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duplices  作者: rakia
22/71

ヒーロー

 恒例のように言ってますが、文章がやばいっす。

 多分、分かってくれてると思うから、目を瞑ってくださいね(笑)

 …努力をしろって? してもこのザマさ!


 書き忘れていたんですが、迷子の設定が活かされてないとか思ったりする人がいるかもしんないっすが、タイトルをよ~く見てください。最初の出だしの話、タイトルが「迷子」じゃなくて「探し物」なんですよ。だから合ってるんです。言い訳じゃないんだよ!? ホントだよ!?


 

 

 

 

「でさ? そのむっちゃんは、どんなんなんだよ? 弦見君?」


 葎は、葎達と並び歩く少年、弦見章間に尋ねた。

 もう十分じゅっぷんは探しただろう。けれど、一向に「むっちゃん」とやらは見つかる気配がない。

 厄介な事に、この弦見章間という少年、かなり口数が少ない方だ。

 昔の自分を見ているようで、ムズ痒い感じがする。

 探し物や今回の人探しをする場合は、こういう気質は厄介事この上ない。自分もそうだったので、よく分かる。道が分からないから、うろうろする。だからと言って人には聞けない。人見知りだから。

 多分彼もそうだと思う。ついでに寧さんも。


「白くて、もじゃもじゃしてる」


 う~ん? 人間じゃないのか? 犬とか? でも…こいつぐらいの背の犬なんて居ないよなぁ…


「犬?」

「違う」

「早めに探しちゃいましょう。遅くなったら、章間君…大変でしょ?」


 寧が、章間と視線を同じ高さにして言った。

 彼女がそう言うのも、もっともだ。沈みかけの太陽は建築物に遮断され、大きな影が出来ている。殆ど夜に片足を突っ込んでいるような時刻だ。夏は六時ぐらいまでは明るいが、それでも遅くなるのは好ましくない。親も心配するだろう。


「そうだね――――」


 人の密度が段々高くなってきている。もうすぐ夕方の帰宅ラッシュだ。駅からの人々でこの辺も直ぐ埋まってしまう。そうすれば「むっちゃん」とやらも探すのが困難になってくる。

 そう思っていると、ガラがいきなり声を出した。


 ――葎。あの乳母車の辺り――――何か居る――


「は…乳母車? ああ、あのベビーカーの……って! あれ…!」


 母親はそれに気が付いていない。

 浮浪者のような髪の長い人間が母親の押すベビーカーの赤ん坊に手を伸ばしかけている事を。

 女―――多分女だ。何日も洗ってないような髪で表情を隠し、ずた切れのような袋を左手で引きずっている。そして、伸びきって、今にも折れそうな爪が特徴的な右手を赤ん坊に触れようと手を広げていた。

 ぬるぬると近づいているにも関わらず、誰もそれを見ていない。


「あれは……! 人攫いッっ…!」


 何だか、ガラから伝わる雰囲気が哀れむように感じられる。


 ――……………私はどうしたらいいかね?――


「うん…ごめん…風早に毒されてきたのかもしんない…」


 ――私達以外に気が付いてないな。悪霊の類かな――


「何だろうが、さっさと助けんぞ!」


 ――君はこういう時は大丈夫なのだね――


「何が?」


 ――霊やら何やらさ――


「ん~…何だろ……カタログで見て「あーこれ良いな~」って思っても、実際、現物見るとそうでもないって感じの奴!」


 ――そうなのか?――


「…多分そうじゃね?」


  ――ともかく…――


「一丁…」


 ――やろうか――


「やりますか! あっ、寧さん! ちょっと倒してくるから、弦見君頼んだ!」

「はい!? 何を!? どこ行くんですか!?」


 突然葎が言い出したので、寧は「何が何だか分からない」状態だ。

 葎とガラだけが現状を把握出来ているので、無理も無いのだが。

 弦見少年も寧と同じような感じである。


「悪人退治に―――――さ」


 振り向き答えた彼は、既にガラの口調になっていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ああ…あそこの赤子がいい。

 自分が生まれた「話」の内容とは違うが、えり好みも出来まい。

 とにかく今はこの袋の中の空虚を埋めたい。

 それでこそ自分だ。

 袋に中身があってこそ。

 汚れた格好をしてこそ。

 そして――――引きずり殺してこそ。

 もう直ぐ、もう直ぐ、自分は生まれる。

 二回目の生を受けるのだ。噂と共に、恐怖に彩られながら。

 

