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duplices  作者: rakia
19/71

スタートライン

お待たせしましたっす!

すごい時間掛かっちゃいましたね…

そんなこんなで三話目最終話です!

おまけとして外伝のURLも最後に貼っときますね~。

 ――…ガラ――


 「何だい?」


 ――…舞さんはまた戻ってきたりしないのかな?――


「どうだろうね」


 ――なんだそりゃ…――


「私の知る範囲では、想いから生まれた霊体が普通の霊体と同じ様に再生するのは見た事が無い、って事だけさ。…もしかしたら例外だってあるかも知れないぞ? 私とて全てを知っている訳ではないのでね」


 ――そっか…――


「私としては…もう彼女は一人でも大丈夫だと思うのだが――――…」


 ――それでも、寂しいもんは寂しいぜ…?――


「分かっているよ。うん…そうだな…当てのない希望でも、最初から諦めるよりはずっと良い」


 ――なんだ、たまには良い事言うじゃん――


「失礼な。私は常に君よりは良い事を言ってるつもりだよ?」


 ――あーソウダネ――


はたしてこいつはどの面下げて言っているのだろう? ガラが言う事は大抵、意味深な事、俺をいじくる事、そして臭い台詞の三点だと思うのだが―――

 いかん! いかん! 「~だが」って口調が移ってきていやがる!


「さてと…戻ろうか」


 ――そうだな…寧さん…どうする?――


 寧はひびの入った狐の仮面を大事そうに抱きしめている。出来るならば、あまり邪魔はしたくない。


「もう少し、あのままにさせておいた方が良いと思うね」


 ――だよなぁ…――


「おや…珍しく意見が一致するな?」


 ――そんな珍しくも無いだろうが――


「私としては嬉しいのだがね。君も多少は『気遣い』を覚えたようだし―――――」


 ――余計なお世話だっつーの!――


「はははっ。照れるなよ」


 ――照れるかっ!…ハッ!こんなやり取り前にも…!これが既視感デジャヴって奴か…! この考えさえも前にあった気がするっ…!――


「君は何を言ってるんだい? 頭でも打ったか?」


 ――いや…つい言ってみたくなって…――


「打ったんだな…」

「あの…」

「む…?」


 ガラが葎と中身があるような無いような分からない会話をしている間に、寧が近くまで来ていて、気の毒そうな表情で葎を見ていた。何とも残念な人を見たような反応だ。


「…もう良いのかね?」

「ええ…」

「ふむ…ならば、私もそろそろ葎と代わろう」

「あ…やっぱり…栖小埜さんとあなたは違うんですか…?」

「…おや、意外だな。とっくに気が付いていると思ったのだがね? 私は彼の二重存在だよ」

「二重存在…?」


 寧はあまりよく分からないようで、困ったという感じになっている。

 

「まぁ、簡単に言うと、葎と私の魂は別物で入れ替わったり出来る。それと私が出ている間は殆ど怪我もしないし、霊体にも触れたり、見たりする事が出来る。そして私達は深い絆で結ばれたパートナー…いや、相―――あっ、葎何す――――……橋間さん? 今の最後のは余計だから気にしないでね? 絶対に」


 葎はとにかく黙らせた。

 寧はいきなり葎とガラが代わったので呆気にとられている。葎とガラとでは、雰囲気は全く別物に変わるので受ける印象もかなり違うからである。中身が違うので当然といえば当然なのだが。


「えっとね…まぁ…ガラが言ってたので概ね合ってるけど――――あっ、ガラってのはさっきの変な喋り方の奴ね…そんで…橋間さん達とはちょっと違って…えーと…」


 何て言ったらいいかなぁ……あ~! 説明だけでもあいつに最後までさせるべきだった!

 葎がどうにか説明しようと一人で苦戦しているのを見て、寧はクスクスと笑い出した。


「橋間さん?」

「あははっ…寧って呼んでくださいって言ったじゃないですか? そうしないと舞と区別が付きませんからね」

「え…あ…ああ…うん?」


 いや…さすがに下の名前で呼ぶのは抵抗があるのだが…ん…? でも、さっきまで、流れで結構呼んでたような…。おいおい…そうじゃなくてこの人……。


「ええと…寧さん? あの~もう大丈夫なんすか? その…」


 葎は彼女に握られている仮面をチラッと見る。


「……はい。あたしはもう大丈夫です。…あたしにはあの子とは思い出が残ってますから…もう絶対に忘れたりなんかしません」


 ………あたし…か。うん…確かにふんぎりは付いたのかな…。

 寧は舞とそっくりな笑みを浮かべている。黒子が消えたら見分けが付くか分からない。

 あ…そっくり…

 …いや…違うか…これは彼女の、彼女自身の微笑みだ。


「…にしても何時から舞さんに気付いていたんですか?」


 寧は一瞬考え込むようにしてから、口を開いた。


「…そうですね…。あなたと話した直ぐ後ぐらいでしょうか…?

