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duplices  作者: rakia
28/71

昆布茶シェイクは未知の味

 見直して分かった事は、とにかく葎の心理描写はくどいという事ですね。

 彼はそういう性格ですのでしょうがないんです…。

 真とか、もう「あれ」な感じになっちゃうし…燐太に至っては、妄想が八割を占めそうになったり…。うん…カッコイイ系主人公で無い事は確かですw

 日の匂いが染みた風は、額を流れる汗を乾かしてくれた。

夏の暑さも峠を越したのか、ついこの前よりは過ごし易い。

かといって涼しいかと言われれば、それは否であり、やはり外は暑い。

 背中が汗でべとついている。用事は済ませたから後は帰るだけなのだが、このかんかん照りの太陽を浴びながらの行軍は厳しいものがある。

 そんな自分の隣を歩く人物はいつもの通り、気温が暑かろうが寒かろうが変わらない表情で歩いている。身長は自分の方が高いから、見下ろす様な形になるが、存在感で言えば隣の人物の方が上だろう。

 うっかりメフィストフェレスと契約してしまったと言われたら納得してしまう様な時間の概念を忘れた少年然とした顔立ち。黄金比を体現している体。ここまでくると、本当に自分と同じ人間という種族なのかと疑いを持ってしまう。この様に彼を観察している自分は、「アッー」とかそういう関係の人間という訳ではない。自分は通常ノーマルだ。健全だ。

 おい誰だ、今「嘘ー」とか、「ほんとにー?」とか思った奴、出て来い。抗議してやる。

 …それはともかく、彼を見ていると、ついぞ知り合った彼女の顔を思い出してしまう。同じく、時間をガン無視な外見といい、世間から若干、いや大分ずれている点、そして悲しそうな眼。

 こうして突発的に思い出すというのは、まだ自分の中で整理がついていないせいもあるかも知れない。納得は出来る筈もないのだ。どこか歪な箇所が所々にある。あの夜の事の全貌を知らない限り、自分は納得出来ない。それらの疑問は澱となって、自分の内面に深く沈んでいる。全てを知る事が出来なくても、自分はそれを捜し求めようとするだろう。具体的にどう捜すというのは分からないが、分からないなりに出来る事はあると思う。

 また、あの得体の知れない視線とは何処かで関わりあう気がする。あれが二重存在である以上、自分とも無関係ではない。

線は途切れていない。僅かな繋がりだが、それでも繋がっている。

 まぁ…とりあえずは、自分を心配してくれた人達に、これ以上余計な心配を掛けない様にしなければ。


「葎君」

「はい?」


 呼びかけに応え、眼を上げてみれば、そこはよくあるファーストフード店の前だった。


「何か飲もう。俺が奢る」

「は、はぁ…でも…割り勘で良いですよ?」


 俺がそう言うと、真さんは困った様に笑って、気にしなくて良いんだが…と言った。


「年配者の務めというものだよ。奢らせてくれ。…ええと…何が良い?」


 彼はカウンターの上のメニュー表を見上げながら葎に聞く。混雑する時間帯は過ぎているので、カウンターの前に居るのは自分達だけだ。店員も注文を待ち構えるかの様に営業スマイルを絶やさない。


「そうですねぇ…真さんと同じので良いですよ」

「そうか? うん…それじゃあ…良いですか? この昆布茶シェイクを二つ」

「!?」


 自分は重大な選択ミスをした様だ。この人は味覚のセンスまで常識外らしい。勿論褒めていない。そもそも何故昆布茶がシェイクにならなきゃいけない。きっと、企画者の悪意のある悪乗りだ。本気だったとしたら、それはそれで駄目だろう。奢ってもらう手前、キャンセルなんか良い出せる雰囲気じゃない。

 いや、待て、冷静に考えるんだ。真さんも一緒に頼んでいるんだ。つまり、たとえ行き着く先が地獄だったとしても、道連…ごほん…一緒に耐え忍ぶ仲間が居るという事である。話の種にも確実になる。…その為には地獄を経験する必要があるが…うぅ…まだ…不味いと決まって無いし…。


