壱の話
ピエロ? 厨二病? そうですかねぇ…。
俺、ピエロって結構怖いと思うんですよ…。
まあ、怖がる様になったのは、昔の奇跡体験アンビリーバボーの、ピエロの話を見てからなんですけど…。
今日、友達が妙な話を聞かせてくれた。
それは友達の家にある鏡についての話。
友達の家には一台の大きな見鏡がある。とても大きいので自分や友達など、楽々と納まってしまう。
それは、自分も一度だけ見た事がある。淵は掠れた金メッキのこびり付いた金属で出来ていて、鏡面はピカピカと輝き、体小さな自分達なんて中に吸い込まれるのでは無いかと思う程大きい。重そうな感じがする鏡だ。
そう、自分が見た時も何も無かった。変な所なんて何一つ無い、ただの鏡。
友達が言うにはそこから道化師が出てくるそうだ。
始めに聞いた時、彼は何かに影響されて、少し痛々しい子になってしまったのかと思った。
道化師なんてサーカスにしか居ないし、そもそもこの辺りに最近サーカスが来たなんて、僕は聞いた事が無い。来ているなら、多少なりとも話題にはなっている筈だ。
良い言い方で言えば、想像力溢れる夢見がちな男の子となる。だけど、小学校高学年で 、しかも男が夢を見ても何だか滑稽に映るだけだと僕は思う。
それを言ったら、お前捻くれてるな、と言われてしまった。そうかなぁ?。
とにかく、友達は本当に見たらしい。それも家の中で。
それはおかしい。だって、家の中に道化師が居る訳が無いんだもの。僕だってテレビの中でしか見た事が無い。それが家の中に居るなんてありえない。
友達のお母さんは何か言わなかったのだろうか。白塗りで、変な格好をしていて、表情が判らない変な人間を家に招き入れるなんて、嫌だし、変だ。
だから聞いた。お母さんは何も言わなかったのかと。
お母さん? ううん、知らないよ。だってその人、夜に来るんだ。
と友達は言った。益々おかしい。夜にそんな変てこな人が堂々と入ってくるなら、家の人が気付かないものか?。知らない間に入ってくるなんて泥棒じゃないか。
作り話。それしかない。普段からませていると言われている僕は彼の話に付き合う事にした。
これでも後数年経てば大人だ。それぐらい出来る。まぁ…ほぼ十年に近いが…。
話を聞くと言うと、彼は顔を綻ばせた。
お母さんや、お父さんに言っても信じてくれないから、と彼は言った。
それはそうだろう。子供の戯言だと誰だって思う。
話してよ、と僕は言う。
彼はとても嬉しそうにうん、分かったと言った。
そして友達は話を始めた。
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また眠れない。
寝ようとすればするほど余計に眼が覚める。
羊を数えても駄目。温めた牛乳も、漫画を読んでも駄目。何をしても駄目だ。
静かな部屋で眠れないまま寝転んでいると、何だか不安な気持ちになる。
このまま眠れないのかも。ずっと眠れなくて、その内…。
黒い空間に居ると怖い話を思い出す。意外と覚えている。それが何故か頭で再生される。怖くなって電気を付けて、また消す。
眠れない。どうしよう。
お母さんに言ったら、自分も子供の頃はそうだったと言われた。眼を閉じていればその内寝れるから大丈夫だと――――そんな事言ったって、眼を閉じても眠れないから困っているんじゃないか。
眼を閉じても寝られない。耳が冴えて、キンキンとした音が鳴る。
ゲームでもしようか。でも眼は疲れている。頭が痛い。
――――眠れナイノ?
