存在意義
三話目です。きっと誰か見てくれていると、頑張ります!
コメント出来たら欲しいな~なんて…すんません調子乗りました。
彼が最初に灯に抱いた感想は、「なんて馬鹿な娘なのだろう」というものだった。
彼は彼女から生まれた者だったが、彼と灯の性格は似ても似つかない。
怒りっぽい「彼」と違い、彼女はおっとりとしていて、尚且つ馬鹿が付くほどのお人好しであった。
何をやっても失敗ばかりしていて、それにもめげない彼女、困った人に手を差し伸べなければ気が済まない彼女、そして―――いつも笑顔の彼女。そんな灯に心を惹かれるのは、そう時間はかからなかった。
通りかかった子供の玩具が壊れたのを直そうとして、更に壊してしまった事もあった。
「ありゃ? こっ壊れた…? いや…お姉ちゃんが絶対直しますからねーー!」
「もういいから! これ以上壊さないでぇーーーーー!」
――馬鹿だろ…こいつ――
道を聞かれて、自分自身が迷った事もあった。
「あっれぇーー? おっかしーな? …どこですかねここ?」
「私が知るはず無いでしょう!?」
――道聞いてきた奴に、道聞いてどーすんだよ…――
老人をおぶって階段を登ろうとして、腰を痛めた事もあった。
「おっ…婆ちゃんっ…もうっすぐでっ…っす…ふんぬ…ウッ! 腰が…!」
「お嬢ちゃん…? お嬢ちゃん!? 生きてるの!?」
――死んでるな…――
それでも毎日コロコロと表情を変える彼女は見ているだけ飽きる事はなく、まるで年の離れた不出来な妹が出来た様で、自覚は無かったが少なからず彼は嬉しかったのかもしれない。
賑やかな日々がずっと続くものだと彼は信じたかった。
だが――――そんなある日。
灯がいつもの近道を通っていると、それは起きた。
あまりに突然の事で彼も最初は理解ができなかった。
――今日は何だ………よ……?――
一人の男が灯に覆いかぶさっている。
何だこいつは? 灯に何をしている?
男を見ていると胸焼けのように胃の辺りがムカムカする。すごく居心地の悪い感覚だ。
そいつの表情が彼は気に障る。爬虫類のように相手を舐るような表情―――嫌な予感がした。
「やめっっ…むがっ…」
口を押さえられ、男に馬乗りにされ、彼女は身動きが取れなかった。上着が無理やり脱がされる。
「やめ…て」
――何する――――!?――
「大丈夫、痛くしないから…へっへ…」
カチャカチャと金属音がする。男がベルトの金具を外しているのだ。
ふつふつと怒りが沸いてくる。
止めろ…そいつから退きやがれ…!
「うるせぇ! じっとしてろ!」
どうすればいい…どうすれば…!
苛立ちだけが募る。
灯は嗚咽ににも似た声を出すが、「彼」以外に届かない。
このままでは彼女の心に一生の傷が残ってしまう。そう彼は理解した。
何してんだよ…? 退け、退け…! 退け! 退け!!退けよ!!! 早くそいつから退け!!
「ンーーー! ンンーーーーーー!!」
そして―――初めて彼女の涙を見た時、彼の中の何かが切れた音がした。
……………………………………殺す!!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すッ!!!!
