表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
duplices  作者: rakia
29/71

上、あり。下、なし

 遅くなりましたです…。いつも通りの酷(以下ry

 その分、連投とかやりますよー…。

 次は早くて今日中、遅くて明日ですー…。

 そんなの連投じゃない? …そーゆーつっこみはな(以下ry

 

 金色の灰が降りしきる中で葎は目の前の青年を見据えた。

 瞳の奥の光には、今年に入ってから色々な意味でお世話になっている奴らと同じ存在を感じる。 

 自分の中にも居るのだから、嫌でも分かる。


「力比べ? えっと…どういう事っすかね…?」

「そのままの意味だよ。僕達は戦わないといけない」


 急にそんな事言われても困るんだけど…。

 葎は青年の言う「戦わないといけない」という意味を理解出来ない。

 自分達が戦う理由も見当たらないし、真さんの知り合いならば余計に無い。

 それに――――。

 葎は辺りに眼をやった。いくら夏真っ盛りとはいえ、人は居る。自分達がやりあえば、少なからず被害が出る。それは避けたい。ヒーローとかいう野郎の時でさえ大変だったのだ。

 あの時は夜だったからというのと、寧さんの機転のお陰で騒ぎにならなかったものの、昼間に人知を超えた動きなどをしようならば、確実に目立つ。

 葎が眼を困った様に泳がしているのに感付いたのか、青年が葎向かって言った。


「何もここでやろうって訳じゃないよ。そうだな…そこの屋上そこでどうだ? 先に行ってる」


 青年は聳え立つビルの一つを指差すと、そのビルに向かって歩き出した。そしてその前まで来ると、軽く数回跳ね、跳躍する。彼は映画のスタントかCGの様に空を飛び、ビルの屋上に着地した。手を広げている。お前も来いという事なのだろうか。

 そんな事よりも…。


「人前であれは不味くない!?」


 キョロキョロと葎は周囲の反応を確認したが、誰一人として不審そうな顔や、驚いた様な顔は見られない。それどころか普通に何事も無かったかの様に人々は行き交っている。


 ――…誰もこちらを見ていないぞ…いや…見えていないのか――


「んなっ! ありえないだろ!」


 ――さっきから、鬱陶しいこの粉の様なものが原因じゃないかね? 眼に見える異常変化と言えばこれぐらいだろう?――


 空気に揺らめく黄金の粒子を葎は見た。

 ガラの言う通りこれが一番怪しいか…。二重存在自体には、特別な能力なんてありそうも無いしな…。


「ガラ…」


 ――おや? 今回は珍しくやる気かな?――


「早く真さんを見つけなきゃいけないからな。仕方ないだろ…」


 ――それでは相棒――


「相棒じゃな――――」


 葎がニヤリと笑った。思わずぞくりとする笑みである。


「――――力比べ? 私達に敵う筈が無いと、体に教えてやらなければ」


 ――……お前…楽しそうだな…――


「身の程知らずに鉄槌を下す。それも紳士の嗜みなのだよ」


 ――それさぁ…嗜みとかじゃなくて、お前の個人的趣味じゃ…――


「んむ? 何か聞こえたが、多分気のせいだろう」


 ガラは青年と同様にビルの屋上に向かって飛んだ。鉄柵の内へと無事到着したガラは青年を探す。

 青年は先程までの穏やかな表情ではなく、下卑た、嫌味な笑みでガラを待っていた。

 ガラが到着するやいなや一層それは強くなり、その不気味さに葎は閉口した。

 

「ひひひひひィ!! よォォォこそォォ!」


 バネ仕掛けの人形の様な奇妙な動きで青年はガラに近づいていく。

 そしてさり気なくガラの居る場所を右腕でなぎ払った。

 

「ひひひひひ!!」


 ガラはそれを難なくかわし、抜けざまに青年の脇腹を踵から右横に振り蹴った。

 

「ぐぅ…! ……ひひひひ!」


 屋上の端まで蹴り飛ばされた青年は宙で身を翻し、鉄柵の上に留まった。


「痛い痛い…ひひっ!」 

「余裕そうだね」


 ガラは青年に向かって走り出した。

 次の一撃が来る事が分かっている青年は、鉄柵の上から飛んで、向かってくるガラの頭上を通りぬけようとした。

 が。


「逃げるなよ。話し合おう」


 ガラに足を掴まれ、そのまま地面へと引き摺り降ろされてしまった。青年が顔面から鼠色の地面へと叩きつけられる。コンクリートの床がきしきしと揺れた。

 