その後はぼんやりとですが、彼女と同じ視点を見ていましたね…。それでもちゃんと意識はありましたから、えーと…栖小埜さんの中の人に呼ばれた時はちょっと、驚きました」


 …あの後か…、つーか中の人って…何か違うよね…?


「ひとまず帰りましょうか。時間も時間ですし――――」

「あ…ああ、そうだね。ところで…今何時?」

「今ですか?」


 葎の携帯は「花境」の部屋に置きっぱなしだ。

 彼に頼まれた寧は携帯を取り出し、その画面を覗いた。バックライトの光がやけに眩しい。


「十一時ですね」


 結構時間経ってたんだなぁ。…十一時…何か忘れてるような…?


 ――十一時といえば、真はどうなんだろうな――


 唐突にガラが言う。


「はぁ? 何でそこで真さんが出てくんだよ?」


 ――君は何を聞いていたんだ? よく思い出してみたまえ。十二時には何がある?――


「十二時ィ…?」


 何だったけ…? 十二時…十二時…? 真さん? ………………!。


「やべっ! 早く行きましょう!」

「えっああ、はい!」


 葎が慌てている様子を見て、寧は若干とまどい気味になる。


「…あれ…本当なのかな……少し見てみたいかも―――」

「栖小埜さん…あれ空鉦って人じゃないですか?」


 二人が来た道を引き返そうとした時だった。


「えっ? 空鉦さん? どこどこ?」

「あの畑の近くです」

「…ほんとだ…うん? 何か背負ってる?」

「そうですね…あれ…人じゃないですか?」

「幽霊じゃないよね…」

「さぁ…? 幽霊だったら栖小埜さん……先に行ってくれますよね?」

「いっいやぁ…レディファーストっていう言葉があるぐらいだし…寧さん…行ってみません?」

「……怖いんですか?」

「怖くナイヨ」

「あたしにも自分と向き合えって言ってたじゃないですかっ。栖小埜さんも自分と向き合ってください!」

「い…嫌だよ!」

「男に二言は無いでしょう?」

「俺、昨日男止めたんで」

「何を言ってるんですか!?」


 葎と寧が言い争っている間にも空鉦らしき人影はこちらに着々と近づいて来ていた。どうやらこちらへは走っている来ている様だ。見る限り肌に色は付いている、いくら葎が最近幽霊と人間の区別が付き難くくなっていても、生者と死者の判別は出来る。間違いなくこちらへと来ているのは空鉦本人だ。 

 空鉦は葎達を眼で確認するなり、背負っている人間らしきものをしっかり抱えつつも、手を振ってきた。何とも晴れやかないい笑顔である。夏に飲む炭酸飲料の爽やかさにすら匹敵するほどのいい笑顔だ。……彼を後ろから追っている無数の仮面を除けばだが。

 

「あぁぁ…寧さん……ダッシュっ!」

「は…はい? …え…あれ何!?」

 

 葎達は踵を返し、「俄面の館」の方へと走り出した。

 間も無く葎達に空鉦が追いついた。背中のが人ならば、驚異的な速さである。もう直ぐ、葎達と並ぶ程の勢いだ。そして彼は額から汗を流しながらも、葎達に話しかけてきた。


「ふぅ…おう! 葎!」

「『おう!』じゃないですよ!?」

「怒るなよ~」

「怒る怒らない以前に、何飛行する仮面と耐久レースやってんですか!? 真さんは!?」

「真は、ほれ、俺の背中にいるだろうが」


 確かに真は空鉦の背中に乗っていた。その様子は怪我をしたとか、気を失ったとかいう以前にどちらかと言えば、夜中無理をして起きていた子供が眠りに落ちる直前の雰囲気に近かった。

 冗談じゃなかったのかよ…。でも、まだ十一時だ。真さんの話が真実なら、まだ時間はある筈じゃ…。

その前に、何であんなのが追いかけて来てるか理由を聞かないと…!