「お待たせしましたー」

「じゃあそこ、座ろうか」


 真さんは身近な席を指差す。

 やばい…心臓が高鳴ってきた。未知の味と出会うという体験はかように人の心を乱すものなのか。

 おそるおそるストローに口を付ける。まだ少し硬いのか、中々その半液体はストローの管を登ってこない。登ってこない方が自分としても良いのだが。

 来た、来たぞ…。濁音と共にそれが登ってくる。

 冷たい感触が舌を刺激する。滑らかな舌触り、濃厚な牛乳を使っているのか、味に厚みがある。そして香る昆布茶の匂いと、出汁の旨み溢れるお爺ちゃんの家の味――――…。あぁ…これは――――。

 駄目に決まってるだろうが。美味い訳無いだろう。馬鹿か。責任者出て来い。頭痛してきたわ。あーうぇ…。


「ガラ…これ飲む?」


 ――断る――


「男なら飲んでみようぜ!」


 ――断る――


 くそう…こいつは美味いものなら、葎~代わりたまえ~とか言うくせに…。

 おっしゃ…気合入れて飲むか!。

 思いっきり、カップの中身を吸い込む。吐き気がした。


「うおぉぉ……おおおお…」


 真さんも飲んだまま顔が硬直している。あれ? でもこの人って元からこういう顔じゃあ…。


「…これ……」


 おお…やっぱりこの、混沌の液体は流石の完璧怪人をも圧倒したか…?。


「不味くは無いね」


 ずずー、という音が耳に届き、俺の目の前でその悪ふざけとしか思えない液体は飲み干されていった。

 常識が当て嵌まらないというのは、外見や知能のみならず、味覚にも適用されると初めて知った。もしかしたら、常識が当て嵌まらないのではなく、常識が当て嵌まれないのではないだろうか。


「…あの…真さんっていつも何を食べているんですか…?」

「…? ああ…それは、天…知り合いが…いつも調理済みのものを冷凍して送ってきてくれるんだよ。自分でもちゃんと、料理が出来ないといけないって分かっているんだけど…どうしても駄目なんだ」


 真は葎の問いに若干照れてる様な素振りを交えつつ応えた。

 あま…? 誰だろ?。

 それよりも…料理が出来ないから、味覚が…って事ってあるんだな…。でも、そんなに味覚音痴の片鱗なんて見た事無いけどなぁ…。しょうがないか。真さんのプライベートって謎過ぎるし。

 葎は休みの日に、真が釣りをしている姿を想像してみた。似合わない。

 次に、空鉦と飲みに出掛けている図を想像した。似合わないというか、男臭すぎる。

 最後に自分と寧がしている様に家でのんびりとだらけてすごしている状況を脳内に作り上げる。やっぱりこれも駄目だ。

 自分の見聞が狭いというのは重々承知済みなのだが、この人物からは生活感が抜け落ちている様に感じる。年中、幽霊やら、化物的なのと戦いを繰り広げていると言われても得心がいくだろう。


「…ん? どうしたんだ? 変な顔して」

「イエーナンデモナイデスヨ」

「そう? …もしかして、お代わりか? ハハッ、気にしなくていいって。気に入ったのかい?」


 男ながらに惚れ惚れする様な爽やか笑顔で真さんは言った。俺はこの人正気なのか? と思った。


「違います。断じて違います」

「そうなのか? 顔が青いが?」

「な、何でもないっす…」


 善人なのだ…善人なのだが、ずれている。何がどうこうずれているかは分からないが、決定的にずれている。これなら、空鉦さんに聞いた数々の事件を聞いたも納得してしまう。

 例えば昔、彼の所属しているJRPCという、霊能力者やら超能力者がごった煮にされたような組織の中の一部の者が彼に喧嘩を売り、湖を干上がらせてみろと言ったら本当にやったらしい。しかも一時間も経たない内に。これだけは言って置こうと思う。生態系を壊さないで下さい、真さん…。その前に何故、湖を干上がらせる必要がるのか、甚だ疑問だ。