「何だ? ようやく大人しく――――…!?」
パキ…
何かが折れる音がした。
灯の手が男の手を握り潰している。
「…退け…俺がてめぇを楽しませてやるよ……死ぬまでなぁぁぁ!!」
「お…お前ぇ…誰だよッ!!…やめ…グ…ベッっ!」
「はははっはははっはははは!! どうだ? 楽しいか? 楽しめよォ!? ほらぁぁ!!」
鈍い音は次第に湿った音へと変わり、悲鳴が聞こえなくなる代わりに狂った笑い声が大きくなった。
灯の両手は男の血にまみれた。
「ははは!!! はははは! ひはは! ひひひ………はは……はは…………間に合った……」
血溜まりの中で呟く。灯を襲った男は顔がグチャグチャで生きてるのかもわからない。
灯は気を失っている。彼が無理やり出てきたせいだろう。
倒れている男を蹴り飛ばす。何度殴り、蹴ろうとも彼の憎悪は収まることが無い。
もう二度と、こんなひどい思いは、絶対に彼女にさせたくない。いや、させない。
彼女の記憶を消し、彼は誓った。
こいつは俺が守ろうと。
渦巻く憎悪と共にそれが彼の存在意義になった。
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「ふむ、決まったな私の決め技が!」
――いや、今の決め技とかあんのかよ。つーか俺の顔でドヤ顔しないでくれよ…――
「何を言ってるんだ!? 決め技を持つ事が紳士のステイタスじゃあないか」
葎の体で誇らしげに胸を張る。
――…そうかよ……――
呆れて何も言えない。
何だかこいつと居ると疲れる…、と葎は思った。
そんな事より。と葎の中に居る者は言う。
「この少女はどうする?」
葎の中の者は倒れている灯を指差す。
――どうするって…病院に連れて行くしか――――ていうか、もうあの凶暴な奴は出てこない…よな?――
おそらくな。と灯の方を見ながら続ける。
「確認しようにも少女自身と、彼女の中に居る者、両方ともが気絶してるから、やたらに手を出すわけにはいかないな。‘彼‘が出ている時はいいが、そうじゃない時は彼女ごと傷つけてしまうからね」
――そういえばさっきから俺も結構やられてるはずなのに痛く無いな――
「まぁそういうモノさ、私達は。……厳密には私は違うがね」
--それって…どういう意…--
それは後だ。葎の言葉を遮り葎の中の者は警戒態勢に入る。
「‘彼‘が起きたようだぞ?」
--南屋さん!?--
ふらふらと灯が立ち上がる。しかし彼女の纏う空気は‘彼‘のものだった。
「なかなかしぶといな………君は何が目的なんだい?その少女の体を使って何をするつもりだ?」
冷めた瞳で灯を見つめる。
「お……前に…何……がわか………る…俺…はこ…い…つを守ら…なきゃなんねぇだよ…っ」
ん?もしかしてこいつ南屋さんの体を使って暴れたいだけじゃない…のか?---葎は灯の中にいる者が言う、言い方に違和感を感じた。
話にならないな。冷静に‘葎の中にいる者‘は言い放つ。
--ちょ!ちょ!ちょっと待てって!!--
止めを刺す寸前に葎が‘葎の中にいる者に叫んだ。
「何故…止めるのかね?」
--いいから!ちょっとあいつと話したいから代わってくれ!--
「分かった…君に任せよう。危なくなったらすぐ代わらせてもらう」
葎の意識が表に出る。ふぅと葎が息をつく。
「あぁ、俺の体無事でよかったぁ~」
口調も普段通りの葎のものになっている。
「……何のつもりだ…」
「あんたと話そうと思って」
「………………それで?」
「さっきさ、あんた南屋さんを守らなきゃいけないって言ってただろ?それじゃ、昨日の事といい、今日の事といい、南屋さんを守る為にやったっていう事か?」
「……そうだ」
「つまり、南屋さんを守る為に、絡んできた不良達を再起不能の、半殺し手前まで追い詰めたと…?」
「ああ……そうだ…それがどうしたっ…」
「気を悪くするかもしれないけどさ?……あんたちょっと馬鹿じゃねぇの?」
時が止まった。
「……………………………………やっぱ殺す」
「いやいやいやいやいやちょっと!最後まで聞いてくれって!」
殺意に満ちた目で睨んでくる‘灯の中の者‘にビクつきながらも葎は喋る。