「空鉦さん!あの仮面は『花境』にあったやつですよね!? 何で『俄面の館』のやつじゃなくて、『花境』の方が追っかけて来てんですか!?」

「あーあれ? さっきさ、黒いもやがこう、ぐわーっとこっちに来てな? 壁にあった仮面に吸い込まれたんだよ。そしたらこうなった!」

 

 それって…まさか…俺達が…舞さんに取り憑いたの倒したからじゃ………いや! 違う! …正しくは俺じゃないし! そうとは限らないし! 


「まっ…真さんは!? まだ時間じゃないでしょう!?」

「……お前、何でそんな汗かいてんだ? まぁいいや…。こいつはいつもこうだよ。一時間前になると頭が、ぼうっとするらしい。…だから毎度、毎度、危ねぇんだけどな」

「ええっ!? どうにかなんないですか! 俺達だけであれ止めるとかっ!?」

「うーん…っつても、俺は戦闘は得意じゃないしな…俺達だけじゃあ、無理があると思う」

「じゃあ…! どうしたら…!」


 何か作戦があるのだろうか、葎の言葉を聞いて空鉦は少し考えるように黙った。そして葎の方を見てこう言った。


「………頑張って走ろうぜ!」

「あーーーーー! もーーーーー!! 結局走るのかよ!」 


 寧はちゃんと付いて来れてるだろうか。葎は隣を見る。彼女は意外にもしっかり付いて来ている。華奢な体格な割りに、体力はあるのかもしれない。

 どうする…。いずれ俺達の体力が持たなくなる…このまま走り続ける訳にはいかない…かといって、真さんは起きる気配は無いし…!空鉦さんは言っちゃ悪いが、やはり戦うといったタイプじゃない。やっぱガラと俺がやるしかないのか…!そう言えば…まがりなりにもここは温泉街。もしかしたらどこか逃げ込めるかも…! …いや…駄目だ…一般の人を巻き込めない…! ……ん? 俺も一般人だよね?

 幸い、葎達が向かっている方向の『俄面の館』に続く道には人気が無い。温泉街は逆方向で夜に出歩く人も無く、そもそも、村の人間も『俄面の館』を気味悪がって、近付かないからである。

 

「――――栖小埜さん!栖小埜さん!」


 考えあぐねている葎に寧の声が届いた。彼女は何度も呼んでいたようだが、集中していた為、彼の耳には聞こえていなかったようだ。


「はっ! 呼んだ!?」

「栖小埜さん! 背中! 背中見て!」

「…誰の?」

「あなたのですっ!」


 背中? 何だろ?

 振り向き気味に背中を見る。そこには仮面がぺったり彼の背中に張り付いていた。海外の老人の顔を模したものだ。こんな状況だけに余計に不気味さが引き立つ。


「うわぁぁぁああああああぁ!!! 呪われる!!助けてぇ!」

「おりゃ!」


 葎を見かねて、寧は彼女としては渾身の力で仮面を叩いた。すると、彼の背中にくっ付いていた仮面はあっさり彼から離れ、横のやけに広い排水路らしき場所に音を立てて落ちた。


「寧さん…! あんた最高だ! 男らしいぜ!」

「男じゃないです!」

 

 多分、礼のつもりなのだろうが、彼女は複雑な気分である。

 そんな彼等をガラは助けようかと思っていたが、彼等がリアクションがあまりに愉快だったので、黙って、生暖かく見守る事にしていた。

 ……ピンチになったら、助ければいいか。あの仮面…どうやら壊しても、取り付くものがあれば、復活するようだな。本体はあの黒いもや…悪霊もどき…。

 ………そうか…、普段はそれぞれの家の能面や仮面に分離して宿っていた…。道理で、最初は何も出来ないと思ったのか…私も判断を見誤ったものだな…。 

 

「あ…寧さんにも付いてる…」

「えっちょ…きゃぁああああ!!」


 それにしても―――橋間寧…意外に面白いな…さしずめ、葎の女性バージョン改といった所……ふふふ。


「騒がしいなぁ…お前等…何時の間に、そんな仲良くなったの? お兄さんも混ぜてよ?」


 そんな事言いつつも三人は『俄面の館』にあと少しという所まで来ていた。


「空鉦さんあれ…!」


 異様に張り詰めた空気だ。そして『俄面の館』前には古ぼけた様々な顔が火の玉のように浮いている。遠くからだとそれは生首が浮かんでいるようにも見受けられる。俄面の能面だ。


「追加かよっ…! こりゃあ、いよいよ危なくなってきたな…!」


 無表情で浮いているそれらの周りに、舞の体から出てきたの同じガスのような黒い霧が集まっていく。 舞の時とは違って、一箇所に集まるのではなく個々の能面に入っていっていく。