 他にもある。自殺しようとした人を介錯しようとしたら、自殺しようとした人があまりの恐怖で生きる気力が湧いてきたとか、大量発生したゾンビっぽい奴らの真っ只中に飛び込んでも無傷だったとか、地獄の鬼と一戦やらかしたとか。だが、空鉦さんが言うには人は殺していないらしい。

 逸話は尽きないのだが、全て状況が狂っているので、作り話に聞こえてしまう。というか作り話であって欲しい。宇宙の法則が乱れてしまうじゃないか。

 こういう事から、彼は脳味噌が筋肉なのか? という疑問を持ったのだが、またまた、空鉦さんに聞く所に因ると、彼が高校生の頃の成績は学年で主席。おまけに有名大学入りも期待されていた程の秀才だとか。もうね…勝てないわ…。完璧のテンプレートを地で行ってやがる。

 不儀真と言う人物が真に恐ろしいのは、言った事を完璧にやってしまう所だ。鵜呑みにするのではない。やってしまうのだ。海を歩けって言ったら、多分真さんは歩く。

 これが某、眼と眼の近い漫画のキャラクターの様だったら問題が無いのだが、やる事為すこと鼻に掛けたりもしない。超人か。

 自分が彼の事を持ち上げ過ぎだとは思わない。批判する所が殆ど無いからしょうがない。というか、こんな人に敵う訳無い。ぶっちゃけ人間じゃない気がする。

 黙っていれば善人なのだ。口を開いても良い人だ、若干漂う悲しさオーラを除けば、凄く良い人だ。

 しかして、危険だ。言うなれば、押入れを開けたら核兵器が突っ込んであったみたいな感じの危険度だ。つまり結論で言うと、真さんは良い危険人物だ。


「…悪い人じゃないんだけどなぁ…」

「?」

「きょ、今日はお日柄も良くー」

「うん、天気は良いね。こういう日はひなたぼっこでもしたい気分だよ」

「え?」


 ちょっと待て、今、真さん何つった?。

 火鉈墓っ虎? 火で炙り、赤く熱した鉈で墓に誘い込んだ虎を狩るという…伝説の…。


「真さん…今、ひなたぼっこって言いました!? 火鉈墓っ虎とかじゃ無いですよね!?」

「何が違うんだ? だからひなたぼっこじゃないか」

「そうですよね~…ハハハハ…」


 駄目だ…この人が日常ワードを口にすると、どうしても違和感を感じずにはいられない。

 火鉈墓っ虎って何だ…!!。

 葎が一人で悶々としている中、真は真剣な表情でこう切り出した。


「葎君、古雫さんの事なんだが…」

「…あ……え…」


 先程までの自分の思考と、真が持ち出しきた話の落差で葎の脳内回路は一時パンク寸前になったが、一寸間を置いて漸く彼の話が理解出来た。


「必ず、彼女に繋がる手がかりを見つけよう。俺もそれには協力を惜しまない…だから、気落ちは…」

「しませんよ。……もしかして、これを言う為に此処に?」

「いや…そういう訳では無いんだが…落ち込んでいるかな…と…」

「…おおお…!!」


 葎は感嘆の声なのか、唸り声なのかいまいち分からない声を出した。


「だ、大丈夫か? お腹でも痛いのか?」

「いえいえ…感動しまして…」


 真の言葉を遮って葎の方が先に口を出した。同時に葎は、自分は何て場違いな事を言ってるんだろうか? とも思った。


「感動?」

「…こうやって、気遣ってくれるだけで、かなり俺としては心強いっす」


 真は一度眼を閉じ微笑むと、再度話の続きをし始めた。


「…それなら良かったよ。俺も最近の何と言うか…一連の流れはおかしいと思っているんだ。妙に辻褄が合い過ぎたり、逆に合わなさ過ぎたりする所が多い。それも、全て二重存在についての事だけ…これはどう考えても何か裏がありそうな気がする」