「君は一寸、爪が長すぎだ。切ってから出直してくるんだな」


 誰だ? 誰も私の事はまだ認識出来ない筈だ。

 自分の悲願を妨げる腕の先――――流し目の男が居た。


「ダレ? ジャマす…るな」

「いやいや。何をしようとしてるかは知らないがね…母親に断りもせず、子供を触ろうとするなんて非常識じゃないか?」

「…ジャア…コロサせて」

「駄目だ」

「ドウシタラいいノ? あなたコロス? ホカノヲころす?」

「どうしたらいいの…、か。そうだな、誰も殺さないと誓うなら見逃してあげよう」

「イやだ」

「それではしょうがない。全力で邪魔するしかないな」


 男の顔が消え、何故か空が見えた。黒い。もう直ぐ夜になる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ――いきなり投げるなよ…人に当たったら危ねぇだろ…――


「当てないように投げている」


 もしかしたら、こいつが一番危険かもしんない…。

 

 ――…悪霊か?――


「いいや。どちらかと言えば、舞に近い」


 ――じゃあ付喪神? みたいな?――


「そう…だと思うが…」


 ――歯切れが悪いな――


「とにかく倒そう。それから考えればいいじゃないか」


 ――そうだな――


 さっきガラが投げた女は、石畳に仰向けに倒れている。

 静かなのが逆に怖い。


「あ…あの…」

「ん?」


 話しかけて来たのは赤ん坊の母親だった。心配そうな顔でこちらを見ている。

 それもしょうがない。傍から見れば、ベビーカーの横で怪しい動きをしているようにしか見えない。

 幽霊が見えない人に見ろと言う方が無理だ。

 それにしても…不審そうな視線が非常に痛い…。


「ああ…ご婦人でしたか、これは申し訳ない。お宅の可愛らしい赤ん坊に虫が寄っていたもので、虫は払っておきましたからご安心を」

「は…はい…!」


 ガラは俺の顔で俺からしたらぞっとする笑顔で赤ん坊の母親にそう言った。

 そして母親はどういう事か、頬をほんのり赤く染め、明らかに嘘と丸分かりのそれをすんなり信じてしまった。どうかしてるとしか思えない。

 ガラの精神世界で自分の腕を見る。

 あぁ…鳥肌がかつてない程出来ている…。


「安心しろ、葎。こちらは上手くやれた」


 何を安心しろと?


 ――あのさぁ…お前…たまに俺の体借りたりするけど…俺の意識がない時にこんな事やってないだろうな…? ええ? おい?――


「さてね…それはいずれのお楽しみだっ!」


 ――楽しくねぇっ!!――


 …そろそろ胃に穴が開くかもしれない…。


「栖小埜さん! 章間君が!」


 いつの間にか、寧が蒼冷めた表情でガラの近くに来ていた。


「どうしたんだね? 寧?」

「―――! ガラさん!? あの…なんて言うか…章間君が浮いてます!」


 …浮いている? …………ええ!?

 確かに浮いてる。浮いてるというか、掴まれているのだ。

 先程まで倒れていた女に。汚らしい袋を携えている女に。


 ――どうすんのーーーー!! お前がぼやぼやしてるから、あいつ捕まっちゃたじゃん!!――


「葎…誰にでも失敗ってあるよね。人は失敗するように出来てるのさ」


 ――お前人じゃないだろうがぁぁぁぁ!!――


「つい、うっかり」


 ――お前はうっかりが多過ぎんだよぉぉおおぉ!! 臼で引いて粉にしてやろうか!? それがいいのか!?――


「よし! 助けるぞ」

 

 ――完全無視!?――


 あ~もーッ! 死なねぇかなこいつ!! ロードローラに踏み潰されたりして!

 つうか…何で寧さんに見えてないんだ? 他の人達はともかく、寧さんは、舞さんやらの影響で少しは見えるはずなのに…。

 うおっ!?