「だってさ?南屋さんを守る為に不良を半殺しにして守ったのは…いい…とは言わないけど、間違ってはいないと思うよ、でもさ?あいつらの自業自得とはいえ、やり過ぎじゃないか?」
「それに雰囲気は違うけど、南屋さんを知っている人から見れば、南屋さんが喧嘩してるようにしか見えないし。最悪、あんな派手にやってると警察に連れて行かれるぞ?」
「………………………」
‘灯の中の彼‘は黙ったままだ。
「…あんた…自分が殴った奴らが仕返ししてくる可能性があるのも考えてないだろ?たとえそれをまたやっつけても多分また来るぜ?その度にやり返すのかよ?ずっとそれを繰り返すのか?それじゃあいつらと似たようなもんだろ!それが彼女の為になんのかよ!?」
「……………………て無かった…んだよ…」
「えッ?何て?」
--あ~ちょっと私からいいかね?‘彼‘ばっかり責めるのは可哀想なんでね--
葎の空気がまた変化する。
「これは私の憶測だが、君はその少女の中に昔から居たのだろうが、自我がはっきりしてきたのは、つい最近の事じゃないのかな?その証拠に、君は彼女の敵になる者を排除する事でしか、彼女を守る術を知らない---違うかな?」
「…テメェの言う通りだよ。俺はさっきその事を指摘されるまで気付きもしなかった……」
馬鹿だよなぁ、と‘彼女の中の彼‘は自嘲気味に笑う。
「……そういう事だ…俺は人を傷つける事でしか灯を守れなかった…その中で俺は、いつの間にか、灯を守るというよりも、自分が暴れる事が目的になっちまっていた…お前らの言う通り灯の迷惑になるなら、それがあいつの為になんなら……俺は消えた方が良いのかもしれねぇ…」
「やっぱ、あんた馬鹿だッ」
葎が灯の頭にチョップを入れる。
「…………………消える前にこいつ殴ってから逝くか」
「わーーーーー!ごめん!ごめんって!つい勢いでっ!」
「いや、消えるとか言うから……だって、何も消える必要無いだろ?喧嘩売られたって買わなきゃいいだけだしさ、どうしてもやばい時はあんたのその身体能力で逃げればいいじゃん。今度はもっと穏便なやり方で南屋さんを守ればいいだろ?」
相変わらず、‘灯の中の彼‘は葎を睨んでいる。
「あんたのさ、その南屋さんを守りたいって気持ちは本物だと思うし、すごく良いものだと思う。だけどさ、勝手に守って、勝手に消えました。じゃ無責任過ぎないか?本当に彼女の為を思うなら、最後まで守り通せよ!」
‘彼‘はうつむく。
「それと、これは余計なお世話かもしれないけど、南屋さんともっと話し合った方がいいぜ?じゃないと、あんたの気持ちは一方通行だ」
悪いな、偉そうに説教しちまって。こんな説教出来るほど俺は人間できちゃいないのにな。と葎は言い終えた。
「…そう…だな…やっぱ俺は馬鹿だな…灯を守りたいってだけで、あいつと話し合う事さえしなかった…
ホント馬鹿だよ……!!」
俺をボコボコにした奴に言われるのは癪だがな。とジト目で葎を見る。
「ウッ…!正確には俺じゃないし……ノーカンで…」
「でも…まっ………ありがとう」
葎は一瞬キョトンとしたが、力強く答えた。
「……………おう!」と
「葎だったけか?お前らにこっぴどく殴られたんでな、俺はしばらく眠らなきゃなんねェ。何時目覚めるかは分からねぇ、だから、こいつ…灯の事は頼むぜ…それと灯が起きたら言っとけ…しばらく横着して、近道使うのをやめろってな…」
「ああ。わかった。え~と?」
「………………好きに呼べ」
「じゃあアリカで」
「んだそりゃ?下の名前一文字、もじっただけじゃねェか……ハッ」
二人は顔を見合わせて笑う。先程までの殺伐とした空気が嘘のようだ。
「それじゃあ…な…今度起きたら一発殴ら…せろ」
そう言って‘彼‘は眠りに着いた。
「やっぱり根に持ってたのかよ…」
--まぁしょうがない--
「ほとんどあんたのせいだろうが!」
で、と葎は言った。
「結局あんたとアリカは一体何者なんだ?」
--…それは---其処の彼が答えてくれる--
「何を---」
葎が登ってきた階段の暗がりに人影がいた。
次はいわゆる説明回にしようかなーと思っています。