「あれ…どーすんの…」


 影が体を作る。しかも、それぞれの能面がである。瞬きをする間も無く、黒い体の人間が軍隊のように『俄面の館』の前に現れた。 

 武器も何も持っていない、ただそこに居るだけの兵隊。その不吉さは言葉にし難いものがある。


「後ろも…!」


 寧が叫ぶ。彼女が言ったように後方の俄面陰餓が作ったのではない方、能面じゃなく色彩豊かな異国の仮面達から黒色の影が湧き出ている。そして、前方のモノトーンの人間達と同様に、体を形作っていく。 ただ、出来たのは、能面のような人間の形をしているものではない。腕が長かったり、動物のように四つん這いの、種類バリエーションが豊富な人間離れした姿である。俄面陰餓の能面がきっちり整然としているのに対し、『花境』の仮面達はサーカスの芸人や獣の様だ。 

 

「…やるしか無いですね…! ガラ!!」


 ――ふむ…あれを全部相手にすると思うとぞっとしなくもないね…――


「――――だが、数に負ける程、私達が弱くないという事を思い知らせてやろう」


 ――何だよ…こいつ。かなりやる気じゃん。だけど、数では仮面の方が圧倒的に多い。ガラ一人じゃ、キッツイだろう…! …俺も何か出来りゃあな…。…仕方ないから、ガラが負けないようにイメージとやらに勤しむか…――


「葎……そういうのは心の中で呟くものだぞ? 君があんまり役に立たないのは事実だが…」


 ――しまったぁ! うっかりやっちまった!――


「しかし、君も、多分少しは役に立っている! 多分!」


 ――ああ…多分な…ハハッ…多分ね…多分…――


「葎? ……じゃねえな…。ガラ! ここ任せても良いか!?」


 空鉦が既に葎と入れ替わってる葎に言い放った。

 

「それはいいが――――君はどうする? 何か考えが?」 

「考えって程のもんじゃねえけどさ! 少しは時間稼ぎ出来ると思うぜ!」

「時間稼ぎの為に時間稼ぎ……変な事になったなぁ…分かった…。だが、ここからは離れた方がいい。君達を戦いながら、完全に守りきる自信がないのでね」

「分かった! 無理すんなよ!? 橋間ちゃん! 行こう!」


 空鉦と寧は、横道に逸れ、走っていった。ガラだけがそこに残っている。前には黒い人間、後ろには、悪夢に出てくるような、様々な黒い影、共通しているのはどちらも面を被っているという事。

 

 ――はぁ…病院での悪霊との遭遇を思い出すよな…コレ…――


「いやぁ…もっと多いぞ? こっちの方が」


 不意に、仮面の黒い人間の数人が空鉦達の走り去っていった方角に向かおうとした、が―――


「君達の相手は私達なんでね。あっちは気にしないでくれたまえ」


 空鉦達を追おうとした影の能面が、一気に全て割れた。

 寄り代を失った影は他の能面や、仮面に吸い込まれていく。


 ――ガラさんや…大きくなってないかい? 影…――


「やはり直接、影を倒さなければならないか……! 葎、無理してもいいか?」


 ――やっぱ、そうなんのね……まぁいいさ…!任せる…!――


「…任せてくれ」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  


「空鉦さん? それは?」


 寧は真を背から下ろししゃがみ込んで、何やら準備を進めている空鉦に尋ねた。彼は鉄のびんのような物を持っている。

 彼等は野原の様に、背の短い草が生い茂っている、広い場所に来ている。逃げてきた道より高い場所にあるので、下からだと彼等の姿は直ぐ分かってしまう。

 一体何をする気なのか分からなのだろうか。仮面や能面が追ってくる気配は無い。葎とガラが頑張ってくれているのだろう。だが、それも何時まで持つか。残りの時間が少ないのが結局の現状である。


「あぁ? これ? …そろそろ、火が点いたか」


 鉄の瓶からはもくもくと白い煙がたち始めていた。その煙の香りは、仏寺を思い起こさせるような香りで、懐かしさを感じる。線香の匂いに似ているのかもしれない。

 寧が何となく、そんな事を思っていると、鉄瓶から突然、大量の煙が噴出してきた。尋常じゃない量の煙だ。煙は空鉦と寧の周りを一気に白に染め上げた。これではまるで、霧である。煙ったくてしょうがない。