 いきなり視界が早送りのように次々と流れていく。眼で追えない速度だ。


「ほら、取り返した」


 ガラは荷物のように章間を担いでいる。

 こいつ何しやがった…? スリも得意なのか? このアホ紳士は…。

 袋の女も理解が追いついていないようで、手をしきりに見ている。


「とラないデ」


 のろのろとした動きで、女はこちらに寄ってくる。


「後ろに隠れていたまえ」


 ガラは章間を降ろすと、袋の女に向き直った。

 章間は石地蔵になったかのように固まっている。

 

「…誰?」

「私かね? 私は紳士だ」


 おい。その答え方はどうなんだよ…。

 間違ってはいないと思うけど、合ってもいないと思う。 

 

「紳士?」

「ああ」

「何か…カッコイイ!」


 それはおかしい。

 少年…冷静になるんだ…

 こんな奴格好良いとか言ってると、人生棒に振るどころかバットだけでホームランしちまうぞ。


「そうか、では後は私にまか――――」

「ちょおぉぉぉと待った!!!」


 嬉しそうにガラが口を開きかけた時、けたたましいというか、うるさい声がそれを遮った。

 声の飛んできた方向をガラの眼が追う。視覚は当然共有してるので、その姿ははっきりと見ることが出来た。ガラがと章間が立っている方向の反対、謎の袋女がいる地点の真上―――ビルの天辺から腕組みしつつこちらを見えない視線で射止めている。顔は見えないようにパーカーのフードを被り、量販店で出回っている普通のジーンズを履いている。今日はそんなに気温が高いという訳ではないが、それでもあの服装では暑いだろう。

 季節にそぐわない格好のその人物は、夜空を背景に夜の街の明かりに晒され、大衆の前にも動じず憮然と立っていた。

  

 ――…………誰?――


「……誰?」


 急展開過ぎて、葎はついさっき章間が言った「誰?」という言葉を繰り返していた。ガラまで釣られて言ってしまっている。通行人の視線を一身に受けても、恥ずかしがる素振りすら見せない。


「よくぞ聞いてくれた! 俺はヒーローだっ!!」


 んん? 何言ってんだこいつ? ヒーロー? ハローとかじゃなくて? 

 …ヒーローってヒーローと自分から名乗らないんじゃない? 俺そんなヒーロー聞いた事無いよ?

 葎の人生経験に照らし合わせてみても、こんな愉快な戯言を言う人物は知らない。人じゃないのなら一人心当たりはあったりする。まあ、それはガラなのだが。

 葎は思った。「また変なのが増えた…」、と。

 彼の心情的には、限りなくブルーだ。青が逃げ出す程真っ青である。最早青すら通り越して、黒に近い。


「ヒーローだっ!!」


 いや、言いなおさなくていいよ…聞こえているから…。

 ビルの上の彼は、ご丁寧に二回目の個性的自己紹介をした。

  はぁ…何なんだよ…今日は…迷子に、妖怪袋女に…うっかり紳士…で? 次はヒーロー? お腹いっぱいだよ…。何? 最近の石動市はこんなんばっかが集まってんの? …実家帰ろうかなぁ…。


「ヒーローなんだっ!!」


 うるせぇ、殴るぞ。集中線でも引いて欲しいのか。

 ガラに体を貸してしまっているので殴れないのを葎は残念に思う。

 大体、紳士とかヒーローとか、紳士とか紳士とか名乗る奴は大概ろくでもないと相場が決まっている。

 

 ――…ガラ…あれ…何?――


「私に聞かれても…」

「かっこいい!」


 弦見君…君の基準はおかしいぞ…。


「…うっわ~…」


 見ろ…寧さんのが正しい反応だ。

 袋の女が見えていない人達でさえ、固まっている。

 ベビーカーの赤ん坊にいたっては涎が垂れているし。

 しかも、この自称ヒーロー…二重存在じゃねぇかよ。


 ――…えっ!? 二重存在!?――


 自分で思った事なのに驚いてしまった。


「その様だね…」


 流石に、ビルの上のヒーローは四回目は言わないらしい。

 その代わりに、大声を伴いながら、飛び降りてきた。



「とぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉう!!」


 少なくとも、ビルの高さは十数メートルはある。しかしそいつはためらいもなく、一般人なら楽々死ねる高さから飛び降りたのだ。通常ならば気が触れているとしか思えない行動である。

 自殺とも思われるだろう。思ったとおり、周囲は悲鳴に包まれる。

 だが、そいつは、下にある見えない「何か」――――

 葎とガラだけに見えている怪しい袋の悪霊を蹴り付け、落下の勢いを消してから着地した。

 袋の女が見えてない人々にとっては、空中で二段ジャンプしながら降りてきたとしか見えただろう。

 そう、その自称ヒーローは平然と着地した。「通常」ではない故に。


「見・参!!」


 見参も何も…あんだけの勢いでふんずけたら…原型が無いのでは? 見参する前から終わってるだろ…。

 

「腕だけか」


 ガラはそう呟いた。

 腕だけ? ………! 本当だ…! 