「裏? でも、そんなの誰が…」

「…分からない。本当に誰かが操っているならば、君の前に現れる可能性は大きいだろう…。…こんな事に巻き込んでしまって、本当にすまない…。俺は君に辛い思いをさせてしまった…」

「謝らないでくださいよ。俺は自分でこういう選択をしたんです。…真さん、話ついでに良いですか? どうしてあの――――アリカの時に俺に協力を仰いだんですか?」

「うん? それは俺が対処すると下手に死人が出るからだよ?」


 真さんは、当然だからしょうがないという感じの表情で言った。

 …納得した。しちゃいけないけど…した。


「前にも言ったかもしれないが、俺と二重存在の相性は悪いんだ。魂そのもので攻撃する君達と違って、俺やそういう力を持っている人間というのは、魂の力を別の力に変換して戦うからね」


 変換か…。エネルギーと言っていたから、それを違うものに変えているのか…。想像もつかないがそういう事だろう。こういう超常現象系は今年、ここに来るまでは縁が無かったから、全くとは言わないが、詳しい程知ってもいない。むしろ、こんなのを良く知っているならば、最初からそういう世界に足を踏み入れているだろう。なされるがままに、この「非日常」に足を踏み入れた自分としては、全部が全部目新しい。だが、それも最近は慣れつつある。これも人の順応能力の高さ故のものだろう。既に「日常」と「非日常」の境界線は揺らいでいる。でも、最初からそんなのは存在しないのかも知れない。俺がこの世界の一部を自分の現実、日常、として認識していただけで、線引きなどは誰もしていないのだ。それをしたのは自分――――自分で自分と外界を勝手に区切っていたのだと思う。理解出来るものは常識の範囲内に。理解出来ないものは非常識に。それで自分の世界を構成していたに過ぎない。知ろうと、正確には認識しなかっただけで、摩訶不思議な事象は空気の様に世界に溢れていた。多分それが真実だ。

 分からない事を無理に解き明かそうとするから歪みが生まれる。分からない事はそういうものだと飲み込まない限り、根拠と証明がずっとその「分からない事」に付いてまわる。だから何時まで経っても「結論」が出ない。何故なら理解出来ないものはそれ自体が「根拠」であり、「証明」になる場合がある。完結しているものを再度混ぜ繰り返すからおかしくなる。

 ところで何故こんな意味が無い、中身が空っぽの理論を繰り広げているかと言うと、さっきの昆布茶シェイクが気持ち悪過ぎて思考を別の方向に逸らしてやらないと大変な事になりそうだったからだ。昆布茶シェイクを舐めていた……胃で溶けてからが本番だとは…。


 ――あーわたしものみたかったなー――


「てめぇ…俺の反応見て言ってるだろ…ぐぅぅ…」

「…む、もう行こうか。橋間さんも待っているだろうし」


 店内の時計を見ながら真はそう言った。


「そっ…そうですね。出ましょう…」


 葎もそれに同意し、二人は連れ立って店を出た。


「暑いですね…」


 外気と店内の気温差が激しい。その気温差に葎は若干の眩暈を覚えた。

 本当に暑い時というのは、暑いとしか言い様が無い。それしか言う事が無い程暑いのだ。ふと違う話題に転じても、気付けば暑いという言葉を口にしている。それはお決まりの文句であり、会話が詰まった時の応急処置的意味合いも含んでいる。単調な自分の言葉を反省しつつ、次なる話題を模索した。