「!? げほっ…! げほっ…! ちょ、ちょっと…何なんですか!?」

「わりィな。ちっと我慢してくれや。これで、あいつらからは姿が見えなくなるからよ」

「ごほッっ…わ…分かりました…ふぇ………くしゅん!」

「さてと…後はあいつらを待つか…ん? もう来たか?」


 闇の中に葎の姿が確認出来る。追いかけている能面や仮面の数はかなり減っている。確かに減ってはいるのだが、何だろう、若干、影の体が大きくなっている気がしなくもない。いや、確かに大きくなっている。杞憂ならば良かったのだが、近づいてくるにつれ、それがハッキリしてくる。

 ガラは空鉦と寧が身を身を潜めている、煙の中へと仮面達より一歩早く飛び込んだ。


「悪いね。全部は無理だったよ」

「いーや、十分良くやったぜ、あんたは」

「褒めても何も出ないぞ? …ところでこの煙はその香炉から出ているのかね?」

「おうよ! よく分かったな! こいつはああいうのに良く効くんだ。まぁ…そんなに長持ちはしないけどな…。…とにかく、こっからあいつらをどう切り抜けるか、考えねぇとな…」

「…この煙があるなら闇討ち出来るのでは?」

「…やっぱ、あんたもそう思う? 真はこのザマだし、たまにはお兄さんがいっちょ頑張りますかね…」

「私達も行こう。人は多い方がいいだろう?」

「まぁな。そんじゃ、お言葉に甘えさせてもらうぜ…橋間ちゃんはここに居ろよ。危ないからな」「あっ…はい…!」


 苦笑いしながら、空鉦は腰からぶら下げていた四つの長細い、筒状のケースから金属の棒を取り出し、組み立てていく。組みあがったそれは短いものの、しっかりとした杖になった。

 

「その錫杖を振り回すのか」

「久々だからなぁ…」

「…彼等も来た様だね…」


 薄っすらとだが、黒い体と、無機質な顔が見えた。きょろきょろとそれらは瞳の無い顔で葎達を探し回っている。

 

「…ら……の…た………が」


 相変わらずの言葉とは理解しがたい言葉を呟いている。


「そりゃ!」


 空鉦がその一つに錫杖で打ち据えた。いとも簡単にその能面は壊れた。しかし、その体の元である黒い影は他の仮面に取り込まれる。


「うっわぁ…マジで…」

「…マジだよ」


 ガラは空鉦の呟きに答えつつも猿のように腕が長い体をした仮面の一つを蹴り割った。

 

「…明日は筋肉痛だぜ」

「無事明日が迎えられたならな?」


 槍のように投げられた錫杖が仮面や能面を貫いていく。


「やな事言うね~。でもな、俺は明日ここの温泉に浸かるって決めてんだよッっ!」


 ガラの手が二つの能面の頭を掴み、それぞれを衝突させた。


「しかしね、これらをここで倒したら、明日の朝帰る事になるぞ。という事は、君が温泉に入れる時間は殆ど皆無に等しいんだが」


 投げた錫杖を取りに行くついでに空鉦は幾つかの能面と仮面を拳で叩き割った。


「あ…朝風呂じゃ駄目かな?」


 人型の影の足をガラは持って振り回す、棒のように振り回された、それは他の影を巻き込みながら、薙ぎ倒していく。


「いや、私と葎は良い。ただ、真が何と言うかね?」


 空鉦が黒い犬の体を突き刺した。


「あーやっぱそっか…。ちくしょうッ! 温泉にせっかく来たのにっ! 大体なぁ、真の説教は長いんだよ! おかげで入れなかったじゃねぇか!」

 

 足払いで、相手の体勢を崩した所にガラが肘鉄を叩き込んだ。


「温泉か…。あれはいいものだったな。なぁ葎?」


 ――いや! そうだったけども!話しながら無双すんなよ!?――


「くそう! くそう! お前等ばっかり!」


 何とも残念そうな顔で、空鉦は金色の錫杖を振り回しながら、次々に表情の無い顔を壊す。


「そう気を落とすな。湯の花なら、売っていたぞ?」

「湯の花かぁ~…しょうがないから、それで我慢すっか…」

「気分だけでも持ち帰るといい。うん?おや…もう全部居なくなったか…呆気ないものだ」

「んあ?」


 ――雑談しながら全部倒しやがった…こいつら…――


 仮面や能面は全部砕け、壊れ、割れている。どうやら、全て倒した様である。

 その時だった。



 ――――………が…の……ためぇ……!!!



 ――――がつ……のた………!!!



 ――――…ら…ため……が!!