 ――先に手が出てるぞ、おい…――


「私なりの親愛の証だ」


 ――痛そうな親愛だな――


「何を言っているんだ。こんなに幸せそうに寝転んでいるじゃないか」


 ――どこら辺が幸せそうなのか教えてくれたら納得する――


 ガラは青年から手を離した。


「ひひ…ま~だぁぁ!」


 ガラが手を離すのを待っていたのかの様に、青年は飛び退き、ガラとの距離を保った。

 しかし、ガラもただ離しただけではなく次なる攻撃を仕掛ける為にわざと離したのだ。

 ガラは再び青年との距離を縮め、拳を振るう。

 が、ガラの繰り出した拳は空を切った。


「ひひ…」

「…しまった」


 青年は突き出された一撃をガラの頭上近くまで逆さまになりつつ、飛び跳ねてかわし、両手でガラの頭部を挟み込むと、頭をしっかり掴んだまま体を前方へ一回転させ、ガラの背後に背中合わせに降り立った。普段からこういうスタイルで相手を捌いているガラにとって、青年が次に取る行動は大方予測がついてしまう。


「ひひひひ…ば~いばーい」

「…油断してしまったな…これは…危ないかな」


 青年は瓶のキャップを捻るような気軽さでガラの首を捻ろうとした――――。


「――――という事も考えられなくは無いが、私に限っては別なのだよ」


 いつ抜け出したのか。青年の手からは、既にガラの頭は消えていた。

 ガラは青年の目と鼻の先に、暑さも吹き飛ぶ程の爽やかなな微笑みを携えたまま立っている。

  青年の二重存在にとって、ガラの微笑みは死刑宣告の様に感じられた。口は笑っているが、眼が笑っていない。

 しっかり掴んだ筈だったんだけどねえ…ひひひ。


「久々に私の決め技をくれてやる」


 ――あ~あったね、そんなの――


 反応するには遅かった。空気が唸る程のガラの強烈な回し蹴りが青年を襲う。


「…ひ……! ッっ…」


 間一髪、腕を間に挟み、直撃だけは避けたが、青年の腕は早くも限界が来ている。

 ぎちぎちという嫌な音と共に、青年は腕が衝撃で震える。


「ひ…ひ…」

「ああ、まだいけるのか。よし、分かった頑張れ」


 押し込む様にして、ガラの足が更に威力を増した。

 このままじゃあ…消されちゃうねェ…。


「ひひ…逃げさせてもらうよォォォ」

「逃げる…?」


 青年の体から赤い人影が分裂する様に飛び出た。

 ガリガリの骨ばった人間の様である。黒い悪霊とは違い輪郭も、顔立ちもしっかり認識出来る。

 その骨の様な人間は最初は赤い色をしていたが、その内普通の人間と変わらない色へと変化した。

 葎は思わず眼を疑った。自分が目の当たりにした事が彼には信じられない。

 人間から人間が分離した…?。いや…分離したのは…もしかして…。

 一方、ガラは違う事が気になっていた。それは現在、自分の一撃を受け止めている人物の事である。

 最初の時や、先程とは全く違う。いやらしい笑みは消え、代わりに黒い漆黒のような闇が瞳の中に滞留している。何を…見ている…? 虚ろな眼…それは自分達を見ている様で何も見ていない。

 

「私の決め技の威力を殺すなんてやるじゃないか。もう少しだと思ったんだがね…。だが――――君はさっきの二重存在とは違うだろう? 最初の青年でも無い…。…何者だ」

「………………………」

「話す気は無い…と」


 ガラは足の力を緩め、後ろに下がり距離を取った。


 ――おいガラ! 何か出た! 何か出た! あれ何!?――


「…興奮し過ぎだよ…葎…」


 ガラは青年達の方を見る。青年は何も喋らず口を噤んだまま仁王立ちしている。

 青年から分かれ出た骨と筋ばかりの人間は、何が楽しいのか、ピョンピョンと屋上を跳ね回っていた。

そして気が済むと、ガラに向かって語りかけた。


「ひひひひ! 怖いなあ! ここいらでお開きにしましょう。終わりですよ終わり!」


 こいつの喋り方…ガラに追い詰められていた奴の…。

 青年の方の雰囲気が急激に柔らかなものに変容した。

 