「…今日、あの万年筆を買ってくれた人って物好きですよね…元とはいえ、曰く付きの物を買うなんて…」


 俺が話題に持ち出したのは、今日の取引相手の事だ。

 一応、「天儀屋」はリサイクルショップの体裁を取っているが、実質売り上げの殆どは、いかにも抹香臭さが漂う品を好事家に売る事で成り立っている。だからこその高収入なのだ。勿論、呪いや因縁のある物はそれらを打ち消して提供する。

 だが、俺自身は呪いの類が払われる所を見た事が無い。全て真さん任せだ。

 呪いが消える瞬間というのは壮絶なものらしく、見てみたいという気持ち半分、見たらトラウマになる可能性が半分なので、今の所は見送っている。

 何をしているがしらないが、突然「天儀屋」でスプラッター映画顔負けの叫び声がした時は、寧さんと店の片隅で身を寄せ合いながら震えた。よく近隣から苦情が来なかったなぁと…。

 呪いを帯びている品というのは同時にその呪いと同等か、それ以上の魅力を持っているらしい。高額で取引されるのが何よりの証である。需要があるから供給が出来る。人間はある程度の闇にそれなりの好奇心を持つらしい。たとえその呪いが自らに降りかかろうとも手元に置きたい人種も居る。

 怖がりの自分にとっては気が触れているとしか思えないが。理解出来ない訳でも無い。

 怖いものは見たくなる。それがどんなに恐ろしいものでも人はその蓋を開けてしまう。日常には無い恐怖感を味わいたい心情は、人間だからこそ持ちえる感情だ。


「あの人は、好事家だから仕方が無いさ。もしかしたら、呪いが憑いたままの物も持っているかもね」

「うえっ? それって駄目じゃないんですか…」

「危ないから手放しなさいなんて言っても、あの人の事だ…こっちの忠告は聞かないだろうさ…こればかりは仕方が無い…」


 溜息を吐きつつ、真は首を振った。葎はこの人物も苦労しているんだなぁ…と同情した。

 案外こういう商売も神経を使うのだろう。それが顔に出てないだけで結構な心労があるのかもしれない。


「ああ、そうだ、もう直ぐ――――」


 真が何かを思い出したように口を開いた時の事だった。

 金色の粉が舞っているのに葎は気が付いた。蝶の燐粉にも見えるそれは、眩しい日光の中でも燦然と輝き、存在感を失っていない。黄金の輝きが瞬く間に幻想夜の様な光景を作り上げていった。


「や! 真!」


 真と葎の前方から、甲高い声が飛んできた。彼等の前には一人の少女と、葎と同じ年だと思われる男性がそれぞれ立っていた。声は当然だが少女のものだろう。

 

「元気だった!? ワタシ? 元気だ! 夏バテとかしてない!? ああそう?」


 少女は長く所々はねている鴉の羽根にそっくりな癖毛を振り乱しながら、喋る隙も与えないかの様に一気にまくし立てた。小鳥の囀りにそっくりな声がキンキンと葎の耳を刺激する。


「ま、真さ――――」

「じゃあ、そこの人。真借りていくから、後から雅峰まさみね君と一緒に来て!」


 少女は言うだけ言うと、長細い紙を何枚もばら撒いた。風に攫われる筈のその紙は空中で静止し、うねる様に螺旋を描く。紙を中心に何も無い筈の宙から銀色の鱗が現れ、それらはいつしか完璧な蛇の形になった。そしてその蛇の胴から白い腕が生え出し、百足の様な肢体を露にした。

 最終的に出来上がったのは、白い腕が無数に生え揃った金属の様な光沢を持つ五メートルは下らない大蛇である。見た目はグロテスクな化物だが、どこか近寄り難い神聖な雰囲気をそれは纏っている。

 それは、流れる様に真と黒髪の少女を、葎の胴程もあるかと思われる分厚い尾で掴み、とんでもなく素早い動作で器用に人々の間をすり抜け、姿を消した。

 異常な生き物が道を這いずっているにも関わらず、葎を除き、誰一人としてその異常事態に気が付いていない。

 その間、葎は状況が飲み込めず、呆然と事の成り行きを見ている事しか出来なかった。ちなみに彼の肌はびっしりと鳥肌が立っている。彼が動き出したのは事が起きてから三十秒経った頃だった。