 地を震わすような、恨みの篭もった声が響いた。その声をきっかけに落ちていた、仮面や能面から黒い人魂が空中に集まっていく。

 そして――――それは頭の複数ある、大蛇へと変化を遂げた。


  

 ――――俄面の為!!!その命を捧げろ!人間!!



「逃げろ!空鉦!」


 大蛇の頭は空鉦に矢のような勢いで襲い掛かっていく。

 砂埃が、嵐の如く吹き荒れ、ガラの視界を奪った。眼を開けていられない程の凄まじい威力だ。二重存在でもない空鉦がこれにぶち当たったならば、それこそ跡形も残らないだろう。

 …彼は…彼は無事か…!

 風が収まり、やっと少し眼を開ける事が出来た。大蛇が這ずった後は見るも無残な光景になっている。草木は根こそぎ地面ごと削られ、そこだけ荒地のように何も無い。

 だが、空鉦は尻餅を付いているだけで無事だった。彼のいる場所だけ、何事も無かったかのように平然としている。空鉦の目の前で大蛇の頭が地面から生えている銀色の刃に天高く貫かれている。


「…慶吾さん。ガラ君の言う通り、死んだら温泉は入れませんよ?」

「…やっと起きやがったか。この寝ぼすけめ」

「その寝ぼすけに助けられたんですから、文句言わないでくださいよ」

「ここまで運んだんだ、後でなんか奢れよ?」

「温泉饅頭でどうです?」

「乗った!湯の花もセットでな!」

「それじゃ――――さっさと片付けましょうか」

 

 真は一斉に自分の方を殺意のある瞳で恫喝している大蛇達の頭部に向き直った。


「人間!!! 貴様などに我等が倒されると思うかぁぁぁああぁ!!」

「ガラ君。空鉦さんと、橋間さんを連れて離れてくれ」

「ああ」


 ――おい、あれ…真さん一人で倒すつもりか!?――


「そのようだね。―――さ、立てるかね?」

「おう…悪いな」

「寧も早く来たまえ、逃げるぞ」

「へ…? 不儀さん、置いていって良いんですか…?」

「それは――――」

「俺達が居るとあいつにとって邪魔だからさ。それにまだ死にたくないだろ?」

「……はい?」


 寧が聞き返す前に空鉦とガラは殆ど吹き飛ばされている白煙の中を走り出した。慌てて彼女も後を追う。 草原の中心には真と大蛇が相対している。真は黄色い眼で自分を睨む数多の蛇の頭に、臆することなく佇んでいた。彼の頭上では五つの鮮やかな光球がゆっくりと回転している。


「死ね!!!」


 様子見すら、する事無く大蛇の牙は真を狙う。その姿は神話に出てくる怪物にしか見えない。

 そして十は超えている頭の全てが彼目掛け放たれた。


「―――――土生金」


 空鉦の時と同様に地を割って、歪んだ刃のような金属の塔が一つ残らず、大蛇の頭を地面へと縫い止めた。 頭と違い、一本しか無い大蛇の尾が苦しげに波打ち周囲をなぎ払う。

 葎は子供時代に見た絵本にあった、針山地獄を思い出す。鋭利な金属の刃が月の光を反射する。その様は正に地獄だった。


「この程度で我等は殺せぬ!!」


 鉄塔が刺さっている部分から枝分かれの様に新しい頭部が生え出た。これでは、まるで理科の教科書に載っているプラナリアだ。切り裂き、貫いた所でそこから再生を始めるのだから切がない。

 再び大蛇はその首をもたげる。


「―――――金生水」


 大蛇の体に刺さっている、刃に結露がぽつぽつ出来始めた。温度差は無い筈なのに刃の表面からは水滴が滴り、次第に大きな水の粒と成っていく。刃より生じた水は生きているように大蛇の体を包み始め、倍加するかの如く、急激に量を増やし、ついには鉄塔を起点として、大蛇を包み込んでしまった。


「凍れ」


 覆う水が白い冷気を帯び始め、周りの熱を奪い、凍てついていく。

 見る間も無く大蛇を包んでいた液体は氷へと変わっていった。


「葎、そろそろ代わるか?」


 ――ん…ああ…!――


 葎はガラと入れ替わり、自分の体へと戻った。

 とんでもないな…真さん…人間止めてね?