 あれだけの勢いで蹴られたにも関わらず、袋の女は右腕を失っているだけだった。

 辛うじて、腕の付け根、肩の手前の部分だけが残っている。そこから先の腕は消失していて、黒っぽい灰色の粒が漂っている。


「彼女を構成してるのは、善意と悪意の半々―――いや、黒が大多数か…これではまるで人間の魂の様だね…」


 ――人間の様? 物とかじゃないのか?――


「あのねぇ…前にも言ったかもしれないが、葎。私が全部が全部知ってると思ったら大間違いだぞ」


 ――あっ…悪い…お前無駄に物知りじゃん…だから…うん…――


「言い方に棘がある気がするのだが…頼りにしてくれてるのは嬉しいよ…」


 ――…どうすんの? あれとかあれ…――


「どうしようもね…どうしようか…」


 無事着地に成功したパーカーの自称ヒーローは既に袋の女の方へと行っていた。

 

「すんなりやられてくれたらよかったんだがッ!」

「ジャまするナ…もう、オマえでイイや」


 袋の女は目の前に立つ自称ヒーローの足首を掴み、呻くような声を発した。

 彼女は掴んでいる手を手前に引く、すると、あっさり自称ヒーローは背中から倒れてしまった。

 自称ヒーローはすぐさま立ち上がったが、その一瞬に袋の女は落ちている雑巾のような袋を左手で素早く拾い――――自称ヒーローの頭にその袋を被せた。

 無論、子供がやっと一人入るか、入らないかぐらいの袋に、平均的な高校生の身長はある、自称ヒーローが入る訳がない。頭から、お腹の上辺りまでしか入っていない。



 ――……何してんだ…あの袋女…悪いサンタの化身なの?――


「こんなのを見たら、クリスマスに子供が泣くね」


 泣くというかトラウマ決定だ…。

 

「おお! そこの同士よ! 助けてくれまいか!」


 袋を頭から被っている自称ヒーローは、やけに落ち着いた篭もった声でガラを呼んだ。

 関わり合いになりたくなかったので、ガラは後ろを振り向いて他人の振りを決め込んだ。


「後ろには何も無いぞ! 同士!」


 ――やっぱりあいつはお前と同じ出身じゃないのか…――


「…私と同じ出身と言ったら、君の魂という事になるが――――いいのかい?」


 ――…それは勘弁して…――


「助けなきゃ駄目かな…」


 ――呼んでるし…聞こえない振りしとく?――


「はぁ…私も助ける人ぐらい選びたいのだがね…」

「俺はここだ! 大丈夫だ! まだ怪我はしていない!」


 聞いてないんだけど…。というか自分で逃げればいい気が…。


「しょがないか…」


 ガラは袋の口を片手でぐいぐいと下に引っ張っている袋の女まで軽く走り、そのまま両足で飛び掛った。

 見事な程のドロップキックだ。

 袋の女は自称ヒーローを袋に押し込むのに執心だったので、避ける事も、防ぐ事も、気が付く事さえなく弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。ぶつかったのがショーウインドウなどではなくて本当に良かったと思う。

 ガラスだったら、呆気に取られ続けられている通行人達にも被害が及ぶからである。ガラが狙ってガラスを避けたのかは知らないが、まぁいいだろう。疲れた。

 それよりも、見えない相手に格闘している自分達の方が余程心配というものだ。主に世間の風当たりが。


 ――あいつさぁ…自分でにげられたんじゃない?――


 袋をかぶせられたまま自称ヒーローは頑なに腕組みを崩さない。


「ずっと腕組みしたままだね…何かこだわりでもあるんだろう…」


 助けたガラもうんざりとした声になっている。


「いや助かった! 仲間に助けられるという展開は燃えるな!」


 さいですか…。

 壁にめり込む程ではないものの、強かに打ちつけられた袋の女がにわかに動き出した。

 そのまま一直線にガラの方へと伸びきった爪を広げながら突進して来る。


「おまエらコロす…」

「もう何でもいいから早く終わらせよう…」


 ガラは猛進する袋女の手を掻い潜り、カウンターのように強烈な蹴りを顔面に放った。

 

「うがゴ…」

 

