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duplices  作者: rakia
35/71

最初の怪談

 短い? そうですか? 気のせい気のせい。…じゃないんですね…。

 その内、それぞれの話の意味が分かってくると思います。

 それでは直ぐ読み終わってしまう、七話目始まり。

 

 

 いじめられっ子は、本を読むのが好きだった。

 本は人間みたいに苛めない。本は人間みたいに自分を仲間外れにしない。

 色々な国、色々な人、色々な時間に本は自分をいざなってくれる。

 妄想と言われても、虚構と言われても、いじめられっ子は本の世界に逃げ込むのを止めなかった。

 苛められる度にいじめられっ子は紙の中の渦へと飲み込まれていった。

 現実の様に自分を虐げる世界よりも、本の作り出す優しい世界の方がいじめられっ子は好きだったのだ。いじめられっ子の現実(、、)は何時しか本当の現実から、本の中の世界――――作られた世界へと摩り替わっていった。そしていじめられっ子にとっての現実(、、)はついに本の中の世界となった。

 ここでは自分に辛く当たる人は居ない。全員自分に優しい。だが――――物足りない。

 それは自分と対等に話せる相手が存在しなかったからである。本の中の想像物は所詮、自分以外の人間が想像し紙に起こしたモノである。自分が作ったモノでは無い。他人の考えたモノだからか、だから物足りなく感じるのか。此処には自分が望んだモノは無い。

 いじめられっ子は考えた。望むモノを作りたいなら自分で作ってしまえば良い。それなら自分の思い通りに出来る。その願いに邪な思いなど、一縷も混じっていなかった。純粋に自分だけの友人が欲しかった。

 幸いにも紙の世界は現実の世界と違って、紙に文字を書き殴るだけでその姿を変えた。既に現実と虚構の境界線が消えているいじめられっ子にとって、それは世界が変わるに等しかった。

 いじめれっ子は最初に自分にそっくりな人間を創造した。まずは人が居なければ始まらない。そんな単純な思いからだった。自分にそっくりなそれ(、、)は直ぐに自分と馴染んだ。それもそうだ。それ(、、)は自分自身を書き写したものなのだから。いじめられっ子の生み出したそれ(、、)は、いじめられっ子自身の写し身として作り出した世界の中で動き回る様になった。

 いじめられっ子は次々に「話」を生み出した。作り出した数だけ、心の中の満たされない部分が満たされた様な気分なったのだ。

 いじめられっ子は自分の世界を知って貰いたくて、それを広める事にした。いじめられっ子の作った話は火の付いた様に広まり、それは「噂」となり、様々の人々に語られるものとなった。

 だが、次第に現実が戻ってきた。

 本当にこれで良いの?

 本物の人と関わらないで良いの?

 これは全てまやかしじゃないか。

 何時までも自分の殻に閉じこもっているだけじゃないのか。

 自分は何をやっているんだろう。

 やってきた全て、書いていた全てが虚しく思えた。                 

 いじめられっ子が何故そう思う様になったか。それは、いじめられっ子を悩ませていた苛め自体が収まってきたからである。沈静化を辿る苛めに比例するか如く、いじめられっ子の空想世界への情熱も次第に冷めていった。

 苛めは、苛めという程のものでは無くなり、いじめられっ子はいじめられっ子では無くなった。

 渇望されていた新しい話は作られず、いじめられっ子の作った話は違う人間達によって続きを描かれた。「噂」一人歩きを始め、いじめられっ子は自分で作った話に見向きもしなくなった。

 一人で歩き始めた「噂」は止む事の無い雨の様に作り続けられる。いじめられっ子の作り出した「話」は「怪談」へと変貌し、一度始められた「怪談」は終わる事が無かった。

 煙の様な実体の無かった怪談は、人々に語られる内に凝固し、実体を持ったのだ。

 それはいじめられっ子が望まない形の残酷な怪談へと変貌を遂げた。

 いじめられっこ子の怪談は不思議でこそあったが、人が死んだり不幸になる内容では無かったのに。

 暫くして、いじめられっ子の元に一人の人間が現れた。

 戸口を叩く音を聞いて、真夜中にも関わらずいじめられっ子は玄関まで出ようと何故(、、)か思ってしまった。両親が気付いても良い筈なのに戸口を叩く音に反応したのはいじめられっ子だけであった。

 

 ――――始めまして――――いや、初めてじゃないか。


 ――――誰だ? お前は誰だ。何故、何故自分と同じ姿をしている。


 ――――だって、お前が作ったんじゃないか。お前が考え、お前が書き、お前が語ったんだ。


 ――――あれは、全部妄想だ。本当に居る訳が無い。悪戯なら止めてくれ。


 ――――悪戯なんかじゃない。ほら、見てみろ。外だ。


 外? 外に何があるというのだ。

 恐る恐る、いじめられっ子は自分にそっくりなそれ(、、)の背後から覗く僅かな扉の隙間から外を覗いた。

 これはどういう事だ。

 外にはおどろおどろしい姿をしている者達が、まるで百鬼夜行の如く闇にその姿を現している。

 思わずそれ(、、)を押しのけ、外に飛び出た。

 夢か。夢では無い。現実か。現実だ。

 悲鳴が聞こえた。それは自分の悲鳴である。常識の範疇を超える異常な夜の光景にいじめられっ子は耐えられなかったのだ。

 誰か。誰か来てくれ。これは――――こんな事ある訳が無い。

 絶叫が幾ら響き渡ろうとも、誰一人として起きる気配すら感じられない。

 悲鳴を聞いていたのは、化物達だけだった。みるみるいじめられっ子に視線が集まっていく。

 自分を創った人間を。自分を語った人間を。様々な瞳が見据える。

 眼が三つある者。そもそも眼があるのかも分からない者。それらの眼が全て自分だけ(、、、、)を見ている。

 

 ――――ねぇ。


 背後から肩を叩かれた。玄関の扉は閉まっていて、其処には自分の姿を写した何か(、、)がこちらを見て笑っている。鏡を見ている気分になる。だが違う。自分は笑ってなどいない。鏡などではない。それ(、、)は確かに其処に居る。自分に瓜二つな笑顔で――――黒く、不気味な笑顔で――――。


 ――――あ…あぁ…あああぁ…ぁ。

 

 ――――お前も怪談になるんだよ。お前は――――になるんだ。


 ――――嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。そんなのは嫌だ。


 雲に隠れていた月が顔を覗かせる。黄色い光に照らされたそれ(、、)の表情が陰影を持ちながらも鮮明に見える。何とおぞましい笑顔なのだろうか。これが自分の顔なのか。

 恐怖がガスを入れ過ぎた風船の様に急激に膨らんでいく。


 ――――新しい「怪談」を始めようか。



 光が消える。



 ある意味ネタバレにもなりますが、duplicesという物語中では葎の話は一話目から続き、真の話はとっくに終わっていて、燐太の話は二話目と、四話目、六話の二編目からスタートして、今回の話で終わり? ます。

 何の事やら?。さて何の事でしょう。

 では次の怪談で。

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