 思わず眼を疑ってしまう。一体、不儀真という人物は自分と出会う前は、一体何をしてきたんだろうか? 案外、山を吹き飛ばしたのも嘘じゃ無いのかもしれない。


「がつら…の…ため…ぇ…!!」

 

 しぶとくも、大蛇は動く。しかし、無理に動いた体はパキパキと乾いた音を立てながら、砕けた。


「ぁぁあああああああぁああぁ!!」


 バラバラに砕け散った破片から黒い染みのような煙が浮き上がり、人間の形を作る。数も尋常じゃない。おそらくあそこには今までの全ての能面や仮面の念が集まっている。だが、『俄面の館』の人型とは違い、体の部位パーツが他の人型と結合していたり、もしくは欠損していたりする、何とも不気味な

黒い人間達が次々に現れた。


「が…が…!つ…つ…らぁぁあああぁあ!!!」


 奇声を発しながら、黒い集団は真に迫り、その姿を黒く埋め尽くす。餌に集る虫の様だ。


「真さん!!」

「―――――水生木」


 緑色の光が闇夜に洩れた。

 影の僅かな隙間からかすかに真がどうなっているか見る事が出来る。黒い集団は真に手を伸ばす前に、それぞれどこからか出てきた木の根に絡みつかれ、動きを止められていた。木の根は爆発的に成長し、全ての影をその触手で捕らえ、締め上げている。


「終わりだよ――――木生火」


 自然発火なのだろうか、いきなり影達を縛り上げている木の根が燃え上がり、黒い集団を焼いた。


「ぐ…がぁああああああぁぁあ!!!」


 影はもがき、煙のように木の根から抜け出した。


「お…前……も道連れだぁああああぁぁ!!!人間!!!」


 抜け出した影は真に襲いかかろうと、とぐろを巻きながら再度大蛇のような形を空中に形作り、形振り構わず、彼に向かって直進する。


「悪いが、お前と心中する気は無いよ」

 

 そう口を開いた真を囲うように炎が吹き荒れる。

 それはまるで炎の濁流の様で、爆発のような瞬間的ものとは違う。もっと厳かで、恒久的な静けさを持つものだ。しかしそれは、静けさと同時に自然の猛威のような恐ろしさを持ち合わせていた。

 例えるならば、目の前に溶岩がトロトロと当たり前のように流れているような恐ろしさである。

 神々しさを持ちながら、触れれば跡形も溶け消えてしまう。本能的恐怖――――。

 

「ぎィやぁぁぁああああぁぁぁぁ!!!!」


 黒い大蛇を飲み込みながら、炎は夜を明るく照らす。まるで穢れた思いを一つ一つ消していくようにその体を無に返していく。それを見て抱く感情は畏怖に近い。火の粉を巻き上げ、辺り一面を焦土と化す。更に自らが燃やした草木すらの炎さえも取り込み、その規模を大きくしている。


「―――――ことわりへと還れ」


 収縮するかのように炎は縮んでいく。

 その後には何一つ残っていなかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 葎と空鉦は真に駆け寄った。寧はあまりの事に腰が抜けていた。


「真さん!!! 生きてます!? 覚醒とかしてませんよね!?」

「おいおい、テンパリ過ぎだぞ、葎…。つ~か覚醒って何?」

「はは…葎君、俺は生きてるよ………さぁ…帰ろうか―――――…」


 珍しく微笑みながら真が言ったが、フラリとよろめき、倒れた。


「えぇえええ!!? ちょっとーーー!!」

 

 やはり、何かしらダメージがあったのか…! それともあの馬鹿みたいな力を使った反動か…!

 

「すーーー……すーーーー…すーーーー……むにゃ…」


 安らかな寝息を立て彼は寝ていた。見た事も無いような幸せそうな顔だ。


「……寝てる…」

「寝かしといてやれよ。なっ?」


 二カーと笑い、保護者のような眼で真を空鉦は見ている。

 腰を抜かした寧が心配だったので、彼女の元へと葎は歩いていく。


「歩け…無いよね…背中貸そうか?」

「あははは…そうですね…」


 葎は寧が負ぶさり易いように、腰をかがめる。


「あ――――いま何時かな?」


 少し気になったので彼女に聞いてみた。


「今は――――」

 

 顔の前に携帯の画面が差し出される。 

 時間は十一時五十五分を指していた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「あんたも大変だなー。むぐ……お、見た目の割りに美味いじゃん!コレ!」

「燐太…少しは遠慮しなさいよ…でもこれ、確かに美味しいですね」

「私は見た目も気に入りましたよ? 何かカッコイイじゃないですか!」


 『いやー……それは多分あんただけ…』その場に居る殆んどの人間がそう思った。

 テーブルの上には『能面饅頭』と印刷されている箱が置いてあり、その中には、食欲が湧かないような見た目の茶色い饅頭が入っている。お世辞にもセンスが良いとは言い難い。

 

