だからよ!」
「ええっ?ちょ…えぇー?」
丸刈りの人物は言うだけ言うと、んじゃあなぁ~!と言い、それと共に元気良く車は走り去って行った。嵐のように去っていったな…あの人。
呆けている葎に真は俺達も行こうと言って、とりあえず真の店に行く事になった。
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「では…何から話そうか?」
店の裏の一角、真の自室に二人は居る。出されたお茶を飲み、少し落ち着いた時に、真が話を切り出してきた。
「…今日の、南屋さんの中に居た奴…アリカ…っていうか、まぁこれは俺が勝手に名前付けたんですけど…。アイツや俺の中に居る奴は一体何なんですか?」
ああ、まずはそれからか。と真は言った。
「あれはね、二重存在というものだ」
「二重存在?それって二重人格みたいなものですか?」
「いや、それとは違う。二重存在っていうのはね、こう、魂ってものがあるだろう?」
真は両手の人差し指の先を軽く、くっ付けた。
「魂…ですか?」
「ん?君は信じないタイプか?…まぁ、あるものと、しといてくれ。…で、これが一つの魂」
真はさっきの手の形を葎に見せる。
「二重存在というのはね…この魂が未熟な時に、分離したものが強い感情によって、成長したものなんだ。」
真はくっ付けた指を離す。
「大抵の人の二重存在は目覚めないんだが、重大な出来事、そして強く感情が引き出される事によりこの」
離した片方の手を真は示す。
「片方が急激に成長する。そうするとね、一つの体に二つの魂が同居する事になる。つまり違う人格が形成されるのでは無く、魂そのものが二つに分かれてしまうんだ」
「それで…その二重存在が目覚めると、どうなるんです?」
「…まず、体のリミッターが外れて身体能力が飛躍的に向上する。聞いた事あるだろう?人間は体の力の殆どを発揮出来てない…ってね。それと、当然と言えば当然だが、意識が入れ替わったりする。入れ替わるタイミングは二重存在の任意みたいだが、ずっと表に出続ける事は不可能なみたいだね。そして、入れ替わっている間の記憶は上手く改竄されてしまう---とこんな所か…」
真の話を聞いていて葎の頭の中に浮かんだのは、‘アリカ‘のあの身のこなしだった。身体能力の強化…確かにそれなら説明が付く…。しかし…二度目に‘アリカ‘が出てきた時の地面を砕く程の力、それで傷一つ付かない体…それらは単に身体の強化だけでは納得がいかない。
「真さん、南屋さん…もとい、アリカがあんなに暴れたにも関わらず、南屋さんが全く怪我をしていないのは何故です?」
「彼女のは特殊な例だ。まぁ…君もなんだけどね…。二重存在の魂が極めて強い意志や自我を持っていると、稀に魂が表に出るんだよ」
「魂が表に出る?いま…いち分かんないんですが…」
「…これは見せた方が早いね。じゃあ、これ……見ててくれ」
そう言って真はライターと一枚の紙を取り出した。
何をするのかと、葎が見ていると、いきなり真は紙に火を点けた。
「何を---」
「大丈夫だから、見ていなさい」
すると、真は火を点けた紙を空中に放った。本来なら普通に床に落ちるだろう。しかし、紙は燃えたまま空中に浮遊し続けていた。
「!」
「…こんな所かな?よし、もういいよ」
真が一言そう言うと、紙に点いていた火は消え、火が消えた紙がハラリと下に落ちた。紙は全く燃えていなかった。
「今のはね、この紙に霊体を乗り移らせて、紙に点けた火を増幅させたんだ」
「…マジっすか?」
「本当はライターの火なんかはいらないんだが、紙に乗り移っていた奴に一から火を点けさせると、この部屋が火事になるからね……」
「…………………これって手品とかじゃ無いんですよね?」
勿論だ、と言い、真はお茶をすする。
「魂は一つのエネルギーだと思ってもらえたらいい、さっきのはそのエネルギーを燃やしたという事だ。
エネルギーと言っているが質量を持つのだけどね。それで彼女---いや彼か。……の場合はそのエネルギーが体の表面に出て、体を覆っていた…調度、鎧を全身に纏うようにね。だから彼女の体は一切傷つかなかった、つまりはそういう事さ。」
葎は最初、この目の前の男の言う事を信じていいものか半信半疑だったが、ここまで見せ付けられては、信じるしか無かった。
「更に特殊な例だが、二重存在そのものが具現化するドッペルゲンガーと言われるものもいる。本当にまれだがね。見た所---君も特殊なタイプみたいだね」
以上だ。と言い、真は話を終えた。
「あの~二重存在の事は何となく分かったんですけど…それじゃ、真さんは何者なんです?」
「俺はJRPC…日本霊能者及び、宗教連合って所の会員で、たまにこういう関係の問題を解決してる。勿論こっちの店が本業だけどね。まぁ…協力要請があれば手伝うって感じだ」
「はぁ…」
葎の反応を見て真は苦笑する。
「…確かにいきなりこんな事、理解しろって言う方が無理だが、でも真実は君が見た通りだ」
…確かに真の言う事はある程度、筋が通っている。しかし、いきなりの出来事が多すぎて、頭の理解が追いついていかなかった」
それでね。と真が口を開いた。
「今回の彼女の件…実はこれ以外にも最近この地域で似たように、二重存在が発生する、という事例が多く発見されていてね…俺が一番近いから…と、この件の担当に指名されたんだ。しかし…俺と二重存在の相性は最悪なんだ…下手をすれば、二重存在ごと体を傷つけてしまう可能性がある。でも、君は今回あの彼女を無傷で助けただろう?その力を---貸してくれないだろうか?」
「えっ…でも…俺、何がなんだか分からないし…」
「無理強いはしない、無理も無いからね…」
「……………………一日…一日考えさせてもらえないですか?」
「…わかった…ゆっくり考えてくれ。今日は悪かったね」
「いえ…真さんのせいでは無いですし、とにかく頭の整理をしたいんです」
「そうだな、それがいい。」
話を終え、葎は自宅に戻った、帰り道も先程の出来事が頭の中で渦巻いていた。
「とにかく、寝よ…すげぇ疲れた」
目を閉じ自分の中にいた存在を考える。彼は自分の味方なのだろうか---それとも---
すでに彼は眠りに落ちていた。
次は葎の中の‘彼‘中心に進めようかな?
感想お待ちしてます!…あきらめないさ!