「――――そういう事だよ。悪いね私達が勝手に始めたのに…。だが、もう終わりだ。ヨウ、戻れ! お前はちょっとやり過ぎだ。危うく消されかかる所だったろうが」


 青年は自分の体から出現した、骨の様な人間に向けて口を尖らせて言った。


「ひひひ…じゃあ戻りますわ。それでは御機嫌よう…」


 ヨウと呼ばれた骨の様な人間は青年の方へするすると近づくと、青年の体に触れた。

 するとその体は青年に吸収されたかの様に溶け消えた。


「真さんの所に案内しよう…と言っても、君の方が良く知っている場所なんだけどさ。ああ…俺は伊井都雅峰いいとまさみね


 何時の間にか金色の粉塵は止んでいた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 雪の様に白い着物を着た少女が、艶めかしい笑顔で寧を部屋の角まで追い詰めている。

 息も荒く、興奮が少女の内を満たしている。その貌は熱に浮かされている獣の様である。

 蛇に良く似た切れ長の眼で少女は寧を舐め付ける。彼女は蛇に似た乱れ髪を振り乱しながら、寧へと一歩づつ近寄っていく。舌をちらつかせながら獲物を追い詰める姿は蛇にそっくりだ。

 寧は棚に陳列している物の中で割れそうに無い物だけを選び、少女の方へと優しくかつ、邪魔になる様に投げた。だが、荒ぶる少女はそんな事じゃ止まる訳が無かった。



「やーーーーーーーーーーーー! 止めてーーーーーーー!」

「良いではないか~~良いではないか~~」


 ナンナンダコリャ…。

 伊井都さんに付いて行けば、「天儀屋」に着くし…。「天儀屋」では寧さんが、伊井都さんと一緒に居たちびっ子に裸に引ん剥かれかかってるし…。真さんはオロオロしてるし。

 って…伊井都さんはどこ行ったの…?。……あ、逃げたのか。

 ………現実逃避した方が楽かも知れないな。ハライソ探しに行くか。一先ず、非難。非難。

 目下の目標はこの危険地帯から抜け出す事だ。惨劇の「かほり」がしやがる。


「ガラ…」


 ――何だい――


「俺…これが終わったらメロンパンと一緒に休暇を過ごすんだ…」


 ――…死ぬなよ…――


「大丈夫! ワタシがリードしてあげるから!」

「きゃあぁぁぁ! あ…あ! 葎さん! 助けて! ヘルプミー!」

「っち…見つかった…」


 そっと退室しようとした葎を寧が見つけ、助けを求めた。


「今、舌打ちしました!?」

「し、仕方ない…! うおおおおおおお!!」

「ワタシと寧ちゃんの逢瀬を邪魔するなぁぁぁぁ! 木偶の坊!!」


 突撃した葎を、寧を襲っていた少女は楽々と回避し、彼の背後に回り、その胴を両腕でガッチリと掴んだ。少女は躊躇う事無く、明らかに自分の体重よりも重い葎の体を抱き抱え、勢い良く後ろへと自分ごと反り返る。完璧なバックドロップである。


「どりゃぁああああああぁ!!!」

「うばァァァ!!」


 ――素晴らしい。拍手を送ろう――


「葎さーーーーーーん!!」


 脳天から美しい弧を描きながら落下した葎は走馬灯を見る間も無く気絶した。

 真は見ていられないという様に片手で顔を抑え、盛大な溜息を零す。


「さぁ続きを…。ハァ! ハァ! ハァ!」

「た、助けてぇぇぇぇぇ!! 駄目ですって! それ以上は!」

「…瑞樹神みきがみさん…いい加減にしてくださいよ…」


 真が心底呆れた声で、その少女を嗜めた。

 少女と言っても、真に注意されたその人物、瑞樹神広尾みきがみひろおは真と同い年なのである。


「だってさぁ~。というかさ…真…よくもこんな可愛い子隠してたな…。へっへっへ…逃して堪るか…! さ! 一心同体に!」

「いいから離れて下さい」

 

 猫の首を掴む様に、真は広尾の襟首を掴んで寧から引き剥がした。

 ダランと着物が伸び切った少女は、古代の兵器を見つけて復活させたかと思ったら、早過ぎて腐っていたかの様なとても残念そうな顔をした。

 