「真さんが攫われたーーーーーーッ!!!」


 ――…これは、どういう事なんだろうね…? 私にはちょっと良く分からないな――


「そんなん俺もだよ! 何これ!? さっきの何!?」


 ――おーけーおーけー…まずは落ち着こう。最初に金色の粉を見たかと思ったら、次は謎の少女と青年が現れ? 次にその少女が出した気持ちの悪い蛇にそっくりな生き物が真と少女に巻き付き、そのまま逃避行と…はははは、こんな所か――


「ははは…じゃないよ!? 意味が理解出来ないんだけど!? 何をどうしたらこうなったの!? もう最近こんなのばっかりだな!」


 ――あ、なるほど、これは夢だ。私は夢を見ているんだよ――


「お願いだから現実逃避しないでくれよ! 現実だよ!」


 ――葎…私、もう疲れたんだ…寝る、じゃあ後よろしく――


「ガラーー!! 寝るなー! 眼を開けろー! 寝たら終わりだぞ!」


 ――隊長…後は任せたぞ…ガクッ…――


「ガクッ…って口で言ってんじゃん…。任せられても困るし」


 ――じゃあこういうのはどうだね? うォォォォォ!! 私の屍を超えていけ! みたいな――


「いまいちだな。使うべき場面が違う気がする」


 ――私を倒しても、第二、第三の紳士が現れるッ…というのは?――


「それもどっかで聞いた事あるな…。ってさぁ、真さんがどっかに連れて行かれたんだから、もっとこう…違う感じのがあるだろうよ……。………そうだよ! 真さん! こんな事やってる暇じゃねぇよ!」


 ――君もノリノリだったじゃないか。それに真だぞ。そう簡単に死なないと思うがね。あの娘も真の知り合いの様に見えたし――


「そ、そうかも知れないけどさっ!!? 敵っぽかっただろ! 登場の仕方とか!」


 ――おっと…私は花の水遣りをしなければ…――


「逃げるなーーーーーーー!!」

「…ちょっと良いかな?」


 先程まで黙っていた青年が葎に語りかけてきた。口調は極めて静かで、敵意などは感じられない。


「なんすか!! 今取り込み中なんですけど!?」


 その苛立ちを青年にぶつけるかの様に葎は刺々しい口調で返す。青年は葎の剣幕にたじろぎつつも、穏やかな態度を崩しもしなかった。

 これでは一方的に自分が青年を責めている感じがしたので、ばつが悪くなった葎は大人しく青年の言葉を聞く事にした。落ち着いて考えれば、話が通じないという相手でも無さそうだ。

 青年は葎が大人しく黙ったのを見て、少しほっとした表情で口を開いた。


「あのさ、俺達もそろそろ始めないか」


 んん? 始める?。

 青年はにっこりと笑い眼を閉じた。

 そして、再び開ける。眼には見覚えのある光が宿っている。

 

「それじゃあ、やろうか――――力比べ」


 青年の瞳鳶色の瞳が輝いた。







 前回の終わり方が終わり方なので、ここいらできっちり断言して置きますが、この作品のヒロインはメロンパンです。

 


 おまけ 寧さんの駄目出し


「葎さんってたまに心の中が暴走しますよね」

「いきなり何さ!? 見た事あるの!? 俺の心の中!?」

「ありますよ」

「え゛…冗談だよね…?」

「ありますって」

「どんな感じだった…?」

「無駄に長いですね。それと、ちょっと妄想癖も入ってません? 後暗いです。鬱病ですか? 特に今回の話で不儀さんを褒めすぎですよ。ホモですか」

「oh…。どうやって見たんだよ…」

「ガラさんにやり方を教えて貰いました!」

「教えられて出来るもんなのか…!?」


 終わり

 

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