違っている話
久しぶりのひきこさん。
知っている人は知っている。知らない人は憶えてね。
ひきこさんは、うっかり人を引き摺り殺しちゃう女の子。今日も子供を見つけては、引いて、引いて殺しちゃうの――――。
ってな感じじゃ駄目ですか。駄目ですね…。
七話本編で出てくるかは………(お察し下さい)
「ひきこさんって知ってる?」
「唐突だね…聞いた事はあるかも…。だけどあんまり良く憶えてないよ」
「ごめんごめん。何かね、その噂を今日聞いたから…ちょっとだけ話したくなったんだ」
「聞いたって、そんなに有名なの? それ。どういう話だっけ」
「う~ん…そうだねぇ…。聞きたい?」
「思わせぶりな事言ってないで聞かせてよ。気になるでしょ?」
「よーし。分かった、話す。ひきこさんって言うのはね…」
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昔々、ある所に一人の女の子が居ました。
女の子は優しくて、先生の言う事はしっかりと聞き、成績も良く、皆からも可愛いと言われる、何一つ非の打ち所が無い女の子で、当然の如く皆の人気者でした。
だけど、その内彼女の事を妬ましく思う人間が出てきました。
何であいつは可愛い。
何であいつは頭が良い。
何であいつは先生に信頼されている。
何であいつは優しい。
ずるい。そんなの不公平だ。むかつく。そうだ、苛めてしまえ。
妬ましいという感情は、その内苛めという形で女の子を襲いました。
理不尽です。理不尽な嫉妬です。女の子は自分が悪い訳でも無いのに苛められる様になりました。
最初は靴を隠される、仲間外れにされるぐらいの軽いものでした。でも、次第にそれは過激な暴力になっていきました。
先生にも言いました。家族にも言いました。相談出来る人には、皆相談しました。
誰も助けてくれません。何もしてくれませんでした。
殴られて、髪を引っ張られて、引き倒され、廊下に寝転んだ女の子を苛めっ子達は面白がって引き摺り始めます。
痛いよ。そんな事しないで。
言っても止めません。それは毎日続けられます。
ある日、廊下に折れたカッターの刃が落ちていました。
その日も女の子は廊下で引き摺られました。
もう止めてよ。痛いよ。あ、危ない。
彼女の顔に何かが刺さります。それはカッターの折れた刃でした。
女の子の顔には一生消えない傷が付きました。綺麗な顔に傷が付いたのです。
憎い。自分をこんな顔にした奴が憎い。何でこんな目に遭わなきゃならない。不公平と言われた。ずるいと言われた。そんなに羨ましいか? 今の自分を見てもそう言えるか?。
だったら――――。
同じ様に引き摺って、引き摺って、引き摺り殺してやる。
女の子は子供達を捕まえて、赤い塊に見えるまで引き摺る様になりました。
引き摺られた子供達はまるでボロボロの人形の様に見えます。
そして、女の子は殺した子供を家に持ち帰り、集めるようになりました。
女の子は「ひきこさん」という妖怪になってしまいました。
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「………もう直ぐお昼だよ? 欝な気分にさせて、愉しいお昼の時間を邪魔する気?」
「いやいや、そんなつもりは全く無いよ。今日はおかずは何? 少し分けて貰えたら嬉しいんだけど」
「…む…集るつもりか…。さっきの話だけどさぁ…つまり…苛められてた女の子が『ひきこさん』って言う妖怪になって、苛めっ子に復讐をしたっていう話?」
「ん? 違うよ?」
「え…でも、話の流れはそうなるよね…?」
「説明が足りなかったけど、『ひきこさん』は苛めた子達には復讐して無いんだ」
「じゃあ…誰を引き摺ったの?」
「関係無い子達」
「…おかしくない?」
「おかしいね。何で苛めた子じゃなくて、関係の無い子に復讐したのか――――。『ひきこさん』はどうもまだ苛めっ子が怖くて、復讐出来ないでいるらしいよ? だから代わりに関係の無い子達を襲っているんじゃないかな」
「いや…それ…復讐する相手間違ってるし…」
「だから、まだ怖いんだって。苛めた子の存在っていうのは、まだ『ひきこさん』の中で自分よりも上の位置にあるだろうねぇ。逆らえないし、逆らったらまた苛められるって――――そんな風に思っているんるんだと思う」
「とんだ、とばっちり…」
「怪談の中の妖怪に常識を求めちゃいけないよ。そんな事言ったら、『ひきこさん』が連続殺人犯になっちゃうし、細々した事にも突っ込まなきゃいけなくなるでしょ。警察とか親は何をしているんだ、とか」
「怪談だしね…」
「そうそう、『ひきこさん』にはちゃんと対処法があるんだよ。鏡をこう――――見せてね、『ひきこさん』に自分の顔を良く見せるんだ。そうすると逃げるらしい」
「…余計に怒りそうだよね、それ。いや、絶対怒るわ」
「ところがどっこい、怒らない。他にも、対処方はあるってさ。話自体にもバリエーションがあるよ」
「へぇー。実際会ったら怖いだろうね…それ…」
「だね。…この話ってさ、苛められた人間が作った話じゃないと思わない? だってさ、苛められてる人間だったら、間違い無く苛めっ子を引き摺り殺すって話になるでしょ?」
「言われてみれば、じゃあ誰が? 苛めっ子?」
「違う違う、これを作ったのはおそらくその他の人間じゃないかな? 苛めっ子でも、いじめられっ子でも無く、それ以外の人」
「また、何でそんな事をする必要があるんだ…?」
「さぁ分かんないね。もしかして、自分が話の当事者になれないから…とか?」
「適当だなぁ…」
「でもね、いじめられっ子が作った怪談なら、苛めっ子は殺されちゃうよね」
「そう…だね…。…あ、さっき、この『ひきこさん』の噂を聞いたって言ってたけど、あれは?」
「あぁ、それ? 何かねぇ、この近くでも『ひきこさん』が出たらしいよ? それも、苛めっ子を殺す方の」
「それってありなの? その他の人間を殺すんじゃ…」
「だってさぁ、語り手が違えば、語られる話も違うよ。噂である以上話はどんどん変わっていく、だから怪談にはバリエーションがあるんだよ。こっちの『ひきこさん』は苛めっ子を殺す方なんじゃない? で、作ったのはいじめられっ子」
「う゛怖くなった…どうしてくれる…。良かったー…誰も苛めてなくて…」
「暖めようか?」
「そんな事よりお昼」
「スルー…」
最近は雨が続いてますが、見て頂けてる皆様も体調にはお気をつけくださいね。
それでは、また次回!