「後少しだったのに!! あと少しで寧ちゃんも百合の花道に迷い込んでくれたのに!」

「放り出されたいんですか」

「じゃ…じゃあ真でもいーよ?」

「放り出しますね」

「冗談だから。冗談だから玄関に行かないで」


 寧は表情が消えた真が、ジタバタする広尾を本当に玄関までぶら提げて歩いていくのを見送りながら、彼女は葎を恨めし気に睨んだ。彼は気絶しているので、睨もうが何をしようが意味が無いのだが、とりあえず彼女は睨んだ。


「……最期は頑張ってくれたから大目に見ますけどっ…!。…ふはァ……ああ良かった…生きてるって素晴らしい……」


 彼女は腰骨でどうにか留まっている、藍媚茶あいこびちゃ色のショートパンツを過剰なまでに引き上げ、肌蹴てしまった卵色のブラウスの襟を正した。それから葎の方へ小鹿の様な足取りでどうにか辿り着き、彼の片足を掴むとずるずると引っ張って非難させようとした。


「…フンッっ! …フーーーンッ! 無駄に重い…。軽くならないかな……」

「手伝いましょうか…?」

「うわっ」

「失礼」


 何処からともなく現れた雅峰が、寧に声を掛けた。


「どっ、どこから…」

「天井です。張り付いていました」


 と、雅峰はにっこり天井を指差す。

 寧は考えた。

 それじゃあこの人はずっとあの騒ぎ中、ずっと天井に居たの…?。ハっ! まさか……忍者…!?。サ、サイン…! サイン貰おう…!。


「あの…」

「はい」

「サイン下さいっ」

「はい?」

「五枚で!」

「………? 何だか勘違いをしているっぽいですけど、彼は…?」

「そ、そうですね。葎さんを、どうにかこうにか…。じゃあ…そっちお願いします」


 葎の片足を両手で持ちながら、寧は雅峰にもう片方を頼んだ。


「…分かりました」


 雅峰は良いのかなぁ…? と引きつった笑顔で寧に応じた。

 そんな彼を、寧はじっと見て言った。 


「…あなた…どこかで…遇いませんでした…?」

「いえ? そんな事は無いですよ」

「そうですかぁ…あ! すいません!」

「いやいや」


 和やかな空気が流れている最中にも、葎は泡を吹いていた。




-----------------------------------




 巨大な岩を頭に落とされたかの様な衝撃に襲われた直後、俺は気が遠くなって…。

 …それから…どうしたんだっけか…。 まだ頭の天辺が痛む…。

 最期に足を掴まれた感覚だけは覚えているのだが…。

 俺はそおっと瞼を開いた。白い。真っ白だ。修正液でも零したみたいな白さ――――。

 よし、寝よう。これ、駄目なパターンだ。奴の仕業だ。

 俺はもう一度瞼を閉じた。

 

「フぅーーはっははっはっは! そうはさせるか」


 腹の立つ高笑いが聞こえる。何かいつもよりも高い声に感じた。


「さー! 葎! 朝だぞ! 元気に行こう」


 駄目だ。眼を開けたら駄目だ。奴が居る…。

 ジロジロとした視線を感じる。やべぇ…何か顔が近い気がする。………離れたか…?。

 

「…あっ…空とぶハンバーグモンスター」

「えっ!? 何それどこ!?」


 …眼を開けてしまったよ……。こんちきしょー。俺の声も変だ…。風邪?。

 ガラが――――。ガラじゃない!? 誰!?。

 自分よりも一つか二つ下の少女だ。絵画から勝手に抜け出して来たかの様な顔。だがそれとは違い、苦々しく思える程に表情は豊かだ。

 人形の様に精密で余分な部分が無い体躯。藍鉄色の髪は長く、白一色の中で、異質な存在感を主張している。その少女は咲き乱れる花々と同じ白いワンピースを着ていた。


「お早う。お兄様」

「………………」

「どうしたんだい? 見惚れたかな?」

「…………………」


 このニヤケ具合。悔しいが本当に見惚れてしまった。


「ところで、君は毎度毎度、この類の嘘に引っかかるね。学習装置を持たせた方が良かったかな」


 この…人を小馬鹿にした物言い…。

 ガラだが…何故…。タイにでも旅行に行ったのだろうか?。


「お前…いつの間に性転換した…」

「つい先程」


 ガラ…だと思われるそいつは綺麗な顔で微笑む。

  