「もう一箱買っといて、送ればよかったかな?」


 ――ふ~む…上品な味だな――


「…お前味良く分かるよな…」


 ――ふっ…味覚の共有や遮断など、私にはお茶の子さいさいなのだよ――


 この悪趣味な饅頭は捻くれている紳士にも、概ね好評な様である。


「そんで? 何で君達は当然のように、学校終わりにここに来てるのかな? ここ……一応従業員のロッカールームなんだけど?」


 そう、何故か、風早燐太、柳葉藍子、南屋灯の三人は、葎の働いているリサイクルショップの名を冠している、ほぼ骨董品店と言っていい店、『天儀屋』に押しかけて来た。そればかりか、目ざとくお土産に買っておいた温泉饅頭まで見付けた。

 …どうせあげるつもりだったしいいけどさ……。


「暇だから!」

「燐太が迷惑をかけないか心配だから」

「不思議な匂いが私を呼んでいたんでっす!」

「あ…ああ…そう…」

「良いじゃないか、葎君。今日もうちの店は暇だからね」


 何時の間にか、真が部屋に入ってきていた。


「どーも!不儀さん!」

「お邪魔しています」

「あ…こんにちわっ!」

「うん。いらっしゃい」

「でも、お客さん来たらどうすんですか?」

「ああ、大丈夫さ。お得意様はそういうのは最初から分かっているから、直接俺の携帯に連絡をくれるようになっている」

 

 おい…それで良いのか…店長…。

 商売っ気は皆無だ。それでもそこそこの給料が出る所が凄いと思う。

 錬金術でも使ってんのかな…。


「それよりちょっと来てくれ」

「何ですか?」

「新しい店員の事でね」

「えっ?新しい人?」


 同僚が増えるのは嬉しい。

 ただ…そうすると、更にやるべき業務が減るのだが…。


「ああ。君も良く知っている人だよ」

「知っている人? ですか?」


 真に付いて、部屋の外に出る。

 自分の知っている人? まさか空鉦さん?

 真はそのままレジの方へ向かって行く。


「そういえば―――結局あの能面や仮面が動き出した原因…分かりませんでしたね…」

「そうだね。でも、あれからもう、村の人が悪夢を見る事は無くなったそうだから――――引っかかるものがあるのは確かだけど…まぁ良いんじゃないのかな? 本筋は解決したんだし」

「…そうですよね」


 真と葎は店の外に出た。

 外に居るのか…。


「…待たせたね…橋間さん」

「いえいえ、店長」

「………………………………え?」


 外に居たのは、つい先日、何やかんやと関わり合いを持つ事になった、人物―――橋間寧であった。

 彼女は悪戯っぽく葎の方を見て眼を細めた。


「今日からお世話になる事になりました、橋間寧です! 宜しくお願いします、栖小埜さん!」

「葎君、それと彼女はまだ住む部屋が決まっていないらしいんだ、だからね、生活が落ち着くまで君の家に居候させてあげてくれないか?君の家――――広いって聞いたんだけど?」

「む…無理ですよ! 無理です! 無理! 無理! 無理!」

「お世話になります」

「ちょちょっと寧さん!? お世話って―――――むがー! ガラ! 出んじゃね…うあ!…―――お嬢さん喜んでお引き受けいたします」

「それは良かったです」


 ――てめぇぇぇええ!! どうすんの!? ねぇコレ!?――


「私は賑やかなのは嫌いじゃ無いのでね」


 ――そういう問題!? 俺の意見は!?――


「え? ある訳無いだろ?」


 多分言い合いをしている、葎とガラを見て寧はおかしそうに笑う。真も苦笑している。

 いいな…この人達。

 あたし達とは違うけど―――…でも…絆の深さだったらあたし達だって負けてないよね? 

 ねぇ…あたし…あの人達とあなたのお陰でやっと前に進めそうなんだ…。だから―――



「さっ! 行きましょうか!」






<了>

 

何度も言うけど恋愛話なんて無いですよ?

なぜなら、葎の家にはガラも居るからです。それに寧が押しかけたのも勢いで来たから、一人暮らしの準備が出来なかったからで……とにかく無いよ?多分…


それと外伝ですが、あんまり気分の良くないものかもしれないので、閲覧注意です。追加もあるかも?

URL:http://ncode.syosetu.com/n8689bg/


ついでにもう一つ、活動報告を始めるかもしれません。

多分、私日記みたいな感じで投稿の目安になるかは分かりませんが…

……あてにはならないし、見てもあんま意味ないと思います。

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