 袋の女はそのままの通り、弾き飛び、頭から袋を被ったままの自称ヒーローへと飛んでいく。

 自称ヒーローとはいうと、頭の袋を漸く取り去った所だ。


 ――…わざと?――


「私には何の事か分からない」


 袋を完全に取った自称ヒーローは飛んでくる異物に気が付いたらしく、おお、と感嘆らしき声を何故か上げた。

「見せ場だな―――せいやぁぁぁぁぁぁああああ!!!」


 ピンボールの玉の如く飛んで行った袋女の体の中心に自称ヒーローの拳がねじり込まれる。

 その瞬間に袋の女は灰色の煙となって消えた。

 立ち振る舞いは阿呆だが、実力はそれなりにあるらしい。


 ――お前等…息ぴったりじゃん…生き別れの兄弟とかじゃ…――


「止めてくれるかな。本気で怒るよ」

「よ~~~~し!! 決まった!! ヒーロー的に!! ――――ふぐっ!」


 どうしたのだろう? 自称ヒーローは高らかに勝利宣言したかと思うと、ぐにゃんぐにゃんと体をのたくらせながら、悶え始めた。


「い…今は…ちょ…と…勝利のポーズを…分かった分かった…止めておく…今日は」


 ――何となく俺にもあれ、覚えがあんだけど…中の人が抵抗してるよな…明らかに…――


「勝利のポーズだと…まだあったのか…! もういいのに…」

「…………………………」


 数秒の後、自称ヒーローは大人しくなった。


「――――――とぉ、いう訳で~~さらばだ諸君!!」


 待て待て、どういう事だ。

 

 ――ガラ…代わって…――


「ああ…」


 ガラと入れ替わり、葎はすかさず叫んだ。


「誰!? お前!? 何しに来たの!?」

「俺はヒーローだ! じゃあな同士! また会おう!!」

「はぁ!?」


 とう! と言うと、パーカーを被ったヒーローは夜の闇へと消えていった。その間、声を発する者は一人も居なかったという。居た堪れない空気の中、寧がいきなり大きな声で口を開いた。


「い――――以上でぇ…石動市企画ヒーローショーは終了となります!! お足元にお気をつけてお帰りください! 尚写真等はご遠慮頂いております!」


 寧がそう言うと、何だ、只の見世物か、という声が出始め、帰りましょう、と言う声や、すごかったね~、という声が広がっていき、立ち止まって見ていた通行人達はそれぞれ散っていった。


「寧さんナイス―――うわっ!」


 寧に手を掴まれ、葎はぐいぐいと引っ張られていく。

 ついさっき言われたばかりにも関わらず、見物人の一部が携帯のカメラを準備し始める前に、寧は葎を遠く離れたビルとビルの間の脇道に連れ込んだ。


「あ―――弦見君は?」


「さっき、むっちゃんが来て連れて帰りました…。それより! あなたはメロンパンの食べ過ぎで頭までスカスカになってんですか!? あたし、すっごい恥ずかしかったんですよ!? 多分また何かトラブルがあったんでしょうが、あんな人の多い所で何を超次元バトルを繰り広げてるの!? 非常識も大概にしなさいよ! 大体ヒーローって!? パーカーにジーンズのヒーロー何て、聞いた事無いよ――――…ですよ! ………いいです…この際です…じっくりたっぷり話し合いましょう…ガラさんも聞いてますね? あなたもですからね? 舞の時から思ってたんですけど、格好つけても格好良くないですから! 『悪人退治さ』じゃないですよ! あたしが退治しますよ? あなた達を!」


 寧さんが怒った…。すごく怒った…。


「ガ…ガラ…?」


 ――格好良くない…格好良くない…格好…――


「ガラ!?」


 ガラが落ち込んでる!? ………あっやばい…これ死ぬな…。


「聞いてるんですか! 人が話してる時はちゃんと聞きなさいっ! ―――――――――! ――――――――! ―――――――!? ――――――――――? ――――――――――――――!!」


 その後、三十分、葎とガラは寧の「ありがたいお話」を聞かされ、家に帰ってからも三時間に渡る怒涛の連激を喰らった。全てが終わった時には、葎は半泣き、ガラは精神世界の白い庭の片隅で体育座りをしていたという。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「燐太ーアイスー」

「風早君~アイス~」

「昨日奢っただろ!?」


 燐太は今日も、藍子と灯に捕まり、士に見捨てられ、彼を絶望の淵まで追い詰めた張本人達と下校していた。しかもたかられている。とんでもない奴等だ。……原因は今回も自分にあるのだが…それでも昨日と今日の二回連続で奢る謂れは無い気がする。

 …? あの、どんよりとした背中は… 


「お? やっぱ、葎か! 昨日は珍しく居なかったじゃん。橋間さんもこんちわー」

「あ、どうも、風早君。藍子ちゃんと灯ちゃんも」

「あぁ…風早か………昨日? 昨日はな…迷子の「むっちゃん」捜しを手伝ったり…「しまっちゃう」女を倒したり…ヒーローに出くわしたり…凄く…大変だった…」

「すっげぇ聞きたいけど…すっげぇ聞きたくねぇな…」


 …むっちゃんって何だ? しまっちゃう女? おじさんなら知ってるけど…最後のヒーローって?