「そんなに見つめてどうする気だね。穴でも開ける気か?」


 どうもしねえ。したくねえ。

 金縛りに遭ったかの様に表情筋が引き攣る。あっれー? 顔が動かせないぞ?。

 顔面硬直している俺に向かってガラ(女)は迎え入れる様に手を広げた。何をしているのだろう。


「……何で手を広げているんだ…? アックスボンバーでもされたいのか」

「飛び込んで来ても良いのだよ? 抱きしめてあげよう」

「よっしゃ、待ってろ。とっておきのとび蹴りを…動くなよ?」

「当たるならばやっても良いが、おそらく当たらないぞ」


 ガラはかなり余裕そうに言い切りやがった。

 そして、こっちを蒼と赤が入り混じった紫に近い奇妙な色彩の瞳で見つめてくる。

 こいつにこうして見られるのは慣れているが、この状況では何となく居心地が悪い。 


「う゛………」

「む? ………欲情したかね?」

「段階を飛び越え過ぎだろうが! ワープ進化か!」

「んー今の突っ込みは駄目だ。分かりにくい」

「お前に欲情するんだったら、蚯蚓にでもするわッ!」

「蚯蚓になって欲しいのか? マニアックだな」

「そうじゃない! どうして俺は此処に居て! お前が女になってんだよッ!」

「それはね、君が気絶したからさ」

「俺が気絶するとお前が女になんの!?」

「そうだよ。知らなかったのかね」

「知る訳ないじゃん!」

「それは嘘だが、君が気絶したのは事実だ。どうせ暫く眠ったままだったら、こちらに来て貰った方が私も退屈しないのでね。こうして来て貰ったという次第だよ」

「…お前が女になった理由は?」

「葎がとにかく面白い反応をするのを見たかったから。いやはや、眼福眼福」

「単純明快でくそったれな理由をどうもありがとよ。お前の心憎い気遣いに涙が出そうだ」


 反吐もな。


「…最近は、中々君も苦労してたからね。労ってやろうかと思ったのだよ――――という事で、今回の私は紳士ではなく淑女だ。君もね」


 ………君も? ……黄身も?。

 いや…まさかねえ…さっきから胸とその…下の方に違和感があるからって…ねぇ…。

 …駄目だろ…! それは駄目だって…! 無くなってたら俺…どーすんだよ…!。

 葎は恐る恐る、自分の胸部を触った。

 …………ムニュ。

 いつも触っている自分の肉の感触とは違う。張りが無い。逆に包み込まれそうになる程柔らかい。あえて形容すると、二の腕の感触が最も近いと言える。簡潔に言うと――――。

 あった。

 

 「…!?」


 や、柔らかい…!?。

 待て待て待て待て待て待て…。そういえば俺の服装…変…。

 Tシャツまでは分かる。だが、どうして下がスカートなのだろう?。さっきからスースーしているのが気持ち悪くて気になっていたのだ。おい…おい……無いのか…無くなったのか…。

 葎は鬱蒼とした表情で躊躇いつつも、何とか確認した。

 無かった。


「……おっおっおっ…!! ガラぁぁぁ!! お前何してくれてんだぁぁぁぁ!! 余計なモンがくっ付いていて、大事なモンがねーぞぉぉぉぉ!! 消失してんじゃんよぉぉぉ」


 父さん、別称親父。母さん。不出来な息子、栖小埜葎は女になりました。


「随分、女性らしくなったな。立派に育ってくれて私は嬉しいよ」

「らしくじゃなくてまんまだろうが、ボケ紳士がああああああ!」

「私は女だ。淑女と言ってくれたまえ」

「あ、すんません。じゃなくてさーーーー!! もういいよ! お前のでいいから返せ!」

「はっはっはっはっは。返そうにも私にも無いのでね」

「か~~え~~せ~~よ~~!!」


 俺はガラの肩を掴んでグラグラと揺らしたが、彼女? はどこ吹く風といった調子で、天使の様な微笑みのまま揺すられている。天使の様と形容したのだが、実質、悪魔よりも性質の悪い存在かもしれない。