そう、眠れないんだ。眠りたいんだ。
誰の声?。
――――無理にネナクテモイイジャナイ。
だけど、寝ないと明日起きれない。
――――ボクと遊ぼうヨ。
お前…誰?。
――――ミテノ通りピエロデス。
疲れ過ぎて、夢でも見ているんだな。
そっか。ピエロは何をするの?。何で俺の所に来たの?。
――――夜更かししている子供と遊ぶんダヨ。キミは夜更かししているデショ?。
夜更かしじゃないって。眠れないだけだ。
暗い部屋にそいつの悲しい様な笑っている様な顔が浮かぶ。
本当にピエロだった。夢か?。
――――眠れないなら、ボクと遊ぼうヨ。きっと楽しいヨ?。
緑や赤のぼんやりとした光が跳ねる。光に照らされ、ピエロの体がくっきりと見える。
ピエロは紫の服に赤い水玉のぶかぶかとした服を着ている。頭には尖った帽子を被っていて、先っぽには服と同じの赤い玉がくっ付いていた。それは鼻にも付いている。
ピエロの顔は白くて、涙のマークが眼の下にある。それが泣いている様に見える。
赤い口が笑う。ピエロは体を深く曲げ、畏まってお辞儀をした。
――――さアさア、楽しいサアカスの始まりダヨ。
ピエロがくるくると舞う。
――――まずは手品でもミセマショウ。
手から花をぽんぽんと出していく。部屋が埋まっちゃうんじゃないか。
凄い速さで花は手から飛び出ていく。だけれど、途中で花じゃなくてゴムで出来たおもちゃの鼻が出てきた。ピエロはいかにもしまったという表情を作った。
思わず笑う。くだらないけど面白い。
――――お次は曲芸デスヨ。
狭い部屋なのに何故かトランポリンが現れる。そこへピエロは側転しながら飛び込んだ。
ピエロは器用に跳ねる。色んな格好で。時には片手でも。楽しそうな様子で飛び跳ねる。
ああっ、でも調子に乗ると。
そらみろ、頭をぶつけたじゃないか。
いきなりトランポリンが弾けて消えた。
頭をぶつけたピエロは、床へと落ちて、まぬけな顔できょろきょろと顔を動かす。おどけた仕草だ。
――――シッパイ失敗。おや、コレで最後にシナイとイケナイ。
光の玉がピエロの手に集まる。それをピエロはひょいと投げると、お手玉をし始めた。
綺麗な光る玉が宙を飛び交う。単純に投げるだけじゃなくて、背中の後ろで玉を取ったり、不規則な投げ方で投げている。後ろに一回転しながら取ったりするので飽きない。
黄色、青、赤、緑、ピンク。色んな色の線が空中にリボンの様に絡む。
最後に全ての玉を投げると、光の玉は溶ける様に宙に姿を消した。
――――以上デス。愉しかったデスか?。
うん。とっても。まだ見たいよ。
――――鏡の中ナラもっと見れるヨ。
鏡の中?。
――――ソウ、ボクはあの中からキタンダ。
ピエロは、最近俺の部屋に来たばかりの大きな鏡を顎で指した。
あの中から…?。
――――来たい? 鏡のセカイに?。
行ってみたい。とっても行ってみたい。
――――じゃあ、明日ムカエに来るヨ。
本当に?。
――――ヤクソク。これをアゲル。
さっき投げてた、光っている玉を渡された。黄色い玉だった。
ピエロの口紅を引き過ぎた唇が歪む様に笑った。
――――ヤクソク…だからネ?。
そう言って、ピエロは鏡の中に消えた。
その後はぐっすりと眠る事が出来た。
朝になって枕元を見ると、光らなくなっているプラスチックの黄色い玉が置いてあった。
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その時は嘘だと思っていた。
眠れなかったら、道化師が現れて? 芸をし始めて? 明日また来るとそう言った? って事?。
信じられない。十中八九嘘に聞こえる。
彼に親を呼ぶという選択肢は無かったのだろうか。それは不審者だ。
にしても、明日と言ったという事は、その後来たのか?。
聞けば、それは昨日の出来事らしい。
でも、それをどう証明する。そういえば、ボールを貰ったと言っていた。
僕は彼にそれを見せて貰えないかと聞いた。彼は今も持ってると言い。どこから出したのか、本当に黄色いボールを僕に見せてきた。
手の込んでいる。そこまでするか。
僕は彼の瞳を見た。何だかぼんやりとしていて、夢でも見ている様な瞳だ。それを見た途端、気味が悪くなった。
本当…では無いよな?。嘘だよ、これは。作った話だ。
彼にそいつは今日来るって言ったけど、本当に行くのかと聞いた。
夢心地の友達は嬉しそうに頷いた。
学校のチャイムが鳴る。休み時間も終わり、授業が始まる。
それじゃ、と彼は言いながら、自分の席に戻った。
僕はそれから、帰るまで一日中彼と話す機会は無く、そのまま帰った。
本当の事を言うと、彼が言っている話が嘘だとは思えなくなっていたのだ。
ありえないのに、生々しい。本当にあった出来事を話されている様な――――。
翌日、彼が病気で暫く休むという話を聞いた。
あれから何ヶ月も経つ。でも彼が来る気配は全く無い。
もしかして、あの道化師が――――本当に。
一言だけ言えば良かったのだ。それなのに僕は止めなかった。
彼に行くなと言えば良かったのに。
でも、僕はあの時、彼にその言葉を言えなかったのだ。
これらの話は本編に入る前の前座? です。
では、また!。
七話が終わった後に、それぞれ解説するかも…。
しなくても大丈夫な様にしたいですが…。
一つはとっくに前の話で出てるし…。