 疑問が沸騰したお湯のあぶくのように沸いて出るが、葎の様子からして、聞いたら聞いたで中々に鬱になりそうだ。ゴリラとのピロートークの最中みたいな顔をしているのだから、相当に大変だった事が窺える。 

 

「風早はさぞ平穏だったんだろうなぁ…」

「おい、あんた! 死ぬなよ!? 口から白い玉出てるけど大丈夫!?」

「大丈夫ですよね。栖小埜さん」

「は…はい…寧様…」

「寧様!? 何時もは寧さんって―――」 

「ばっか! 風早ぁぁ!! 死ぬぞ!? お前! 「様」を付けろ! 「様」を!」

「何があった!? 橋間さん、あんた、葎に何を!?」

「反省してもらいました」

「反省じゃなくてこれじゃあ…なぁ藍子…?」

「うん…」

「おおぅ…」

「あー! 紳士~」

「紳士? ガラの事?」


 昨日聞いたばかりの声が足音と共に駆けて来る。弦見少年の声だ。


「ガラって誰ですか?」

「え!? あー…葎の飼い犬だな! うん!」

「そうだヨ」

「栖小埜さん犬…飼ってました?」

「紳士! 昨日はありがとう!」

「ウン…じゃなくて俺は紳士じゃないぞ…弦見君…」

「おや…? もしかして昨日の少年じゃ――――」

「おー、川の爺さん。このちっこいの孫?」


 章間に少し遅れて、燐太が昨日帽子を拾った老人が追いついて来た。


「そうだよ。めんこいだろ?」

「へぇ…そうかぁ。似てないな~」


 白くて…もじゃもじゃ?

 葎は燐太と面識があるらしい老人の顔をじっくりと見る。

 白く威厳のある髭をもじゃもじゃと評するのはどうかと思うが、見ようによってはもじゃもじゃでも、合ってるかも知れない。


「………もしかして――――この人が「むっちゃん」?」

「そうだよ」

「そうですよ。言ってませんでしたっけ? 弦見武つるみたけさんこと、むっちゃんさんです」

「確かに…白くてもじゃもじゃしてる…」

「少年達、昨日の礼に冷たいものでもどうじゃ? そこの死にそうな顔の青年とお連れの方も一緒に」

「いいのか! よっしゃ!」

「私達までいいんですか?」

「いいよ。暑いしのぅ。わしも食べたかったんでな」

「やりましたねー! 風早君!」

「紳士も来るのかー」

「駄目? 弦見君?」

「いいよー橋間のお姉さんも来るよね?」

「え…っと…あたしは…」


 ――是非、行こうじゃないか。アイスクリンだったら、私はストロベリーがいい――


「行こうぜ、寧さん…様。ガラも行きたいってさ」

「じゃあ―――そうですね、お言葉に甘えましょう」

「葎ー! 早く来いよー!」

「待てよ! 風早ぁ!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 今回は駄目だった。

 「話」が完成する前にこわされちゃった。

 乱暴な人達だ。すごく痛かった。

 でもあの「ヒーロー」とか言ってた人……

 …ううん…私を邪魔した人に変わりはない。

 引きずるものも駄目だったのかな? 赤ちゃんは小さいから良いと思ったんだけど。

 やっぱりいじめっ子じゃなきゃ駄目なのかも。

 でもいいや。私は――――私達は誰かが噂を引き継いでくれるなら死ぬ事は無いのだから。

 いつかは完成する。そしてこの流動体のような体も定まってくる。もう殆ど固まってるし、そんなに 

遠くはない。話が終わらないから私は消えない。

 私が完成したらどうしよう。そうだ、まず話のように私を苛めた人達を―――――

 





 引きずってあげないと。





<了>

 次回のはバトルの要素がない気がします。

 これも少なかったけど、もっとです。

 あーついでですが、寺生まれのkさんと、番外編をまた、更新&投下しましたので…よかったら…

 寺生まれ

 URL:http://ncode.syosetu.com/n0019bh/


 番外編

 URL: http://ncode.syosetu.com/n2131bh/

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