「今日ぐらいはガールズトークと洒落込もうではないか」

「ガールズじゃないじゃん!!」


 ボーイズじゃん! もしくはメンズじゃん! と言いたかったが、確かに俺達ガールズじゃん。


「さあ…お茶の準備をしなければ。ダージリンが私にもっと注げと囁いている」

「ダージリンは囁かねえよ! あーもー…あー…」

「それじゃあちょっと待っていたまえよ。直ぐに持ってくるからねっ」


 こんちきしょうは何故に嬉しそうなんですかね。のたれ死ねば良いのにさ。

 はぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁ………。これ…元に戻るよな…。元に戻らなかったら…。あ゛ー! あ゛ー! 駄目だ…ネガティブになっちゃ駄目だ俺!。……無かったら…風早のでも貰うか…。って…あいつは何処に行った?。 

 視線を泳がせて探すと、いつもの、壁だけがあり天井の無い、囲いだけの家もどきの手前に居るのが分かった。手を振っている。こっちに来い、という意味だろうか。

 …まだ、振っている。少し恥ずかしいが自分も振り返す事にした。

 歩いてガラの方へと向かう。しっかりと根を張っているスノードロップの花の間は、意外に通り易く、

自分の通行の邪魔にはならなかった。家もどきまでの距離もそこまで離れていなかったので、数分も経たない内に着いた。ガラは既に真っ白なテーブルに肘を着き、同色の椅子へと腰掛けている。

 

「掛けたまえ」

「…くそ! 一リットルは飲んでやる! やけ紅茶だ!」


 俺は、カフェテラスにある様な形の椅子にドカリと座った。

 いい匂いがする。バターと砂糖が溶ける匂い。ここが現実だったら、噎せ返っている。だけど、ここは現実じゃない。熱気も伝わらないし、香るのは唾液が出るのを促進させる様な滑らかな甘い匂いだ。

 ふいにトースターのタイマーに似ている音が耳に響いた。その音は直ぐ横の壁の向こう側からだった。

 ガラはそれを聞くと、ふむ…と鼻を鳴らし、家もどきの入り口から中へと入っていった。

 何とも簡素というか質素だ。傍から見ると、壁がそのまま花畑の中に置いてあるぐらいにしか見えない。天井が無いのは、ここでは天気が関係無いからなのかと藪から棒に考える。見上げた太陽の色は自分が生きている世界と同じ眼が眩む様な白さ――――では無いのか。自分の眼には白く見えているだけで、実際の色は白く無いのだろう。学校の教科書では赤や橙色をしていた。

 不憫な奴だ。自分が光っているせいで本来の自分の姿を見て貰えないとは。

 …恒星はそんな事考えないか。いや――――どうなのだろう。俺には判りかねる。

 来る度に思うが、こういう静かな場所だと、色々と無意味な妄想を思案出来る。天気が良い日の清流の様にゆるりと流れる時間は頭を空っぽにしてくれるのだ。めんどくさい感情を忘れられるというのもある種の贅沢だと思う。

 ガラが戻ってきた。両手にミトンを嵌め、鉄版を持っている。鉄版の上は少し濃い目のキツネ色に占領されていた。同時に甘い匂いが強くなる。乳臭い匂い、それでいて美味そうなそんな空気が風に運ばれてきた。


「…涎は拭った方が良いと思うのだが、どうだね? 葎君よ」

「美味しそうだから仕方ないだろ」

「たまには自分で作ってみようかと思い立ってね。私の、紳士…――――淑女印の手作りマフィンだ。召し上がれ」

「へー…お前の手作りなあ…美味そうだけど…入っている毒は何の種類だ? 神経系か?」

「そんな風に思われているなんてっ…私は悲しい…今回は入っていないよ…」

「今回…。……とりあえず頂きます…」

「感想はレポート用紙五枚分なのでそのつもりで」

「長いな! いくら美味くても五枚まで引き延ばせる程の文章力はねぇよ!」


 生地に張り付いている油紙を引き剥がし、暖かいマフィンを直接掴んだ。

 もったいぶらずにかぶりつくと、ふんわりとした食感だった。

 牛乳とバターの優しい風味とナッツの味がした。









 この作品も折り返し地点まで来ました~。

 次の作品を作る時はもっと文章が上手くなっていると良いなあ…。

 とは言っても、次の作品も決まってるんですけどね(笑)

 今更ですが、感想、批評、文章間違いなどをくれると、俺の養分になります。

 …育ちますよ? 多分。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